第六話 妖精騎士アイギスさんの恋愛事情と幼女アリーシャちゃんの恋愛指南(6)
わたし、アイギス。最近なんだかシルフィちゃんとセレスティナさんの様子がおかしいの。
最初の1週間くらいはわたしがさ、二股掛けるようなことしちゃって明らかに二人の仲が余所余所しくてわたしの胸が不安で一杯だったよ。
でも、その後徐々に二人とも打ち解けて来たのか仲が良くなって、やった、これでなんとかなりそう……と思ってたんだけど……
台所に立つシルフィちゃんにセレスティナさんが後ろから抱きついたりしてるの。
「あ、あのセレスティナさん」
「どうしましたか。シルフィさん」
「あ、あの。その、食器洗ってるので……今はちょっと」
「すみません。自分を抑えきれないです……」
「わ、解りますけど。今は。アイギスさん見てますよぉ」
わたしの方を二人してチラっと見て頬を赤らめる美少女二人。金髪碧眼で混血妖精のセレスティナさんも、黒髪で村娘って感じのシルフィちゃんも容姿で言うなら充分美少女ってレベルなんよ。
その二人から明らかに気のある素振りされたらわたしもね、嬉しい。てか恥ずい。
女の子二人がイチャイチャしてるのも悪くない。
生きてて良かった、この異世界生活万歳とか、思わなくもないの。
「アイギスさん大丈夫そうですね。かまってくださいシルフィさん」
「え〜ん。じゃましないでくださ〜い」
悪くはない。悪くはないんだけどこのモヤモヤなんだろう。混ざろうと思えば混ざれるよ、三人イチャイチャもできるよ。
けれど何かが引っ掛かる……。
ここで異世界転移だが転生の馬鹿な男主人公だったら能天気に「ま、いっか」とか思うかも知れないけど……明らかに引っ掛かるんよ。
このアイギスさんの女子心にさ。
まずセレスティナさんってあんなにスキンシップ取る人かなって。まだ出会って日が立ってないんだけどシルフィちゃんと同じで奥手で引っ込み思案な印象の人だったんだよね。
それが、
赤ちゃん泣き出してシルフィちゃんがいつも通りあやしに行くんだけどセレスティナさんも一緒に付いて行って「ああ、お母さん」って言ってシルフィちゃんにべったりくっつくの。
もう、完全にぞっこんって感じになってるの。
解る。解るよわたしもそうだからね。
シルフィちゃんは人が根源的に求める母性の体現だからね。でも最初の1週間はセレスティナさん、なんとか耐えてた気がするんだけど……
「あ、あのアイギスさん。セレスティナさんを引き離してください。家事できませんよぉ」
「だめぇ……おかあさん……」
「あ、これはトリップし過ぎだね……セレスティナさん。起きて。自分の意識をしっかり保って」
と、脳蕩けすぎて意識白濁のセレスティナさんをわたしは引き離す。もう、こんな状況になってるとセレスティナさんに何があったのと思う。
わたし以上にシルフィちゃん居ないと生きていけないことになってるよ。
取り敢えず自分の意識を放棄した金髪碧眼の女の子をテーブルの席に座らせる。五分くらいで再起動するよ。
しかもシルフィちゃんも最近様子がなんだか少しおかしいの。いつもは私が構って〜って感じでスキンシップ取ってたんだけど、シルフィちゃんから積極に来ることがちょくちょく多くなったの。
「あ、ありがとうございます。アイギスさん」
「大丈夫。いつもの事だからね」
「そ、それで、あ、あの」
シルフィちゃんが顔赤らめて、わたしの手を取るの。
「わたし、アイギスさんのこと愛してますから」
「うん。わたしも愛してる」
「えっと、あのそれで……」
やっぱりシルフィちゃん奥手なのは変わらないんだよね。初々しいってやつ。もうわたしもそれ見てるだけで幸せだよぉ。
でも最近彼女は頑張ってて。わたしの背丈に合わせるように少し屈んでくれて。
もうここまでされたら、なにを求められてるか解るよね。解らんやつは想像力が足りなさすぎる。磨いて来い。いちいち言わないからな。
…………そのあと二人して少し見つめ合ってからシルフィちゃんが台所にちょっと小走りで戻っていくの。
やっぱり恥ずかしいんだろうね。
わたしも我慢してるけど恥ずいよ。隣にセレスティナさんもいるんだよ。
でも正直、幸せすぎて心満たされちゃう。
けど、けど、違和感がある。
この1週間でなにもかも上手く行き過ぎてるの。
わたし、シルフィちゃんとセレスティナさんでわたしたちの関係について話し合わなきゃ。っと思ってたのにその必要がないくらい二人とも打ち解けてるの。
はっきり言って腑に落ちない……。
わたしね。この異世界に来てこんなに幸せなことってなかったの。
愛する人もいなかったし、馬鹿ばっかりやって来たし殺し合いばっかでさ。異世界って言ってもここは現実で、みんながみんな幸せって訳じゃないからね。だからもしかしたら自分の今の幸福を信じられないだけかも知れないけど。
ただ、
いつもわたしは何かが上手くいく。と思ったときに不幸のどん底に叩き落とされて来た。
だから、警戒しちゃうんだ。身構えちゃうんだ。
この幸せを取りこぼさないように。
でも、まるでその違和感の正体がわからない……
今日は一瞬だけ視線を感じだような気がするけど。結局、魔法や技能で入念に調べても何もなかったし。
やっぱりわたしが不幸体質で考え過ぎがいけないのかなぁ。それも妖精気質の気分屋だから直ぐに雰囲気に流されて後先考えずに行動する結果のツケだから、もうどうにもならないんだけど。
「あ、おはようございますぅ。アイギスさん」
と、意識を再起動したセレスティナさんが寝ぼけた顔して立ち上がる。
「おはよ。セレスティナさん……」
「あれ、わたしは一体なにを」
「もう、シルフィちゃんの母性分補給はほどほどにしないと」
「……いえ。もう、手遅れですよ」
「だよね~。でもセレスティナさんはちょっとヤバいレベルだから控えて。シルフィちゃん困るから」
するとセレスティナさんが今度はわたしに近づいて来て抱きつくの。
「じゃあアイギスさん分補充させてください」
「や、やめ」
本気でわたし嫌がる。わたしから抱きついたりするのは良いんだけど、人からされるの嫌なの。勝手な話しだけどさぁ。
そしてセレスティナさんがそれ解って、やっちゃったって後悔顔。わたしから離れてくれた。
「ごめん。本当にごめんなさい」
「アイギスさんって……。いえ、なんでもないです。私の方こそ嫌って知ってるのに……」
「自分からは抱きついてるのにマジでごめん。……って、セレスティナさんにはやったことないよね!」
「すみません。調子乗りました。シルフィさんにはやってるので私もいけるかと思いました」
「むぅ……」
正直、何も言えない。セレスティナさんとはちょっと一線置いちゃてるから。さすがに恋人のシルフィちゃんいるし。……関係を進めたいの解るけど。
そのセレスティナさんはちょっと不安そうな顔でわたしを見るの。嫌われたくないって気持ち解る。わたしもそうだから。
「大丈夫だよ。自分勝手って思ってるの。だから気にしなくて良いよ」
「……アイギスさんって。本当に優しいてす」
「…………」
言い返し方思い浮かばない……。
わたしって本当にダメだよね。
わたしが好きな女の子にはいくらでもアプローチできるのに、わたしを好きな女の子には戸惑っちゃうの。
「ごめ――」と自分でもなに言い出すかわからない台詞吐き出そうとしたとき玄関の扉が開く。
「ただいま。戻りましたぞー」
ずかずかと我が家に上がりこんで来たのは自称、姫君の騎士ハーケルマインだ。
いつもの全身蒼黒い鎧に身を包んで、アル君を散歩に連れ出してたのだ。
「お帰りアル君」
「ただいまー。お姉ちゃん」
「姫。拙者も戻りましたぞ」
「お前に挨拶する訳ないだろうが。わたしの従者だろ。居ない者として扱うわ」
「それはいくらなんでも扱いが酷すぎますぞ。せめて騎士としての扱いくらいはして頂けませぬか」
「もっと騎士らしい格好してから出直して来い」
「えっーおじちゃん格好いいよぉ」
と、わたしがアル君交えて正体魔神将と言い合いしてるとセレスティナさんが何かに気づいて、慌てて台所に行き戻って来た。
「あ、アイギスさん。今日は錬金術ギルドにお手伝いなんですよね」
「あ、え? わっもうこんな時間。ばあちゃんに怒られる」
「姫。まさかそのような衣装で?」
「悪いか。わたしが私服着てて悪いか!」
今日は髪下げてちょっとお洒落な服着て普通の女の子してるよ。錬金術ギルドで着替えるけど。街中歩くのにいちいち完全武装してられないって。
……それにね。偶に私服で街歩いて注目されたいの。まぁ今、冬だから厚着のコート着てお洒落も何もないんだけどさぁ。
「アイギスさんこれシルフィさん特製お弁当です」
「わ。ありがとう。じゃあ行ってくるね! ……ハーケルマインお前手ぇだしたら解ってんだろうな」
「いくらなんでもそれは信用なさ過ぎ――」
と、ハーケルマインのたわ言なんて無視してわたしは家を出た。
もう、その頃には抱いてた不安とか綺麗に忘れて。
……




