PURGEー12 不穏!!
保護区から脱走したスライムによる暴動事件がどうにか収まり、ある程度時間が経過した後の事。
スライムを保護区に還した後、体中に付けられたスライムの粘液を洗い落とし、用意された服を着た信乃と一人服に被害を受けていない黒葉は二人でクオーツの部屋に来ていた。
クオーツは黒葉から渡されたもの、スライムに張り付き狂暴化させていた謎の機器を細かく見ていた。
「これが今回脱走したスライムに取り付けられ、狂暴化させていたと」
「あくまで俺の予想ですが、それを外した途端に落ち着いたので、多分間違いないかと」
「実際私達が交戦したスライムは、資料に記されている情報のものより明らかに戦闘力が上がっていました。突然巨大化した件についても、この機器が関係あるかもしれません」
信乃からの補足も入り、クオーツは一言一句残さず聞き取る態度を見せていた。
説明が終わってからクオーツは機器を自身の机に置くと、二人に対していつもの微笑顔とは違う真剣な目付きを向けてきた。
「今回のスライムの脱走事件。確かに単なるトラブルという訳ではなさそうですね。この機械が何処で取り付けられ、何処で生産されたものなのか。こちらの方で調べておきましょう」
「「ありがとうございます!!」」
揃ってきをつけの姿勢を取り目上の人物に対して礼儀良くお礼を告げる黒葉と信乃。
クオーツが二人の真面目な態度に真剣な厳しい表情を緩めて少し口角を上げると、二人に対して優しい声をかけた。
「今回の働き、予定外のトラブルもあった中で本当にありがとうございました。お給金につきましては色を付けさせていただきますね」
「えっ!? 良いんですか!?」
「ありがとうございます! って、お礼が出るばかりですね」
「フフッ、現金な人達。でも素直な人は嫌いじゃありませんよ。まあ、生意気な人も嫌いではありませんが」
クオーツは思わず笑ってしまった顔を戻して話の内容も戻した。
「今回の任務はこれにて終了とさせていただきます。お疲れさまでした」
「「それでは、失礼しました」」
二人が扉を開いて部屋を出て行ってすぐ。クオーツは机の上に置いた謎の機器をもう一度手に持ちまた細かく見ると、部屋に誰もいないことをいいことにふと独り言をこぼしてしまう。
「フゥ……取り付けた生物を強制的に狂暴化させる機械。こんなものがこの基地のセキュリティを突破して普通に持ち込まれることはまずありえない」
クオーツの頭の中に浮かんで来たのは、黒葉とリドリアの決闘の最中に現れた次警隊二番隊隊長、『疾風 入間』から直接連絡を受けた内容の事だ。
「入間ちゃんの言っていた事の余波が、この世界にも起こっているのかもしれない……」
クオーツは椅子を回転させて後ろの窓の外を見ながらあまり気の良くない表情をしながら呟いた。
「あまり考えたくないものですね……次警隊の中に、裏切り者がいるなんて」
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黒葉達が報告に向かっていった中、一人家の中に残ってスライムに付けられた粘液を落とそうとシャワーを浴びていたリドリア。
出るところが出で引っ込むところが引っ込んだ透き通った白い肌にシャワーの水滴がかかる姿は、見る人が見れば息を飲む美しさともいえるだろう。
そんな恵まれたものを持つリドリアだが、今の彼女の表情は曇っていた。理由は終了した自分達の初任務での働きについてだ。
(小隊長は襲い掛かる相手を見事に返り討ちにしていた。黒葉は巨大化して狂暴化した相手に臆せず挑んで事件を解決してみせた。だけど……アタシは……)
今回の事件において、リドリアの活躍はお世辞にも良いとは言えなかった。最初に捕獲対象のスライムを発見しながら、油断をした彼女は逆にスライムに襲われかけ、信乃に助けられてしまった。
そこからも捕獲用ボックスは打ち捨てられ、隠れていたスライムの本体にも気付かずに封印解放を許した。
挙句巨大化したスライムの身体に取り込まれてからは手も足も出せず、対処をすべて黒葉一人に任せてしまった。
スライムの捕獲というこの任務においてリドリアは結局足を引っ張る事しか出来ていなかったのだ。
(なさけない……入隊時は優秀だ。出来るんだって思っていたけど、本当に甘かった……)
リドリアは、幼少期より勉強も運動も出来る人物であった。故に彼女は自分が出来る人物だと、優秀であると自認していた。
だがリドリアは入隊式にて黒葉に出会い、彼と決闘をして敗北した。それ以来、優秀だと高をくくっていた自分の実力が通じず、周りに迷惑をかけることも多くなった。
自分が優秀だと思っていたことが、この次警隊という宇宙規模の組織においていかに小さいものであるのかを理解させられた。
シャワーのお湯が床に落ちていく中で、リドリアは知らず知らずの内に顔を俯かせ、背中を丸ませて落ちる雫の量を増やしていた。
「こんなんじゃ……とてもあの人の様になんてなれやしない……あの人はアタシの能力な異能力もなしに頑張っていたのに……」
シャワーの音にかき消されながら、落ち込んだリドリアはため息交じりの声で呟いてしまった。
「アタシ、こんなんで次警隊の隊員をやっていけるのかな?」
体についた汚れが洗い終わっても、心の中のモヤモヤは晴れない。
森本小隊の初任務は、各々にそれぞれ思い残すところありながら一応の終了を迎えることになった。
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