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PURGEー25 レニ!!

 偶然か否か、行方不明になっているはずの少女と出会った事に驚く黒葉。少女は今回もすぐに逃げ出そうとするも黒葉が彼女の腕を掴んで止めた。

 前回逃げた先を追いかけて襲撃を受けた黒葉としてはこれが最善の手段だと思ったのだ。


「今回は逃がさない! 君には色々と聞きたいことがあるから」

「あぁ……その……あの事は……」


 戸惑って声が出し切れないでいる少女。すると黒葉は今になって咄嗟に自分が少女に触れてしまった事に気が付き、同時に彼女の着ているシンプルなワンピースがはだけかけている事実に気が付いた。


「やばっ!!」


 黒葉はリドリアと出会った時のように人通りの多い場所で少女をはだけさせるわけにはいかないと彼女を引き連れて全力で人気の付かないところにダッシュした。

 不幸中の幸いで近くに誰も入っていない喫煙所を発見し急いで中に入った二人が誰かに見られるということはなかった。


「フゥ……ここまでくればとりあえずかな。今どきタバコを吸う人は少ないしいざって時は移動すれば……ってウオワッ!!」


 黒葉が振り返ってみると少女のワンピースは完全に脱げてしまい、シンプルな白い下着姿になっていた。小柄なボディにそぐわないリドリアと同じかそれ以上の豊満な胸がどうにも窮屈そうにブラジャーに収まっている。


「アアァ! ごめん!! またしてもこんな事を……」


 黒葉は少女から視線を下げつつ、道中落としてしまったワンピースの代わりになるものがないかと思っていたところに自分が手に持っていた紙袋の存在に気が付き、中にあった服の一つを咄嗟に差し出した。


「とりあえずこれを! サイズは合ってしれないけど……え?」


 黒葉は少女に微かに向けた視線で少女の身体に付いた痣や傷跡を見た事で恥ずかしさが吹っ飛んだ。


(あれって……)


 動きが止まる黒葉に対して少女はふと聞こえるか聞こえないか程度の小さい声で呟いた。


「やっぱり……この人には効かない……」

「え?」

「あ! いや! その……」


 少女は黒葉が反応したことに我に返って何処か驚いた様子で服を受け取ろうとせず困惑しながら服の方を見ていた。


「あの……こんないいもの……受け取れません」

「いいから。とりあえず着てもらわないと……」

「あ、はい……」


 黒葉の言い分に少女はようやく受け取った服を着た。リドリア用のサイズのため少々大きい黒色のロリータワンピース。たまたまながら上手く全体の雰囲気がマッチしており、誰が似ても似合っていると頷く姿になっていた。


 服を着た事によって再び逃げ出すべきか視線を外に向ける少女だが、黒葉の警戒の視線がある中では難しい。判断に悩んでいる間に黒葉の方から話しかけてきた。


「あの、その……えっと君……」


 今更ながら名前を聞いていなかったがために何て呼べばいいのか困っている黒葉。少女は顔を向けることはないものの小さな声で名前を口にした。


「『レニ』です……」

「レニ……さん。どうして君がここにいるんだい?」

「それは……買い出しで……」


 当然の問いかけに少女ことレニは咄嗟に返答するも、震える声と面と向かわない顔。何より今の彼女の立場からすぐに黒葉から嘘と見抜かれた。


「そんなことないだろ! 君はイブリスの小隊の一員だろう? それも決闘が終わった後に行方不明になったと聞いている。

 そんな君が生物の世界のこんな所にたまたま現れたとは思えない。何をする気なんだ!!」

「ヒッ!!……」


 迫りつつ問い詰める黒葉にレニはまた怯えた表情を強めて引いてしまう。黒葉は一瞬見えたレニの表情から本物の恐怖を感じて身を引いた。


「ご、ごめん……焦って問い詰め過ぎた」

「い、いえ……」


 そこからしばらくの間沈黙が続いた。黒葉は時折チラチラとレニの方に目を向けるも、彼女は俯いたままで逃げようとも話そうともしてこない。強いて動くとすれば自分が今着ているワンピースを少し興味あり気に眺めているだけだ。


 気まずい空気に耐え切れなくなってきていた黒葉だったが、レニが服を気にしている様子を見てふと聞いてみた。


「その……そういう服、好きなの?」

「え?」

「あ、いや……さっきからずっと見ているようだから」


 黒葉の質問にレニはまた沈黙するが、少ししてゆっくりと口を開いた。


「……分からないです。初めて着たので」

「初めて?」

「こういうお洒落な服、着た事がないです」

「そうなのか!?」


 驚く黒葉にレニが顔は向けないまま続ける。


「ボ……いえ、ワタシにはこういう服を着ることは許されなかったので」

「許されなかったって……好きな服を買ってもらえなかったって事?」

「服だけじゃないです。食事も生活道具も、ここにあるものは何もかもが手にしたことのないものばかりですから」


 黒葉はレニを下着姿にしてしまった時の事を思い出した。露出した肌にあった暴力を受けたらしき痣に傷跡についてだ。


(この子、もしかして生まれた家で俺達が不通に出来た事が出来なかったのか?)


 今目の前にいる相手は、これから何か悪事をしでかすかもしれない。それでも体を見たときの彼女の被害は目に見える証拠だ。


 黒葉は考えた。このままレニと共に喫煙所にいた所で何も進展するわけでもない。彼女がいるのならイブリスがどこかに潜んでいる可能性もある。すぐにでも移動してそう先に出た方がいい。


 いや、頭の中で考えたこれは黒葉にとってたんなる言い訳だ。今彼が思っていることはもっと単純なもの。目の前にいる楽しい経験を全然した事のない少女に何かをしてあげたくなったのだ。


「ねえ、レニさん」

「は! はい!!」


 突然声をかけられたことに驚いて震えてしまうレニ。黒葉はこれに釣られて一瞬震えてしまうも、すぐに調子を戻して提案をした。


「その……あの……よかったら、一緒にショッピングモールで遊ばない?」

「……はい?」


 黒葉からの突拍子のない提案にレニは放心した顔を浮かべて首を傾げてしまった。





 一方のモール内の何処かの通路。はだけて落ちていたレニの元々着ていたワンピースがふと誰かの手に拾われていた。


「出がらしめ……」

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