PURGEー10 ピンチ!!
スライムの捕獲に成功したリドリアと信乃は一息ついてから気持ちを落ち着かせ、信乃の方から話し出した。
「そうです! 春山君に捕獲したことを伝えなければですね。スライムを元いた場所へ還すのは彼と合流してからにしましょう」
「はい! 了解です!!」
信乃は手に持っていたスライムが入っている捕獲用カプセルをリドリアに預け、自身はスマートフォン型のデバイスを取り出して声をかける。
「信乃から春山君へ……信乃から春山君へ……」
するとデバイスの画面に黒葉の姿が彼が今いる場所の景色と共に映った。
「はい! どうかした森本さん?」
「例のスライムをこちらで発見。リドリアさんと協力して捕獲まで完了したよ」
「協力って、ほとんど小隊長の活躍じゃ……」
隣のリドリアは謙遜なのか配慮なのかでリドリアの存在にも言及した信乃に微妙な顔を浮かべてしまっていると、黒葉は自分のいない場で事件がほとんど解決したことに驚いていた。
「え!? もう終わったって事!?」
「いや、これから保護区画へ連れていく。全員揃って行きたいから、今いる場所の座標を贈るのでこっちに合流を」
「え!? ああ、はい」
黒葉はせっかくの初任務でありながら自分が全く活躍してない内に解決してしまった事に若干ショックを受けたような、拍子抜けしたような顔になってしまう。
「俺の仕事一切なしかぁ……」
「それではメールに座標を……ひゃぁ!!」
突然聞こえてきた信乃の叫びに暗くなりかけていた表情が我に返って真剣なものになった。
「森本さん!? 委員長!!?」
デバイスの画面を見ると、そこに映っていたのは信乃の姿ではなく、巨大な水色の半透明の職種のようなもの、そして次に見えたのはガラスを割られて穴の開いた天井だった。
「これは……森本さん! リドリア!! 応答してくれ!!」
黒葉の問いかけに相手側からの応答はなく、そのまま画面は暗くなって通信は切断されてしまった。
「やばいぞ……すぐに行かないと!」
黒葉はデバイスを閉じて走りかけるも、そこでデバイス内に表示された何かに気が付いた。
「これは……」
一方のリドリアと信乃。天井を突き破ったものの正体であるスライムに全身を取り込まれ、空中を滑空していた。
(まさか、こんな事になるなんて)
リドリアの脳裏に浮かぶのは、ついさっき自分達の身の上に起こった事だ。
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数分前、信乃が黒葉に連絡を入れている最中。リドリアは周囲に警戒を向けていたとき。もう少しで連絡が終了するときだった。
リドリアの視界から少し外れたほんの少しの隙間に、頭頂部に一つ装飾品を付けたここまでで一番極小のスライムが突撃して来たのだ。
リドリアが気付いた時も時すでに遅し。残っていたスライムは小さい分ここまでのどのスライムの分裂体よりも圧倒的に素早く、かつどんな隙間にも入ることが出来た。
それによってカプセルの内側から破壊されてしまい、捕獲した分のスライムも復活してしまったのである。
「小隊長! スライムが!!」
リドリアの声よりもスライムの動きは素早かった。その速度はまるでここまでの戦闘において手を抜いていたようにすら見える程だった。
「何!? さっきよりもスピードが!!」
「体が! だめ!! 纏わりついて」
スライムはここに来て最初に見たサイズの数倍の大きさにまで巨大化し、リドリアと信乃をその体の中に包み込んでしまった。
(苦しい。でも体は動かせる。だったらアタシだって役に立たないと!!)
リドリアは全身が完全に飲み込まれる前に一瞬だけ爪を動かしたが、スライムのごく一部が本体から外れてこぼれただけに過ぎなかった。
スライムは更にここから大きくジャンプ。商店街の天井を突き破り上空を滑降し、二人は連れ去られてしまったのだ。
じわじわと全身の服が溶かされていくのはもちろん、隙間なく全身を包み込まれたリドリアと信乃は息をすることも苦しくなっていく。
リドリアは全身に纏わりつき味わうように触れられる感触に気持ち悪さを覚えるも、息苦しさから能力を使用する抵抗力も失われてしまう。
(ダメ……意識が……)
信乃の方も同じく苦しんでいた。それでもどうにかリドリアだけでも助け出さなければと能力を使用する構えを取ろうとする。
ところがこのスライムは取り込んだ相手の身体の動きも敏感に感知するようで、更に先程の戦闘で信乃の能力は看破されている。当然対策をしてこないはずがなく、彼女の腕周りに自身の身体の一部を密集させて完全に動きを拘束させてしまった。
「カハッ!!……」
スライムの中で空気の泡を吐き出し嗚咽を覚えるほどの痛みを受けてしまう信乃。多少あった余裕もこれで完全に失われ、気絶するのも時間の問題となってしまった。
スライムは地面に着地すると、そこはまだもの静けさがあった商店街から打って変わって通勤する人がたくさん歩いている大型交差点の中心だった。
(マズい! こんな所で暴れられたら)
リドリアに大きな不安がよぎる。現時点でも周囲には大量の人がおり、当然女性も多い。スライムはそれを次々襲い掛かりかねない。それで重傷者や最悪死者が出てしまうことがあれば、もう取り返しがつかない。
そのときには、組織の上からの指示でこのスライムへの対応が保護から殺処分に切り替える可能性すらあり得る。それは絶対にあってはいけないことだ。
(止めないと! 動いてよアタシの身体!!)
リドリアは全身に的らりついて押さえつけてくるスライムに対して渾身の力を捻り出し、向こうの圧迫が追い付く前に内側からつっかえを作ろうと画策した。
だがスライムの圧迫力はリドリアの知るそれをどういう訳かはるかに凌いでいた。体の変形はおろか何かを企んでいることに気付いたスライムは更に密を強めてリドリアの身体を完全に固定させてしまった。
(そんな!)
リドリアの開いた眼の先には逃げていく人々が。スライムは巨大化した身体でそこに襲い掛かろうとしている。
(アタシは……何も出来ないっていうの?)
目の前の危機を救うことも出来ずに自分に悔しさが募るリドリア。スライムはそんな彼女の絶望を確かなものにするかのように民間人の女性に襲い掛かった。
(止めて!!)
「止めろ!!」
リドリアが頭に浮かべた叫びと重なった声。後方から飛んで来た何かそのままスライムの頭上を通り過ぎ、民間人との丁度間に着地した。
「ようやく見つけた! これ以上トラブルは起こさせない!!」
現れたのは別の場所でスライムの捜索をしているはずの黒葉だった。
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