PURGEー18 襲撃!!
特訓による成果で察知能力が上がり、自信を付けた状態で決闘の前夜を迎えた黒葉。
とはいえ次警隊の小隊長を相手に決闘をするのは初めて。どうしてもぬぐえない心配からやはり緊張している部分があった。
そんな黒葉はおもむろに玄関に足を運び靴を履いていた。近くにまで来た信乃が黒葉の行動に対して止めるような発言をする。
「こんな時間にわざわざ買い物に行かなくてもいいのに……別に急ぎの用でもないのに」
「アハハ……なんだかじっとしているのが落ち着かなくって……それにここまで二人にはお世話ばっかりかけて来ちゃったから。
お茶もあんまりないし、気晴らしついでに買って来るよ。森本さんは先に寝てていいから」
「でも……」
「大丈夫。ちょっと近くに行くだけだから」
信乃に心配をかけられながらも愛想笑いを見せて外に出た黒葉。雲のない月明かりが綺麗に夜空を照らす中で夜風を気持ちよく感じながら何の気なしに足を進めていた。
その道中、黒葉はふと道の端に覚えのある物体が微かに飛び出している様子を見つけた。
「あれって……もしかして……」
一瞬その物体の方に足を運ぶのを悩んだ黒葉だったが、向かったところで何かあるわけでもないと判断してそのまま前に歩いて行った。
黒葉がある程度足を進めた先に見た物体の正体は、予想通り黒葉にイブリスの手紙を渡して来たあの少女だった。
「やっぱり君か」
「ハッ! す、すみません!!」
秘かに隠れているようにしていたところを見つけられてしまい、なんであの場にいたのかを言う事もなく少女はまたダッシュでこの場を離れていこうとする。
「いや! 君何しに来たの!!?」
わざわざ隠れるようにしてまで現れて何をしに来たのかもわからずに去られてしまうのは流石に引っかかると黒葉は咄嗟に少女を追いかけていった。
少女の逃げ足は黒葉が思っていたよりも早く黒葉は追いかけるのに少々躍起になってしまったが、彼女は初手で全力ダッシュをしたがために徐々にスタミナが尽きて速度が下がっていった。
黒葉はここで自分のペースを少し上げると何とか追いつき、反射的に少女の腕を掴んだ。
「ああぁ!!」
「やっと追いついた!……ちょっと……君、速いって……」
思わぬダッシュに切らした息を整えるのに時間を有している黒葉だったが、少女が怯えるように向けてきた視線に彼は触れているのがまずいと思いすぐに手を放した。
少女は頬を赤くしつつ膝を震わせ、目線を何度も変えながら黒葉に触れられた部分をもう片手で覆うように触れて擦る。
「あぁ、ごめん! いきなり男に触られて嫌だったよね」
黒葉は自分が咄嗟に取った行為がセクハラになってしまったのではないかと謝罪の台詞を吐くが、これと同時に彼の思考では自分の能力を振り返った上で自分が何をしたのかを察し、顔色が悪くなった。
「え? 今俺君に触れて……」
黒葉がマズいと思った時には既に遅かった。少女が次に体を動かした途端に彼女が着ていた少々大きめのサイズのワンピースが不自然に脱げ落ちてしまい、あまりお洒落とは言えないベージュの下着姿を露出させてしまった。
小柄な体の中に隠れていたアンバランスな体。文rの大きさはリドリアと同格かそれ以上とも取れる程であり、俗に言うトランジスタグラマーだった。
「え?……えええ!!?」
少女は自分のあられもない姿に気が付いた途端に半泣きの瞳をしながら顔を真っ赤にして再びしゃがみこんでしまった。
「イヤアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァ!!!! 見ないでください!!!!!」
「あああああ! ごごごごめん!! また勝手に能力が暴発して!! その、わざとじゃないんだ!!」
今更とても遅いかもしれないが必死の弁解をする黒葉。彼はまたしてもここで視線を逸らしてどうにか少女の身体を見ないようにしようとしたが、その直前に少女の眼鏡の外れた素顔を見た途端に動きが止まってしまった。
眼鏡の奥に隠されていた金色の美しい瞳に整った顔。幼さこそあるものの一目からして美少女といえる少女に黒葉の視線は逸らすどころか釘付けになってしまった。
(か、可愛い……あれ? なんだか、胸が締め付けられるような……この子の事、もっと見たくなって……)
さっきの反省はどこへやら。黒葉は顔ごと少女の方に向けて彼女の姿を凝視してしまうも、すぐに何故か目が覚めるのに似た感覚を覚えながら我に返った。
「って! 俺なんでじっと見て!! ダメだダメだ!!」
何故か思い浮かんでしまった煩悩を断ち切って必死に少女への配慮を意識した黒葉だったが、対する少女は黒葉に対して何処か悲しそうな表情をして小さな声で口にした。
「……ごめんなさい」
「え?」
次の瞬間、黒葉は自身の背中に何かを突き刺されたような痛みを感じた。黒葉は自分に何が起こったのかを確認しようと視線を下に向けると、刃物によって貫かれ出血している自分の腹が目に入った。
「これ……は?……」
目視したことにより自覚してしまった黒葉は途端に腹からの激痛にもだえ苦しみだしてしまう。地面に手を付けて走った時とは比べ物にならない荒い息遣いになってしまったところに、彼を嘲笑うかのような声が聞こえてきた。
「いけないなあ、春山隊員。こんな所でいたいけな少女にわいせつな行為を働くとは」
「そ……その声は……
黒葉が真っ先に声の方向に顔を向けるも、そこには誰の姿もない。だがさっきの声は黒葉にとっても聞き覚えのあるものだった。
「今の声……まさかイブリス?」
イブリスがいることが分かると、ここに来て一つ黒葉に思い当たることが出来た。
今黒葉がいる場には人気がない。つまり少女は逃げたのではなく、黒葉を誘い込むためにあの場に待ち構えていたのだろう。
「おいおい、目上の立場の人を呼び捨てか!?」
イブリスは不意打ちを成功させたことに勢いづきつつ集中力の定まらない黒葉に死角から蹴りを入れた。
出血は更に酷くなり、地面に倒れて震えながら黒葉は問いかけた。
「お前……どうしてここに……決闘で戦うんじゃ……なかったのか?」
夜の闇から能力を解除したのか姿を現したイブリス。上から目線な邪悪な笑みを浮かべて屁理屈を口にする。
「決闘はすると言った。だが俺がいつ戦うとは言ってないだろう?」
「そん……な……こんなことして……違反行為じゃないのか!!」
「そこは安心してくれ。君は決闘を前にして逃げ行方不明になったとしておく。自分の立場をよく理解しながら、あの世で俺とリドリアが仲良くするのを見ているといいさ」
おまけとばかりに黒葉の頭を蹴りばして完全に気絶させたイブリスは、少女に指示を飛ばして回れ右をする。
「片付けとけ。俺は先に帰る」
「こんなこと……やっぱり……」
何かを言いかける少女をイブリスははたき、怒りの混じった様子でもう一度指示をした。
「つべこべ言わずやれ。お前に意見を言う資格なんてないんだよ出がらしが」
「は、はい……申し訳……ありません……」
闇の中にイブリスは消えていき、少女も震える手で黒葉を背負うとその場から姿を消してしまった。
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