PURGEー23 後始末!!
次警隊の小隊長が新人の隊員に敗北した。目の前に起こった事実に観客達は騒然となった。
「嘘だろ……アイツ小隊長に勝っちまったぜ」
「これ、本当に凄い事じゃないの!?」
「ああ、アイツただの金持ちのお嬢様じゃなかったんだ!!」
掌を返すように、というよりも認めざる負えなくなったような形で称賛の声を挙げる観客達。黒葉も信乃もリドリアの勝利に歓喜を上げ、同時にホッとしたような気持ちになった。
「勝ったぁ!! 良かったぁ……」
「リドリア……」
「良かったな、黒葉」
「あ、いや……流れで一緒にいたけど貴方誰? 春山君の知り合い?」
「え? 名乗ってなかっけ?」
流れで一緒にいた青年がこれを機に名乗ろうとするが、直前に別の観客席にいたスヘッダ小隊の隊員達が慌てて移動した事に気付いて席から立ち上がった。
「ごめん、用事が出来たから後で!!」
「あ! ちょっと!!」
慌ただしく走り去っていった青年に大きく二度瞬きをして見届けた信乃。隣にいる黒葉は青年の様子に何処か応援をするかのような眼差しを向けていた。
一方のスヘッダ小隊の隊員二人は会場裏を走りつつ会話をしていた。
「まさか小隊長が敗れるだなんて!!」
「慌てるな! こっちには証書があるんだ!! 偽物だからって小隊長は敢えて出してなかったけど、後から貰った事にすれば言い訳は立つ!!」
隊員達はイブリスとリドリアの決闘事態をなかったものにしたいように足を急がせていたが、彼等の目の前にふと一人の人物が現れた。
ピンク色の頭頂部に黄色い毛先、舞踏家のような服装に軽装な揃いを付けたような人物。背丈も中肉中背で中世的な面持ちをしている。
その人物は立ちはだかるように構えながら自身のいる方向に走って来るスヘッダ小隊に問いかけた。
「貴方達が、三番隊の隊長から受け取った証書を?」
「何だ貴様!?」
「退け! 邪魔だ!!」
「偽物の証書で明確をかけて反省なし……ちょっと痛い目を見てもらうよ!!」
イブリスが倒されて尚反省の色が見えない二人にその人物は拳を引いた。これに相手二人も応戦しようとするが、その人物は相手が間合いに入った途端に一瞬で鋭い拳を叩きこみ、二人が技の準備も出来ずに気絶させた。
直後に二人が現れた場所から黒葉達と共にいた青年が現れた。彼も急いでいたようだが、追いかけていた相手が倒れている光景を見て拍子抜けになった。
「あれ? もう終わっちゃった感じ?」
「あ~……僕一人で大丈夫だったみたい。でもその分君は黒葉君を助けていたし、お相子じゃないかな?」
「なんだか言葉作って励まされているようだなぁ」
場所は変わって審判室。決闘が終わっても席に座り続けていた審判の人物が左手首にはめているブレスレットに着信が入り、その人物がブレスレットの装飾に触れると立体映像が投影され、スヘッダ小隊の撃退に向かっていた二人の顔が映った。
「こっちは終了したよ」
「おう、後の事はこっちでやる。久々に黒葉とでも遊んでやれ」
通信を切った審判。すると突然審判の背後から若い女性のものらしき声が聞こえてきた。
「こっちも見つけたわよ。例の偽証書のデータ一式」
「流石だな。助かる」
「このくらいなんてことないわよ。このドドドドド天才美少女にかかればね」
「ま、それもそうだな。決闘のおかげで時間は稼げた上違反者は一網打尽。これで俺達の仕事は終わりだな」
審判は席を立ち上がり、作業を負わされた女性のそばにまで寄っていった。
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その後、病室に運ばれたリドリアは目を覚ますと、既にやって来ていた黒葉と信乃が自分のそばにいた。
「黒葉……信乃……黒葉!!」
リドリアはそばにまで黒葉に咄嗟に抱き着いてしまい、黒葉は動揺して固まり、信乃は驚いて目を丸くした。
「良かった……無事で……」
リドリアは大粒の涙を流しながら黒葉が今ここにいることに心の底から安心した。固まっていた黒葉だが、肩にかかったリドリアの涙に我に返ってゆっくり手を回しながら背中を少しだけ擦って返事をした。
「その……ごめん。本当に心配かけちゃって……」
「バカ! 本当にアンタバカよ!! 勝手に決闘を決めて!! 勝手にいなくなって!!! アンタ、アタシのために体張り過ぎよ!!!」
抱き着く力を強めて泣き続けるリドリア。
「うぅ~……俺もここまで体を張る気はなかったんだけどね。まさか決闘の前に重症になるなんて思ってなかったから」
「私もあった時は驚きました。初対面の青年に連れられて回復した状態で現れたので」
横からの信乃の言い分に黒葉は少々苦笑いを浮かべながら答えた。
「アハハ……俺もイブリスに闇討ちされて、いつの間にか回復していたから、誰が見つけてくれたのかとか何があったのかよく覚えていないんだよね。
リドリアが俺の代わりに決闘するって聞いて、いてもたってもいられなくなったから……」
リドリアは黒葉の裏表のない言い分に涙は流れたままながら笑みを浮かべて抱きしめる力を強めた。
そんな二人の空気を壊すのが失礼だと思って手を出さない信乃だったが、本人の胸の奥には何処か引っかかるものを感じていた。
そして病室を出て左に曲がった場所では、三人の会話を聞いて少し俯いている人物が一人。黒葉に手紙を渡した少女が顔を出すことなくその場から去っていった。
そして何処か思うところがある様子で少女が病院から出ていこうとすると、道の途中で突然襟を掴まれ何処かに引っ張られてしまった。
「イッタタ……ヒッ!!」
顔を上げた途端に恐怖に顔を青くする少女。目の前にいたのは病室で治療を受けているはずのイブリスその人だったのだ。
イブリスはさっきに満ち満ちた鬼のような形相を浮かべ、耳の装飾を握り締めながら何処かに着信をしていた。
「このままじゃすまさん!!……スヘッダ商会を敵に回した事、後悔させてやる!!!」
その後、生物の世界にて一つの小さな事件が起こった。病室で治療後逮捕になるはずだったイブリスとスヘッダ小隊所属の女性隊員の一人が行方不明になったのだ。
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