第十話 妖精騎士アイギスさんの妖精の里巡りと姫君修行(6)
†
鬱蒼としたジャングルの奥地――
女猫妖精たちの聖地とも言われる国に私、白魔導師ベル・ベラと仲間達は足を踏み入れていた。
この地に足を踏み入れる事が許されるのは、女性のみという男子禁制の地である。
但し例外があり千年に一度だけ、重要な儀式の為に、祖小人妖精の男子のみ足を踏み入れる事が許されている。
祭儀が行われるのは千年に一度のみ。
その時期に、祭儀に必要な秘術の使い手が女性で居ないという可能性もあるからだ。
まあ、可能な限り女性が選ばれる事になっていて私はもちろん女なのであるが……
護衛役まではその限りではない。護衛は基本、男と決まっている。
女猫妖精は種族全員が女性のみで構成され、男という存在が必要ない種族。何か間違いがあっては困るからだ。
ある意味、護衛はその間違いを防ぐ為、なのだが……
「ここが麗しき猫耳妖精たちの桃源郷。感無量ですな」
と、宣ったのは私の護衛役その一。
円卓の騎士でいうなら太陽の騎士的なやつ。
聖騎士タブ・ウェイン。
まず、こいつが間違いを犯しそうなのが気に掛かる。
「そうでござるか? ただ蒸し暑いだけのように思えますが?」
護衛役その二。我らが円卓に席を並べる者の一人。忍者ル・フェイン。
こいつ自体は間違いを犯しそうにないが、こいつが連れて来た者が問題であった。
「わぁ、僕もジャングルは久しぶりですよ」
そして……ル・フェインが連れて来たエルフの娘。
「……てか部外者連れて来るとか聞いてないのですが、ル・フェイン」
そう、このなぜか一人称が僕のこの娘の事を私はまったく聞いてなかったのだ。
「何を仰る。もうティア殿は完全に協力者。身内も同然ですぞ」
「ル・フェインと神祖の妖精王さまを探し始めて、もう彼これ8年になりますからねぇ……」
と、ティアエルと名乗ったエルフの少女がしみじみと語った。
……正直、男性でなければ随行という事にはできますよ。ですが、
「……百歩譲って協力者は構いませんけど……信用出来るんですか、その方。出自とか経歴とかは?」
「ティアエル殿は森陽王の娘御でござるぞ」
「「なっ!?」」
と、なぜか私と一緒にエルフの娘も驚いてるんですが。
「てか、森陽王に知られたら不味いことくらいお判りでしょうそれを寄りにもよって!」
「なんでボクが森陽王の娘って知ってるんですか! 話したことないですよね」
と、同時に私たちに詰め寄られるル・フェイン。
「今回、神祖の妖精王に関わる重要な秘事だと話しましたよね! この忍者!」
「ル・フェイン、それ聞いてないよボク!」
「取り敢えず最初の質問から順に答えさせて貰ってよろしいでござるか」
そして私が言ってみろ。と言った粗雑な感じで先を促す。
解ってるのかこの忍者。あぁん?
おまえの返答次第でぶち殺すぞ、まである。
「まずティアエル殿は……親元から飛び出して千年放浪した生粋の冒険者でござる。そこはプロなので秘密は守ってくれるでござるよ」
「それはそうだけど……ボクの出自知ってる件は?」
「念入りに身元を調査しましたからな。存在情報も照合しましたとも」
「よ、良く解らないけど解る方法あるんだ……」
ティアエルさんは解ってませんが……
存在情報は要は遺伝子情報を含む、完全な個人識別情報です。私たちハイブラウニーの円卓騎士団は森陽王の存在情報を得てるので、たしかに調査して分析すれば血縁かわかりますね。
「で、私に対する説明は?」
「この広い世界から拙者一人で神祖の妖精王を探し出せる訳ありますまい。そこで千年もの間、この世界を渡り歩いたティアエル殿に協力してもらった次第。世界中に伝手有りましたからなこの方。それに腕前も拙者が認めるほど優秀な方ですぞ」
「いやだな〜そんなに褒めなくても」
と、エルフの娘が照れる。この私、白魔導師ベル・ベラには優秀かどうかさっぱり解りませんが……
「何処にでも居そうなエルフ感がティアエル殿が超優秀な証ですぞ。レンジャー能力が極まっていて、存在感が普通のエルフと変わりませんからな」
「……ま、まぁ私は専門家では有りませんから。そう言うことでしたら。……ですが、肝心の神祖の妖精王がこの世界に姿を現した件、本当なのでしょうね」
「間違いないでござるぞ、これを」
と、差し出されたのは聖魔帝国政府発行の機関紙。
見出しには――
聖魔帝国は神祖の妖精王の血を引く者を公認。
妖精王を継ぐ者として魔女王はこれを認め、国として補佐して行くと、内容として書かれている。
「聖魔帝国の公式発表が情報源……?」
私はル・フェインを睨む。もちろん怒気を孕んで。
「ちょ、ベル・ベラ殿、お待ち下され。確認は取ったござるよ」
「それは当然です……私が言いたいのは八年もこの世界でほっつき歩いていて、聖魔帝国の発表からって……おまえ今まで何してた?」
八年前にタブタブ神がアイギス神を召喚して、その捜索を担当していたのが忍者ル・フェイン。
当然、費用とか活動費とか掛かってる訳ですよ。
いくら妖精だからってお金は必要ですからね。ただ、八年も必要経費払ってこのざま……
「聖魔帝国に先じられるとかおまえ! 無駄飯食らいがっ! 場合に寄ってはアイギス神が殺される可能性すら有ったんだぞ」
「ベル・ベラ殿。……この世界のどこに出現するか解らない状況で、国家相手に一人で放り出されて先に探し出せとか、無茶振りにもほどがごさろう!」
「何言ってる、見当さえ付けれないとか本当に忍者か」
「忍者に期待感ありすぎでござる」
「それが出来てこそ一流の忍者。それにタブタブ神が残した監視ネットワークとかあったでしょ」
「いや、そのネットワークにまったく引っ掛からなければどうにもできませんが」
「で、本人は確認したんですよね。結局、何処に居たんです?」
「今はこの大陸の北西部、ヴェルスタム王国でござるが……」
「……近いですわね」
「出現場所は隣のベイグラム帝国ですぞ。召喚場所と大して変わらない位置に出現してましたからな。意表を突くにもほどがありますぞ」
「普通は同じ地域が一番ないと思いますよね……」
と、ティアエルというエルフが同調しますけど……
「だ・か・らランダムなんです! 出現位置に偏向なんてないんですから。全く同じ位置に出現する可能性も確率論的には同じです」
「理屈は分かりますが、せめて出現位置を固定させて置いて下されよ」
「そんな方向性を指定したら魔教皇にバレるでしょーが」
アイギス神を利用させない為の苦肉の策だったんです。最初に説明した筈なんですがね、この忍者に。確率論のはなしも。
と、私が言い合いしてると聖騎士が諌めるように口を挟んで来ました。
「まぁまぁ、もう過ぎた事ではございませんか」
「本当に大丈夫なんですよね? てかそのティアエルさん、連れて来る意味あったんですか?」
「何をおっしゃいます。麗しき乙女が居てこそ騎士の本懐と言うもの。私などはさすがル・フェインと賛辞を送りたい」
「おまえに聞いてないんだよ、タブ・ウェイン!」
この男どもは馬鹿で困る。と言うか個性強すぎなんですよ。ハイブラウニーの男連中は。
存在を主張しなければ生きて行けないんですかね。
「あ、ウェイン卿。ティア殿は女の子好きなので卿は範囲外ですぞ」
「ち、違うよ! ボク女の子が好きって訳じゃ……」
「な、なんと!まさか! 百合の花と!?」
「えぇい! 余計に話しをややこしくするな!」
「ベル・ベラ殿。これが協力をティア殿に仰いだ理由でござる」
「意味が解らんわ! 女の子好きがどうした!?」
「ティア殿は数々の女の子を落として来た天然ハニートラップ。今回の任務に最適でござろう? 女猫妖精たちがどう出るか解らぬと聞き申したが?」
「う〜ん?」
確かに今回の祭儀は難点がある。なにせ今回で祭儀を終わりにしようとフリュドラ達に話さねばならないのだ。しかし、万年単位で密かに続けていたこの祭儀。果たしてフリュドラ達が唯々諾々と了承してくれるか解らないのだ。
……手札は多ければ多い方が良いかも知れない。
私は改めてティアエルを観察する。
容姿は整ってる。エルフでも美少女の範疇に入る。金髪をポニーテールにしてる活発そうな娘だ。齢千年以上とは思えないくらいで、人間で言うなら10代半ばくらいの外見……けれど、
「正直。私には普通の娘さんとしか思えませんけど」
エルフ族が美男美女揃いですからね。美少女は標準実装なんですよ、あの種族。
「…………ベル・ベラ殿では解りませんか……」
「おい。私が歳食ってるとか言いたいのか、あぁん?」
「そうだよ、ル・フェイン。女の子に年齢なんて関係ないよ。ベル・ベラさんなんてとても魅力的でしょ」
私の琴線に触れる物がある。
「ふむ? ティアさん私の魅力について述べよ」
「え? う〜ん。ボクから見ると熟練の白魔導師の人とか神秘的だし、カッコいいと思うけど。それにハイブラウニーの女の人ってとてもチャーミングですよね」
と、本当に照れ隠しせずに述べる彼女。
なるほど、これは天然か。ある種の女の子に突き刺さりますね。幾つになっても褒められると嬉しいものです。
今回イレギュラーが起こる可能性を考慮すれば確かに居て貰っても良いかも知れない。
野郎どもよりは役に立つかも。
……という気持ちに私もなります。
「ま、まあ。ギリ合格点としましょう」
「まさかベル・ベラ殿まで? やるでござるな」
「落ちてはない」
「この聖騎士タブ・ウェイン。ティアエル殿の剣と成りましょう姫!」
「おまえが落ちるなや! 話しが更にややこしくなる!」
「?」
と、良く解ってないエルフ娘。
もう、正直こいつらを相手にすると突っ込み疲れるのでここまでにして、私は先を目指すことにしました。
まあ、上手くフリュドラ達を説得出来れば問題ないのですし。最悪は実力行使で獲物をかっさらいます。
獲物は祭儀の封印を解く儀式でその封印された"もの"です。これを直接、神祖の妖精王に手渡さなければならないのです。
正直、渡されても、もの凄く困るもので、確実に相手が困惑するでしょうけど……
なにせ、亜妖精族の祖神、亜精神バーギアンの――
という事を気になったのかル・フェインが聞いてくる。
「で、その封印された"もの"と言う肝心のことを聞いてないのでござるが……」
「……ティアさん。絶対に話さないって誓約できます?」
「――えっ! 教えてくれるんですか?」
「当然、〈制約〉の魔法の上位〈誓約〉の魔法を掛けますよ? それで良ければお話ししますが……」
「死後、魂まで縛るやつじゃないですか……。いえ、知らなくて良いです。なんでしたっけ? 『知らなければ、喋りようがない』でした?」
「機密性の高い活動に従事する者の基本的な心構えですね。――で、忍者もう一回聞くぞ。なんて言った?」
「なんでもござらん」
私は無駄口叩く忍者を黙らせ、フリュドラ達の城に向かいます。現実世界と隔絶し、半妖精界となっている場所にあるという城――
タブタブ神が神造したもう一つの世界へと。
「〈弓騎妖聖〉のティアエル殿の二つ名は伊達では有りませぬぞ」
「素晴らしい姫。ぜひ私もこの旅が終われば、共にお加え下され。このタブ・ウェイン、誠心誠意お仕えしますぞ」
「いや、ボクも騎士として仕えたい方なんですけど……良い感じの主君が見つからないんですよね」
「なんと……まさか、本物の姫騎士に出会えるとは。なんたる僥倖。これは運命か」
「もっと緊張感を持てません? 周り魔物だらけでお喋りとか。私を守る護衛って忘れてない?」
「はっはっはっ。なにをご冗談を。齢二千年を超す白魔導師のベル・ベラ殿にこの程度の相手。護衛の必要がありますまい」
「…………死ね〈聖衝撃〉!」
私の神聖魔法による衝撃波を浴びて、吹き飛ぶ聖騎士。
更に追撃でレベル9神聖魔法を連発。
私の魔力なら威力超過でダメージがレベル10クラスだ。
「――〈天の怒り〉。――〈審判の聖断〉。
――〈聖天爆撃〉」
聖なる光が降り注ぐ。
次いで精神世界面からの攻撃が聖騎士の精神に直接、神聖属性のダメージを与える。
最後に物理的効果をともなう神聖魔法爆撃で止めを刺す。一瞬にして密林の一角が焼け野原と変わる。
ぷすぷすと登る煙。焼け焦げた匂い。
「役立たずは要らん。年上だからと騎士の礼節忘れるような奴は灰になれ。遅れるようなやつも、ですよ?」
「「…………!」」
そして、密林の一角が吹き飛んだ光景を見て唖然としていた忍者とエルフの小娘は、戦慄して焦ったように私の後に続く。
護衛は二人。最初から二人しか居なかった。
そして私は護衛の二人を急き立て、祭儀の場所に向かったのだった。




