第七話 妖精騎士アイギスさんとの幸せな家族の作り方(6)
わたし妖精騎士のアイギス。
今とても困ってるの。恋人が二人できて、更に引き取った3歳の男の子に赤ん坊までいるの。
これって必然的にわたしが一家の大黒柱になるんだよね。経済的に困窮してるって訳じゃないんだけど養うには物凄くお金がいるの。
しかも結婚式するって話し出ちゃてて恋人のシルフィちゃんとセレスティナさんが謎の幼女アリーシャちゃんと話し合いしてんだよね。
なんか式を挙げる為に教会を建てるとかいう話しなってるんだけど。必要経費が金貨一万とかリアルな数字を出してきて、わたし怖いんだけど……。
「で、これどうなってるのジェラルダイン」
と、わたしは冒険者ギルドのカウンターで落ち合った暗黒騎士に聞いて見た。あの幼女、見合いばなし持ってきたオバさん並みに話し勧めてくるんだけど。
「…………やはりもう少し猶予が欲しいか」
「わたし……8歳ってカミングアウトしたじゃん。普通は成長待ってくれるよね……?」
「アイギス。来年の春で9歳。再来年で10歳だな。そのあたりで妥協するよう説得できないか」
「…………」
わたしは顔をカウンターに目を向けて俯いた。
初めて出来た恋人のシルフィちゃんと愛を育んでた時はもう雪解けの季節で大人なってる。ゴールインだ! って張り切ってたんだけどね。
あの疑似NTR食らってトラウマ引き起こされた事件で自分がまだ子供だって思い知らされたばかりなの。本当に自分が8歳くらいのメンタルしか持ってないんだって。
「正直……10歳で結婚ってどうかと思うの。二桁になったら良いって訳じゃないよね。まだわたし自信持てないよ……あの二人を、その、満足させる、自信が……」
「………………」
「それに……まだ恋人気分味わいたいな……でもシルフィちゃんとセレスティナさんが既に新婚さん気分なんだぁ。わたし最近むしろ子供気分なのに」
あの後わたし、自分が無理してたって気がついちゃって……そうだよね。
無理矢理にでも大人にならなきゃ冒険者稼業とか裏稼業の奴らとやり合えなかったからだよね。毎日、生きるか死ぬかって気張ってさ。
ちょっとセレスティナさんのこと言えないくらいわたしも自分のこと解ってなかった。
「………つまり私にどうしろと?」
と、ジェラルダインがいつもの褐色肌で美人な闇妖精の鉄面皮な顔を強張らせながら聞いてくれる。
「ごめんなさい。ジェラルダインがこういう話し苦手なの知ってる。でも頼れる相手がいないの」
「いや、それは構わない。……仕事だ」
「じゃあ、それとなくで良いんだけど……あの3人の浮かれ気分を止めて。特にあの幼女を止めて。二人ともその気になっちゃうから」
「了解だ。さすがに度が過ぎているな……しかしシルフィとセレスティナには話さなくて良いのか」
「もちろん二人にも話して欲しいんだけど……ジェラルダインできるの」
「……やるしかあるまい。家のアリーシャが迷惑掛けてるしな」
「なら、やって。わたしじゃ無理。絶対できない」
「構わないが……10歳まで待てと釣り餌を用意する形で話すぞ。でなければおそらく我慢させることができないな。その話しだと」
「ハーケルマイン曰く、切り抜けることが重要か……オーケー。後はなんとかする」
そしてわたしはジェラルダインに後事を託した。
この後から仕事なんだ。真冬に仕事とかしたくないんだけど養う人増えたからお金がいるの。結婚資金もヤバい金額想定されてるし。
それに、この世界でもまともに子供に教育施そうとしたら、お金吹っ飛ぶよ。学校代わりに魔術師ギルドに通わせたりするとさ。今のうちからお金貯めておかないと。
だったらセレスティナさんが、「じゃあ私もお仕事頑張ります」とか言うんだけど、ただでさえわたしが狙われてるのに一人で仕事させられないんだよね。心配で。
そして丁度、ジェラルダインと別れたあと、入れ違いでセレスティナさんが冒険者ギルドにやって来た。
「あ、アイギスさんお待たせしました」
と、開口一番わたしに飛びついて来た。
「わっ、ちょ。野郎どもが見てるよ」
「見せつけてあげてるんですよ……」
本人は色気ある声出してると思ってる……
でも子供の声だから艶っぽさとかにはほど遠いの。
それに見た目も子供っぽいエルフ同士が抱きついても周りからスキンシップくらいにしか思われない。
街の年輩の人とか微笑ましいって感じで見守ってくれるよ。悲しいかな他人から見れば児童の馴れ合いの光景なんだよね、わたし達の絡み方って。
ただ、それでも恥ずかしいには違いないから、わたしはセレスティナさんを引き離してからさっさと冒険者ギルドを出た。もう、冒険者連中には形無しだよぉ。
†
さて、転移魔法でひとっ飛びして村を経由して着いた場所は森。
勿論、季節は真冬。
森の木々も積雪に埋まり、雪化粧の厚さが素顔わからないくらい厚くなっている。木々の緑葉が真っ白。
「私、こんな雪積もった所で仕事するの初めてです」
「平地じゃここまで積もること少ないって聞いたけどやっぱりそうなんだ」
「山間の場所は積もりますが王都とかはここまで積もるのは稀ですねえ」
わたしとセレスティナさんは魔法で作りだした疑似感覚の〈魔法の目〉を森に飛ばして探索中。
「たぶん、村長の話しだと雪妖精人だと思うんだよね」
「妖精族の人が家畜襲った犯人なんですかね。やっぱり」
「全身真っ白の大男でこの時期に活動するんならイエティぐらいしか思い当たるやついないなぁ。……ああ、居た」
そしてわたし達は首尾よく見つけて転移魔法で容疑者の元へ。いきなり挟み撃ちにするというチートっぽいやり方で標的を追い詰める。
『よーし。そこの雪男。止まれ。止まらないと戦鎚持った背後の戦闘狂がお前の頭を喜んでかち割りに来るぞ』
と、わたしは妖精言語でイエティに警告する。
セレスティナさんはイエティの背後で戦鎚をガンガン振り回している。
『儂らの言葉がわかるっだか』
『イエスだ。雪男。最近ここら辺の人間の村で家畜が盗まれる事件が起きてる。やったのお前か正直に白状しろ。嘘をついてもお前の頭はかち割られる』
『勘弁してくんろ。おまんま食いそびれたらオラが死んでしまうだ』
『よ〜し。良い子だ実に正直だ。今からわたしと村長の家に行って詫び入れたら助かる。嫌ならお前は死ぬ』
『なぜ謝らねばなんね。取られた方が悪いじゃなんね』
『じゃあお前をぶっ殺しても文句はないよな?』
と、わたしは剣を抜く。
返答次第で即殺だよ。
山羊2頭も3頭もかっぱらった奴に慈悲はない。殺されても良い理由はもうコイツが言ってる。
『待ってくんろ。謝ったら助かるかんね』
『謝るだけでこの渡世済まねえんだよ。詫びってのは相応のもん渡すのが筋だ。どうせ群れから追いだされた文無しだろ。働いて返せ』
その後も雪男はあーだこーだ言ってた。
けど結局、背後から戦鎚ブンブン振り回して徐々に近づいてくるセレスティナさんの威圧に負けておとなしく従った。
音速超えで戦鎚振り回してたら、相手子供でもヤバいの解るよね。音とか物凄く雪中の森に響くし。
後は村長と交渉して仕事終わりっと。
†
そして冒険者ギルドに戻って来て報告したら依頼完了っと。転移魔法があると仕事サクサク終わるよ。
「ちょっと報酬少ないけどまぁいっか。セレスティナさんありがとう」
「はい。お疲れ様でした」
と、家に帰る為に足早にわたし達は冒険者ギルドを出る。
転移魔法を使って自宅帰れば楽なんだけど街中で魔法使うのは基本はルール違反。転移魔法なんて悪用すれば脱税仕放題だからね。
だから自宅までは徒歩。二人して仲良く歩いて行く。手繋いだりしてさ。
「でも驚きました。殺さないんですねアイギスさん。討伐の依頼だったのに」
「……殺しても家畜戻って来る訳じゃないからね。働いてもらった方がまだマシでしょ」
もちろん殺す代わりに毛むくじゃらの大男のイエティ働かせればと言っても、簡単には村長も首を縦に振らないよ。
見張り役にわたしの技能で作成した羽妖精と保証までつけるってことで納得してもらったの。ちょっと報酬負けさせられたけど。
「アイギスさんが妖精の騎士さまって解りますね〜。本当におとぎ噺みたいですよ」
「一応、保証人なるからその分上乗せして働かせる気なんだけど……むしろヤクザ者のやり方じゃないかなぁ。そんなに幻想的じゃないって」
「それはそれでアイギスさんらしいですよ。義侠心って言うんですかね。仁侠ある妖精の騎士さまで」
「妖精の騎士イメージ崩れそう……極道か」
「手下に妖精使ってますからむしろイメージアップしてますよ」
「それだとセレスティナさんも手下になっちゃうよ」
「なに言ってるんですか。私はアイギスさんの奥方ですよぉ~手下どもこき使っちゃいますよ」
「…………」
「なんでアイギスさん黙っちゃうんですか」
「ごめんね。でもまだわたしセレスティナさんと恋人で居たいの……恋愛を楽しみたい」
「あ、アイギスさん……」
と、雪に覆われた街の一角で、金髪碧眼のエルフの女の子の顔が赤くなる。セレスティナさん肌白いから余計に可愛いく見える。
そして、立ち止まって求められるの。
冬だから人通り少ないけど街中だよ?
はっきり言ってめっちゃわたしも恥ずかしい。
でもわたし女の子だから解るんだぁ。
ここでしないと女の子って傷つくの、心が。わたしにそんな冷たいことできると思う? できないよ。
セレスティナさんが目潰って、ください。
って感じで待機済みなんだよ。エルフ耳が上下に動いて可愛い。でもその姿って本当に子供みたいで……多少の罪悪感が湧く。
でも結局、したよ。もう二人ラブラブだよ。めっちゃ恥ずいけど。
……そして二人して顔赤くしながら帰宅。
うん。セレスティナさんとの冒険ってもう完全にデートなんだよね。仕事中はちゃんとしてるけどそうでなければイチャつきまくりで……
わたしアイギス。今、幸せを噛みしめてるの。
女の子と冒険して、おしゃべりしながら楽しく冒険なんてこの8年……なかった気がするから。
わたしの今までの生涯悲し過ぎない? この事実だけで泣けて来る。
そして、シルフィちゃんが玄関で出迎えてくれるの。もう最近は毎回、目に来るものが込み上げちゃって。
シルフィちゃんが気遣ってくれる。
「あ、あのアイギスさん大丈夫ですか」
わたしは心配させないよう目元を脱ぐった。
「大丈夫。ちょっと幸せ過ぎて……最近いつも来るやつ」
セレスティナさんがわたしに抱き付いて来る。
「なら、もっと幸せにしますよ」
「もう、充分だからやめて。わたし泣き虫だから涙枯れちゃうよ」
そしてシルフィちゃんも貰い泣きして目元を脱ぐうの。
「わたしも幸せです……アイギスさん」
「やめて。そういう雰囲気出さないで。普通でいいから。毎回やってたらわたしが保もたないから」
「はい。そうですね。……お帰りなさいアイギスさん」
そしてわたし達は笑みを零しながら家庭を営むの。アル君の面倒みたり、赤ちゃんのお世話したり。そんな何気ない日常が愛おしくて。
わたしアイギスは今、幸せです。
†
†
きっと、それはいつかの誰かが欲しかったもの。
わたしが欲しかったもので、私が求めたもの。
わたしたちは帰って来たんだ。
この世界に。
あの星空の幻想のような世界から。
虚無の世界はなにもかも空虚で寂しくて。
わたしには耐えられなかった……
「じゃあ少し早いですけどご飯にしますね」
「うん。皆で食べよう」
「手伝いますよぉ。アイギスさんは待っててくださいね」
「うん」
わたしの心は一杯に満たされた。
満たされすぎて溢れちゃう。
「手に入れたよ、わたし。欲しかったもの。私たちが……」
それは誰かに手向ける言葉じゃなくて自分自身に。
過去の自分に。もう思い出せない、わたしに。
でもその人は別人とかじゃない。だって心の中に居るのわかるんだ。私たちの根底、魂は一緒なんだって。
何もかも忘れても。
感情だけは忘れてない。
私はアイギスは……
"誰にも忘れられたくなかったの"
「そうだね。なら、ここから始めよ。わたし達の物語を」
そう、この物語は妖精騎士アイギスさんの冒険の日々のお話。
そして星幽界の彼方から帰ってきた神祖の妖精王の物語。
二人で一人、私たち一緒のおとぎ噺の物語を。
もう忘れられないように思い出を綴って。
この妖精騎士アイギスさんとの約束だよ。
忘れずに覚えていてね。




