PURGEー22 幸せの雨!!
一方的に攻撃を受け、尚且つ衆目から罵倒を浴びせられて身体的にも精神的にも追い詰められていたリドリアの元に差し伸べられた一筋の光。
リドリアにとってそう形容できるほどにまで感じた優しくも勇ましい声。
(この声……もしかして……)
リドリアがその光の先を見るかのように視線を向けると、その先に見たのはこの場所に来て最悪の形で出会い、お互いに一戦交えて理解し合った頼もしい仲間の姿だった。
「黒……葉……? 黒葉!?」
今の今まで行方不明になっていたはずの春山黒葉が目の前にいて、尚且つ自分に応援の声を上げてくれている。
最初ダメージから幻でも見てしまったのではないのかと思ったリドリアだが、その直後に観客席では黒葉が態勢を崩したところで後ろから現れた信乃ともう一人、見覚えのない青年が黒葉を抱えた。どうやらあの黒葉は現実にそこにいるらしい。
「ごめん。支えてもらっちゃって」
「そんなこといいよ! まだ回復してそう時間が経ってないんだから」
「あの回復は傷は治っても疲労は残る。そこら辺は俺達が支えるから!!」
黒葉よりも整った顔立ちをした黒目の茶髪が軽く癖の付いた伸び方をしている青年。彼と信乃に支えられながらどうにか近くの椅子に座った黒葉は、汗を流した必死な様子で再度リドリアに応援の声を送った。
「がんばれ!! リドリア!!!」
「私達が付いているから!!!」
信乃も加わり、たった二人の仲間からかけられる声援。だがこの声援は、リドリアにとって多数の罵倒の声を打ち消すには十分すぎるものがあった。
「黒葉……信乃……」
感動するリドリアに対してイブリスは二人、何より自分が闇討ちしたはずの黒葉の登場に隠しきれない動揺が顔に出てしまっていた。
(何故あの男がここにいる!!? しかも刺し傷も消えているだと!? どこかで治癒を受けたとでもいうのか!? 一体誰に!!?)
高揚するリドリアと動揺するイブリス。二つの条件はリドリアにとって大きく優位に働いた。
「そうよね。赤の他人が何を言おうと関係ない……アタシには……あんなに素敵な仲間がいる!! だからこそ! 負ける訳にはいかないのよぉ!!!」
声を挙げると同時に力を入れるリドリア。その力は全身を巡り、拘束されていた彼女の羽の一部を弾丸のように飛び出させた。
飛び出した羽は硬く、当たった個所から突き刺されたナイフを弾き飛ばし彼女の身体を開放し立ち上がらせた。
「何ぃ!!?」
リドリアの復活にこれまた予想外と大量の汗が噴き出すイブリス。リドリアはこれを好機と見るや否や空に飛び立った。
イブリスは苦虫をかみつぶした顔になりつつもならばもう一度地に落とそうと気体化して姿を消した。
だが先程までとは違いリドリアの思考回路は澄んでいる。それは先程考えかけた思考をより集中させていった。
(今考えたら、そもそもなんでアイツは黒葉を闇討ちしたの? 不戦勝にするため? それとも黒葉の能力が怖いから?)
黒葉の能力『分解』。触れた相手のパーツを分解してしまう。攻撃するタイミングに触れられてしまえば確かに手痛いものだが、そもそも気体化出来るイブリスにとってそんなのは些末な問題のはず。
それなのにイブリスは黒葉をわざわざ見つかるリスクを抱えても闇討ちした。
(分解されたくない? なんで……)
次にリドリアが思い浮かべたのはここまでのイブリスの攻撃だ。のしかかり、蹴りに拳。どれも単純なものばかり。信乃から聞いていた相手の体内に入って内側から攻撃する方法を使っていない。
これらの情報を整理したとき、リドリアの頭に一つ仮説が浮かんだ。
「もしかして……」
リドリアはここで大きく羽をはばたかせた。すると当然ながらイブリスの身体は宙を浮き、またリドリアの背後にまで回り込む。
(馬鹿め! さっきの二の舞だ! 奮起したところで気体化した俺の動きも位置も分かりはしない!!今度こそ終わりだリドリア!!)
だが手を出しかけたその時、イブリスは自分の右手に何かが突き刺さる痛みを感じた。
「え?」
そこには、まだ気体化しているはずの自分の身体にリドリアの飛ばした羽がいくつも突き刺さっていたのだ。そして振り返ったリドリアはこれを見て確信する。
「思った通りね。アンタがいくら気化しても、必ず分散して実体はある。それこそ蜘蛛の巣上に広げて見えないレベルにね」
人の身体に籠っている内容物。これらは様々な分子が結び付き形成されている。イブリスの気体化は人間に戻る都合上、分子構造、並びはそのままに間だけを広げて気体のような状態を疑似的に作っていたのだ。
そのため元に戻る際に体の一部だけにすれば分子は入れるが乱れてしまうデリケートな仕様になっていた。
そしてここに黒葉の分解が当たれば、ただでさえ制御が難しい手足が切り離される。黒葉の能力は体の感覚はそのまま分離させるものだが、それを知らないイブリスからすれば切り離された途端自分の体の一部が完全に気化して消滅しかねない恐ろしい事態だったのだ。
「あんたが黒葉にビビった理由が分かったわ。そしてそれはつまり、全体攻撃がどうあがいても当たるって事よね!!」
元に戻りながら落下していくイブリス。彼は痛みに恐怖しながら必死の懇願をして来た。
「ま、まてリドリア!! 悪かった! 君の事を悪く言ったのは違うんだ! そう! うちの隊員だ! 彼等が君の事を嫌っていてそれで」
リドリアはイブリスの責任転嫁を聞く機などなく、畳みかけるように大量の羽を雨のごとく飛ばした。
「今まで皆を馬鹿にした分喰らいなさい!! <幸せの雨>!!」
乱射された羽は何本もイブリスの身体に突き刺さり、そのまま大の字になって地面に激突、変が刺さったまま白い眼を向いて気絶した。
決闘の勝敗は決し、機械アナウンスが告げた。
「勝者! リドリア・アイズ!!」
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