第七話 妖精騎士アイギスさんとの幸せな家族の作り方(3)
わたしは、わたしは結局なんなのだろう。
壁際で自分の膝を抱いて丸まって……わたし、アイギスは自分でもわからないほど泣きじゃくって、いつの間にか自分を見つめ直してた。
泣いて泣いて泣き喚いて……
子どもみたいに駄々をこねても……自分のせいで死んだ人たちは戻って来ない……。生き返らせることもできたのにわたしはそれをしようともしなかった。
自信がなかったの。幸せにできるか。
この世界が信じられなかったの。こんな世界で生きてていても本当に幸せになるのか。
わからなかった。
だからわたしは復活魔法を使わなかった。因果逆転の〈存在回帰〉の魔法を使えば問答無用で人を復活させることができると解っていても。
わたしは……結局、人を信じることができない。
なのに人から愛情だとかをいつも求めてる。
酷いよね。勝手だよね。
セレスティナさんやシルフィちゃんにあんな仕打ちされても当然だよね……。
わたしは自分が一番大切で、他の人のことなんて本当はどうでも良くて……子どもだったんだ。
わたしはそう思うと涙がまたぽろぽろ出てきた。
ぜんぶわたしのせい。
他人のせいになんてできないよ。
そしてわたしはまた泣きじゃくっていた。
今までこんなに泣いたことなかった。
泣くなんてことする暇なくて。生きることに必死で。
もうなにもなにかもイヤになってきた。
"前"のわたしもそうだったのかな……
だから星幽界に旅だったのかな。
星幽界は一言で言ってしまえばあの世。
けど、現実世界に隣接した精神世界。
表層はこの世界に隣接してるけどものすごい奥行きのある。深奥が、どうなってるかわからない世界。
わたしはその世界を眺めてた。
星のように輝いてるのは宇宙の星空ではなくてもう一つの世界。それは誰かの心かも知れないし、それこそ他の異世界かも知れないし、惑星そのものかも知れない。もしかしたら地球もその一つかも。
わたしは本当にどうにもならなくった時や、嫌になった時はいつもこの星空のような世界を眺める。
どうしてかはわからない。
昔いた神祖の妖精王がこの世界に居たと聞いたから、今のわたしがこの星幽界に帰りたくなった時に眺めてたのかな、死んだ人に会いたかったのかな、とか考えたけど……
でも……いつ眺めても死んだ人と会える気はしなかった。余りに遠く遠いの。宇宙の広さがものすごいのと同じで、この星空の世界はもっと広くて深いの。こんなの出会っえこないじゃんといつと思う。
それにもし、わたしがこの世界に旅立っても……多分戻ってきてしまう。わたしは寂しがり屋だ。
結局、人との繋がりを何かで求めてしまう。
わたしは多分帰ってきたんだと思う。
記憶もなにもかも無くしても帰りたかったんだと思う。
でも……
"ああ、……ここに居たのか"
わたしに呼びかける声がしてその方向に目を向けるとジェラルダインがいた。
なんでここに居るの。こんな所で人と会ったことないよ。
"そりゃそうだ。こんな深奥の領域まで潜ればまずまともな知的生命体は戻れん。魅入られるからな……"
……ジェラルダインが居る件について。
"お前が呼び掛けても反応がないのでな。精神体の分身を作って精神世界側から心に侵入しようと思ってここまで来たんだが……まぁ無理だったな"
人の精神に潜り込もうとするなんて強行突破にもほどがある。
"物は試しだ"
でも無理だったのはどうして……? わたし今かなり無防備だよ。
"自分では気づかないかも知れんが……お前の精神はもはや一つの世界と同じだ。分かりやすく言うと太陽の一番デカいやつを圧縮しまくってアイギスの形にしたのがお前。無理に侵入しようとすれば魂の微粒子すら残らんな"
わたしの世界はそんなブラックホールみたいなの……
"ブラックホールの方がまだマシなレベルだが……その話しは良いだろう。それより元の世界には戻らんのか"
戻れると思う? わたし自分勝手で子どもだったの……身勝手で我がままで、みんな許せないの。
"…………? 普通……だろ? それ"
駄目だ。ジェラルダインに言ったのが間違いだった。ジェラルダインは普通の人とは違うから。
"なに言ってる私ほど普通な奴はおらん。ただ単に強いだけだ。お前が世間知らずなだけだ"
……絶対なにか違うと思う。
"所詮、人間は自分の主観でしか物事を考えられん。究極の所は自分本意でしかない。他人の感情や考えなど自分の感覚を通してしか理解できんのだからな。結局、他者のことを全ては理解できず身勝手で我がままで、ある意味ほとんどの人間がその事に気づいてない子供だ。誰かの為なぞ本気で考えてる奴など自分や他人を騙す偽善者に過ぎんし、本質的には他人は仮想敵で許されざるライバルだぞ"
そこまで言えるジェラルダインはある意味凄いよ……わたしはそこまで達観できないよ。
"賊をさっさと殺してた奴が良く言う。自分を守る為に帰属するコミュニティへの貢献的な行動だろ"
ただ単に許せなかっただけだよ。それに野放しにしてたら……でもジェラルダインの言う通りかも知れない。
"アイギス。お前はそれを理解してるから私はお前を気に入っている。だったら解るはずだ……私が呼び出し食らって困ってることも"
……ジェラルダイン。この世界ではウソつけないからって……それはないと思うよ。言葉で語るんじゃなくて心で、魂で通じ合うからウソは直ぐにバレるからって。
"なんとかしろと、私の上役の仰せでな。シルフィもセレスティナも私の連れが押さえてるが……葬式に出てるような状態だぞ。お前がなんとかしろ"
……。自信ない。わたしのせいだとわかってる。わかってるよ。あんなことしたのもわたしがちゃんと言わなかったからだって。
"まるで問題にならん。私がなんとか手助けはしてやろう"
頼もしいけど人に頼っちゃだめな気がする……特にジェラルダインに頼っちゃだめな気がする。
"…………安心しろ。私は仲立ちするだけだ。最終的にはお前が決めろ。仲良くするのも良し。突き離すのも良いだろう。悔いのないようにな"
そしてわたしの身体を持ち上げる感覚がした。
やめて、わたしの身体持って行かないで。
"そこまで元気なら問題ないだろう? まず、席に座って話しを聞け。嫌なら戻って来い。もしくはそこで見てろ。ぜんぶ成り行き任せになるが……"
ジェラルダインも自信ないじゃん!
"まぁなるようになるさ"
と、軽い気持ちが伝わって来て、この人ほんとうに何考えてるんだろうと思った。
他人のことなんて本当はどうでも良いと思ってるのに。自分の都合しか考えない人なのに。
どうしてわたしの為にここまで……
いやぜんぶ自分の為なんだよね。
ジェラルダインってそういう人で何一つブレないから。短い付き合いだけどそんな人の気がする。
てか、わたしの身体の持ち方。
お姫様だっことか求めてないけど屈んだ姿勢でそのまま運んで、そのまま居間の席に置くとか止めて。
そしてセレスティナさんとシルフィちゃんが驚いてわたしを見るけど、わたしは反応できないの。
じっと何処かを恨めしく見つめてるだけ。
わたしの意識が分裂しちゃってて、もう一人のわたしは本当に子どもで自分の感情を処理しきれないの。でも、わたしのほんとうの気持ちは……
結局わたしは分裂した意識を現実に戻した。
ジェラルダインがなに言い出すか分からなかったし。嫌な気持ちがわたしを襲ってきたけど泣きじゃくるほどじゃなかった。
なによりわたしは……




