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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第2章 暗躍錯綜のフェアリーテイルズ
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第十話 妖精騎士アイギスさんの妖精の里巡りと姫君修行(7)



わたし、アイギスが妖精達の揉め事を解決しだしてから三週間が経っていた。


「もう、思い出すだけでも疲れるって」


と、居間のテーブルにわたしは突っ伏しながら、家を訪ねて来たジェラルダインにわたしは愚痴を洩らしていた。


「ルインから報告は聞いている。面倒事になってるのは手早く片づけた、とな」

「……時間掛けても面倒なだけだし、解決できるものもできなくなるやつばっかだもん。……むしろ力押しできるやつのが楽で良いわ」



杜妖精もりようせいたちが神祖の妖精王が帰って来たと聞いて、他の妖精族と揉めて血が流れたり、流れそうなのは一通り解決した。

砂漠で、緑棘妖精カクタスマン有角妖精フォモールの争いを仲裁したり、聖樹派のエルフと他のエルフが揉め事なってるのを止めたりとかね。



「杜妖精は言うこと聞いてくれるんだよ。他の妖精族が話し聞いてくれねぇ……」

「エルフなどと言ってもさほど人間と変わらん。問題の根底にあるのは大概が別の原因だからな。杜妖精の方がむしろ単純」


……解る。エルフは長生きだからか"大人"は多いんだけど、頑固な奴が多いんよ。特に揉めてる連中は。

これが平和な里だったら余裕あるって感じで、エルフらしく優雅な人も居るんだけどさ。



「取り敢えずねじ伏せて来たけど……何度か血が流れた。コレで良いのかなぁ……」


結局、有角妖精フォモール族との争いは、緑棘妖精カクタスマンとの水の取引きで利権握ってる連中を殺って、決着つけたし。


とある里の聖樹派と中立派のエルフの争いは、主導権争いだって理由が解ったから、こいつらも揉めてる原因の奴を殺った。


森陽王と繋がってる主流派のエルフと樹木妖精トレントの人達の揉め事が面倒で、材木ざいもく取引きに付近の人間の村まで絡んでるの。そしてその村の領主とエルフの族長が結託してて私服を肥やしてる、っていう。


領主とエルフの族長には人知れず共に消えてもらったけど、連中の取り巻きで後釜狙って別の問題が発生してる。さすがにそこまで面倒見切れないよ。



この妖精騎士アイギスさん。血を流さずに問題を解決する能力がないかも知れぬ。個人単位ならまだしも集団単位は個人個人の思惑おもわくからむから面倒になって、叩っ切っちゃうの。


「いや。私もそうだが、ルインも中々の手際だとおまえの事を褒めていたぞ。何を悩んでるのかは知らんが」

「……こういうのって普通、血流さずに解決したりするんじゃないの。デキる奴なら」

「そのデキる奴がらん以上、自分の裁量でやるしかあるまい。何よりそのデキる奴では二、三日で揉め事を解決できない」


わたしはテーブルから顔を上げてジェラルダインを見る。



「……褒めてくれてる?」

「ああ、上出来だ。むしろ私ならお前の言うお上品な解決法などせん。さっきも言ったが問題の根底にある原因の解決に時間が掛かり過ぎるからな」

「……時間がないのが問題だよね」

「人手も限られてるからな。今の状況でそれやる奴は馬鹿としか言いようがないな」


騒ぎ起こってるのこの大陸だけでなく世界中だもの。さすがにわたしでもシャルさんが把握してるこの大陸だけで手一杯。


てか、他の大陸には聖樹派の妖精族を纏める、ドゥルイデス族のエルフや、聖魔帝国が居るんだしさ。いくらなんでもわたし一人で全部は責任負えないって。


「そういや、森陽王のとこはどうなのよ。聖魔帝国が抑えに忙しいってのは聞いたけど」

「……あちらは少々不味いな。杜妖精もりようせいはただ単純に騒いでるだけだが、他の妖精人エルフどもが一部、暴動寸前」

「……最悪じゃん」

「まあ、なんとかするだろう。連中については考えても仕方あるまい。どのみち手はだせん」

「……こうなる事……分かっててやった?」

「逆だな。どうするかを見てみたかった、が正解」



わたしでも判るよ。何か裏があるんじゃないかって。聖魔帝国って、悪魔の女王が治める国だよ?

えげつない事やってるに決まってるじゃん。


アリーシャちゃんや、時たまやって来るマスティマに聞いたら普通に人暮らしてるし、車走ってるはコンビニあるわでめっちゃ文化的な暮らししてるそうだけど、そんな発展した国が陰謀企まない訳ないよね。地球の北米の国が南米の国に工作しまくった歴史の知識とかアイギスさんにはあるぞ。


何処ぞの馬鹿な帝国と違ってこれ見よがしにはやらないんだろうけど。


「だが、お前が名乗り挙げてくれたおかげで聖魔帝国の勢力範囲については抑えが効く目論みがついた。他の大陸もドゥルイデス族やその傍流が大分抑えを効かせてるらしいからな」


「森陽王に、代わりに厄介ごと押し付けてる気がするぞ。聖樹派纏めてわたしがその旗頭はたがしらか。魔女王にこれ以上の面倒事は嫌だって言っといてね」


「残念だが向こうからやって来る……と思ってたんだが少しばかりきな臭くなって来た。それが今日の話し」

「……まだ、こっちも一件残ってるんだけど」


ヤバくなってる7件の内6件は真っ先に片づけた。

最後の一つが女猫妖精フリュドラって言う、わたしが非常に興味がある種族と、緑触妖精オチュッグって言う一番絡みたくない種族の争いなんだよね。

そしてわたしはそのオチュッグ側って言う。

女猫妖精フリュドラさん達とは可能な限り仲良く成りたいから困ってるの。



「その最後の一件絡み。どうやら森陽王の所のハイエルフが女猫妖精フリュドラ族相手にやらかしそうでな」

「なにやらかすのさ」


「それがわからん。女猫妖精フリュドラ亜精神バーギアンを祖神と崇めて信仰する数少ない種族だ。ハイエルフなど敵以外の何者でもない筈だからな……しかもフリュドラの聖地である国に乗り込む気らしい。どう思う?」


「戦争でもする気かな? 揉め事起こってるから目を逸らす的なやつで」


「良い読みだ。ただ、女猫妖精フリュドラはそれほど強力な種族ではないからな。敵にするには弱すぎる。……さて、何を狙ってるのか……これが本当に解らない。厄介ごとになるという以外はな」


「……わたしに何とかして来いって言うんだねジェラルダイン。次いでに相手の狙いも暴いて」

「ああ、出来れば女猫妖精フリュドラとは揉めるな。連中が全部おまえの敵になりかねんからな」



最悪。一番仲良く成りたい相手から嫌われるって。

ちなみにアリーシャちゃんにフリュドラってどんな子いるの? って聞いたら聖魔帝国に居る子の写真見せてくれたんだけどめっちゃ可愛いの。


「安心してジェラルダイン。緑触妖精オチュッグとそのハイエルフども皆殺しにしても女猫妖精フリュドラさん達守るから」

「………………出来ればハイエルフは確保して欲しいが……」

「そいつらとは確実に殺し合いになる気がするの。戦場でそんな余裕ないって。隙見せたら殺られるって考えてるからね、わたしは」


「今回は助っ人を用意するからそいつと上手くやってくれ。そいつの状況判断能力については保証する」

「……ジェラルダインは来ないんだ」

「連中を泳がせたいからな。それに私は知られ過ぎている。場合に依ってはフリュドラを皆殺しにされて私のいにされかねん」


逆に考えたらやりかねないと思われてるんだねジェラルダイン。この人も相当に悪名高そうだな。



「ああ、それと今回はルインも連れて行けないからな。交渉だとかは必要ならその助っ人がやる」

「フリュドラって男嫌いなの本当なんだ? シャルさんでさえダメらしいけど……って事はその助っ人女の人?」

「ここだけの話し。魔女王と天使王の娘」


いきなりブッ込まれるトンデモ回答。悪魔の女王と天使の王さまの娘とかおまっ。

「ちょ! 嘘だよねジェラルダイン。めちゃくちゃお偉いさんじゃん。そんなお姫様寄越すとかなに考えてるの聖魔帝国」

「……強いて挙げるならお前とのお見合い」

「相手女の人じゃん!」

「何が問題だ?」

「先進国かっ! 女の子同士でもいっての」


「先方はそう考えてる。本人もな……丁度釣り合いは取れてるからな。神祖の妖精王に魔女王と天使王の娘。これ以上ない組み合わせだろ」

「完全にわたし取り込まれるじゃん! 平穏な生活送れそうになくなるよね!」


「安心しろ。魔女王と天使王に娘がいることは公表されてない。当面は今の暮らしができるだろう。……問題はおまえとの相性だな」

「やめてよね。決定事項とかやめてよ。とんでもないのが来たら、わたし、わたし」



もう、人間やめてるやつとか。性格が極悪なのとか。気狂い系とか。気高きだか過ぎてうちの家庭壊してくるとか、最悪なパターン一瞬で脳裏に浮かぶよ。


「そいつブッ殺して一家でトンズラするよ。マジで。わたし殺らないと思ってないジェラルダイン」

「…………いや、さすがに私も不安に思ってな。本当に相性が悪ければ私から断れるようにはしておいた」


「てか、今すぐ断ってよ。絶対ヤバいって。うちの家族に手出したら本気でブチ殺すからな」

「そこまでとは思わんが……こればかりは相性があるしな。今回はそのお試しを兼ねてだ」


「うわ、断われないんだ。それは決定事項なんだ」

「済まんがこればかりは諦めろ。気に入らなければそれで構わん。魔女王とて無理強いはせん」

「勘弁してよぉ」


もう涙目だよ。絶対取りいって来るって。悪魔でしょ。逆に天使とかでも性格良さそうとか思えないよ。てか、どっちなの種族。



「ジェラルダイン。種族的にはその人、どっちなの天使、悪魔?」

「……それは私には解らないが悪霊どもを纏めてるな」

「堕天使の部類じゃん。最高位の悪霊デビル系か……いや、熾天使セラフの堕天――」

「良く知ってるな。ちなみに魔大公プリンセスオブデヴィルと呼ばれている」

「――最悪」



わたしがゲームの知識で知る限り最高クラスの種族の一つだ。強さ的にもわたしに拮抗するだろ。

「天使と悪魔じゃん」

「では、顔合わせはいつにする? 今日でも構わないらしいが」

「……今日。今なら家族出掛けてて居ないし、出発は明日にしたいから」

「了解だ。連れて来る」


そしてその日の内には顔合わせするの。

見た目は普通の女の子だったよ。フランス人形みたいな容姿の子でさ。綺麗だったよ。

見た目と違ってしっかりした子だった。



でも、上手くやっていけるか自信ないよ。

心の中までは分かんないし。わたしの精神感知の技能スキルで感情読むのも当然のように無効化して来るし。


何より、


「私、アイギスさまの事、お慕い申し上げていましたの。よろしくお願いしますね」


って。頬を赤らめて言うの。紹介された最初からわたしに惚れてる感じ出してくるの。

しかも、お嫁さんに嫁ぐ所ないとかも言ってたよ。家の家格が、とか。

直感で解る。

あのアスタロッテって子、どんな手でも使って来るって。可愛い顔してるけど絶対、陰謀企む黒幕系の子じゃん。黒基調のドレスっぽい服着てるし。

前世の知識だけはあるから判るんだよ。


「……前途多難だよぉ。絶対あの子、わたし逃がす気ないよぉ」


わたしは涙目になった。そう逃れられそうにない運命に。わたし、嫌な勘だけは当たるんだぁ。


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