PURGEー19 捜索!!
翌朝、緊張から早く起床したリドリアは、ふと黒葉の部屋の方から何か違和感を感じた。
「黒葉?」
何故リドリアが奇妙な感覚を感じたのかは分からない。女の勘といったところだろうか。そのおかげが不幸か、彼女はふとノックもなしに黒葉の部屋の扉を開き、中に誰もいないことに気が付いた。
「いない? 帰って来てないの!?」
そこからすぐに信乃も参戦して二人は家中を探し回ったが、黒葉の姿は何処にもなかった。
「何処にもいない! 外に出ていったの!?」
「うん、昨日の夜緊張の気晴らしをしたいって、買い物に行ってそれで……私もすぐに寝ちゃってたから……
私が、もっとしっかりしていれば!!」
小隊長として所属隊員の行方が分からないことは重大な問題だ。信乃はそんなことを結成してこの短い期間で起こしてしまった事実に重く責任を感じた。
リドリアも不安になった。元々今日は黒葉が自分のために決闘に出る日。その前日からの行方不明。一度戦って知った人物だからこそ、彼に何があったのか心配で仕方なかった。
そんな二人に選択の余地を与えないかのように、家のインターホンが鳴り響いた。モニターを見ずともやって来た相手が誰なのか予想が付いた二人は玄関に足を急がせて扉を開いた。
「やあ、おはよう森本小隊の皆さん」
二人の予想通り家の前に現れたのは今日の対戦相手、イブリスを先頭としたスヘッダ小隊だ。
「今日の決闘のために迎えに来たよ。あの男は……寝ているのかな?」
イブリスの言い回しに腹が立つ二人。団体の端にいる例の少女は何処か視線を逸らしているが、他の全員が揃って何処か笑っているように見えた。
おそらくイブリスが昨夜黒葉に何かをしたのだろう。だが相手は小隊長。証拠がない中で怒鳴りつければ責任問題にもなりかねなかった。
とはいえこのままいても黒葉が戻ってくるわけではない。リドリアは視線をちらつかせながらも小さな声で現状を白状しようとした。
「黒葉は……」
「春山君は先に会場に向かいました!」
リドリアよりも先にイブリスとの間に割って入った信乃が先に口を開いた。リドリアは彼女が咄嗟に嘘をついたことに驚いて困惑する。
一方のイブリスは信乃に対して一瞬機嫌の悪い顔を見せたが、信乃の真剣な目付きにまあいいと思ったのか少し顎を引いて敢えて彼女の方便に話に乗ることにした。
「そうか分かったよ、じゃあ一緒に会場まで」
「今回の件は私達の小隊と貴方達の小隊のトラブルです。決着がつくまではあまり一緒にいない方がいいかと」
信乃の最もな言い分にイブリスは脇で苛立った様子を見せた隊員達にハンドサインを送って諫め、とりあえずは信乃の言うとおりにすることにした。
「そうだな。じゃあ先に会場に行って待っておこう。君達も、遅れないように気を付けるんだよ」
イブリスは部下を引き連れて去っていった。唯一一人、手紙の少女だけは申し訳なさそうな表情を浮かべて目線を下げていたが、口元が震えて何も言うことなくイブリス達について行った。
スヘッダ小隊が近くにはいなくなったことを確認した信乃。彼女が玄関先に戻ると、リドリアから小さな声で話しかけられた。
「信乃……」
「ごめんなさい。でもあの場で返答していたら、向こうの思う壺だと思ったから」
「黒葉……」
「屈してはダメ。まだ決闘の時間までにも余裕がある。春山君に何かあったっていうのなら、私達で探しに行きましょう!!」
信乃は怖がっているリドリアの両手を包み込むように握り、彼女に優しい眼差しを向けながら語り掛けるように台詞を吐いた。
「大丈夫! 春山君はきっと大丈夫だから」
リドリアは同じ言葉を繰り返す信乃の台詞からもしやと思っていると、微かに自分の手を包み込む信乃の両手からも震えを感じとった。
(小隊長も無理をして……いや、黒葉の事が心配なんだわ。アタシって、こんな時に結局独りよがりを……しっかりしなきゃ!!)
リドリアは表情を真剣なものに変えると、信乃と共に昨夜黒葉が行った事が分かっているコンビニを最初にそれぞれで様々な場所に足を運んで黒葉を捜索した。
だが一時間の努力もむなしくリドリアも信乃も黒葉の消息については掴むことが出来ずに合流する時間となってしまった。
「見つからなかったのね」
「ごめんなさい。強いて分かったのは、一人の少女を追いかけて何処かに走っていったって事だけで」
「それ! アタシも聞いた!! 少女……」
わざわざ黒葉が追いかけていく少女。初対面の相手にそんな事をするとは考えにくい。そして昨夜のタイミングから見て二人に思い当たることは一つだった。
「もしかして、スヘッダ小隊にいたあの少女!」
二人が同時に思い浮かべたのは、集団の中で唯一挙動不審状態になっていた少女。イブリスと同じ肌の色に角を生やした女性の姿だ。
初対面時の後に黒葉から聞いた話ではその少女から手紙を貰ったらしい。
「もしかして、少女を囮にはめられたって事?」
「とすると、本当に人目に付かないところに……」
信乃はおもむろに今の時間を確認すると、もうそろそろい移動しなければ間に合わない時間にまで迫っていた。
「時間が……」
頭を抱える信乃。黒葉の手掛かりも途絶えたままで進捗はなく、危機に陥ってしまっていた。
だが小隊の全員が決闘の場所に到着しないとあれば、それこそ不戦勝と判断されてリドリアはスヘッダ小隊に移動することになってしまうだろう。ならば小隊長として信乃が取る判断は一つだ。
「リドリアさん! ここは……」
「小隊長!!」
信乃の提案はリドリアのより大きな声によって遮られ、喉の奥に飲み込まされてしまった。
「アタシのお願い、聞いてくれませんか?」
「お願い?」
時間は経過し、いよいよ決闘で両社が対面するときになってしまった。
片側の選手入場口からはイブリスが既に勝ち誇ったように顎を上げて歩いて来る。だが彼は次に見た人物に少し反応して顎が下がった。
「リドリア!?」
反対側の入場口から現れたのは、リドリア・アイズだったのだ。
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