第十一話 妖精騎士アイギスさんと緑触妖精と女猫妖精と悪魔で天使なお姫様(2)
目の前に居すわるのは、巨大な緑触妖精。
人間どころか建物ごと喰らえるような大きな口。
そして何本も胴体から生える人間サイズの触手。
デカい、大きい、化け物の中の化け物。
存在感と威圧感が怪獣映画に出てくるような肉食植物のラスボスみたいなモンスター。
――が、理知的な声音でわたし達に喋り掛けて来た。
『我こそが、オチュッグを統べるオチュッグ達の王。緑触王――! ハッ、もしや貴方さまは!』
出会いがしらの自己紹介中で突然、驚いたように声の調子を変える、巨大オチュッグ。
『そうだ、わたしこそが神祖の妖精王を継ぐ者。妖精騎士アイギス――』
『おお、おお! 我の脳裏に蘇る! その紅い盾に紅い鎧。なによりその"色"。間違いがない。貴方こそ神祖の妖精王聖下!』
ん? こいつ私のこと知ってんの? わたしの名乗りも遮って来たぞ。
『苦節! 10余万年! 幾星霜待ち侘びたこの時が遂に。 星幽の彼方で見ておるか聖樹王よ。我らの待ち望みし時が遂に来たぞ!』
そして目の前の大口開けた化け物から感涙にむせぶような歓喜の感情が妖精言語に載ってくる……
けど、こんな化け物をわたしは知らないよ。
こう、感動の場面とかだと、私の中の感情だけ蘇ったりするんだけど……懐かしさは全く感じない。けど、怖くもない。やっぱり会ったことあるのかな? 警戒しようって身構える気になれないんだよね。
『アーパ・アーバの去就の言葉は真に真であったか。 でかしたぞシャハタールの末よ。褒めて遣わすぞ!』
と、ブンと触手の一本を勢いよく突き付けられ、シャルさんの顔が強張る。
『あ、ありがたき幸せです。りょ、緑触王ザランバルさま』
その人間大のサイズの触手を音速超えたスピードで突き付けられたらそりゃシャルさんでも怖いよ。
当たったら肉片なるだろうが。
「シャルさん……この妖精って言うには、おこがまし過ぎるのが、わたしの事知ってるみたいなんだけど……」
「あ、アイギスさま。緑触王さまは、紛れもなく妖精族の……」
『はっはっはっ。我ほどになるとブッちぎって妖精と言う範囲に収まりきれませんからな、存在が』
いや、オチュッグって存在自体が妖精の範囲じゃないよ。ただ、ゲーム世界の時だと確かにこいつら種族・妖精なんだよね。でも、他のゲームだと大概おまえらモンスターじゃん。
「でも、お前も人間語解るんだね」
『むろん然り。ふむ、しかし……その様子だとやはり我を覚えておられないご様子。星幽界の旅路は長すぎもうしたか』
「もう、わたしは本人確定なんだ……会ったことあるんなら解って当然か」
『いや、実は我も何度か星幽界に旅立っておりましてな。気合でその都度戻って来たのですが、記憶が吹っ飛んでおりまして……結構うろ覚えですな』
「死んでるかい。でも、殺られてその度に復活してんの? てか気合って」
『なに、かなり魂魄持っていかれもうしたが。我らが神祖より与えられた使命を思えば死んでなどおられませぬ。クローン体を作っておくなどやりようはありますからな』
めっちゃしぶとそうだな、この巨大オチュッグ。精神体吹っ飛んだら、魂を維持できなくなって霧散して完全に死ぬんだけど、普通は。
「なるほど、転生法ですか。不老不死の一つの方法ではありますね」
アスタロッテが特に怖がりもせずに話しに割り込むの。ちなみにシャルさんとセレスティナさんは目の前の化け物に身体震えてるよ。存在のレベルが違うからなコイツ。
精神世界面からこちらの物理次元に干渉してくるほどの威圧感って、もう神さまってレベルの存在じゃない?
『おや、良くお知りで。それに、お連れの方もなかなかやるようですな。お妃殿で?』
「いや。違うよ。てかわたし女の子なのにその反応は……」
『はっはっはっ。我も少しばかりは覚えておりますからな』
「あらあら、やはりそうなのですね」
やめてよ。アスタロッテも頬を赤らめないでよ。やっぱり昔の"私"もそうだったのか。三つ子の魂って言うけど。
「ですが、そのお力と異形。ザランバルさまはもしや、喰食王アバドンとその昔呼ばれた方では?」
『おや、懐かしい名を仰られる。確かに一昔前にその名で呼ばれましたな』
それを聞いてセレスティナさんが驚くの。
「なっ! アバドンって再出現した神々の一柱のことでは。この大陸の文明を滅ぼした、あの有名な」
なぜかアイギスさん。嫌な予感がするの。いや、もう終わってることだけど。
「………そんなに有名なの?」
「はい。魔法文明の終末期に現れて、あらゆる物を喰らい尽くしたそうです。名前の由来は、ロクス教の聖典に書かれたアバドンと云われる悪神、悪魔。その所業に一致するのが由来の筈です」
『食って、食って喰らい尽くしましたからな。奴らの都市という都市を更地にしてやりましたぞ』
「……本当に、当時のこの大陸にあった国々を滅ぼしたんですね。主要な都市を破壊されて文明が維持できなくなったそうですから」
「お、おまえぇ! 何やってんだ」
『なに、奴らが急に世界中で大戦争やり始めましてな。森を焼くわ、放射線物質ばら撒くわ、魔力汚染させてアンデット大量発生させるわとやりたい放題。そこまで死にたいならと我輩も大暴れ』
フフフ、という微笑を漏らすアスタロッテ。
「魔法文明末期の終末戦争のことですね。大国同士の核戦争に戦略魔法の使用。大気圏外からの質量爆撃と散々酷いことをしたと記録にありますね」
『その通り。星の海に進出したと図に乗りおって。敵の資源になるからと平和に暮らしていた我らに核兵器を撃ち込んできおったのですぞ。これを怒らずして何を怒りましょうや』
「わからなくもないけど……おまえまで参戦したら関係ない奴まで死んだんじゃないの」
『何を仰る神祖よ。我がもっとも許せなんだわ連中が当事者でありながら、平穏無事だったことですぞ!』
「? そんな大戦争で無事? あり得なくない。どう考えても被害被るでしょ」
「アイギスさま。当時の都市の防御力は核兵器や神話級魔法ではビクともしませんよ? 魔法技術がかなり進んでいましたから」
そんな戦争させてた奴らが無事でキレたってことか。そりゃわたしでもキレそう。
「ザランバル。オーケー、お前は無罪だ。他は知らんが私の中ではな。かなり死んだんだな、その馬鹿どものおかげで」
『他の種族はもとより、妖精族は死に申した。唯一森陽王の国は巻き込まれませなんだが……アーパ・アーバなどそれがもとで病んだようなもの。あやつは心が人に近うございましたからな』
そうか爺さん、かなりの地獄見たんだな。わたしじゃ想像もできない奴を。話し聞いてたら人が良さそうだもん。コイツみたいに怒ればマシだったんだろうけど……
「フフフ。ですが、まさか、こんな所で新たな神々の一柱と云われた方にお目通りできるとは光栄ですわ」
『まさか、とてもとても、神祖の妖精王聖下に畏れ多い。オチュッグたちの王で十分ですな』
「いや、お前はもう神でいいよ。そのぐらい強いんだよね。悪神とか言われるくらいだし」
『これは何という栄誉。いや、しかし、それがですな……。当時、お恥ずかしながら悪魔どもの手も借りたのでそれが理由で悪神や悪魔と間違われた由に』
「なんで悪魔と組んだん?」
『我の怒りでオチュッグ達を駆り出すのは忍びなく。それに、そんなに終末が欲しいのならとレベル11魔法〈黙示録の再現〉で呼び出しましてな、手当たり次第に悪魔を』
〈黙示録の再現〉は悪魔を大量召喚する大規模召喚魔法。ただ、この魔法、使役する能力がないと召喚するだけで制御とかは出来ないんだよね、たしか。
「おまえ。結局、関係ない人にも迷惑掛けてそうだな」
『向こうも数で来ましたからやむを得ず。戦争ですぞ。連中も被害が出るのも構わず悪魔使っておりましたからな。これは根源を絶たねばと思い』
「そんなに大きな戦争なら関係ない奴いないか……。で忘れそうなったけど今、おまえがやらかしてる事は戦争じゃないの?」
『はて? 一体なんのことやら……?』
と、とぼけた風ではなく本気で解らないって感じで呟くの。
そう、わたし達はこいつとお話しする為に来たんじゃなくて、女猫妖精とオチュッグ達の揉め事解決しに来たのよ。
しかもなぜか森陽王の国からハイエルフがフリュドラ目当てで来るっていうし。めちゃくちゃ嫌われてるのに。はっきり言って嫌な予感しかしないよね。
つまり、ここも手早く片付けないと駄目ってこと。
「じゃ、まずはおまえが人質取ってるフリュドラ達に会わせてもらおうか。わたしが王様だろ?」
『正しく。成る程、あやつらの事で……ハーレム要員ですな?』
「ちげぇよ! てか本当にまえのわたしそっちだったんだな」
『我も記憶が微かですから具体的には覚えておりませぬが……侍らせていたような? まぁ良いですな。――お前たちあやつらを連れて来い』
そしてオチュッグ達によって捕らわれたフリュドラがわたし達の目の前に引き立てられて来たのだった。
あれ1人? 何人もいるって聞いたような……
このアイギスさんとても嫌な予感がした。
フリュドラが連れられてくるあいだ。
『ちなみに我、サブ職で悪魔使役能力ありますぞ』
「あるんかい」
『連中使役できんと被害広がりますからな。まぁ奴らが使ってた連中が制御失った訳ですが。はっはっはっ』
「笑えないよ……地獄じゃん」
教訓・やめよう終末戦争。喰食王みたいなのが出てくるかもよ。妖精騎士さんとの約束だよ?




