第九話 妖精騎士アイギスさんの妖精達の事情と暗躍する者たち(3)
「では、話しの続き。神祖の妖精王が居なくなって以後、妖精達は三つの派閥に別れた」
と、ジェラルダインの妖精達の歴史の授業が始まる。
わたしはどこか遠くの世界のような出来事のような感じがして茫然と聞きながらも、耳を傾ける。
「まず、聖樹神アルガトラス率いる中立派。
次いで、妖精神ヴィネージュ率いる主流派。
そして、亜精神バーギアンが率いる反発派。
派閥の名称は私の勝手な会釈だが、大体そんな感じで妖精族がそれぞれの派閥に割れたらしい。特にヴィネージュとバーギアンの仲が悪かった」
「どうして? 裏切ったのは3人一緒なんでしょ?」
「それも正確には解らないが……裏切りの主犯はヴィネージュらしい。残りの2神がどう関わっていたかは解らないが。黙認したという点では同罪だな。神祖の妖精王を追放……実質追放という感じだから追放と言うが、したからという理由では争わなかったらしい」
「わたし……よっぽど人望なかったのかな……」
「そ、そんなことありません!」
と、シャルさんが席から立ち上げる。
「アーパ・アーバさまは神祖の妖精王さまをお慕い申してあげていました。末葉の私にも家族のように接して頂いた、と。祖シャハタールも含めてドゥルイデスの者たちは、いえ、聖樹神さまに連なる者たちはヴィネージュ神の行いに憤ったと聞いてます」
「ああ、一番反発したのはむしろ聖樹神アルガトラスに仕えた者たちと聞くな。激怒してヴィネージュ相手に一戦仕掛けようとしたとか。……だが、聖樹神に諭されて矛を収めたとも」
「聖樹神さまは皆の怒りを鎮める為、仰ったそうです。大罪を犯せしは我も同様、まずはこの自らを焼いてから赴くべし、抵抗はせぬ、と。……誰一人、聖樹神さまに矛を向けれる者はおりませんでした。私たちは家族だったのです。妖精族の者はみな……」
と、シャルさんの顔が俯いて鎮痛な表情を浮かべた。まるで見て来たような顔……そんな表情されたら家族という言葉に大きな意味があるのがわたしでも解る。
「だが、その家族は分裂した。ヴィネージュはその後、妖精王を名乗り妖精人達を中心にまとめて神祖の妖精王の一族を率いて行くが、そのやり方にバーギアンが反発して同じく反感を抱く者たちを纏めて亜精王を名乗って出ていったからな」
「最初は神さまじゃないんだ」
「この世界では現存する神は、神とは呼ばずに王と呼ぶ。そういう風習が有る。例外として隠棲した王を神だとか、神祖の妖精王のように現存中でも神と呼ばれた例もあるが」
「魔女王や天使王も?」
「やつらはそもそも"神"じゃない。神という存在を超える超越者。全宇宙の根源、全知全能の存在すら上回る権能を持つ、という触れ込みの連中だからな」
「そのご大層過ぎる悪魔と天使の手先なのに良く言えるよね。ジェラルダイン」
「本人どもが憚りなくそう自称しているとも。不敬にも当たるまい。では話しを戻そう」
その後ジェラルダインが語ったのは時代が下って更に数万年後の時代。光の神々と闇の神々が出現して相争う神話の時代。
妖精族と三神はそれまで神々の争いに中立を保つ事で争いを避けて来たが遂に戦いに巻き込まれ争うことを余儀なくされてしまった。
亜精王バーギアンは妖精王ヴィネージュへの積年の恨みから闇の神々の側に付き、妖精王ヴィネージュは光の神々の側へ。
聖樹王は中立を選んだので聖樹王に従う者たちも結果としてヴィネージュの元から離れてしまった。
聖樹王アルガトラスは争いを避けたかったらしいけど。どちらの側からも危険視されて、妖精の騎士王タブタブと、同じように中立を保ちたい者たちで同盟を結んだらしい。
が、このタブタブが中立と言いながら勢力均衡の為に光の神々に味方したり、闇の神々に味方したりと立ち振舞ったのだ。
……けれど結局、勢力均衡に拠る安定は長く続かなった。闇の勢力がそれまで争いを静観していた真龍族の一部を味方につけ、均衡が崩れたのだ。
光の神々と中立派の者たちが勢力均衡の状態を維持する為に、世界を新たな脅威――神々の来訪を阻止する為に世界中に結界を張り巡らせたのがその原因らしい。
真龍族の一部は自分たちが維持していた星の龍脈を、その結界の維持に使われる事が気に食わなかったとか。
そして、神々の最後の戦いが始まる……。
「話しが長くなるから神々の最終戦争については神殿で聞いてくれ」
「話さないんかい」
「セレスティナ司祭殿もいるだろう。要点を妖精族の問題に絞る。関係がないからな。――ここで厄介なのはこの戦いでヴィネージュがバーギアンを殺したことだ」
「……最大の禁忌である家族殺しですね」
「シャル殿の言う通り、家族主義の妖精族には重みが違う。妖精族には家族殺しは何よりも重罪だ。血縁が近ければ近いほど罪が重くなる」
「色々理由あるんだからそんなのチャラじゃないの? 戦争だよ」
「妖精族はそうは思わなかった。アイギス、お前に解りやすく言うと、冒険者ギルドが他の組織と抗争してギルマスが殺られた。収まるか?」
「収まらない。ギルドに所属する馴染みの連中は、相手殺らないと面目潰れる。この場合、非合法的手段も解禁。どんな手を使っても相手の首取らなきゃ」
「まぁ、ギルマスさんの人徳次第の所もありますが……戦鎚で頭かち割る理由にはなりますね」
と、セレスティナさんの発言にもジェラルダインは、「まあ、そうだろうな」と肯定してた。
「……解った。ジェラルダイン。殺られたバーギアンの連中が収まらなかったんだ」
「それも当然なんだが殺ったヴィネージュの配下の一部も収まらなかったのさ。親、追放して遂には妹殺しだ。バーギアンは神祖の妖精王つまりお前にかなり可愛いがられていたらしい」
「バーギアン……女の子だったんだね」
「他の者には反発されて家出されたくらいの感覚だったかもしれんな。出ていったと言っても家臣の者たちではそれなりに交流は合ったらしい。そしてヴィネージュの声望が尽きたのが運の尽き。バーギアンとの戦いで弱った所を配下の一人に殺られた。……亜精王に付き従っていた連中との戦いを避けたかったのかも知れんが……」
けれど、その頭目を失ったが為に二神に仕えた妖精達は混乱した。自分達を率いた王が突然居なくなり、まともな纏め役を見出せなかったのだ。
それどころか二神を欠いた為に他の勢力に従属を余儀なくされ戦争に借りだされる。
「結果は種族同士のいがみあいの始まりだな。それまで家内騒動だったのが本格的な分裂と敵対関係に発展した。妖精族の妖精人と亜精人では未だにこの過去の歴史の禍根を引きずっているな」
「仲が悪いんだ……でもダークエルフやドワーフとかはどうなの?」
「その2種族は妖精人の範疇に入るが扱い亜精人だな。バーギアンと共に闇の勢力に加担したのがその理由。ドワーフの妖精人嫌いは有名だ。ダークエルフは裏切り者イメージが付き纏う」
あ、そこはなんだかんだ。ファンタジーなんだね。
仲良くないのが頂けないけど……
「でも妖精達の纏め役が居なかったって聞いたけど聖樹王はどうしたの? 三神の一人でしょ」
「もう光の勢力側になっているからな。戦争自体は止めれん」
「じゃあタブタブとか言うのも戦ってたんだ」
「そうだ。最終的には光の勢力側でな……そしてお互いが戦いに疲れ果てた頃……見計らうようにして最強の三龍、黒龍、火龍、白龍と、その王達。太古の真龍王のご登場と言う訳だ」
光の神々と闇の神々の勢力がお互いに争い合い、幾柱の神々が倒し倒され、遂にはお互いの主神同士も相討ちになった。
もはや戦いはこれまで、と両勢力が考え出した頃、かつてのこの世界の支配者である真龍族の内半数の三種族が手を組んで襲い掛かって来たのだ。
残っていた神々は次々に倒されてしまった。最後の妖精達の王、聖樹王アルガトラスも火龍王に焼き滅ぼされ、真龍達も深手を負ったがもはや誰にも龍達の侵攻を止められず、世界の覇権は真龍達のものになるかと思えた……
「と、神々の話しはこれくらいにして今の妖精族の問題に繋げるか」
「待ってジェラルダイン。そこまで話したら最後まで話そうよ。もうざっくりで良いからさ」
「この世界に居る者なら誰でも知ってるような神話なのだがな……まあ良いか」
だが、真龍達の誤算だったのは自分達に対抗できる者で立ち向かって来る者がまだ居たことだった。
その一人が聖樹王と親交があった森龍王。
風の属性を司り風龍とも云われる森龍たちは森を住処として居て、その環境を整える妖精族たちとは仲が良かったのだ。
神々の争いにこそ中立を保っていた彼らが、まず他の真龍――特に森を焼きまくって灰燼にした火龍たちに激怒して敵対した。
「と、森龍王が反発してくるのは三龍どもも考えには入れてただろうな。他の二龍は火龍どもと咬み合わせれば良いかと思ってたかも知れん。そもそも奴らがやり過ぎたせいだ。だが、まだ強力な神がもう一柱、居たとは奴らは知らなかった」
「タブタブ?」
「まあ奴も、しぶとくまだ生きているが……神祖の妖精王は妖精族以外にも引き連れてこの世界に来ていた。精霊達をな」
精霊の存在は真龍たちも認識はして居たが、神々に匹敵する真龍王にさえ対抗できる存在が居るとは知らなかったのだ。
神々の争いにさえ姿を現さなかった精霊神が登場する。かつて、神祖の妖精王が乗艦とした星船フェアリーウィングと共に。
そしてその星の船に乗っていたのがタブタブだった。
「なんであいつが最後に活躍しそうなの」
「最後まで生き残っていたからな。伝説ではタブタブ神は星船フェアリーウィングを見つけ精霊界に赴き、かつて神祖の妖精王に仕え、その、命により世界のバランスをただ保ち続けていた精霊神に助力を願ったとある」
「そんな船覚えてないなあ」
「精霊神もか? アイギス」
「精霊で強いのは知ってるけど……神とかいたっけ? 」
「居るには居るが……ただ、この精霊神については良くわからないからな。突然出て来て退場する。では最終幕だ」
そして、密かに生き残ってた最後の光の神々の主神、慈雨神マティウスと中立派だった知識神ホップとで三龍達とのラストバトルが始まる。
その結果……、
騎士王タブタブが火龍王に降伏すると騙して、毒酒呑ませて弱らせた所を、知識神ホップが乗った星船フェアリーウィングを使って共に倒し。
妖精の血を引き戦乙女としても知られた慈雨神マティウスと精霊神が白龍王を倒すも相討ちになり。
そして森龍王と黒龍王は凄絶な戦いを繰り広げるも痛み訳に終わり、神々の戦いに幕が落とされる。
「戦い方が汚い奴がいるな」
「神話の話しだ。酒を呑ませる以外にも、幾つかのパターンがあるが何らかの謀略を使ったとは定説だな」
「まともに戦わないの。てか、タブタブとそのホップって神さまは生き残ったんだ」
「いや、生存した話しもあるが、ホップは他の火龍との戦いで死んだとか火龍王に星船ごと落とされて倒されたとかこちらもパターンがある」
「わたしの船、勝手に使われて落とされてるの……腹立つな。で、タブタブは?」
「タブタブも火龍との戦いの傷が元で死んだとか、戦いの後は妖精界に帰ったとかな」
「でも生きてるか死んでるかは解らないんだ。まさに、おとぎ噺って感じだね」
まだ他の神々も生きてるかもね。なんかタブタブは生き残ってそう。わたしの直感がそう告げている。
「真実など伝承では分からんさ。……解っているのはこの戦いで神々が居なくなり、真龍族も勢力が衰え、妖精族も団結できなくなり、人間達の歴史が始まるということ」
「…………神話が終わり、文明が築かれて行くんだね。でも、ちょっと人間に都合が良すぎない?」
「かもな。だが、今は都合が良くない方に目を向けようか。妖精族にな。では、そろそろ本題。だ」
今、神祖の妖精王が出現して妖精族に何が起きてるのか。そしてこの妖精騎士アイギスさんにどんな厄介ごとが降りかかって来るのか。
は、次回に続く。
妖精界で子供たちに神話のお話しをするタブタブ神
タブタブ「と言う感じになったのだな」
白魔導師「先生。他の真龍、地龍と水龍たちは戦いに参加しなかったんですか」
タブタブ「あやつらは地底世界やら海やらで別にやり合う相手いたからの。地上の覇権には興味なかったし」
白魔導師「謀略には巻き込めなかったんですね」
タブタブ「勘の鋭い子は嫌いじゃの……」




