第八話 妖精騎士アイギスさんと月花草と祖森妖精の森祭司(3)
積雪で地面が白一色で埋まる森の中。
わたしとセレスティナさんは森中を歩いていくつか月花草の埋まる場所を発見してた。
「ある程度目星はついてるって聞いてましたけど結構簡単に見つかりますねー」
「見つけるのは簡単でしょ。面倒なのは花が咲くかどうか。後は持って帰るときでしょ」
雪の中に月花草は埋まってるんだけど蕾の状態で突き出てるから一目で見分けが着くの。
セレスティナさんがしゃがんでつぼみの月花草を珍しげに眺める。
「魔力を溜め込んでるから魔力感知できるならもう素人でもこれしかないって分かるでしょ?」
「……そうですね〜。これは高値で売れそうですね。でもこの状態だと持って帰っても意味ないんですか?」
「それ、私も前にばあちゃんに聞いたら"色"が付かないって。月花草だから月の魔力を浴びた状態じゃないとただの魔力草だって怒鳴られたよ」
「…………アイギスさんこれ持っていったんでしょぉ?」
セレスティナさんが微笑みながら応える。そうなんだけど……私の心臓の動悸は原因それじゃなくて……
私は恥ずかしげに顔をプイッと背ける。
「なにも怒鳴ることないじゃない」
「別に恥ずかしがることありませんよぉ。アイギスさん」
うん、違うよ。原因はセレスティナさんが微笑んだ顔見たからなんだけどね。
女の子の口調で喋ったりしてるとなぜかセレスティナさんの大人っぽい姿にやられるの。……男の子みたいにしてるとそうでもないんだけど。
「え〜っと。これで見つけたの六ですか。十は見つけたいんですよね」
「そ、そう。十個くらい見つけて三、四個くらいは夜に花咲かせると思うから」
「じゃ、お仕事がんばりましょう」
と、セレスティナさんが立ち上がり、
「……でも今日は本当に接敵しませんね。ここの魔物そんなにおとなしいですか?」
あ、言うの忘れてた。
「昼間だから夜よりは……私が居るってのが大きいけど」
「……………やらかしたんですね。弱肉強食の掟、叩き込んじゃったんですか」
「…………まあ、そう。むしろ向こうが怯えてるくらい。わたしが出入りするからおとなしくさせた方が楽でしょ」
「完全に強者の理論ですぅ。もうなんか想像するだけで涙目なっちゃいますよ」
普段出入りしない森ならわたしもそんなことしないよ。
けど、この森。月花草のような霊草だとか他にもあるから魔物に覚えてもらった方が楽なんだよね。
「結構強いの多いから毎回スニーキングミッションは面倒よ」
「アイギスさんここの主なってません?」
「いや。ここはちょっと特殊で……主っぽいやつ見たことないわ」
「そうなんですか。……今は考えても仕方ないので次行きましょうか」
「だ――」
と、わたしが返事しようとした瞬間に森中がざわめいた。わたしとセレスティナさんはすぐに警戒に入って軽く身構える。
「アイギスさん。騒ぎの元は遠そうですけど……」
「こっち来る。……気を付けて!」
わたしの技能〈精神感知〉で反応捉えたと思ったらそいつが直ぐにやって来た。
茂みの中から飛び出して来たのは、子どもみたいな体躯の半妖精。
わたしと目が合う。視線で威嚇しながらわたしは剣を鞘から抜いた。盾は持ってる。
「――〈鮮血妖精〉!?」
「……わたしを知ってる馬鹿のようね。そこ動くなよおまえ」
いきなり出て来た半妖精にわたしは殺気を浴びせる。警告無視したら確実に殺すぞってね。
「待て待てここでちんたらしてたら、後ろの連中に追いつかれる」
焦ったように少年みたいな半妖精が言い訳しながら、逃げ場を探して視線を動かす。
こいつ熟練の盗賊だな。冒険者ギルドで見たことない。半妖精って、見た目は子どもでも、人間の倍くらい生きる種族だから、30か40代でもおかしくない。
「月花草を置いて行ったら見逃してやる」
「馬鹿言え、なんの為にここに来たとおもってやがる」
「なんの為にここが禁足地か知らない? おまえみたいな阿呆が出入りして森を踏み荒らすからでしょ」
「お上の言うこと聞いてたら食いっぱぐれんだよ。なっ見逃してくれよ。分け前ならやるからさ」
ヘラヘラ笑いながら喋る半妖精を見て、わたしはもう殺る事に決めた。多分、馬鹿だから自分が殺されるようなことやってると解ってない。
意思決定早いかも知れないけど、精神感知にこちらにやって来る反応が来ていて時間がないと思った。
……んだけどちょっと遅かった。
前に銃弾食らったときと同じ速さで森の奥から攻撃が、飛んで来る。
わたしは咄嗟にセレスティナさんを庇って幾つも飛んで来た鳥羽を盾で弾いた。
そして、ハーフリングの野郎がどさくさに紛れて森の茂みの中に。
「くそっ。逃げやがった」
「アイギスさん! この攻撃、梟熊ですか!?」
「そうだよ。反撃しないで」
盾で防御しつつあの半妖精野郎に苛立つが後だよ後。当然、落とし前つけなきゃならないんだけど。
『オラっ。お前らわたしに喧嘩売ってんのか。姿見せろや! 妖精騎士のアイギスさんと知っての狼藉か!』
と、わたしは〈妖精言語〉で森中響くくらい怒鳴りつける。
こっちも苛立ってるから丁度良いくらいに殺気が乗ってたようで、羽とばしてくる攻撃が直ぐに止んだ。
ただ、出てくるのに時間が掛かってる。戸惑いと、困惑、誰が行く? と相談みたいな感情が伝わって来る。
わたしもあいつ追わなきゃならないからまた叫んだ。
『おまえら全員で来い! 直ぐ来たらチャラにしてやる! おとなしく出てきたら怒らん!』
すると茂みの中からぞろぞろ梟熊がやって来る。その姿は人間大の梟だ。反応があった10匹全部出てきた。
そして、鳥が顔を動かす動作と同じく首を斜めに傾けたり素早く顔を仲間に向けたりしてる。
これ会話してるの。仲間内で。
なんとなく会話の内容も分かるの。そしてこいつら妖精じゃないっぽいんだけどなぜか〈妖精言語〉が通じるっていう。
『出てきた』
『どっする』
『あいつ追わなくて良い?』
『わからん』
『でも赤い人怒らすと怖い』
『仲間うちで相談してるとこ悪いんだけど。あいつ追ってたのはなぜ。お前ら月花草には興味ないんでしょ』
すると仲間で相談するようにジェスチャーと人間じゃ聴こえないくらいの声だしてオウルベア達が応えるの。
『あいつ縄張りきた』
『食い物盗ってった』
『新顔、怪しい』
『ようわからん』
『アイギス仲間?』
『いや、仲間じゃねぇよ。わたしの隣居るのは仲間だ。オーケー理由はわかった。後でわたしが話し付けに行くからお前ら追うな』
あの半妖精、朝になるまで待って開花した花持って行ったのわかるが梟熊の縄張りで知らずに仕事したようだな。
『他の仲間伝えた』
『あいつ追ってる』
『顔見せろアイギス』
『引き上げて、良い?』
『ああ、後で行くから。じゃあなおまえら』
と、人間大のフクロウの一団が森の茂みの奥へと去って行く。デカい図体なのに動き速い。わたしの知る限りこの森で一番強い連中だ。
まぁ、わたしのが強いんだけどな。
「聞いてましたけど本当にお話しできるんですね」
推移を見守ってたセレスティナさんが警戒を説いて戦鎚を下ろしてた。森の魔物で一番厄介と言われてるのがこの梟熊だもんね。
弾丸みたいに羽飛ばしてくるわ。翼の先端が鋭くてその翼で斬りかかってくるわ。魔法すら使ってくるとか見た目と違って強敵だもん。しかも群れで行動してくるから一騎当千の練達級の冒険者でも単独では危ないって聴くしね。
他にも強い魔物一杯いるけどとにかく数で襲って来る敵って単独で強い敵よりも面倒だから。人間なんてその最たる例でしょ。
「私、初めて見ましたけど。あれが古代魔法文明時代の生体兵器なんですね」
「え、その話し初めて聞いた。あいつら合成獣なの?」
「キメラかどうかは分かりませんけど。……古文書に載ってますから。昔の兵器として生み出されたのは確からしいです。――でも、アイギスさんさっきの人追うって言ってませんでした?」
「どのみち先周りしないと駄目だけど。……急いだ方が良いか。事情後で説明するから」
と、わたしはセレスティナさんの手を握った。
そして転移魔法〈星幽転移〉を使って二人で空間転移。
幽体化したわたし達が星空のような世界の星幽界を渡るのは一瞬。直ぐに森の外れまでやって来た。
そしてそのまま森に入る。
この森では魔法に敏感に反応する魔物が大半だ。
だと言うのに月花草の魔力を隠さずに逃げ回ったら……
「あの阿呆が魔物ども怒らせて食い殺されてたら問題ないんだけど生き残って村まで来たら……」
「解りました。よくある典型的な冒険者あるあるですね」
所謂、魔物引き連れってやつ。
あの阿呆みたいなのが多くて昔、村壊滅した事があったらしいから禁足地になってるの。つまり奴は確実に仕留めないと駄目って訳。
ギルド組織なんだよね、うちら。人の縄張り勝手に好き勝手させたら他の冒険者と悪党どもに示しつかないんだよ。
ああ言う手合いに好き勝手させたら迷惑被るのわたし達、冒険者だけじゃないんだよ。
現に今、一般人の皆さんに数パーセントの確率でもご迷惑掛ける可能性があるの。
確率外れたら、なんともないから生命取るほどじゃないとか考えるのは赤の他人だけだよ。
何処ぞの馬鹿のおかげで自分の家族が死ぬか、生活基板が失われるの。そんな危険な事してるんだよ。
「……まったく余計な仕事でしょ。……まあわたし達もギルマスに話し通してるけど役人の許可までは貰ってないからねぇ……」
「……解りました。むしろやらなきゃ駄目ってやつですね。戦鎚唸りますねぇ」
そしてわたし達はヤツの反応を捉えて接敵するように向かったのだった。




