PURGEー15 三番隊隊長!!
イブリスから提示された証書に完全に勢いを止められた黒葉とリドリア。イブリスは森本小隊の弱った様子に満足げな顔を浮かべながら頃合いとばかりに口を開いた。
「まあ、驚くことも無理はないな。今回は指令を先に言いに来ただけ。明日明後日には正式な通達が来るだろうから、それから移動してくれよ。それじゃあ」
イブリスは隊を率いて去っていった。一人、例の少女だけが一瞬不安げにこちらを見たように思えたが、黒葉達にそれは今はどうでもよかった。
扉を閉め、リビングに戻っても一切気は休まらない。次警隊のルール上、他部隊であれど確かに隊長の許可を得られれば隊員の部隊移動は可能である。
だが今回の移動は明らかにおかしい。すぐにクオーツに話を持ち掛けようとした彼等だったが、当のクオーツは出張でおらず、副隊長も同様だったために話がまず出来なかった。
なにより黒葉に大いに引っかかったのは、その許可をした隊長についてだ。
「ありえない、三番隊隊長がこんな無茶苦茶な許可をするだなんて!」
「春山君、落ち着いて」
怒りからテーブルに拳を叩きつける黒葉に信乃の注意が入る。黒葉が鉾を諫めるも表情は全く納得がいってない様子だ。
「春山君。どうしてそこまで怒っているの?」
信乃からの問いかけに黒葉は腹を立てたまま返事をした。
「三番隊の隊長とは、入隊試験のときに会ったことがあるんだ。クオーツ隊長に聞いた話だと、俺を六番隊に進めてくれたのもあの人らしい。
確かに型にはまらない部分があるっていうのは知っていたけど、だからってこんな本人の意思を無視したような無茶苦茶はしないはずだ。それをアイツ、ひょうひょうと勝手に名前を!」
黒葉が腹を立ててリビングで文句を吐き続ける中、リドリアはふとリビングから出ていき、信乃は彼女の様子が気になった。
リドリアが少しふらついた足の動きで自室に入りかけると、追いかけてきた信乃がふと声をかけてきた。
「リドリアさん」
「小隊長」
「少し……お話しませんか?」
リドリアと一緒に部屋に入った信乃は、リドリアに思い当たっていたことを聞いてみた。
「さっきから随分と動揺している。例の三番隊隊長の事が出た途端に」
リドリアは少し間を置いてから、信乃の方に逆に質問を飛ばした。
「小隊長は、三番隊隊長について知ってる?」
「会ったことはないので噂でしか。史上最年少にして次警隊隊長に就任した二人の内の一人。ただ、あまりいい噂は聞かない」
リドリアのためを思って信乃は噂の内容を口外しなかったのであろう。だがリドリアは自分から敢えてしゃべった。
「前任の方が亡くなったことによる穴埋め、実力の伴っていないお飾りの隊長って言われ続けている。でもアタシは知っている。あの人に、助けられたことがあるから」
「助けられた?」
信乃のオウム返しにリドリアは頷くと、自分の過去について少し語った。
「一年前。アタシが友人の誕生日のパーティーに行ったとき。次警隊に恨み持った犯罪グループの建て込み事件に巻き込まれたことがあったの。
厳しい条件にいつ殺されてもおかしくないと思っていた。けどそんなときにあの人が現れたの」
リドリアの脳裏に浮かぶ白いローブを着込んだ青年の後ろ姿。右肩の上には小さなぬいぐるみを乗せた妙な姿で犯罪グループに臆せず向かっていき、これを撃退してみせた。
部下もおらずたった一人、異能力もなしで事件を解決した強い男の背中に、リドリアは理屈じゃない心からのあこがれを感じたのだ。
「あの人に憧れてアタシは次警隊の試験を受けた。いつかあの人みたいに戦える強い人になるために……」
自分の事情を語った後にリドリアの胸に込み上がって来たのは、この所の彼女の悪い不調に対する情けなさだった。
「それなのにアタシは……初任務でも役に立てず、別部隊の悶着を生み出してしまった。誰かを助けるどころか、足を引っ張るばっかりで……
……もう、いっそいなくなった方がいいんじゃないかって思っちゃって……」
拳を強く握るリドリアの手に自身の手を重ねる信乃。
「そんなことはないですよ! リドリアさんは役に立っています。いや、役に立つ立たないの問題じゃない! 貴方は私達小隊の仲間なんです!!
これから色んな事を一緒に立ち向かっていく。かけがえのない仲間なんです!!」
「小隊長……」
「……信乃で、いいですよ」
「……ありがとう、信乃……アタシにも、敬語はなしでいいから」
信乃の優しさに思わず笑みを浮かべて涙を流してしまうリドリア。女性二人の暖かい会話を壁にもたれながらドア越しに耳にしていた黒葉。
二人の、特にリドリアの思いを聞いてしまったがために、彼の心に何か炎が燃え上がるような思いを感じさせ、何かをここで決心させた。
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数時間が経過した森本小隊の家とは別の場所。庶民の一軒家とは格が違うとでももの言いたげな豪華な洋風の屋敷。イブリス達『スヘッダ小隊』の居住地である。
屋敷の中では広い小隊長専用の仕事部屋にて席に座っているイブリスが笑みを浮かべながら書類に目を通していたが、そこに扉からノックオンが聞こえてきた。
「入れ」
「失礼します」
扉を開けて入って来たのは黒葉に手紙を渡した少女だ。
「お前か。何用だ?」
イブリスの問いかけに少女は震えながらどうにか問いかける。
「そ、その……やっぱりいけないことではないのですか!? 偽の証書をでっちあげて移動を誘うなんて……」
少女の言葉。つまりはイブリスが三番隊隊長から許可を受けたというのは真っ赤な嘘という事だ。だが問いかけられてもイブリスの姿勢は変わらない。
「なあに、事が進めばデータを消してしまえば証拠は残らない。素直じゃないリドリアの事だ、そろそろ証書以上に効力のある物事のきっかけが来るだろうさ」
少女が不安な顔を浮かべる中、開きっぱなしの扉の元に別の男性隊員が現れる。
「小隊長、森本小隊の隊員が来ています」
「噂をすればか……思っていたよりもはやかったな」
イブリスは口元をにやつかせ、隊員にここに案内するように指示を出した。
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