第九話 妖精騎士アイギスさんの妖精達の事情と暗躍する者たち(1)
さて、我が家にやって来たので暗黒騎士を迎えいれたら、まずシャルさんが過剰に反応しちゃってね。
我が家の寛ぎの居間で杖を空間収納から取り出して構えるのやめてくれない? ここでこの人とやり合うと酷いことなるから。
「ジェラルダインっていつもこんな反応された時どうするの?」
「ケースバイケースだな」
と、しれっと言う暗黒騎士。いつもの黒外套に目深に被ったフードで悪の手先感半端ないよね。
そしてシャルさんは真剣な顔して枝が何十にも絡みついた高性能そうな杖を構えてる。少し冷や汗出てる。
わたしはジェラルダインと短い付き合いだけど、どういう人か大体解ってるから普通に接してるけど、これが普通の……いやそれなりに腕前ある人の反応。
強すぎるし、何より危険性しか感じ取れないから。人を見る視線が「人」を見る視線じゃないんだよね。レーダー照射みたいに感情が一切乗ってないの。
じゃあなんでそんな目つきなのって考えたら……普通の感性持ってる人は殺しにやって来たとか思っちゃうよ。
プロの殺し屋が感情乗せない時の視線と同じだもん。でもジェラルダインって普段からこの視線で周り見てるの。これが標準で人見てるとか人間を物扱いしてそうだけど……
「さて、構えを解いて貰いたいのだが。見ての通りアイギスとは知り合いだ」
ちらりとシャルさんがわたしに視線を送る。わたしは頷いた。
「ジェラルダイン。せめてフード取ったら」
「雪が降ってたのでつい忘れていたな。失礼」
と、フードを取って出てくるのは闇妖精の麗人の顔。
褐色肌に黒髪に包まれた表情の目つきはいつもどこか、厭世的なんだけど情熱的なものも感じるんだよね。
さて、シャルさんの反応は……
ジェラルダインがフードを取って素顔を表した瞬間に見惚れてた。だよね〜。もう、男前って言うと悪いんだけど、男装の麗人って程じゃないんだけど、雰囲気がまさにそんな感じの美人だからね。
しかも、まだ外見が大人と少女の中間って感じでね。
わたしも見惚れるよ。正直、初恋の人だからね。
ただ、恋愛するには性格ヤバすぎる人だから即セルフで失恋しておいたけど。けど、今でも偶に合うと心臓の鼓動が跳ねるのは内緒。
「デ、デックアールブ」
シャルさんが思わず呟いたその単語にジェラルダインが反応して呟いた。
「……古い呼ばれ方だな」
「なに、あだ名?」
「ダークエルフは種族名の通称だ。闇妖精人。あるいは黒妖精人というのがダークエルフの本来の種族名での呼ばれ方でな。その名称も元々は本来の種族名でないらしいが……古すぎて私もわからん」
と、ジェラルダインは片手を上げる。お手上げってか。
まあセレスティナさんによると神祖の妖精王が妖精族や精霊と一緒にこの世界にやって来たのが10万年以上前の話しらしいから、分からなくなってもおかしくないんだろうけど。
「さて、神祖の妖精王陛下にはこれでも縁がある身だ。祖森妖精族とは些か諍いの歴史もあるが、私自身は預かり知らぬこと。私の方から争う気はない」
「シャルさん。物凄く信じられないだろうけど、大丈夫だから。ジェラルダインは理由もないのに殺しには来ないよ」
「わ、解りました。お騒がせして申し訳ありません……アイギスさま。――ジェラルダインさま、非礼をお詫びいたします」
「お前のせいだからな。ジェラルダイン」
「不徳の致す所だな。なに、いつもの事だ。そちらも気にする必要はない」
と、ジェラルダインがシャルさんを気遣って少し優しげな声をだす。こいつ子どもには優しいのか? 私も子供扱いされてる気がする。
でも人非人なようで居てジェラルダインって気遣いできる悪党なんだよね。必要があれば確実に殺しに来る悪党だけど。
つまり敵にならなければまず大丈夫ってやつ。
「じゃあシャルさん。悪いけどここに居てね。シルフィちゃんとセレスティナさんにも話すんだよねジェラルダイン?」
「まぁそうだな。隠し立てする理由がないが……」
と目線をシャルさんに向ける麗しの闇妖精。
「シャルさんも家族だよ」
「なら、構わん。最初にその辺りの事情も説明してくれ」
そしてわたしは2階で用事してたシルフィちゃんにセレスティナさんも呼んだの。
そして二人連れて居間に戻ったら、当然のようにやって来て、勝手に我が家に上がりこんでる謎の幼女アリーシャちゃん。その見た目3歳児がアル君と遊んでた。
「ひゃあ」
「わあ、なにそれ」
なんかアリーシャちゃんが手に持ってる獲物、光刃出てるんだけど。
ただ、危険性はないのか光ってる部分が家具に当たっても焼き切れたりしないの。
ライトセーバーの玩具か。それ。
そして暗黒騎士のジェラルダインに赤い光刃出るのをアリーシャちゃんが渡してた。似合い過ぎるから。
「アリーシャ。向こうで遊んでてくれ」
と、ジェラルダインは赤い光刃を出してから、スイッチを切ってその玩具をアル君に渡してた。うちのアル君を暗黒面に誘うのはやめてくれたまえ。
「では揃ったな。赤ん坊の面倒もアリーシャが見れるというから呼んだ。さて、では先ずはそちらの事情から」
と、食卓の席に着いたジェラルダインが仕切り出す。
そして私たちはシャルさんの事。わたしたちの事。
そしてジェラルダインが持って来た厄介事の話しを初めた。
†
話しの始まりは神祖の妖精王がやって来て、この世界を救ったことから始まる。
神々の戦いによって無惨にもこの世界の環境が破壊され尽くして、生きとし生ける者が絶望に打ちひしがれる時代。神祖の妖精王は望まれてやって来た。
まだ居た神々たちとの戦いに打ち勝ち。
神祖の妖精王は引き連れて来た、精霊達や妖精達と世界中の環境を回復させて行ったの。
だけどある時、臣下の3人に裏切られる。
その3人はこの世界の妖精族の祖神たち。
聖樹神アルガトラス
妖精神ヴィネージュ
亜精神バーギアン
この世界の妖精族の人たちは神祖の妖精王によって創造されたこの三神の誰かを祖神にするらしい。
まぁ一部違う神さまを祖とする妖精や神祖の妖精王によって直接、創造された妖精もいるらしいけど殆どの妖精族の人達の祖先、創造主がこの三神なんだって。
ちなみにその違う神さまも神祖の妖精王に仕えてたらしいからほぼ全ての妖精族は神祖の妖精王さまが始祖って訳。
わたしめちゃくちゃ偉い神さまだな。
もう妖精族に取っての女神じゃん。
「で、どうして裏切られたのジェラルダイン」
「それが最大の謎でな。裏切ったということは伝えられているが、裏切った理由までは伝えられてない。――森祭司どのにお聞きしたいがアーパ・アーバ翁からは何か聞いてはいないか?」
「いえ……アーパ・アーバさまも口を閉ざされていました。ですが、我らが裏切り者だという事は伝えねばならぬ、と」
「その理由も?」
「はい……。アーパ・アーバさまも聖樹神さまも最大の罪とだけしか仰られなかったのです……ですが」
と、シャルさんがわたしを見る。おっと、わたしが記憶ないの言うの忘れてた。
「残念だがアイギスにはその記憶がない。10万年以上前の話しだ。星幽界での旅で失われたらしくってな。神祖の妖精王としての記憶は残ってないんだ」
「そうなのですか?」
「なんでジェラルダインが言うの」
「何か思い出したことあるか? 今までの話で」
「ない。シャルさんの出自の話しも聞いたけど……ただ、」
そう、3人。3人なんだって思ったの、なぜか。
わたしの思い出せる記憶では4人居たような……
「ダメやっぱり思い出せない」
「そうか……一つ聞くがタブタブと言う奴に聞き覚えは?」
「いえ……ないけど。……ないんだけど腹立つな」
そう、そいつの名前聞いた時ムカいた。なぜだろう。まるで思い出せないんだけど。
「そうか、さもありなんだな」
と、ジェラルダインの口許が、皮肉気なのか優しげなのかわたしには判断つかない感じで動いた。
「で、タブタブって誰?」
「神祖の妖精王に仕えたと言う小人妖精族の祖神。ただコイツについては本当に仕えたのか資料でははっきりしなくてな。確実に活動してたと思われる時代が下って、光の神々の時代で神祖の妖精王とは時期が合わん」
「じゃあわたしが、わたしが裏切られた事とは関係ないんだ。話し聞くほどムカついて来るんだけど」
「…………今の所は関係を示す資料がないな」
するとセレスティナさんがあのぉ、と手を上げた。
「タブタブって妖精の騎士王タブタブの事ですよね。神話では光の神々の側に付いたり闇の神々に付いたりしてた」
「うわぁ、あいつそんな事してたのか」
と、わたしが自分でも分からずに発言するとみんなの注目が集まった。ジェラルダインが真剣な表情で見つめて来た。
「アイギス……何か思い出したか?」
「…………ダメ。どうしてそういう事言ったのかも分からないよ。本当だって。昔の感情みたいなのは蘇るときあるけど明確に記憶は戻らないの」
「ハーヴェイやグランヴァンとの戦いの時とかもキレて別人みたいになっていたな」
「前のアーパ爺さんの遺体踏みにじられた時みたいに感情から口走ることはあるみたいだけど」
「まあ、記憶が蘇って良いことかも分からんしな……神祖の妖精王も星幽界には自分で旅立った。と、おとぎ噺では語られる。……さて、真実はどうやら」
ジェラルダインに言われなくてもなんとなく解る。
本当に自分で旅立ったなら、……わたしだったら何もかも嫌になったのだろう。
でも、本当に裏切られたなら……
わたしは許せるのだろうか。
例えそれが自分の行いが原因でも。
「さて、ここまでは確実と思われる神祖の妖精王のおとぎ噺だ。そしてここからが光の神々の神話と先ほどのおとぎ噺を背景にした現実問題の厄介ごと」
聞くのも嫌になりそう。昔の話しは終わった話しじゃん。でも現在進行系って……
話しを聞いたわたしはなんで数万年以上前の事で、それだけ妖精族がいがみあってるのか分からなかった。
もう、自分たちとは関係ないような話しなのに。




