PURGEー17 特訓!!
次警隊に入って初めての小隊長との戦闘。それも期間は二日しかない。黒葉は決闘に勝利するために、イブリスへの対策を立てて攻略法を掴むことが急務だった。
そこでこの日は朝から早速信乃との模擬戦を行い、能力なしの物理戦闘を行っていた。
「春山君! 脇が甘いですよ!!」
「おっと!!」
黒葉の動きの弱点を見つけた途端に指摘され、丁寧に修正される。元々学生時代から人に勉強を教えるのがうまかった信乃による稽古は、黒葉にとって実に有意義なものになっていた。
一時休憩を挟むことになり、水分補給をしている最中。信乃は黒葉に率直なここまでの感想を告げた。
「春山君の基礎戦闘術は、私とは大差がないですね。私よりも年季の長いスヘッダ小隊長に完全に同等とはとても行きませんが、とりあえず戦えるほどはあると思います」
「あ、ありがとう……」
「とすれば一番の問題は、やはりスヘッダ小隊長の能力についてね」
「能力……」
やはりイブリスも能力持ちなのかと少し顔をしかめる黒葉だが、対策をするにもまずは知らなければと質問をした。
「アイツの能力って、一体何なの?」
「<気体身>、自分の身体を機体に変身させて攻撃をすり抜けさせる能力よ」
「攻撃が当たらない!? それも機体って、実質透明になれるって事じゃん!!」
黒葉は大きく口を開けて変顔を見せてしまった。だが信乃からすれば黒葉が思っているほどに脅威とは思っていないように見える。
「これでも春山君にとっては幾分かましな能力だよ」
「俺にとっては? どういう事?」
首を傾げる黒葉に信乃が説明した。
「本来<気体身>は、気体化して相手の攻撃は受け流しつつ、自分の体の一部を相手に取り込ませて内側から攻撃することが出来る。
でも春山君はスライムにもやった防御術で、近づいた煙を瞬時に弾くことが出来る。正直条件はどっこいどっこいってところだと思うんだ」
信乃の説明に黒葉は納得した。
「お互い防除はばっちりだけど攻め手にかけるって事か。とすると重要なのは、どう攻撃を当てるかだな」
考え込む黒葉と信乃。信乃は異能力の幅が広い都合上そうすぐには対策が浮かばないものかと思っていたが、黒葉の方がここで一つ思い浮かんだ。
「そうだ! 一つ出来る特訓があるよ!」
「出来る特訓?」
二人が何か光明が見えていたそのころ。リドリアは家の中で結果的に黒葉を自分の身柄のために戦う流れにしてしまった事実に落ち込み、部屋の中に閉じこもっていた。
暗く静まり切った部屋の中で、リドリアは自身のスマートフォン型のデバイスに触れて立体映像を出現させた。
そしてリドリアが操作しているのはメール画面。宛先はイブリスのものだ。
無言のままメール本文に文字を打ち込もうとするリドリアだったが、すんでのところでノック音が聞こえてきた。
「リドリア! いるんだろ!?」
声の主は黒葉。リドリアは返事をすることを悩んだが、自分のために動いている彼に少しでも応えなければと画面を閉じて扉を開いた。
「どうしたの?」
暗く沈み切った顔で問いかけるリドリアに、黒葉は頭を下げてきた。
「頼む! 俺の特訓に付き合ってほしい!!」
「特訓?」
黒葉の戦う理由が為に、リドリアに彼の頼みを断れるわけがなく一緒に家の外、基地内の訓練場に来ていた。
「派手にやっていいのね?」
「ああ! 頼んだよ、リドリア!!」
「分かったわ。やってみる!!」
リドリアは両手足を鳥のものに変身させると、高速で上空に羽ばたいて飛翔し始めた。
「それじゃあ、行くわよ!」
リドリアはここから縦横無尽に飛び回り黒葉を翻弄する。前回決闘をしたときはここでリドリアが攻撃を仕掛けたタイミングに返り討ちにする手法を取っていた黒葉。今回も手法自体は同じだが、違うところとして黒葉が目隠しをしている点があった。
「ここ!!」
見定めたタイミングに手を伸ばした黒葉だったが、リドリアにはかすりもせずそのまま蹴りを入れられてしまった。
「ガハッ!!」
「全然タイミング合ってなかったわよ」
黒葉が考えた修行法。イブリスは普段は攻撃回避のために体を煙にしていたとしても、攻撃をするには必ず実態に戻らなければならない。ならばその瞬間にピンポイントに触れることで黒葉の能力を発動させて勝利する方式。
しかしこれを透明な気体に変身するイブリス相手に決めるには、一何処から現れるのか資格情報では判断しずらいものに気が付く必要があった。
なので移動速度が素早く、尚且つどこからでも攻撃を仕掛けることが出来るリドリアの攻撃を視覚情報に頼らず受け止めることが出来れば、攻撃が出来るようになるという算段だ。
だがここから一時間経過しても黒葉はリドリアの攻撃を受けっぱなしであり、攻略の糸口はつかめずにいた。
黒葉は傷に消毒液を掛けて手当てをしてくれるリドリアと信乃に感謝を告げる。
「ありがとう、二人共」
「いえいえ」
「こんなに怪我をしてまで。まあ、やったのはアタシだからどの口がって話なんだけど……」
また自分を責め始めるリドリアに黒葉は笑顔を見せて反論する。
「いやいや、こういうのは本気で来てもらわないと特訓にならないから」
「でも、それで大怪我してちゃ本末転倒でしょ? やっぱり無理はしないで、アタシが」
「リドリア!」
黒葉が自分を読んだ声に目線をつい合わせてしまうリドリア。黒葉は真っ直ぐ彼女を見たまま話す。
「これは、俺がやりたくてやった事なんだ! 断じて君のせいなんかじゃない!!」
自分をどこまでも優しく接してくれる黒葉にリドリアがキョトンとするも、黒葉はそこからもう一度立ち上がり自身の腰を叩いて気合を入れた。
「よし! もう一回頑張るぞ!!」
そこから更に三時間が経過し、ついにその時は来た。リドリアはせめて黒葉の思いに応えなければと本気の攻撃を仕掛けたとき、黒葉は真後ろから来たこれを受け止めて見せたのだ。
「掴んだ!!」
「黒葉! 凄い!!」
リドリアもこれに嬉しくなってしまい、思わず羽の動きを止めてバランスを崩してしまった。人一人分の重力を持つ形になった黒葉は突然の変化に耐えきれず一緒になって転倒してしまう。
「イッタタ……リドリア、大丈夫?」
その時手探りでリドリアを探していた黒葉は、ふと何か柔らかいものを掴んでいた。
「ハウッ!!」
「え?」
大きく低反発を感じる柔らかいものの小隊にまさかと思った黒葉は反射で思わずさらに強く握ってしまい、リドリアは一気に怒り出した。
「アンタ……どこ触ってんのよ!!」
特訓の成功は、黒葉の派手なぶっ飛びによって飾られたのだった。
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