PURGEー27 魅了!!
黒葉は照明が消えたショッピングモールを駆け回りつつ通信用デバイスでリドリアや信乃に通信を試みた。しかしどちらとも繋がらず向こうの状況がどうなっているのかは分からなかった。
「二人共繋がらない! 停電だけでそんなことにはならないはず。このショッピングモールで一体何が起こっているんだ!?」
黒葉は二人画の心配からより足を急がせようとしたが、微かに聞こえてきた足音に走る足を止めて壁際に体を寄せた。
気付かれないように慎重に曲がった先を見ると、若い男女が二人で何処か意識がおぼろげなように歩いているように見えた。
(何処かに向かっている感じじゃないな。様子が変だ)
見つからない方がいいのではないかと思った黒葉は後ろに下がろうとしたが、そこで二人と同じように歩いていた若い女性に見つかってしまった。
「いつの間に!」
黒葉を見つけた女性は次の瞬間に彼を捕まえるように襲い掛かって来た。
「うおっ!!」
黒葉は直前で気が付いたことで回避するも、逃げた先にいた先程のカップルに見つかってしまった。
「あの人~……」
「あの人捕まえれば褒めてもらえる~!!」
何処かほんわかした口調でしゃべりながら先程の女性と同様に黒葉に襲い掛かって来る。幸い動きがゆっくりだったことで回避し逃げ出すも、襲ってくる人たちの様子から感じ取るものがあった。
「あの人達、武器もない上に動きも素人だ。それに服装も……まさか、このショッピングモールにいた一般人なのか!?」
とすれば誰かによって操られている。黒葉は次警隊に入るにあたって現状発覚している異能力について勉強したことがある。その内のいくつかに、相手の思考を操れるものがあることは学んでいた。
その内の何かの能力なのか、何がともあれ一般人が相手では次警隊の隊員として攻撃することは許されない。
(急いで黒幕を見つけ出して倒さなければ! でもどこにいる?)
思考を巡らせ走り続けている黒葉だったが、元々休日で人が多いモールの中ではどこに誰がいるのか分かったものではない。彼はまた人と出会うもその人達は黒葉を見た途端に襲い掛かった。
「アイツよ!!」
「捕まえればいいんだ!!」
次々現れる人に狙われる。しかも全員が一般人となればどうやっても逃げる場所に限界が来る。
(クソッ! このままじゃ追いつかれる。 ……いや待てよ。あの人達の目的は俺を捕まえること。その場で攻撃をする気はないって事か?
でも捕まった先で何をされるのか分からない。ついて行くのもリスクじゃ……)
黒羽が次の行動に悩んでいると、追いかけてくる人たちは突然揃って足を止めた。何だと思った黒葉が足を止めると、追ってきていた人たちの何人かが隠し持っていた銃を手にした。
(武器を持っていたのか! 発砲されたらさすがに抵抗せざる負えない)
身構える黒葉だが、ここでその人たちはなんと笑みを浮かべたまま自分達の頭に銃口を突き付けた。
「何を!?」
「一緒に行きましょう~」
「こうして来なかったら頭を撃ってって~」
朗らかにとんでもない事を言い出す人達。つまりはついてこなければこの人達を殺すという脅しだ。
この瞬間に黒葉には選択権がなくなってしまった。
黒葉は両腕を捕まえられて連れていかれ、他のスタッフや客人が集合しているモール中央の広間に移動させられた。
広間の中では集められた人達が黒葉を捕まえた人達と同じように奇妙に微笑んで突っ立っており、その奥に帽子を深く被って顔を隠している人物がいた。
「お前がこの騒動の黒幕か!」
「おいおい、捕まってその態度とはずいぶんと余裕だな? 口の利き方に気を付けろ」
聞き覚えのある男の声。黒葉はその声に対する怒りを覚えていた。
「そうかやはり……お前か! イブリス!!」
被っていた帽子を外し素顔を見せたのは、行方不明になっていたもう一人の人物、『イブリス・スヘッダ』だった。
黒葉は一度消息を絶ちながら堂々と自分の前に現れたイブリスに怒りと同時に警戒が強まる。
「あの少女がいる時点で何となく察してはいたけど、まさかこうも堂々と現れるだなんて……
この人達の状態も、お前が作ったのか!!」
「そう怒るな。これは俺の力じゃない」
イブリスが目線を送ると、人の密集の中からレニが姿を現した。
「君は!!」
レニの登場に反応する黒葉にイブリスは更に驚くべき事実を口にした。
「こいつは『レニ・スヘッダ』。親父が俺を生んだ後にサキュバスの女との間に作った出がらしでな。生んだ女から『魅了』の異能力を受け継いでいる」
「レニがイブリスの妹!?」
言われてみれば確かにレニとイブリスは肌の色が同じで顔立ちもどことなく似ている。だがイブリスは黒葉から言われた単語を即座に否定した。
「こんなものが妹なわけあるか! 気象悪い」
腹違いとは言え、実の兄から堂々とこんな事を言われている事実に黒葉はイブリスに対して怒りを感じた。そんな中でイブリスは話を本題に戻した。
「こいつの『魅了』は、瞳を見た他者を強制的に魅了し、従える。血縁関係者には効かないから俺は平気だがね」
「瞳を見た? ッン!」
黒葉は思い出した。以前襲撃に会った時もさっき喫煙所に入った時も、あれだけ視線を合わせようとしなかったレニが数度だけ意識的に自分の目を見てきたことがあった。そしてその度に困惑していたことも。
今にして考えてみれば、分解反射で効果が弾かれていたのだろう。
「それじゃあこの人達は、レニの能力でこの状態になっているのか」
「指令権は俺にあるがな。こいつに一声、『俺をの指示に従う事』を命令させればすぐにいいなりになる。君に効かないのが残念でならないよ。どこまでも俺の天敵らしい」
「こんな事をして! お前だって次警隊だろう!! こんなのは明らかな犯罪行為だ!!」
「もとはといえば君のせいだろう!!」
最もな事を言う黒葉にイブリスは蹴りを入れて黙らせた。
「君の邪魔さえなければリドリアは俺の隊に入り全てが円滑に進むはずだった。ここの人達がこんな目に遭っているのも、全て君のせいなんだよ!!」
自分の行為に悪びれない下衆になり下がったイブリスに猛烈な怒りが浮かぶ黒葉だが、周り一体が人質となっている今動く事は出来ない。そんな彼にイブリスは続けた。
「だから君には償ってもらうんだ。その身により大きな苦痛を受けることでね」
イブリスが指パッチンをすると、人ごみの中から二人程イブリスを護衛するように黒葉の前に立ちはだかった。その人物とは
「リドリア! 森本さん!!」
黒葉と離れていたリドリアと信乃の二人だった。
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