第十一話 妖精騎士アイギスさんと緑触妖精と女猫妖精と悪魔で天使なお姫様(5)
ジャングルの中で立ち昇る煙に、硝煙の匂い。
わたし達が女猫妖精達の集落に辿り着いた頃には手遅れだった。
生い茂る密林の中にあるような村が……
「これは酷いよ……悪ガキ連中置いて来て正解だった」
転がるフリュドラ達の遺体。銃撃され、そのまま野晒しだ。冒険者やってると、襲われた村を偶に見ることになるけど、こういうのにわたしは慣れるって事は無いんだよね。
いくらわたしでも人の死には慣れないよ。
こんな無惨に殺された人たちの死は。
「遺体の数が思ったより少ないですね。この規模の村なら百人以上は住人が居たのでは?」
と、アスタロッテが隣に居る、ザランバルの分身体のオチュッグに話し掛けていた。シャルさんとセレスティナさんは悪ガキどもと一緒に後方待機してもらってる。見せたくなかったから。
『……その倍くらいですな。今、付近のオチュッグ達から思念で聞き出しましたが。どうやら半数くらいは逃げ出したようで。普段なら情けないと我も叱咤しますが――』
と、ザランバル分身体が遺体の銃創を触手で指し示す。
「集弾率が違いますね。自動小銃に、戦闘用の自動機械も使いましたか」
今度はアスタロッテが地面の明らかに人間の足跡ではない痕跡を眺めてた。四足歩行だけど足跡が規則的なの。
「やったのだれよ。そんな最新鋭兵器持ってる馬鹿は」
「まぁ聖魔帝国も保有してますが、一番可能性が高いのは森陽王の国ですね」
「森陽王の国って……エルフの国だよね」
「ええ、そうですが。古代魔法文明の遺産を継承する国ですし魔法文明時代から大した戦火も受けずに生き残ってますから。軍事兵装はエルフと言っても似たようなものですよ?」
「弓矢じゃないのかよ……じゃあやったのは聞いてたハイエルフの馬鹿どもか。何処にいる連中……」
影形も見えない事に苛立つよ。わたしがせっかく楽しみにしてたフリュドラさんたちの出会いを最悪な形でぶち壊してくれた野郎どもによ。
当然、お礼参りするぜ。この妖精騎士さんに喧嘩売ってるような話しだ。
するとビービーと言う音がなり、わたしはアスタロッテの方に血走った目で視線を転じた。
アスタロッテの近くの中空に映像が浮かび上がっていた。
「おや、聖魔帝国からの緊急連絡ですね。…………やはり例のハイエルフで間違いないようですわ。戦艦持って来たようで……飛空艇部隊で襲撃を掛けたようですね。現在収容中……なるほど手早くお仕事済ませたようですね」
「戦艦? そいつらそんな物まで持ち出して来たのか」
「そのようですわね。大掛かりなことに」
「場所何処よ」
「ここからは大分遠いですよ? それにおそらく移動するので間に合いませんね」
「逃げ出そうってか!」
「いえ、おそらくここからが本命。フリュドラの聖地に突っ込むのでは。襲撃したのは人質取るとかではないでしょうか。さすがにエルフが奴隷狩りしませんからね。仮にも正規軍が」
「でも人質取るって賊と一緒じゃん。エルフの風上にも置けないよ」
『まったくですな。所詮はヴィネージュの末どもか……どうやら遂に我が動くときが来ましたな……』
と、触手をニョロニョロ動かしウォーミングアップを始める、ザランバルのクローン体。どうやらコイツの本体に乗って戦艦に突っ込まなきゃならないようだな。と、わたしもやる気も出す。
「でも、ザランバルおまえ空飛べんの? 相手空中に浮かぶ戦艦だけど」
『もちろん。空中戦にも対応出来ますぞ。戦艦くらいならなんのその。前にやり合いましたからな』
コイツの背中に乗る時が来たようだな。落としてやるよ。前のゲームの世界でも艦隊相手にしてやってたような記憶があるし。
「いえ、それだと少しまずいですね」
「何が? あいつらブチ殺し確定だよ」
「奴らの乗ってきた戦艦は核兵器を満載した艦種です。核兵器を馬鹿みたいに撃ち込まれますよ?」
「…………」
酷い。この世界、核兵器までありやがるのか。
さすがに食らいたくないな。放射線大丈夫か、わたし。放射能まみれになるとか流石に怖い。
『はっはっはっ。聖下、ご安心召されい。我は核兵器など何発食らっても大したことありませんぞ。オヤツみたいな物でしたな、あれは』
「余裕で耐えれるのぉ……」
『我も耐えれるのですから、聖下も余裕ですぞ。我でほぼノーダメージ。聖下ならかすり傷一つ付きもうさぬ』
「わたしも行けるのぉ」
このアイギス。人間離れしてると思ってたけど核兵器も行けるらしい。
「てかノーダメージはないでしょ幾らなんでも」
「いえ、アイギスさまなら。ノーダメージですよ。核兵器は純粋な物理攻撃なのでアイギスさまの防御力を貫通できませんよ? 後は衝撃波をどうにかすればその場に踏み留れますね」
我、宇宙怪獣超え。アイギスさんの防御力は核兵器にさえ無敵であった。世界観とわたしの能力値おかしいな。ついこの間まで最強とは思ってたけどさぁ。
「ちなみに放射線も問題ないですね。アイギスさまほどになるとそもそも傷つけられる細胞が存在しませんからね。放射能汚染も不可能な筈です」
「細胞レベルで無敵なの吃驚」
『神と呼ばれるレベルになると精神体が物質化してるような物ですからな。……では、我が赴くのには如何ような問題があるのですかな? アスタロッテ殿』
「ザランバルさまにお手数をおかけすると核兵器を付近一帯にばら撒かれる危険性がありますの。どうも馬鹿王子さまがキレッキレッらしくって。世界中に核ミサイル撃ち込む可能性すらあると警告来てますわね」
「キレ過ぎだろぉそいつ。なんでそんな奴が来てんだよ。わたしでもビビるわ」
ただ、わたしの言葉にアスタロッテが刺繍の付いた白手袋を付けた手を頬に当てるの。その頬を赤らめてうっとりした眼差しするの、なんで?
「それは……アイギスさまとどちらがキレッキレッなのか頂上を決める戦いに……ああ、まさかこんな夢のような戦いが」
「チキンレースでもさせる気か! まさか、そんな奴の当て馬にする為に送り込まれたんじゃないでしょうね、わたし」
「鋭いですわ、アイギスさま……。まさにそのとおりですわ。お母さまは嫌な予感がするからアイギスさまを向かわせろ、と」
魔女王最悪過ぎる。トンデモねぇクズの始末押し付けやがったのか。
「クソっ! 相手があの馬鹿皇族並みってことか! どうせ知ってんだな、魔女王。やってやるやってやんよ。クズの始末なら任せろ、契り交わしてるからな」
「その意気ですわ。わたしもお手伝いしますね」
「で、その馬鹿殺るにはどこ行けば良いの。聖魔帝国から戦艦とか来る?」
「いえ、聖魔帝国からは艦隊出せないようです。核攻撃の責任を押し付けられる可能性を危惧してますから……おそらく馬鹿王子の目的はフリュドラの聖地にあるお城ですね」
「なら、そこ行けば良いのか……」
ただ、この集落の状況をどうするか。
死人に復活魔法掛けても良いんだけど……
それに多分逃げ散った人達も居るだろうし。
敵の残党いる可能性も考慮すると二手に別れるのも危険性が……
『お悩みのようですな。聖下。集落のことはお気に召されるな。我が後を任されますぞ』
「おまえら女猫妖精達と争ってるじゃん」
『以外に外敵に対しては一致団結出来ますぞ。我がフリュドラのお守りをしてるのも連中知ってますからな。オチュッグ達にも非常事態を伝えておるので安心召されい』
「そうか、じゃあ頼むよザランバル。そう言えばおまえ復活魔法使える?」
そしてザランバルのクローン体が触手をビッとわたしの前に立たせる。
『因果律逆転させるくらいなら。ドヤッ』
「ドヤッって言うんかい。レベル11まで使える言ってたな。誰でも生き返れそう」
『あの魔法でも魂の自由意志の縛りありますから、全員は生き返るかは解りませぬが』
「そうなんだ。……じゃあ、後は任せる。必要なったら呼ぶわ」
『お任せあれ。ご武運を』
と、言いながら付いて来るクローン体ザランバル。
「別れないんかい」
『もう、救援部隊呼び出しましたからな。我の分身体ついて行くくらいなら問題ありますまい。役立ちますぞ』
「ええ。ザランバルさまには道案内もして貰いたいですし、来てもらった方がよろしいですね。フリュドラの聖地でこちらの事情も説明して欲しいですし」
「オーケーじゃあ急ぎで行こう」
そして今度は可及的速やかにフリュドラの聖地へ。聖地は異界化してるから転移魔法とか使えないんだってさ。
とかザランバルが説明しながら、空間的な距離を短縮できる抜け道用意しておりますぞ。とか言うからね。
そしてわたし達が聖地にある城に到着した時には敵の戦艦も到着していた。なんか核兵器の爆発見えたんだけど……状況ヤバくない?




