PURGEー14 イブリス!!
黒葉は封筒を握って家に戻りすぐにリドリアに声をかけると、彼女は筋トレを一時中断。この時間の間に起床していた信乃も揃ってリビングに集まった。
三人がテーブルの席に着き、早速黒葉は少女から受け取った封筒をリドリアに手渡した。
「中身は読んでない。でもメールや通信が出来る中でわざわざ手紙で直接渡して来たってことは、結構重要な内容なんじゃないかと思う」
リドリアは封筒の表裏を確認するも宛名はなく、仕方なく中身を開いて中身を取り出した。
そして差出人の名前を確認したリドリアは、小さなため息をついて手紙を破ってしまった。
「えぇ!!? いきなり破っちゃって大丈夫なの?」
驚く黒葉と信乃に対してリドリアは冷静な口調で返事をした。
「いいのよ。読む価値もない内容だわ」
「読む価値もないって」
「せめて差出人だけでも、教えてもらえないかな?」
信乃からの当然の疑問に黒葉も頷いて同意すると、リドリアは多少苦い顔になりながらもそっぽを向いて答えた。
「『イブリス・スヘッダ』って奴」
「イブリス・スヘッダ!!?」
差出人の名前を聞いた途端に信乃が思わず立ち上がってしまうほど驚いた。黒葉は信乃の反応に顔を向けて聞いた。
「え? 森本さん、知ってるの?」
「うん。私と同じで次警隊六番隊の小隊長だよ。働き者で功績も多いって言うんだけど、なんでも女癖が悪いとかって……」
「そしてアタシと同様お金持ちの子供。宇宙規模の大きな商会『スヘッダ商会』の御曹司」
リドリアからの補足説明に黒葉が今度はリドリアの方に顔を向けると、彼女は説明を続けた。
「お金持ち同士の縁ってやつ。昔からの前からの知り合いでね。大方自分の小隊に来ないかって勧誘よ。隊に入る前から前からアタシに邪な目を向けていたし、誘われて断ったこともあるから」
「邪なって」
「当然引き受ける気なんてないけどね。アタシは森本小隊の一員! 何より何の手柄も立てずに知り合いに媚びるような行為、絶対にしたくないもの」
片目を閉じながら語るリドリアの威勢のいい言い分に黒葉の口角が自然と上がった。だが黒羽は次に思い浮かべた事に出来かけた笑みが下に下がった。
「てことは、俺に手紙を渡して来たあの子はそのスヘッダの小隊の一員だったってことなのか。なんか随分と震えていたというか、怖がっていたような感じだったのが気になるけど」
「怖がっていた?」
黒葉はリドリアが内容も見ずに手紙を破った事に何か悪い予感を感じていた。
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その悪い予感は、翌日にして早くも現実のものとなってしまった。森本小隊の朝食時に再び鳴り響いたインターホン。モニターに映っていたのは、昨日の朝に出会った少女を脇に複数人の隊員を引き連れた一人の青年。
赤紫の髪をワックスで整えたらしき型にはめた髪型に何処か相手を舐めたような目つきをした褐色の肌の男。角は生えていないものの、どうにも隣にいる昨日黒葉が会った少女にが意見が似ている男。
リドリアは青年の顔を見た途端に嫌な顔を浮かべたために、初対面の黒葉にも彼が誰なのかがすぐに分かった。
「もしかして、あの人が昨日言ってた?」
「ええ、昨日の今日でいきなり乗り込んでくるなんて思ってなかったわね」
窓から漏れた明かりから中に人がいることはバレているため、居留守を使うことも出来ない。
こうなれば仕方がないと三人は玄関に移動し、扉を開けて面と向かった。
訪れた男、イブリスは社交辞令としては一度頭を下げてから挨拶をする。
「久しぶりだねリドリア。相変わらず美しいようで何よりだよ」
「それはどうも。社交辞令はいいのさっさと本題を」
リドリアは一刻も早くイブリスに立ち去って欲しいとばかりに話を早く終わらせることを強要する。だがそんな彼女の姿勢にイブリスは軽く笑って見せていた。
「ハハハ、相変わらず態度の大きい子だ。だがそれが君の良い所だな」
イブリスは込み上がった笑いを抑えると、リドリアの望み通りさっそく本題を口にした。
「リドリア、俺の小隊に来い」
リドリアはやっぱりとでも言いたげな顔をすると、冷たい表情を浮かべながらすぐに返事をした。
「お断りよ。貴方の舞台に入る気はないわ」
「はは、予想はしていたが、やはり昨日の手紙は読んでいなかったようだね?」
「昨日の手紙?」
疑問がよぎる三人にイブリスは告げる。
「悪いがこれは決定事項だ。リドリア、君がどう言おうと小隊に来てもらうことになっている」
この言い分には森本小隊の三人が揃って目を丸くして反応した。
「なんですって!?」
「ちょっと待ってください!!」
ここに来て声を張り上げた信乃がリドリアの出てきた。
「君は?」
「この小隊の隊長をしています、森本信乃です」
「へえ」
信乃はたった今イブリスが言ったセリフに対し、小隊長として感じた引っ掛かりを口にせずにはいられなかったのだ。
「私達の正体は今三人しかいない新設部隊。人事移動などもってのほかの行為です。隊長が認めるとは思えない。それに小隊長である私にもアイズ隊員の移動の話など一切連絡を受けていません。
何よりアイズ隊員はこの小隊に必要です。強引に引き抜くような行為はやめてください!!」
「小隊長……」
前半はもっともな事、後半は自分の思いが混じった反論にリドリアはありがたさを感じていたが、イブリスは信乃の言い分を鼻で笑った。
「フンッ。連絡なら少しすれば来るさ。今日は先に挨拶に来ただけの事」
「こんなの絶対におかしいです。クオーツ隊長が自分が新設した部隊の隊員をいきなり移動だなんて絶対にありえない!!」
信乃の反論にイブリスは口元をにやつかせる。
「ああ、確かにクオーツ隊長の許可は出ていない。だが次警隊では他部隊の隊長の権限でも人事移動をすることが出来る。そして俺はその許可を得た」
イブリスが耳に付けた装飾を外して親指で中心に触れると、装飾の上に立体映像が出現した。
その内容は一枚の証書。サインに書かれていた名前を見せびらかしながらイブリスは叫んだ。
「かの、三番隊隊長のご許可をな!!」
イブリスの台詞に黒葉、そしてリドリアが強く衝撃を受けていた。
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