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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第1章 星幽界の彼方から求めて
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想い出話 神祖の妖精騎士アイギスさんと郷愁の彼方へその①



私がやってるとあるオンラインゲームは間口の広さで知られたMMORPGだった。

まず、プレイ方法に節操がない。


普通にモニター画面を見てコントローラー持ってゲームできるし、スマホからでもプレイできるという気軽さだ。


但しやり込むならブレインコンピュータインタフェース(BCI)が組み込まれたVRマウントセットによる脳内操作(思考読取り操作)が必要になるんだけど。

まぁ、自分の脳を電脳化してプレイする奴もいるけど流石に一般人には手が届かないので……


私も最初はスマホから気軽にプレイしてたんだ。

所がズルズルとハマり続け今では電脳化すら考慮に入れ始めた。いわゆる廃人って奴で……


そんな私は今日も今日とて、ゲームキャラクターでもう己の分身のような"アイギス"として修羅のような戦いに身を投じていた……





「あーもう。こんな時にあいつら組んのか。完全に狙ってやがったな」


今、やってるゲーム内ではプレイヤーがより集まったクラン同士の陣取り合戦の真っ最中。


いくつもの次元世界の惑星やら地域やらを制圧して、クランの支配地域を増やして自分の所属するクランの勢力拡大を目指すという趣旨のクラン戦PvP(プレイヤーvsプレイヤー)中だった。


「おい、お前ら。さっさと戻って来なさい! 本拠ホームが狙われてんの。ここ落とされたら全部持ってかれるでしょーが」


ねりまき「なんでそっちに敵いんの」

ジ・オ「こっち撤退むり。アルダークの奴らに猛攻受けて落とされそ」

タブタブ「今、撤退開始。到着まで十五分掛かる」

ユッキー「無理だよアイギスちゃん。今仕掛けてるのにみんな戻れないって」

センヌキ「ツンデレ神ならツンデレ神ならやってくれるでござる」

牙狼さん「ああ、あとはオレたちのツンデレ神に任せ――」


「ええい。どいつもこいつも役に立たない。あとツンデレ神とかやめろ! それとタブタブチームは5分で来い! こっちは残り15分の終了時間ゲームセットまで保たないぞ急げ!」


タブタブ「ギリギリ陥落には間に合う」


「死ね! タブタブ。みぃさんとアマテラスさん迎撃準備。NPCは外に出しちゃって。司令室にアマさん。みぃさんサポート。私は突っ込むから」


それだけ本拠ホームに居た仲間のプレイヤーに言い残して私は迎撃に出た。

このクラン本拠ホームの防衛設備と残存戦力だと"やつら"相手だと時間稼ぎがせいぜいで守りに入ると落とされるのは時間の問題。

打って出るしかないって奴。

私はアイギスを操作して大急ぎで本拠ホーム前の沼地に陣取る憎きあいつをブッ倒す為に突っ込んだ。


その間にも本拠上空に強襲を掛けて来た敵艦隊からガンガン本拠にミサイルやら艦砲射撃やら魔導砲が撃ち込まれる。うちの弱小クランの防衛設備はカスだ。魔法障壁は後5分耐えきれるかどうか。


「上等じゃん。こっちの防衛設備の貧弱さ狙って終了間際に攻めこんで来るとか」


私は無意識にセリフを呟く。実際に発音せずに脳内で呟いた言葉がそのまま、アイギスに設定されたボイスでゲーム中に再生される。

ちなみにこれが私がツンデレ神とか不名誉な渾名で呼ばれる理由の一つだ。私はしょっちゅうモード切替忘れて本音がそのまま出ちゃうので……


もう、諦めてるんだけどな。


そして私は本拠の外に出ると沼地に陣取っていたあいつに一直線にスキル〈幻想妖精〉を使ってワープして辿り着いた。取り巻きの悪魔と天使のNPCとか無視だ。

もう、時間がないのでコイツを倒すしかない。


そう、敵のクランリーダーの――


「ジェラルダイン! よくもぬけぬけとやって来たわね。今日こそギッタンギッタンにしてやるわ!」

「ギッタンギッタンなんて言語表現初めて聞いたな」

「うっさいわ!」


と、言いながら私のキャラ、アイギスは元ダークエルフの暗黒騎士ジェラルダインに既に攻撃を仕掛けていた。

ゲーム中のキャラの操作は自由自在。

現実の人間の動きなら全部できる。更にゲームなので当然それ以上の動きも。

このゲームが格ゲーと揶揄される所以ゆえんである。接近戦だと精密な操作が要求されるのだ。


そして私はジェラルダインと切り結ぶ。

流石、サービス初期からの古参組で手強い。私も小学生のランドセル背負った時からやってるけど。十年以上やってるジェラルダインは慣れきっている。


「腕を上げたな。……しかし、良くもまぁそれだけ装備を揃えたものだ」

「喋る余裕があるのが腹立つな。上から目線かよ。この古参野郎!」


上手いプレイヤーだとキャラクターの動作パターンをインプットして何十通りもある組み合わせから最適のパターンを選択して戦闘してるの。

特に目の前の暗黒騎士はやたら上手い。

なので喋る余裕ができるっていう。余計腹立つな。


さすが、掲示板で晒されて知らない奴がいないくらいの準廃。特に人の獲物横取りやら、今みたいに終了間際になって漁夫の利狙って来るとかダーティプレイしてるから有名どころだ。


「……しかし。盾役タンク一人では火力不足だな。私でも充分時間稼ぎができているぞ」

「くそっ。攻撃当たらねえ」


アイギスの防御力にものを言わせて、ジェラルダインを捨て身で攻撃にしてるのに、相手が的確に攻撃を捌いて大ダメージを与えられない。

並みのプレイヤーならこれで沈むぞ。


しかし相手は並みではなかった。特に装備や種族、職業構成がほぼ最高の品揃え。それで腕前プレイヤースキルもあるんだから強いの当たり前っていう。


ただ、コイツの装備の品揃えの良さにはカラクリがあった。


「知ってるぞ、てめぇ。子ども手懐けて金策その他諸々もろもろさせてるらしいじゃない。2人でクランとか良くやるよね。恥ずかしくないの。大人として」

「代わりに課金はしてやってるぞ。持ちつ持たれつだ」

「十歳の子供こきつかうとかどういう神経してんのよ」

「煽るのも良いんのだが、戦闘が雑になるようではな」


と、ジェラルダインの最強の魔剣メレドカレドヴールフの一撃がアイギスわたしを袈裟斬りに撫で斬ってかなりのダメージを与えてくる。

防御捨てているとはいえ、油断した。


「――っ! もう! 幻想魔剣ファンタジアンがあれば負けないのに!」

「装備に頼るようでは未熟だぞ」

「おまえが言うな!最強厨がっ!」


けど本当こいつ強いんだよ。

もっと強い人もいるには居るんだけど種族と職業と装備の組み合わせ次第の構成ビルドに、最適化された戦い方って有るんだけどコイツはそれを極めきってるの。


全てが汎用的に強いっていうこのゲームの理想系の一つの戦い方してくんだよね。このジェラルダインって人。私もそれ目指してんだけど、装備と腕前が足りてねぇ。


アマテラス「アイギス。最終防衛ライン一歩前まで敵が来た。もう保たないぞ」

みぃみぃ「なんかあっという間に来ちゃて」

タブタブ「陥落にすら間に合わない……だと」


「嘘っ!? だってまだ5分くらいしか立ってないでしょ。後、タブタブ、発言してくんな!」

「解ってるだろうが私は囮でな。アリーシャを甘く見たな」


と、ジェラルダインがもうこっちを攻撃せずに余裕モードだ。私が今から本拠ホームに戻っても遅いってか。てか、侵攻速度、速すぎだろ。


私はジェラルダインが攻撃して来ないので、本拠の状況を確認する。

魔法障壁は今、破られた所。

けど、先んじて強襲揚陸艦三隻がうちの本拠ホームに突っ込んで来て戦力投入されてた。天使と悪魔が続々うちの本拠ホーム内部に土足で侵入。防衛設備やNPC達の健闘むなしく陥落寸前だ。



「やり過ぎだろお前ら。艦隊戦力だけでオーバーキルしてんのに、揚陸艦まで投入かよ」

「こっちはそっちの防衛設備の事までは知らん。最善を期したまでだ」

「こっちは最悪よ。また直すのに金掛かるじゃん。てかアリーシャがチート過ぎるでしょ」


いくらうちのクランが弱いからって、レベル最大のクラン防衛用NPCは揃えてるし侵入者対策の設備だってあるんだよ。こんな簡単に内部から落とされる筈ないって。


「電脳児って本当? こんな強くなるの電脳化してプレイすると」

「いや、あいつが異常だな。ただ単に電脳化してもアリーシャほどは無理だろう。ニューエイジって奴だ。3歳から全身義体らしいからな」


本拠ホーム内の最終防衛線で、金髪碧眼の幼女がこっちのクランのNPCを近接戦闘で殴り倒してくる。しかもNPCの細かな指揮まで同時に取っているようで、プレイヤーの一団のように隙がない動きになってる。


で、長期戦防止にヒットポイント上限が1/10に設定されてるので簡単に私のクランのNPC達が倒さていくのだ。


こりゃ駄目だ。プレイヤーでアマテラスさんとみぃさんいるけど、2人ではとても太刀打ちできそうにない。


「まあ、諦めが肝心だな」

「うっさいわ。勝った気で居るなよ。まだ勝負は付いてないって。後5分でお前殺ればいいんだろ」

「無理だと思うが……」


と、私アイギスの周囲をジェラルダインのNPCの悪魔どもが取り囲む。


「おい。ヴィネージュ。アルガトラス。バーギアン。何処いった。私のNPCは……」

「どいつか分からんが、出撃して来た奴らなら纏めてうちの艦隊で吹っ飛ばしたぞ」

「お前んとこのNPCと交戦してた筈……ああっ!それも纏めて全部か!」

「もう終了間際ゲームセットだからな。」

「ぐぬぬぬ」


そして私が自分の負けを悟って、アイギスの口から悔し紛れの言語化不能な発言をしていると中空に投影モニターが浮かび上がった。

映像に現れたのはアリーシャだ。憎たらしいくらいのめっちゃ笑顔。


「ヒャアハッー。こっちはもう終わりそうジェラルダイン」

「そうか、まぁ最後まで油断せずにな」

「おう、本当に子ども手懐けてんな」

「わぁ、アイギスちゃんだ〜ひゃあ」

「アリーシャ……。こんな悪い大人に騙されちゃだめ。うちのクランに来なさい」

「ジェラルダインに付いて行けば何も問題はない。アイギスちゃんも来る?」

「誰が行くかこんな廃人んとこ」


そして喋ってる間にうちのクランの本拠ホームが陥落する。時間終了ゲームセットまでに取り戻せれば、負けにならないけど。うちのクランの連中が間に合わない。


「ああ! もう、守りに入れば良かった。なんでこんな奴らの為にうちが負けるのよ」

「まあ、ほどほどにな。あまり入れ込みすぎても仕方あるまい」

「うっさいわ。勝ち誇るんじゃない。覚えてなさいよねジェラルダイン!」


すると、ジェラルダインが両肩と両手を軽く上げるジェスチャーで応じて来る。嫌味か。


「まぁ、うちのアリーシャと知り合いなら仲良くしてくれ」

「あんたはあの子の保護者か何かか」

「まさか、私もあいつが本当に子どもだとは思ってなくてな……少しばかりゲームに入れ込みすぎだと心配している所だ」

「…………」


あのアリーシャが実はゲームの姿そのままで小学生やってたっていう掲示板スレッドに晒された話しか。さすがにまずいってんで画像消されたけど。


「電脳児だから学校行っててもプレイできるとか羨ましいくらいなんだけど……」

「そっちも相当入れ込んでるな」

「うっさいわ! あんたに言われたくないわ!」

「まぁ、お互いさまか。じゃあな」


気付くとクラン戦終了。結局、今までの頑張りを全て、ジェラルダインとアリーシャに持っていかれ草臥くたびれ儲けだった。





私は後で役立たずのクランの連中に八つ当たり。

もうちょっとお前らが強ければこんな屈辱味わなくても済んだんだから。


私のせいでクラン抜けていった連中も多いけどさ。

残った連中で楽しくやるのも悪くはなかった。

ただガチ勢の私に付いてけるのがタブタブの野郎しかいないってのが問題で、装備や種族、職業クラスの取得に他所のクランの力借りないと駄目なのが難点っていうね。



……この後、ジェラルダインやアリーシャにも手伝って貰ったんだけど。当然、貸し借りの話しで代わりに連中の馬鹿にも付き合わされたよ。


あんにゃろ、付き合えば付き合うほど阿呆な事やってるの解ったからな。

クラン同士でいがみ合わせるとか場外プレイ多すぎだろ。そりゃ晒されるわ。しかもそれ愉快犯でやってるんじゃなくて、レイドボス横取りしたりする為の布石とか。自分たちの利益目的だったしな。


まぁ、私もその恩恵に預かったおかげで幻想魔剣とか手に入れて、ほぼ最強の装備と種族職業の構成ビルドに出来たんだけど。


しかし、邪魔なクランを陥れたりとやりたい放題だったな……。タブタブとか牙狼とか私のクラン連中も手伝ったりしてさ。

ただ、そんな禄でもないことでもそれは後で思い出すと本当に懐かしい大切な……


「ああ、なんで、私、最後にこんなこと……おもいだすんだろ……」


とても大切な……


「…………」


もう思い出すこともできないけれど。

最後に、わたしはあいつらに会いたいなと思った。


それはもう叶わぬ夢で。

でも、例え私が忘れても。

忘れられるのは嫌だった。

誰にも忘れられるのは嫌だったの。


"そうだね。なら、ここから始めよ。わたし達の物語を"


私は……やっとまた始めることができるのだ。

あの郷愁の彼方の思い出の向こう側へと。

また歩きはじめることが。


それだけが嬉しくて……

あとジェラルダインにタイマンで勝ったことがないのが心残りで。


…………以外に覚えてるな。おい。




まあいいや。もう私の物語は終わって始まった。

後は私がわたしを見守るだけだ。


ただ、たまには私の話しをしても良いよ。


え? もう覚えてない筈なのになんで話せるのかって。ジェラルダインとアリーシャと接触したからだよ。もう私は忘れてしまっても。あいつらが覚えてるから。こちとら神祖の妖精王。精神世界面の王者だ舐めんなよ。


因果律に干渉して記憶の復元くらいできるんだよ。この私じゃ自己内面世界にしかできないけど。


それにアリーシャ呼んだの私だよ。ほぼ無意識レベルでやったけど。そのおかげでやっと今、自我っぽいもの形成できてな。記憶を復元する為にアリーシャとジェラルダイン、二人の存在が切っ掛けみたいに必要だったんだ。



そういうことでわたしの中に居座るからよろしくね。ちなみに私は復元した自我だから、本体乗っ取るとかはできないから。そもそも私はアイギスの一部であって別人格とかじゃないからね。



今のアイギスが前のアイギスの記憶を思い出す事も断片的にはできなくはないけど、今は無理。必要とも思えないから。復元できたものは私の自我形成に利用しつつ封印よ。私はもう忘れないように思い出を綴るだけの存在よ。


つまりバックアップ係。


そう、もう忘れない為に。あと大切な記憶を掘り起こす為に。アイギスさんには内緒にしてね。

ぶっちゃけ私メタ的な存在じゃん。

まあ、たまには出てきて物語を語りますか。


神祖の妖精王と妖精騎士のおとぎ噺を。


では、また何処かで。


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