第十二話 妖精騎士アイギスさんと花園城塞キレッキレッエルフ対決(4)
空中で喰食王に呑み込まれる核兵器満載の報復戦艦。
その様子を花園城塞、制御司令室の大型モニターで確認して、やっとわたしは一息付けた。
「よしっ。なんとかなった」
途中から楽しくなって来たけど、ことが終わってから考えるとよく撃たれなかったよね。上手くやれた自信はないけど……まぁ結果オーライ。
と、わたしがその結果にホッと一息してから周りの司令室の人たちを見ると、皆、唖然としたような顔してた。顔に冷や汗かいてるもの。
だよね、わたしも内心ヒヤヒヤものだよぉ。
やってる時はなんとも思わなかったけど。我ながら良くやるって思うもの。わたし、自分でも信じられないくらいコロコロ気分変わるから、もうケロっと平常心に戻ってるけど。喉元過ぎればなんとやら。
ただ、悪魔と天使のお姫さま、アスタロッテだけが微笑んでるの。わたしが言えることじゃないけど……この人の精神構造だいじょうぶ?
「ああ、素晴らしいですわ。アイギスさま。これ以上ないと言うくらいの結果ですね」
なんでアスタロッテだけ眼差しがうっとりしてるの。悪魔と天使の間の子だから、おかしいのかな。
「まだ、仕事半分終わっただけだよ、アスタロッテ。 気抜くのは早いって」
そう、まだ人質に捕られてる女猫妖精さん達百人の救出もしなければならないの。
しかも急ぎだよ。気を引き締めるよアイギスさん。
「でも、急ぎなのは承知でお聞きしたいのですが。アイギスさま。……核を撃たれるのを阻止するにはさっきの方法しかない。そう、最初からお考えになってましたよね」
「他に方法あったら逆に聞きたいよ。他に手あったの? アスタロッテなら思いつく?」
あの馬鹿、デュヌーは核兵器大量に持たされて、どのみちその核を撃つしか後がないって状況に追い込まれてるんだよ。交渉の余地がなさ過ぎるって。
「いえ、交渉のやり方はともかくありませんね。ベル・ベラさんも言ってましたが、デュヌーが核兵器のボタン持ってる限り撃たれますよ」
「じゃあ、マトモな奴と交渉するしかないでしょ。話聞いてる艦橋の連中に」
「お見事ですね。確かに神祖の妖精王への根源的な恐怖を利用するしか手はないです。ザランバルさまの使い方も上手かったですよ。――そういう事ですから、皆さん大丈夫ですよ?」
そして司令室内に居たみんなが、アスタロッテの言葉で顔を見合わせたりしてるの。
コレって……
「……え? マジで。わたしが考えなしにあの馬鹿とやり合ってるとか思ってたの? 本当に? 途中からみんな、解ってくれてると思ってたのに」
「そ、そうではないんですが……」
セレスティナさんがみんなの気持ちを代弁してくれてるのか、雰囲気が一様にそんな感じ。
そ、そんな、上手くいったじゃん。最悪は防げたよ。核兵器はこれで撃たれないんだし。わたし、そんなにクレイジーだったか。
「あ、あのアイギスさん。じゃあ、皆殺しにするって話は虚言なんですよね? 特に家族のかたは……」
「セレスティナさん……。いくら何でもわたしはそこまでしないよ。わたしがもうブチ切れてるからってさ。家族の人はまず関係ないでしょ」
「で、ですよね。す、すいません、つい」
「まぁ、あいつらはブチ殺し確定。…………生きて帰れると思うなよ、クズどもが!」
フリュドラさん達襲って、あまつさえ核兵器2発も発射。
許されねぇな、どう考えても。
核兵器分はおまえらだけじゃ、支払いきれねぇぜ。
警告の核2発だから誰も死んでないと思ってたか?
ザランバルに聞いたらジャングルに落としたのは緑触妖精達が、湖に落としたのは淡魚妖精さん達が犠牲なってんだよ。
人が居ないとでも思ってたかあの大量殺人者どもが! わたしが殺らずに誰が殺るんだよ。あのクズどもを!
「絶対に殺してやる。絶対に、だ。あんな連中、生かしてたら禄な事にならないぞ。わたしは許さん絶対にだ」
今まで抑えてた怒りが沸々と沸き上がる。だが、まだだ、まだプッツンするには早い。
あのクソ野郎どもをブチ殺すのはフリュドラさん達を救出した後だ。
「ア、アイギスさん……」
ただ、セレスティナさんがそんなわたしを見て、血の気引いた顔してるの。……流石に気づくよ、どうやら殺気が漏れてたようだ。
今なら真龍(太古)でさえ余裕でやれるわ。という気概で殺気放ってるものね。
ただ、アスタロッテだけがそんなわたしの様子を見ても平然としてるんだよね。かなり強い人の筈だから、わたしの殺気で気当たりしないだろうし。
わたしの視線に気づくとむしろ笑顔になった。この娘は色々ダメだって。なんで好意持たれてるの。
「では、アイギスさま。お時間もないので戦艦に突入しましょうか。時間を掛けるのは得策ではないですよ」
「そうだね……」
セレスティナさんに言いたい事あるけど、急がないと連中がどんな馬鹿な事してくるか解らないから。
「転移魔法が使えないから、わたしは技能で光速転移する。ザランバル、おまえの口の中に入れば戦艦に辿り着けるんだな?」
本体と意識を共有してるクローン体のザランバルが、緑の触手を曲げて親指立てたようにグッとポーズする。
『我の体内に入れば、亜空間を捻って戦艦の中に誘導できますぞ。そのまま突っ込んでくだされ。ただ、戦艦内への出現場所はかなり大雑把になりますな』
「ザランバルさま、どの程度、誘導できます? 艦首か後尾くらい?」
『それくらいですな。壁の中に埋まったらなんとかしてくだされ』
「まぁ、それは仕方ないよね……」
最悪、スキルで強制移動するよ。コレばかりザランバルを責められん。
「では、アイギスさま。後尾に突っ込みましょう。戦艦の魔導反応炉を押さえれば、対侵入者用設備はほぼ無力化できます。艦内の〈次元封鎖〉を解いて召喚魔法が使えるようになれば救出も捗りますし」
『我の悪魔どもが呼べますな。使役してるので役に立ちますぞ。はっはっはっ』
「よしっ、それで行こうか。じゃあ行ってくるよ」
詳しい作戦とかは後あと。こういう時は不意打ち食らわして、動揺して立ち直られる前に仕留めるのが定石よ。兵は拙速を尊ぶ、さっさと突っ込むぜ。
ただ、アスタロッテが目の前に来て、刺繍付きの白手袋に包まれた手の平をわたしの前に差し出して来るの。
「私の技能なら、転移に同行できます。ぜひ、御一緒させてください。お使いになる技能、〈幻想妖精〉ですよね?」
「なるほど〈舞踏相伴〉ね……。お姫様だから持ってるのか」
相手が転移すると一緒に付いてくる系の技能だ。強制的なのもあるけど〈舞踏相伴〉は相手の同意が必要だったね。
「良いよ。じゃあ手貸して」
「はい、喜んで」
わたしはアスタロッテの手を取る。
戦力は多ければ多いほど良いよ。でも、危険だからセレスティナさんやシャルさんはまず連れていけないから。とても一緒には無理だって。アスタロッテなら最悪の場合のこと考えてるだろうけど。
ただ、わたしが〈幻想妖精〉で光速移動する為に、ザランバルの場所への方向を見定めてると、セレスティナさんが心配してくれたのか声を掛けてくれた。
「あ、あのアイギスさん。生きて帰って来てくださいね。何があっても私は……」
「味方になってくれるんだよね。解ってるよ。あいつらじゃ相手にならないから、大丈夫。必ず戻って来るから」
手を繋ぎながら聞いてた、アスタロッテが微笑をもらすの。
「フフフ。無事は何があっても確定ですね」
「だね。方向見定めた。行くぜ」
そして花園城塞の制御司令室から、わたし達は一気に光速移動。ザランバルの口の中に突っ込んだ。突っ込んだ瞬間に技能を解除したら、そこは艦内の通路。
早速、アスタロッテが戦艦内の魔導ネットワークに不正アクセスしてデータを引き出し、わたし達の現在地を把握してた。手際良いね。さすが諜報関係者。
「場所が解りました。では参りましょう。予定通り、先に主魔導反応炉を押さえます」
「オッケー。案内して。付いてく」
途中で出会った、自動機械やエルフの軍人は通路をスレ違いざまに速攻で始末。
相手が認識するより早くやったよ。
わたしは剣で首掻っ切ったり、盾で粉砕したりと対雑魚いつものやり方。
アスタロッテは暗黒騎士が持ってた蛇腹剣にもなる騎士剣使ってたよ。走りながら斬るのはもちろん、曲がり角の敵に剣身飛ばして首だけ飛ばしてた。強いわ、そして速い。
わたしのスピードに追随できる人始めて見たわ。
こっちが圧倒的に強いので、魔導反応炉に到達するまでは大した抵抗に遭わなかった。防衛設備も機能してなかったみたい。
だけど、わたし達が首尾よく戦艦のメインエンジンに到達して艦内の魔力エネルギー源を掌握した時。
デュヌーからの艦内放送による通告が来た。
『よくも抜け抜けと来れたものだな。褒めてやるぞ小娘。だが、そこまでだ。まさか、艦内の核兵器を一斎に起爆できないとは思っておるまいな?』
クソっ、生きてたか。しかも馬鹿なくせにこっちが一番やられて面倒な事に気づいてやがる。
コチラの最悪の想定を最初からブっ込んで来やがったな。
いいぜ、第二ラウンド開始だ。お手並み拝見してやるよデュヌー。どちらがよりキレてるか、度胸試しをしてやるぜ。




