第七話 妖精騎士アイギスさんとの幸せな家族の作り方(4)
わたし、アイギスがもう一つの意識を星幽界から戻して現実世界に意識を戻した時にはリビングルームでジェラルダインの話しが始まってた。
わたしは最初の話しを聞けてなかった。
意識を戻した時に吐き気がするような気持ちになって心のざわつきに耐えてたから。皆に悟られないように無表情で必死に。
ただ、ジェラルダインがそれに気づいて声を掛けてくれた。
「アイギス。大丈夫か? なんならもう少し時間を置くが」
「……………………続けて」
絞り出したようにか細く声を出せた。でも喋るのも物凄くつらい。心が痛いの。罪悪感なんて覚えたことないんだけど……何かがもの凄く負担に感じる。
セレスティナさんがわたしに向かって泣きそうな表情で顔を向けて来た。彼女の感情が解って胸がまた痛む。
「あ、あのジェラルダインさん。アイギスさん苦しそうです。お話しあとでも」
「アイギスが続けろと言ってるからな。さっさと話しを終わらせた方が良いだろう……なるべく手短に終わらせよう」
そして、ジェラルダインがシルフィちゃんを見る。シルフィちゃんもわたしを不安そうに見つめてた。けど……わたしは何も言い出せなかった。シルフィちゃんの心は不安と悲しみで一杯なの解るのに。
「では、話しを元に戻すぞ。先程も言ったが……お前らが馬鹿やったことはアイギスも解ってる。アイギスがこんな状態になってるのはまだ子供だったってことだ」
すると席に座っていた見慣れない幼女が手を挙げる。
「それが分からないジェラルダイン……アイギスちゃんが8歳というのはほんとう?」
「……結論から言うと嘘ではないな。年齢の重ね方を自意識の芽生えから起算すれば。という条件はつくが」
「それって……どういう意味ですか」
最後のはセレスティナさんの声だった。わたしはもう視線を動かすのも億劫なくらいで話しだけ聞く。
「記憶喪失、という事だ。おそらく前の人格を構成をする為の記憶がアイギスにはない。合っても断片的なもので自意識を支えるほどのものじゃないという事だ」
"で、合ってるんだよなアイギス"
と、ジェラルダインが念話で確認してきたので、肯定という意識だけ載せて返した。
「え……でも私が冒険者で駆け出しの頃には、そう8年くらい前にはアイギスさんの噂聞いてますよ……お、おかしくありませんか」
「記憶がないといっても人格を構成する記憶だけだ。人間として活動できるくらいの知能やそれを支える知識はあったという事だ――強さは変わらないから〈鮮血妖精〉の異名を誇るくらいには華々しくデビュー戦を飾ってもおかしくはない」
「そうなんです……か?」
「…………うん」
わたしが頑張って返事するとセレスティナさんがまた泣きそうな顔のまま呆然としてた。
「さて、これで8歳の理由は説明できるな。そして今の状況は……冒険者稼業やっていたらトラウマになるような事だって一つや二つや出てくる。アイギスは子供のメンタルでそれ乗り越えてたんだ……人の何倍もな。さて、それで今日みたいなショックを受けると……答えはもう体験したな?」
わたしは聞くのも嫌になってきた。
過去の嫌な思い出が心に突き刺さるの。
スラムの子どもたちがヤクザ者の抗争に巻き込まれて死んだこと。行きづりで組んだ超脳力者のあいつが死んだ時。わたしに家族の温かみを教えてくれた老夫婦の人たちが亡くなった時。助けた子どもが久々に尋ねたらもう死んでて……奴隷の子たちが――
……嫌な思い出しか思い浮かばない。
「さて、話しはここで終わりにしたいがここからが本題……アイギスは更に問題を抱えこんでる。ヤバい奴をな。私が最初にアイギスに保護者と名乗ったのはその対処の為……聞きたければ質問に答えるがセレスティナ司祭殿」
「…………どういった理由で問題を抱えてるんですか」
「アイギスが神祖の妖精王というおとぎ噺の主人公の血縁……というのがその理由」
「…………嘘です。妖精族の神様の、そのまた神様じゃないですか。戦神バーラウや光神ラディアスがこの世界に降臨した時代より前……10万年以上昔の話しだって文献に記載されてる存在ですよ」
「所が、信憑性のある裏付けがあってな……」
そしてジェラルダインが樹木妖精の爺さんに端を発した一件を搔い摘んで説明してた。
「――そして列強諸国に狙われて聖魔帝国が既に確保済み。ロルムンドとは話しをつけているが状況次第ではどうなるかわからん。アイギスが姫君扱いされてるのはこれが理由だ」
「嘘じゃないんですね……」
「戦神の司祭殿は先程会ったとき私に戦鎚向けて来たが、私の実力が嘘だと思うか? アイギスの強さもだ。自慢じゃないが真龍すら私やアイギスは相手にできる単独でな」
「ほんとうに嘘じゃないんですね……でも、でもそれじゃなんでアイギスさんは記憶がないんです。なにかに巻き込まれたんですか」
「アイギスがおそらく神祖の妖精王本人だから」
「……えっ!」
「これは推測の話だが星幽界から帰還した際にアイギスは記憶を失っているんだ。実は血縁と言う話しはそれを誤魔化す為の欺瞞。対外的な隠蔽工作の為のな」
「……!? ジェ、ジェラルダイン!」
わたしは、わたしは咄嗟に叫んでしまった。
「なんで、なんでそれ言うの。関係ない、関係ないでしょ。二人には」
「関係なく有るものか。私が他の組織のエージェントなら真っ先にセレスティナとシルフィの二人を狙うぞ。情報収集と人質に利用できるか試すためにな」
「それでも、それでも……」
「諦めろ。この話しをしたのはお前に付いて行くには覚悟が必要だってことを解らせる為だ」
ジェラルダインが改めて話しを、二人を交互に見やりながら続ける……
「――仮に二人が無理だと思うなら、安全は私が保証しよう。機密情報の保護のためにな。シルフィ嬢には生活の保証を約束する。セレスティナ司祭殿とは要相談だな」
「…………」
「神祖の妖精王さまがアイギスさん……私のご先祖さま……そんな」
セレスティナさんが驚愕して呟く声が聴こえる……
そうかそういうことになっちゃうのかと……わたしはあきらめ半分に抱いた膝に顔を埋めた。
こんな自分に誰がついてくるの。
自分自身、訳分からない存在だもん。
神さまなのに悩んで、ショック受けて。心が弱くて、こんなので人を守れる訳なかった……
「だったら、だったら私が、守って、守ってみせます」
セレスティナさんが席から立ち上がって声を張り上げる。なんで……
「だってそうでしょう。誰がアイギスさんを守ってあげれるんです。ジェラルダインさんだって魔女王の命令で動いてるんですよね」
「まぁ、そうなるな。私も別口で動いてるから常にアイギスにべったりという訳にはいかん。ハーケルマインもいるが、奴も魔女王の手先だしな」
「だったら、私が守ります。いえ私たちが」
セレスティナさんがシルフィちゃんの元に駆け寄って、手を握る。それまで推移を見守っていたシルフィちゃんが不安そうな顔をしながらそれでも立ち上がって……
「わ、わたしも。わたしもアイギスさんと一緒に居たいんです……。わたし何もできないかもしれません。けど、……一緒に居たいんです。死ぬならアイギスさんと一緒に死にたいです……お母さんもそうでしたお父さんと……」
「私は生命は惜しみません。私たちアイギスさんと生きて行きたいんです。例え死んでも、死ぬまでは一緒に、一緒に!」
セレスティナさんもシルフィちゃんも涙を流してた。でも、それは、
ただ、わたしと、居たいから。
わたしと離れたくないのが解る。その感情がとてもとても……嬉しくて。愛おしくて。
わたしの目からまた涙出てきた。
「うっ、うっ。……だめだよ。わたしと居たら不幸になるかも。わたし人を幸せにしたことない」
「私たちもう幸せです。ね。シルフィ」
「……はい。アイギスさんが幸せをくれました。わたしたちはもう幸せなんです」
わたし人を幸せに出来てたんだ。
「わたし。良く分からないけど神さまらしいよ。それでも? 今は幸せでも結局、人を不幸にしかできないかも……シルフィちゃん」
「そんなのわたしには関係ないんです。身分の違いはどうでも良いって言ったのアイギスさんじゃないですか」
「シルフィちゃん好きだよ。でも、わたしには自信が、ないの。本当に幸せにできるか……」
「わたしの幸せはアイギスさんの幸せなんです。だから、だから、だから――アイギスさんにも幸せになって欲しいんです。だから!」
シルフィちゃんがわたしに駆け寄ってわたしを抱きしめてくれた。温かい……とても。
わたしが本当に欲しかったものだと思った。
「だから……一緒に居させてくださいアイギスさん。……あんなことしちゃって本当にごめんなさい。それでもアイギスさんと離れたくないんです」
「私もです。嫌でもついて行きますよ。責任取ってくださいよぉ」
セレスティナさんもわたしを抱きしめる。二人とも泣いていて、わたしも泣いて。わたしのお気に入りの服が涙でぐしゃぐしゃで。
「わたし、こんな時なに言えばいいか……ただ、わたしも一緒に居たい。セレスティナさんとシルフィちゃんと……アル君と赤ちゃんと一緒に」
「家族です。私たち家族なんですよねシルフィ」
「はい。だってアイギスさんわたしにそういって告白したじゃないですか」
「そう、だよね。わたしに家族が……本当の」
涙が溢れて止まらない。わたしたちは今日、本当に家族になったんだと思った。
すると謎の幼女がわたし達の元に寄ってきた。
「うんうん、すばらしい。じゃあ式場の用意を――ひゃぁ」
その幼女の襟首をジェラルダインが掴んで幼女ごと持ち上げる。
「悪い。邪魔したな」
「わ、忘れてた。ジェラルダインのこと」
「構わん。話しが収まってなにより。では今日の所はこれで失礼。また日を改める」
と、去ろうとする暗黒騎士の後ろ姿を呼び止めた。
「ジェラルダインも待って、待ってよ」
「――なんだ。もう一件落着したと思うが……」
「お礼言いたいの。助けてくれたでしょ」
「仕事だからな、礼など構わんが……」
「ご飯……一緒に食べたい」
闇妖精のジェラルダインの表情が訝し気になったけど、直ぐににいつもの鉄面皮に戻った。返答の声だけ優しかった。
「では頂くか。もう夜だしな」
「うん。だから一緒に」
そしてわたし達はテーブルを囲んでご飯にした。
家族でご飯を食べるのはわたしの夢だったんだ。
なんでもない日常で、一緒にご飯食べて。
それがわたしの幸せな家族の有り方だった。




