第十話 妖精騎士アイギスさんの妖精の里巡りと姫君修行(2)
「ん〜。つまり説明聞くとわたしが神祖の妖精王だとバラしちゃう訳?」
一通り聞いたら結論としてわたしの中ではそうなる。多分、わたしの理解力がどこかで追いついてない気も……しないでもない。
「いえ、アイギスさん微妙に違いますって」
と、セレスティナさんのフォロー入る。流石わたしの恋人。けどその直後に修正入ったけど。
「まあ、設定的には違うが最悪そう名乗っても構わん」
今度はそれをジェラルダインが覆して来るんだよね。どっちだよ。と、迷ってるとルインって人が、
「つまり。平たく言えば、神祖の妖精王のご息女、……姫君という形にしてしまおう、という事です」
「つまり神祖の妖精王の名乗りは無しで?」
「いえ、有りです。先代の神祖の妖精王の後を継ぐ、という事にしてしまいますのでそうお名乗り頂いても構いません」
「そこが引っ掛かるんだよね。前は名乗っちゃ駄目って言ってたのに。血縁設定はギリOKでさ」
「これは、申し訳ございません。説明不足でした」
「なに言ってる。それくらい理解できるだろ」
「ジェラルダイン。わたし8才」
と、わたし伝家の宝刀抜くよ。そりゃ前の世界の知識あるけど人生経験は8歳分しかないの。ピンと来ないものは来ないって。
「……そうだったな」
「ご事情はもちろん伺っております。ジェラルダインさまもなにぶんアイギス殿下のことを思うがゆえとお許し頂きたい」
「だってさ。ジェラルダイン」
「少々手厳しかったのは私の不手際だな」
怒られるかと思ったら素直に謝ってくれる。
これを優しさと勘違いしてはダメ。この人、ただ単に本当に8歳って事で納得してるだけだから。
でないとわたしの心、間違えて落ちそうになるから。この暗黒騎士はわたしに対して罠過ぎるの。
そして、ルインって人が今度はさらに解りやすく説明してくれるの。ただ、それでも分からないから、質問するよ。
「つまり、秘密にして隠してたら探り出そうって連中がいるからいっそのこと看板掲げてお出迎えしようってこと?」
「左様でございます。殿下に表立って活動して頂く事で公明正大に不埒者を誅殺できるようになる訳です」
「ん〜。でもそれ今もやってない? わたし探しに来る他国の諜報員とか」
「ええ。ですが、公にする事で殿下の宸襟を悩ます輩を誰に憚ることなく手討ちにできます。この事が重要でして、逆にこれをやると諜報員や工作員と言った者たちは殿下に手を出しにくくなります」
「?」
と、わたしは小首を傾げて疑問符を頭の上に浮かべた感じになる。しんきん? はばかる?
「なるほど、ルイン。どうやら聞き慣れない単語が出てくるとそこでアイギスは引っ掛かるらしい」
「……そうでしたか! 神祖の妖精王陛下であらせられるなら言語理解の技能でご理解頂けるものとばかり」
「いや、意味は解るけど、どうしてわたしの心が悩むん? 」
「これは、とんだご無礼を。安易な言葉でご説明しようと心がけておりましたが」
「まあ、普段耳慣れないだろうからな。これは私が説明した方が良さそうだな」
「いや、ジェラルダインの説明も量多くてむずいよ? 神話の時は結構頭入ったけど」
「なに任せろ。おまえの頭にはこっちが入り易いだろう」
と、今度はジェラルダインが例え話をして来るの。
やくざ者用語満載で。
「つまりおまえにメンチ切る馬鹿が多いから魔女王と契り交わして組作れってこと」
「!」
「で、だ。……組、旗揚げするから先代襲名して名乗り挙げろ。縄張作るからどさ回りして聖樹派の妖精の揉め事に話し付けて名を売れ」
「!!」
「あくまで襲名だからお前の過去の脛傷で因縁つけて騒ぐ馬鹿はそんなに居ないだろ」
「!!!」
「――ルイン。コレでアイギスなら大体理解した筈だ」
「ジェラルダインさま、流石にそれは……」
「ジェラルダイン! めっちゃ話し解った。最初からそう言ってよ。そう言うことかぁ」
わたしの心にストンと言葉と意味が落ちてきて理解に繋がるの。
そうだよ、わたし冒険者稼業しかやって来なかったから違う業界の専門用語使われてもナニソレって感じになるじゃん。
みんな喋ってるの日本語じゃないんだよ。それ頭の中で翻訳されても意訳的なやつなんだからさぁ。
この場に居るけど村娘だったシルフィちゃんとか話し付いて行けてないし。シャルさん頭良いから解ってるっぽいけど。
けどセレスティナさんは解るよね。同じ冒険者だし。
と、わたしが顔向けると……
「あぁ、なるほどそうでしたかー」
「セレスティナさんだけだよ。理解してくれるの」
「解りますよアイギスさん。私も難しい話し聞くのは苦手だったりしますし。頭の入り方が違いますから」
でも、ジェラルダインとルインって人が二人顔見合わせてるの。
「ジェラルダインさま。このルイン。これは不明の至りです。アイギス様のご経歴は拝見させて頂いていたのですが……」
「安心しろ。普通はそうは思わん。神とか言われてる奴だしな……しかしコレは――」
「いえ、ここは、いっそこのままで……事を性急に致しましても付け焼き刃になりかねませんし――」
とかまた二人だけの話しするんだよね。
「あのね。なんでもかんでも理解求めようとしないでよ。こう要点ぱぱっと言ってよ」
「……そうだな。ただ、魔女王と盃交わす事になるが?」
「必要なんでしょ。でも、舎弟なる訳じゃないんだし、ジェラルダインが間、持つんだよね?」
「まあ、そうだな。悪いようにはせん。……だが、森陽王の連中と揉める可能性はあるぞ」
「……どして?」
「あいつはヴィネージュの孫」
おっと。アイギスさん面倒なことに成りそうなのが今解った。これ要は跡目争いじゃん。家継ぐの誰かって、どんな組織でも大抵揉めるやつ。
「つまり……妖精族の頭決める見たいになる?」
「森陽王はヴィネージュの後釜だから、お前をアルガトラスの後継に据える形だな。その形で、妖精の揉め事を収めて手打ちにもって行こうというのが狙いだな」
「うわぁ。絶対、向こうが面白くなさそうなのがアイギス解るぅ」
「これでもお前が初代とか言うよりはマシだろう?」
「仁義なき抗争で血流れそうなんだけど……」
「魔女王と契り交わさなきゃならん理由がそれ」
つまり、魔女王がバックに付いてるから手出したら戦争になるぞゴラァって対立するんだね。国同士だけどやくざ者と同じじゃん。
「……でも、やらないと揉め事収まらないんでしょ?」
「おそらくだが、聖樹神を信仰する連中を森陽王では抑えきれん。この際、聖樹派を纏める奴を据えた方が流れる血は少ないだろう、というのが私の判断」
「……やるよ。ジェラルダイン」
「一応言っとくが、引き返すならここが分水嶺だ。上手く行くかは……まあお前次第だな」
「ちゃんと危険を説明してくれるの好きだよ。でも、結局、なんでもやってみないと解らないし人任せって柄じゃないからさ、わたし」
わたしは家族の皆をあらためて見回した。
シルフィちゃんにセレスティナさん。それにシャルさん。まだ小さいアル君と赤ちゃんはこの場に居ないけど。
「そういう事で良いかな。わたしの事情にみんな巻き込む感じになっちゃうけど」
セレスティナさんが真っ先に、
「はい。私はアイギスさんに付いて行きますよ。もう、どこでも、戦槌もってお供します」
って笑顔で応えてくれるの。家の中で本当に戦槌取り出すのは辞めて欲しいんだけど。
次にシルフィちゃんがこくりと頷いてくれた。
「わたしも……アイギスさんに付いて行きますから。セレスティナさんと違ってお家の事しか出来ませんけど……」
「うん。シルフィちゃんがお家で待っててくれるからわたしも頑張れるから。本当にありがとう」
そして、最後にシャルさん。
「私も、お供いたします。本来はドゥルイデスの私が、聖樹神さまに連なる者たちを解きほぐさねばなりません。ですのに、私の力不足で……」
「シャルさん一人の問題じゃないからね。もう……わたしも妖精なんだしさ。爺さん大変なことしてくれるけど、わたしに何とかして欲しかったみたいだし」
「……アイギスさま。ありがとう」
と、シャルさん涙ぐんじゃうの。
涙腺弱いのかな。わたしも一時期、涙腺弱くなってたから解るんだけど。こういう時って普通に接して貰いたいんだよね。
「まあ、任せなって。神祖の妖精王はよく分からないけど、この妖精騎士のアイギスさんに」
「はい……本当に……」
と、わたしがシャルさんどうしようかと悩んでるとアリーシャちゃんが赤ちゃん抱いて、アル君も連れて来たの。
「お姉ちゃんどっか行くの」
「きゃ、きゃ」
「きゃう、きゃうぅ、きゃう〜」
「そうだよ。これからアイギスお姉さんちょっと忙しくなるからね。シルフィちゃんに迷惑掛けないようお留守番よろしくね」
「……う〜ん。解った」
「きゃう〜きゃう〜」
「う〜ん。赤ちゃんもがんばって、って言ってる」
「……アリーシャちゃん赤ん坊と会話してるん……」
3歳くらいの見た目のアリーシャちゃん、赤ちゃんと同じ声だしてなんか意思疎通してるの。わたしもなんとなくは赤ちゃんの気持ちを技能の精神感知で解るけど……意思疎通までは無理。
「きゃうゃうきゃ」
「いや、アリーシャちゃん。わたしに赤ちゃん語で喋りかけてもわからん」
「では行って来るが良い。冒険者たちよ。妖精族の未来を救うのだ」
「なんで、アリーシャちゃんが〆みたいな台詞言うの……」
「では、決まりだな。ルインもお前へのアドバイスの為に何度か付いて行くそうだ」
「幾つかの里での交渉を拝見させて頂き、聖魔帝国での交渉に参考にさせて頂きたく」
「オーケー。まあこのアイギスさんの交渉術を学んでいけ」
と、ルインって人に偉そうに言うとジェラルダインが呆れた感じになるのよね。表情の動き方が微細だけど、付き合い長くなってきたから解るぞ。
「で、出発はどうする?」
「そりゃ今でしょ。まだ午前中よ。あんたら朝早くから来すぎだって」
「じゃあお昼作って待ってますね」
「じゃあ支度してきますね。アイギスさん」
「私はいつ出発しても大丈夫です。アイギスさま」
「どうよ、うちの家族のこの息の合い方」
「転移魔法があるから日帰りか……」
シャルさんが揉め事起こってる里把握してるし転移魔法も使えるから行って来るだけなんよ。
「もう、準備は万端ってね。じゃ行くぞ」
と、セレスティナさんが戻って来たので、わたしたちはそのまま出発する事にした。
わたしは一瞬で装備換装して早着替えよ。
妖精族の揉め事解消する為にアイギス組旗揚げだ!




