第八話 妖精騎士アイギスさんと月花草と祖森妖精の森祭司(1)
森。妖精騎士のわたしアイギスさんとは切っても切り離せない場所だ。もうイヤになるくらい経験積んだ。
だと言うのに冒険者ギルドで仕事探すといつもこの場所をオススメされる。何処の冒険者ギルドに行ってもまず森を勧められる。執拗なくらい勧められる。
理由は単純。わたしがエルフというだけで。
わたしは神祖の妖精王とか言う、大昔にこの世界に居た神さまで、わたしの姿も見た目はエルフなの。
騎士らしく赤基調の華やかな鎧装備してるけど容姿は12、3歳くらい女の子だよ。
そんな子供のような容姿でも冒険者ギルドの連中は森の仕事を容赦なく勧めて来るのよ。エルフだから森入れるでしょうって感じでね。
正直言うね。
もう飽き飽きしてるよ。冒険者の仕事の大半が森関連だけどもうお腹一杯なんだよ。
おまえらエルフだからって森イメージ持ち過ぎだろ。余り顔馴染みじゃないギルドだと、森の中入れる奴が少ないのか、何も聞いてないのに助かったとか言う顔しやがるから、余計に腹立つんだよね。
この異世界の森の難易度、魔物いるから普通の人間だったら死を覚悟して臨むような死地だぞ。気軽に勧めて来るんじゃねぇよと毎回思うんよ。
まあ今回は冒険者ギルド通してない依頼だけどさ。
自分で納得して引き受けた仕事だからきっちり仕事するんだけど。結局、割りの良い仕事は森の中だったりするんだよね。今回は別の事情もあって張り切ってるけと。
「アイギスさん、あれはなんですか。木の周りをぐるぐるっと巻きついてるのは」
今日も、わたしの相棒の戦神司祭で混血妖精のセレスティナさんと一緒なんだ。金髪碧眼で見た目が14、15くらいの女の子。
「あれ蛇の魔物だよ。木に密着して擬態してるの。見た目は完全に木の一部でしょ。ちょっと違和感あるけど」
「そうですね~。でも太いツルが巻きついてる感じで魔物とは思えませんね。私の妖精の眼でも一見では見分けつかないくらいです」
「あいつ冬眠して生命反応さえ木と一体化してるから無理ないよ」
「警戒した方が良いです?」
「いや。むしろ警戒した方が危険だって。殺気だとか不穏な空気を感じたら森の魔物って急に敵対的になってくるの。今は冬だから静かだけどここで騒ぎ起こしたら……」
雪が積もる幻想的な森。
隣にいるのは冬の妖精のような肌の白いエルフの女の子。もう、ファンタジーな世界だよね。
けど、ここで戦闘おっぱじめるとそのファンタジーな世界が一瞬にして魔物に襲われまくる地獄へと変わるんよ。
「真冬だから少しはマシだけど四方八方から襲って来るよ。気配だけはわかると思うけど……」
森中の至る所に隠れ潜んでる魔物達。ここの魔物は危険を感じない限り襲って来ない情緒ある連中だけど。
「そいつら全部来るから」
「…………」
セレスティナさんが口許をきゅっと擬音出そうな感じで引き締める。新人の冒険者みたいな可愛い反応してる子だけど実は"練達"級の冒険者だから、すぐに危険性を悟ってくれる。
これが実力不足のバカな冒険者だと肌感覚でも理解してくれないから苦労するんだよね。
「……大丈夫。わたしたちなら襲われても余裕で乗り切れるから。そんなに緊張しなくても良いよ」
「す、すみません。アイギスさん。足引っ張っちゃって……」
わたしはセレスティナさんに歩み寄る。彼女の吐息が掛かるか掛からないかくらいの距離まで。
そして優しくささやくの。妖精みたいにね。
「安心してね。わたしセレスティナさんを足手まといだとか思ってないよ。本当に感謝してるんだ。わたしみたいなのに付いて来てくれて……本当に」
「アイギスさん……わたしの方こそ本当に……」
と、二人して良い雰囲気作る。
わたし達って恋人だよ? てかセレスティナさんもすぐ流されちゃうからね。でも……本当にわたしの大切な人でただの冒険者の相棒じゃないんだ。
大切な恋人。
でも、もう一人いるけどね。そこは置いといて。べ、別に浮気じゃないからね。公認だよ。
てか、わたしの恋人二人がまた恋人同士とかもうわたしでも良くわからない状況になってるから。
このアイギス。もう、考えることを辞めたの。
あの二人してベッド入っててNTRされたとわたしが錯覚してメンタルブレイクされた時から悩んだ結果。もう自由恋愛で良いじゃんと思うようになった。わたしが欲しかったのは家族なんだ。家族同士がラブラブでも問題ないよ。喧嘩されたりギスギスされたりされるよりよっぽどマシじゃん。
ただ、このまま見つめあうとそのままイチャイチャしそうになるので名残惜しいけど離れます。
森の魔物どもにこのラブラブな雰囲気が通用するとも思えぬ。
「あ、あのすいません。気をつかわせちゃって」
「格好良いでしょ? 妖精の騎士らしくて」
「…………とっても。でも、今はまずいですよ~。緊張ほぐしてくれるのは有り難いんですけど」
「だよね~。前に襲って来たやつ居たからねぇ」
その襲って来た魔物はわたしが一瞬で切り捨ててセレスティナさんが〈焼殺〉の魔法を使って消し炭になったけど。
「でも、本当にすいません。森になれてなくて。妖精人に有るまじき都会生まれです」
「ああ、やっぱりセレスティナさんでも森勧められたんだ……」
「……今ではそうでもないんですが……駆け出しの頃は……勧められましたねぇ……」
と、遠い目をするセレスティナさん。
これが混血妖精だとまだマシらしんだけど。もう見た目が完全にエルフだと森に行かせろってことにしやがるんだよ冒険者ギルドの連中。セレスティナさんは混血だけどハイエルフとハーフエルフのクォーターだから、もう見た目がわたしよりエルフしてるよ。
エルフの冒険者の苦労を推して知るべし。
「でも、アイギスさん。今回の依頼はやっぱり妖精人でないと厳しいですけど」
「…………エルフだからって有利……かなぁ」
「いや。断じて有利ですって。まず今回の目的の品の月花草が夜しか花開かないじゃないですか」
「暗視の魔法あるじゃん。魔法の装備も」
「その魔法に反応してくる魔物いる時点で詰みますよぉ。魔法掛けながら森中練り歩くのも疲れますし」
「ああ、掛け直す時が危険かぁ」
「それに魔法の装備って高額ですからね。エルフだったら基本技能だけで補えますから」
「わたし達みたいに昼の間に探して目星つけて転移魔法は……」
「転移魔法のレベル高すぎますねぇ。その魔法使えるならここで冒険者しなくて良いくらいです」
そう、今回の依頼は報酬は良いんだけど難易度が高いの。魔物事態は比較的おとなしい連中が多いんだけど、騒ぎ起こすとブチ殺しに掛かって来るのは他の森と変わらない。ただその魔物が他の森より強いっていう。
「じゃあ、この森に関してはもう潜入探索一択かな。普通は強行突破しないんだぁ」
と、今度はわたしが過去の過ちを見つめ遠い目をする。
「それできるのアイギスさんくらいですよぉ」
「けど、慣らせば奴らはおとなしくなる。逆に考えようセレスティナさん。ただひたすらに倒しまくれば弱肉強食の掟に連中は従ってくれるよ」
「だから、それできるのアイギスさんくらいですってば。私は自信ありませんよぉ」
「セレスティナさんでも無理そうなんだね……」
と、私は自分の強さに物を言わせたパワープレイで乗り切れろうとしてた事を戒める。"伝説"級に相当するような実力のセレスティナさんで無理そうならこの森よほど難易度高いんだと。
「はっきり言って報酬割りに合わないくらいですよここ。潜入探索専門の冒険者が単独で仕事こなした方が成功率たかそうですよ」
「だと思うよ。わたしも自分の強さでいざとなったらごり押しできるから請けてるけど……」
「……ああ、やっぱり私ついて来なかった方が良かったんですねアイギスさん」
「うん。バレると思ってた」
「いっつもそれですよね〜」
と私たちは二人して笑顔を見せる。もうそれは承知の上で組んでるの。実力に差があることぐらい。
普通の冒険者の間柄じゃないから。
気を張る必要もないからね。
「じゃあ助けてください。私も精一杯頑張りますから」
「…………」
「なんでそこで黙っちゃうんですか」
「あのね。セレスティナさんもわたしと同じ冒険者と考えたらなに言ったら正解かなって。わたし前から言ってるけど口下手なんだって」
「女の子の口調で喋ったらどうでしょう? アイギスさん途端に饒舌になりますよね」
それするとわたし……セレスティナさんになぜかときめいちゃうのよね。別に良いんだけど……
「そう。じゃ行きましょうかセレスティナ」
「あ、お姉さんぶってますね〜」
「冗談言わない。この口調で仕事すると小生意気な小娘って感じになるからあんまり気が進まないのよね。怒らないでよ〜」
「いえ。お友達できたみたいでたのしいですよ」
「そうそう。友達感覚もたのしいよね。っと仕事忘れそうになるから先行きましょう」
そしてわたし達は先に進んだ。月花草を求めて。
というよりお金を求めて。
即物的なんだけどもうわたしも身を固めるから冒険にロマンとか幻想求めないよ。
けどこういう時に限ってファンタジー色溢れる出来事起きたりするから。異世界って不思議だよね~。




