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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第2章 暗躍錯綜のフェアリーテイルズ
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第九話 妖精騎士アイギスさんの妖精達の事情と暗躍する者たち(7)







アイギスさんのあるヴェスタの街近郊上空――の近接次元空間内。


聖魔帝国、魔女王軍艦隊所属、星幽界航行戦艦アストラルスターバトルシップグングニール。


――の、艦内、司令官執務室。



そこには至極当たり前に居座る幼女とその娘が居ました。


「ふむ。遂にジェラルダインの許可をもらえたかアスタロッテ」

「はいお父さま。わたくしの念願が遂に叶いそうですわ」


親子の感動の瞬間であろう。と、拙者ハーケルマインは傍目に見てそう思い込みたい。


ちなみに拙者はこの艦の司令官で聖魔帝国の魔神将アークデーモンである。

執務室の席を最高権力者に明け渡し、その傍に控えて、来訪した魔大公アスタロッテ殿下との、親子の会見を拝見させてもらっておりまする。


「良い……アスタロッテが遂にお嫁さんか……」

と、執務机の席で艦内の天井を感慨深く見上げる我らが天使王聖下。


アイギス殿下にその話し、全く伝わっておりませぬのに早すぎやしませんかな。

と、拙者の立場で口を挟む訳にもいかず成り行きを見守ってる次第。聖魔帝国の頂点に君臨する方々に誰が口を挟めましょうや。


このお二方のどちらかお一人だけで、この魔神将アークデーモンたる拙者はもとより戦艦グングニールの戦力を同時に相手取っても余裕で戦艦落として吾輩瞬殺ですぞ。正々堂々戦っても。


我らは仮にも力こそ正義の悪鬼デーモンの軍勢ですからな。権威のみでは従いませぬ。ただ、ここに座すお方々かたがたパワーは度を超えてますからな。権威的にも。


魔神将たる拙者すら虫けらより少しマシくらいの存在でしょうな。よって、災いが降りかからぬよう空気に徹しまする。



「お父さま、まだ気が早いですわ。これから意中の殿方の心を物にしますのに」

「アスタロッテなら必ずやアイギスちゃんのハートをものにできよう……ただ」

「真の百合ハーレム計画ですね」


と、急に二人して雰囲気が変わったであります。

それまでの和やかムードは何処へやら。

陰謀を企むような場面へ、……場の精神世界面アストラルサイドにまで干渉して空気変えてきますからな、いきなり。



「よい。……アスタロッテよ。きっと解ってくれてると思う。どうすべきかを」

「フフフ……もちろんです。やはり恋にマンネリはつきもの。かき乱せばよろしいのですね」

「さすがアスタロッテ……」

「お気楽な恋愛もよろしいですが、波乱の恋も素敵ですから」

「ふむ。けど、シャルちゃんはまだ来たばかり。先に恋を実らせてあげるべきではないだろうか」

「あらあら、お父さまは実にお優しいです」

「フフフ……」


と、二人して謀議にふけってござる。

拙者、ここで口を挟みたくないのでございますが、立場上知ってたのにどうして言わなかったの? と、後で責められると非常に立場が苦しくなるので口を挟みもうした。


「聖下。僭越ながらよろしいでしょうか」

「? 良い」

「シャル殿は……男の子、との事でございますが」


天使王聖下と魔大公殿下二人して拙者の発言に身動きが固まりました。

しかし、次の瞬間何事もなく幼女の聖下が動きだしました。


「やはり……ハーケルマイン。そう思うか」

「そうですわね。やはりそこですか」

「既にご承知でしたか、これは失礼を」

「ふむ。この天使王たるアリーシャちゃんにはすべてお見通しよ」


と、常に聖下の傍を片時も離れず見守る眼玉姿の智天使ザフィキエル殿が中空に映像を投影……


『シャルさん――男の子じゃん!!!』


そこに移っていたのはアイギス殿下がシャル殿が男の子と知って身悶える姿でござった。


「お風呂場イベントをこんな形で乗り切るとはさすがアイギスちゃんよ……フフフ」

「フフフ。セレスティナさんの格式あるお風呂場イベントも古風で愉しめましたわ」


親子でござる。

魔大公殿下は聖下の血を確実に引いております。アイギス殿下にプライバシーとかないのでありますか。



「ですがお父さま、計画の是非は問われるようですわね。男のもわたくしは素晴らしいとは思いますが」

「むぅ。ハーケルマインどう思うか。忌憚きたんなく述べよ」


無礼講とか忌憚なくとか言われても斟酌しんしゃくなく述べる訳には当然いきませんぞ。ある種の罠ですからな。世間一般に揉まれたこの魔神将に隙はござらん。


「無論、性別の垣根など問題になりませぬ。愛は等しく注がれるとは聖下の教えでございます」

「すばらしい。ハーケルマイン。良くわかっている」

と、聖下は満面の笑み。

正解でござったか。と、安堵した瞬間に、


「あらあら、型通りの返答で濁してはいけませんよ。ハーケルマイン」

「……」

魔大公殿下はお見逃しにならぬ。既に最初の発言で失言でござった。


「なぜ、男の子が問題になるのか。理解しているからこそ、ご注進を成されたのですよね?」

と、いたぶるようにアスタロッテ殿下が。


「……俗世にまみれた少官の世迷言でありますれば。御心にお障りたて申し訳ございません」

「良い。良いのだハーケルマイン。このアリーシャちゃんと計画の遂行を思えばこそ」

「はっ。恐縮でございます天使王聖下」


するとアスタロッテ殿下が「あらあら」と拙者に、助かりましたわね? と言外の態度をしめしてござった。曲がりなりにも魔女王陛下のご息女でもあるお方、油断も隙も有りませんぬ。


弱みを握られると、内密にとんでもない事させられるそうですからな。同僚の魔神将が餌食になったことが有りましたぞ。



「ふむ。……アスタロッテよ。どうやら真の百合ハーレム計画の真価が問われる時が来たようだ」

「フフフ……お任せください天使王聖下」

「良い。アスタロッテなら良い感じにしてくれると信じている。必要ならこのアリーシャちゃんも動こう」

「ありがとうございます。聖下。必ずやお望み通りに」


と、拙者には察する事も出来ず、成り行きを見守る事しかできませぬ。されど、女性同士のみで成立する『真の百合ハーレム計画』。男子が居て、いかにさるのか……


嫌な予感しかしませんな。


おそらく拙者の想像もできぬ所に着地点がありましょう。拙者にできるのはアイギス殿下に心よりご同情することのみでござる。心を強くお持ちくだされよ。



「では、聖下。わたくしはこれにて。魔女王陛下からのお仕事もありますので」

「う〜ん。ジェラルダインも助かっている。お仕事がんばって」

「はい」

と、笑顔で応えるアスタロッテ殿下とアリーシャ聖下。この別れの場面は普通の親子の雰囲気ですな。


が、魔大公殿下が執務室の自動扉から退出される、その間際、聖下からお声がかりがありました。


「アスタロッテ……やり過ぎぬよう。妖精たちの国の件聞いている」

振り返るのは少女のような姿の魔大公殿下。


「ええ。もちろんです。聖下。その為の今回のお仕事ですから」

「……よい。そちらもこのアリーシャちゃんの期待に応えてくれると信じている。アイギスちゃんによろしく」

「ええ、もちろんですわ」


最後の何気ない会話。そのままアスタロッテ殿下は何事もなく退出なされましたが、この対話の意味を理解せずして聖魔帝国の魔神将は務まらず。一応言っとくと釘を刺してます。



「ハーケルマイン。アスタロッテを良く見ておくように」

「はっ。聖下の御意に」


いと慈悲深き天使王聖下は例え悪魔悪霊のたぐいでも等しく愛を与えるお方。ご息女であらせられる方なら尚更でございましょう。

度が過ぎた悪事を働くことは聖下もお困りの様子。


「う〜ん。来年度の艦隊編成の人事で降等……? すると聞いた。ハーケルマイン」

「はっ。単艦運用の当艦では分艦隊司令の少官では過分とのこと」


実際には、天使王聖下がアイギス殿下に初接触したのを、魔女王陛下に報告もせずに黙ってた責任に対する懲罰人事ですな。最高権力者の聖下がお許しになっているのに大っぴらにはやれないので。


「魔神王ラジャイオンにことづけて置いた」

「! 御心遣い感謝いたします聖下」


そして我らの天使王聖下から碧眼の瞳。湖面のような静謐さを湛えた眼を向けられました。


「魔大公殿下の件。このハーケルマイン、必ずや」

「よい。……魔女王にも気をくばるのだ。熾天使アポリオンへの機密コードを教えておく」

「はっ」

「それと〈光暗妖聖〉も動かしてる。良しなにするのだ」

「まさかあの者も……いえ仰せのままに」


……〈光暗妖聖〉と言えば森陽王しんようおうの娘にして天使王聖下の懐刀でござらぬか。普段は冒険者に身をやつし、聖下の御意を果たすべく密命を帯びて動いてるという……


しかし、コレは確実に取り込まれましたな。我らが天使王聖下は拙者に迷う隙すら与えて下さらぬ。次の転職先は天使王軍のようですな。


つまり魔大公アスタロッテ殿下をこっそり監視しつつ、魔女王陛下にバレないように、接触して来るであろう〈光暗妖聖〉殿に情報流せ、と。


バレたら殺されます。存在ごと消滅されられる可能性がちらほら過ぎりまする。


その為に、いざとなったら軍権にすら司法権を振りかざして口出しできる熾天使アポリオン閣下が助けてくれる、という逃げ道が用意されてるのです。


聖魔帝国は近代国家、"政治"と"司法"に権限はきっちり分けてござる。ちなみに主権者たる天使王聖下が"立法"。解りやすく言うと、三権分立。



しかし、聖下に内通してしまうと、これでは殿下や陛下からは拙者、完全に裏切り者に。されど、ここで断れる訳もなく……天使王聖下は"立法"を司る存在。御言葉がそのまま法律。だからこその絶対君主制ですぞ。


「ではハーケルマイン。アイギスちゃんを助け、困らせぬように。忠孝大義である」



そしてレベル9魔法〈次元封鎖ディメンション・ロック〉の魔法効果が常駐で掛かっている艦内から天使王聖下と智天使ザフィキエル殿のお姿が掻き消え、次元を渡って瞬間転移なされた。


方々かたがたにはもはや、物理法則など紙切れ同然。


拙者も末席と言えどお仕えでき恐悦至極……


「聖下からご配慮頂けるとはこれは本気でございますな……ご期待に添えぬときが一番怖い」


拙者の労苦して知るべし。


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