PURGEー11 分離反射!!
突然巨大なスライムの前に現れた黒葉。たった今襲われそうになっていた民間人は彼の登場に驚いていると、我に返すために黒葉は叫んだ。
「早く逃げて!!」
民間人の女性は黒葉の叫びに喝を入れられ急いでその場を去っていった。
スライムに取り込まれていたリドリアと信乃はなぜいま彼がここに到達出来たのかと驚いていると、黒葉の右手が大きく暴れ出した。
「うおっ! また急に強く暴れて!!」
あまりの暴れっぷりに黒葉が握っていた拳の隙間から出現して脱出して来たのは、なんと今現在女性陣を取り込んでいるスライムのかけらだった。
スライムのかけらは解放されてすぐに本体の元に戻っていき融合。一部となった。
この光景でリドリアと信乃にも理解が出来た。黒葉は未だ切り離されて放置されていたスライムを見つけ、それを拾ったとたんに分身体が逃げ出そうとしたのを必死に抑えることでここまでやって来たのだろうと。
「道案内はここまでか。ここで逃がしたらもう後がないな」
どうにか手に入れた道しるべを失った事に少し眉を下げる黒葉だが、すぐに目つきを真剣なものに変えてスライムを睨みつけた。
「まあ、どっちにしろ逃がしちゃだめだ! 森本さん! リドリア!! 待っててすぐに助けるから!!」
黒葉は早速足を踏み込んで接近する。だがやはりこのスライムは悪知恵が働いた。黒葉が自分という目立った存在に向かってくるうちに秘かに分裂させておいた分身体を後ろから仕掛けさせたのだ。
(黒葉!!)
(春山……君……)
二人の警戒の思いは声には出せず、黒葉の耳には届かない。だがスライムは男には興味はないと攻撃を仕掛けたその時、奇妙な異変が起こった。黒葉の身体に触れた途端、スライムは不自然に形が変形して弾き飛ばされてしまったのだ。
(あれ!? 黒葉を避けた?)
(あれは……)
スライム自身も驚いたのか追加で分身体を飛ばし黒葉に襲い掛からせる。だがそのどれもが黒葉の身体に触れてすぐに服を溶かす間もなく弾かれ、地面に激突しダメージからダウンしていた。
上手い具合いにいかなくなったスライムは怒ったようで自身の身体を変形させて大きな触手を生成し、黒葉を直接攻撃しようと模索した。
だがこれも黒葉に触れた途端にまた弾かれ、スライムはその勢いに伸ばした触手に釣られてのけぞってしまう。
そうこうしている間に黒葉は自身の間合いにまで距離を近付いていた。
「無駄だよ。今お前の攻撃は俺には当たらない」
黒葉の台詞にスライムはもちろん、中にいるリドリアも驚いた。
「<分解 反射>。俺の能力の応用だ。
俺は触れたものを分解できる。だから意識を集中すれば体に触れた途端に障害物を弾き飛ばすことが出来るんだ。
最もあまり長くは出来ないし、毒ガスや軽い炎程度しか防御出来ないから、正面戦闘にはあまり使えないけど」
すなわち当てて攻撃より取り込んで溶かすに重心を置いたスライムの攻撃は、黒葉の前には無力だったのである。
スライムがこの事実に恐ろしく感じていると、黒葉はスライムの身体に手を触れて技を行使した。
「森本さんとリドリアを返してもらうぞ。<分解>!!」
スライムは抵抗する間もなく中に取り込んでいたリドリアと信乃を体から分離させられてしまった。しかし黒葉がこの時スライムから取り除いたのは二人の存在だけではなかった。
スライムから飛び出したその小さな何かは黒葉の手の上に落ちてくる。黒葉は手にしたこれを見て苦い顔を浮かべていた。
「やっぱり……スライムに装飾が付いているだなんて、おかしいと思ったんだ」
手の上にある紫色の四角い石が詰められたブローチのような装飾。しかしその裏には細かい基盤が取り付けられている。おそらく張り付けた相手に何か悪い事を作用させる機械なのだろう。
事実これを外した途端にスライムの大きさは収縮していき、最初にリドリアが見つけた時と同じほどの小さな姿で落ち着いた。
黒葉は脱力しきっているスライムに近付くと、もう抵抗する様子のない相手に少し口角を上げて手を差し伸べた。
「大丈夫だよ。すぐに保護区内で治してもらうから」
黒葉はスライムの警戒を解いてからボックスの中に捕獲すると、次に吐き出されたリドリアと信乃の方に駆け寄った。
「森本さん! リドリア!!」
「だ!……大丈夫よ、黒葉……」
「私達は……無事で……」
二人共窒息させられたこともあってかなり過呼吸になっていたが、幸い命に別状はなさそうだ。だが黒葉はここに来て顔を赤面させ咄嗟に二人から視線を逸らした。
「黒葉?」
二人が何故黒葉が視線を逸らしたのかが気になっていると、自分達の身体に風が当たった感触で気付かされ、視線を下に向けて思わず叫んでしまった。
「「きやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ここまでの時間全身をスライムに纏わりつかれていた二人。ある意味当然ながら来ていたのほとんどが跡形もなく溶かされてしまい、内に着ていた下着のほんのわずかなかけらがギリギリ残っている程度の姿になっていたのだ。
「ちょっと! 見ないでください!! 恥ずかしい!!」
「そうよ変態!! こっちに来ないで!!」
「そ、そんなこと言われても……これは不可抗力だから」
どうにか弁解すようとする黒葉。事実今回のこれはスライムのせいであるので、リドリアも鉾を諫めようとする。だがここに来て信乃が口にした台詞が彼女の気持ちを変えた。
「はぁ……朝に続いて二度も春山君に肌を見らせてしまうなんて……もうお嫁に行けません……」
「ん? 朝に続いて?」
黒葉は物凄く嫌な予感を感じた。視線を外した先から強烈な怒りと殺気を感じたからである。
その予感の先ピンポイントには、足を鳥のものに変形させて身体を震えさせるリドリアがいた。
「どういう事かしら黒葉? 朝、小隊長と何があったのかしら?」
「い、いや……だからそれも不可抗力で……」
「へえ、不可抗力……それ言っておけば何でも許されると思っているんじゃないでしょうねえ!!」
「そ、そんなことは……」
怒りから大きくなるリドリアの声にマズいと黒葉が防衛本能から逸らしていた顔を元の向きに戻すと、至近距離にまで足を使づけていたリドリアが見えた。
「最っっっっっ低!!!」
「アガアアアアアアァァァァァァァァァァァ!!!!!」
森本小隊の初任務は、黒葉の断末魔によって締められた。
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