第八話 妖精騎士アイギスさんと月花草と祖森妖精の森祭司(5)
「ふ〜ん。じゃあシャルさんってあのアーパ・アーバの爺さんの世話してたんだ」
梟熊の集落についた後。わたしたちは使われてない巣を借りてシャルさんから事情を聞くことにした。
取り敢えずシャルさんが梟熊たちと顔見知りだったから、わたしを騙そうとしてる件は消えたっぽい。
セレスティナさん曰く梟熊と意思疎通できるなんて聞いたことないってさ。
なんでもオウルベアが古代魔法文明時代の生体兵器だったから、戦争に利用しようと王国の魔術師達が捕らえたオウルベアを研究した事あったんたけど全くダメだったんだって。
セレスティナさん曰く、
「まあ、元々戦争に使われてたので簡単に寝返るようではダメですよね。精神耐性もかなり高いらしくって精神干渉系の魔法が効かずに、もう完全にお手上げだったようです」
じゃあ意思疎通できるわたし達は……
「さすが神祖の妖精王さまと森祭司さまですね〜。精神耐性とか余裕で貫通してきます」
だってさ。……いつの間にか話しの流れ的に、もう、わたしが神祖の妖精王だと認めちゃってるんだよね。
で、お話し戻してアーパ・アーバ爺さんの事を。
「はい。私が小さい頃はお世話になっておりましたが……アーパ・アーバさまは魔王との戦い以後お気を病んでしまい。時折ご様子を見に行ってたのですが……」
「…………正直言うね。そのアーパ・アーバ爺さんを介錯したの私だけど」
と、私はかるくブっ込んだ。どのみち隠す訳にはいかないしどういう反応するか見てみたかったから。
シャルさん確かにこの世の者とは思えぬ本物のエルフ美少女だよ。でも信頼できるかは別。
「…………やはり大罪はお忘れにならなかったのですね。アーパ・アーバさまは悔やんでおられました。使命も果たせず自らが罰せられるのをお望みのようでした」
「わたしが殺したことなんとも思わない訳?」
「……………」
シャルさんが俯き。複雑な表情してる。儚げな印象の子だけど、思い悩む感じは普通の子だと思う。
そして涙がポタポタと……えぇ。
わたしは慌ててセレスティナさんを見る。
セレスティナさんがやっちゃいましたね。と言う顔してた。助けてヘルプ。
"私じゃ無理ですよぉ。その件に関しては完全な部外者じゃないですか"
と念話で泣き事が来る。
"ええい。なんとかしてわたしの恋人。わたし女の子に泣かれると弱いの。泣くとは思わないよ"
"どう考えても心中複雑ですって。元から一族の使命を負ってるようですし。そのアーパ・アーバって人からも託されてるんですから"
と、わたしたちが一見無言であたふたしてるとシャルさんが涙を拭き。顔を上げた。
「わたしは、わたしはアーパ・アーバさまに生きていて欲しかった……。これは勝手な望みだったでしょうか神祖の妖精王さま」
「…………勝手だと思うよ。でも誰だって生きてて欲しい人いるもの。そう思うことは悪いことじゃ……ないと思う」
そしてわたしも思い出して鬱になる。
爺さんやった罪悪感は抱かないけどさ。わたしの記憶にない人だったし……。
ただ、わたしだって死んだ人たちに生きてて欲しいって思ったことあるよ。
ただ、
「わたし……死んだらそれまでって思ってるんだ。永遠なんてないって。望むんだったら死んで良いと思うよ。望まなくて死ぬ人たちもいるんだもの……生命って大切だけどそれをどう使うかはその人次第じゃないかな」
「…………」
シャルさんから返答がなかった。そこまで大切に思ってたんだね。あの爺さん罪深いな。こんな子残して逝きやがったのか。
「少し時間置こうか……返事は後で良いよ。――セレスティナさん」
わたしたちはそっとして置く為に巣から出た。
†
「でもあの子どうしよ……」
と、エルフの耳でも聞こえないって距離まで離れて、わたしはセレスティナさんに相談する。
「天涯孤独って言ってましたねぇ……」
「魔王って千年前でしょこの大陸で暴れてたの」
「ええ、そうです。その時にお父さん……魔王討伐の勇者の一行の一人なんですが亡くなってるらしいですからねぇ」
孤独感が半端ないぞ。シャルさん1000歳ちょっとくらいらしいけどお父さんとお母さん魔王との戦いでなくした後は一人ぼっちって。
そりゃ爺さんが肉親みたいになるわ。
てか、爺さんがわたしに託したのも解るわ。
「てか最初に氏族のみに宛てた爺さんの遺言って言うから、他にもいると思うじゃん」
「間違ってはないんですけど……氏族の使命とか有るのでそういう言い方したんでしょう。で、どうするんですアイギスさん」
「あの子次第……でも話してる感じは本当に子どもって感じだったしドゥルイデス族ってエルフの人は1000年経ってもまだ子どもなの?」
「すいません。そこまで分からないです。ハイエルフが謎に包まれた種族ですから。探しても、どういった生活してるのか信頼できる資料に載ってないんですよね」
「う〜ん。シャルさんさえ分からないかもしれないね。でも他のハイエルフの人たちとは合った事ないのかな」
「分かりませんけど……東の大陸には森陽王っていう妖精人の国を治める王様がいるとは聞いたことあります。その国の長老は全員ハイエルフだそうですよ」
「最悪……お仲間に……いや、ジェラルダインが許す訳ないか。それに本人が多分嫌がると思うし……」
「……ジェラルダインさんに……話します?」
恐る恐るとセレスティナさんが聞くのも解る。あの人、他の人に預けるとか言ったら秘密保持の為に抹殺しかねないな……。子どもでも多分容赦してくれなさそうだよ。
「てか、ジェラルダインは知らないのかな。ドゥルイデス族のこと。ダークエルフってハイエルフ並みの種族じゃない?」
「いえダークエルフもハイエルフですよ」
「?」
と、わたしがどゆこと? と一瞬考えてるとセレスティナさんが「あーそういう事ですかー」と呟いた。
「なに、何かおかしな事言った。わたし」
「いえ、細かい話しなんですが……エルフって種族がいるってアイギスさん思ってません?」
「……ちがうの?」
「まあそれもあながち間違いとは言い切れないんですけど。……エルフって妖精の人って意味なんです。人間という代わりに妖精族で人の姿の人たちをまとめてエルフって言ってるんです。で、人間にも人種があるってアイギスさん解ります?」
「う〜ん。ここから北の国の人たち肌の色違うけどそういうこと?」
「そうです、そうです。ですのでもう人種が違うと文化とか習慣とか全然違うんですよ。言葉も。……で、妖精人の他の種族になると…」
「わかった。もう全然違う人たちなんだ。……シャルさんを預けられないんだね」
「敢えて言うならエルフの代表的な種族、森妖精族の方なら有りかも知れませんが……やっぱり種族的な違いとか有りそうですから」
と、なるともう本人が望むなら引き取るしかないか。問題はやっぱりダメってなった時だね。一人で生きていけるかも知れないけど心配だよ。
爺さん、だからわたしの事話したんだろうし。
そしてわたし達の話しが一段落着くとシャルさんがやって来た。
「申し訳ありません神祖の妖精王さま。ですが私は父祖やアーパ・アーバさまのご意思を継ぎたいと思います」
「……爺さんも最後に言ってたよ。不忠を詫びたいとか。でも、必ずしも継がなくてもいいんだよ。自分の好きなようにやれば」
「いえ。私は……使命を果たすことしか生き方を知りません。どうかお側に居させてください」
不器用な生き方だよね。この子……その使命を頼りに生きていた気がする。千年も。
「わかった。付いて来ても良いよ。ただ、騒ぎは起こさないでよね。……こう、悪魔的なのとか見ても」
我が家には家の周りに悪魔を象った石像やらホームシッター代わりの魔神将など悪魔の魔女王配下の者たちがウヨウヨおります。
上空には宇宙戦艦が近接次元に隠れて悪鬼の陸戦部隊1個連隊が待機とかの戦力で見張られてっからね。やり過ぎだろあいつら。
「あ、悪魔ですか……」
「色々事情あるから、じゃあお昼食べに家戻ろうか。シャルさんも連れて」
「わかりました。家族が増えますね…………」
「なに。セレスティナさんその沈黙」
「シルフィさんは……まあ大丈夫ですよね」
「セレスティナさん……いくらなんでも」
10歳くらいの女の子だよ?
わたしが前の人格の記憶ないから実年齢8歳でも……あれぇ。年齢的には有り感。いや、いや、わたし的にはもうちょい精神年齢上だって。自分では見た目と同じ13歳くらいは。プラス5年くらいはしても良いでしょ。物心つくのその歳くらいだし。
前のNTR事件で実際のメンタルは8歳くらいしかないの思い知ったけど、前世の人格に関わるもの以外の知識はあるんだしさ。あれぇそれでもわたし13歳でシャルさん10歳の外見……見た目的には行けそうなの。
そしてわたしたちは不安に思いながらも愛しの我が家に転移魔法で一旦戻った。シルフィちゃんに「えぇ」って戸惑った顔されたよ。なんで疑うの。
いくらなんでも見た目が若すぎるよ。
でも愛に歳の差とか関係ないの解るけど。
結局、疑いは晴れず、ぎくしゃくした昼食になったのだった。なんで、いくらなんでも本当にないって、そんなハーレム展開。もはや犯罪じゃん。




