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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第1章 星幽界の彼方から求めて
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第六話 妖精騎士アイギスさんの恋愛事情と幼女アリーシャちゃんの恋愛指南(5)



私はアイギスさんの馴れめと、シルフィちゃんとの微妙な関係のことをアリーシャちゃんに打ち明けました。


冒険者ギルドでは利き耳立ててる人も居そうですから魔法で遮音障壁を作りだしてからですが。


「ふむ。……やはりセレスティナさんはアイギスちゃんを愛していたか」

「いえ、愛するまでは……恋してるのは確かですが……」


私は頬が熱く成りました。

あらためて言われると恥ずかしいですね。事情を打ち明けてるときは私も切羽詰まってたのか気にすることなく喋っていたんですが。


「フフフ……恋する時間も必要か」


と、またアリーシャちゃんが不敵な笑みを浮かべます。なぜでしょうか。見た目幼児なのですがなぜか頼り甲斐がありそうな気がするのは。


「そ、それでなんとかできるんでしょうか。私はともかくアイギスさんとシルフィさんにご迷惑掛けたくないんです」

「ん〜。それにはまずセレスティナさんがアイギスちゃんをしっかり愛してあげることが必要なのだ」

「あ、愛ですか」

「恋は夢みる心。愛は人を思いやる気持ち……フフフ。まずアイギスちゃんに愛してもらえるよう気持ちを切り替えるが良い」

「…………あの、それだと問題は解決できないんじゃ?」


アイギスさんを愛して、私が愛されてしまうとシルフィさんとの関係こじれません? 三角関係のどろどろになってしまいそうですよ。


「……セレスティナさんの気持ちがまず問題なのだ。アイギスちゃんを何処まで愛せるのか……。このアリーシャちゃんにはシルフィちゃんとの問題を全て解決させる秘策がある。ただ、それには愛の力が必要……生半可ではないラブパワーが」


そしてアリーシャちゃんがミルクが入ったグラスを傾けて飲みます。茶化してる様子は一切ありません。この幼女は常に自信たっぷりです。


そして、返答は?

と、言わんばかりに大きな眼を幼女アリーシャちゃんが向けて来ました。その眼は静謐さを湛える湖面のように澄んでいて真剣そのものでした。


「か、覚悟がいるってことですか。私にも」

「良い……さとい。身も心も全てアイギスちゃんに捧げる覚悟はあるだろうか」

「…………!」


問われて私はハッと気づきました。自分の覚悟のなさに。私は自分のことばかり考えていたんです。

嫌われたくなかったんです。

愛して欲しかったんです。

人のことを考える振りして自分が傷つきたくなかったんです。


わたしは司祭です。戦神の教え以外にも他の神々の教えも学んでいます。恋愛小説だって読みふけってたんです。己の未熟さに気づいてしまいました。


「わ、わたし。自分のことしか考えてなかったんですね……」

「良い……人はだれしも愛されたいとおもうもの。だからこそ愛することが必要。まずそれに気づくのが最初のステップ」

「あ、愛の伝道師……」


そしてアリーシャちゃんはまたグラスをかたむけてミルクを飲みます。てらいもなく恥ずかしがる事もありません。

自然体です。

まるで神殿の司祭が神の教えを説くようなたたずまいです。私、戦神の司祭の本職ですから判るんです。


幼女そのものなのに、恋愛をわかってるのかも知れません。いえ、知り尽くしてる感さえあります。


「フフフ……愛の力があれば全てを解決できるのだ。まずはパワーが必要なのだ。それさえあればあとはアリーシャちゃんの秘策を授けるまで」

「…………」


私は考えます。アイギスさんに身も心も捧げれるだろうかと。アイギスさんと出会ってまだ1週間です。為人ひととなりを全て知っている訳ではありません。


でも、でも。


私の憧れだったんです。心の何処かで妖精の騎士みたいに成りたいなって。でも結局、人を助けても人を助けても自分が救われなくて。

アイギスさんは私を救ってくれたんです。

わたしの心を。いえ、わたしを。


「すみません。黙ってしまって」

「……良い。自分の心とむきあうのだ」

「覚悟……決まりました。私はアイギスさんに身も心も捧げます。添い遂げます……悔いが残らないように」


アリーシャちゃんがその大きな碧い眼で私を見定めます。満面の笑みをその顔に浮かべました。


「……良い、すばらしい。試練を乗り越えたようだ。それでこそ、このアリーシャちゃんの秘策を伝授できるというもの」

「ありがとうございます。愛の伝道師」

「フフフ。今は恋のキューピット。人と人とのえにしをつなぎ愛に変えてみせよう……それがキューピットの役割」


「まるで仲人なこうどですね。キューピットというのは何かの比喩なのでしょうか。すいません、まるで聞いたことなくて」

「ん〜。さっきも言ったとおり恋をつなぐ天使のこと……ふむ」


アリーシャちゃんが指をぱちんと鳴らすと宙に裸の赤子に白い翼を生やした召喚体が一瞬にして表れました。


無詠唱、何より魔法の形成が早いですよ!

アリーシャちゃんは只者ただものじゃないです。この速さで召喚魔法を行使できるのは常識外れなことなんです。


なにせ、相手の魔法行使に一瞬でも早く気づいて対応しないと致命的なことになるのが戦いです。私が対応できないとなると相当な手練れですよ。


「このものが天使キューピット。人の恋を繋げるのが役割のもの。わたしは最強のキューピットといった所か……フフフ」

「……あ、アリーシャちゃんはロクス教の司祭さまでしょうか」

「フフフ。わたしは天使王の教えを信じるもの」


私、ちょっと焦ります。

天使と聞いたのでかつて闇の王との決戦で相討ちになった聖者ロクスの教えを教義とするロクス教の司祭かと思ったら、まさかの天使王です。


この大陸にも教えが伝来して思いっきり宗教対立を引き起こしてます。最も対立しているのは光神ラディアス神殿で、戦神バーラウ神殿は中立といった感じの立ち位置なんですが……

一応、光の神々五大神殿として纏ってますからねぇ。……ちょっと私の立場、大丈夫かなとか思っちゃいます。


「天使王の教えとはすなわち愛の教え。戦神の教えを信じる人たちとは良い感じに仲良くやってる」

「た、確かに」


と、言いながら私ちょっと自信がありません。

天使王の教えは知りませんから。まだこの大陸に伝来して五、六年くらいの新興宗教です。でも戦神神殿の方々は問題にする人が少ないのは事実ですね。



「ここに愛の教えを記した聖典がある。興味があるなら読むと良い。仏陀の悟りの教えと救世主の愛の教え。二つ混ぜあわせて良い感じに仕上げた最強に思える教えよ」

「あ、ありがとうございます」


聖典3冊あるんですね。と私はちょっと眼を輝かせます。知識は力です。他の神々の教えを知ることは信仰を深めることにも繋がりますから。邪神の教えでさえその教えを否定する上で知る必要は有りますからね。


「良い。セレスティナさんは見込みがある。天使王の教えに帰依きえしたければただ信じれば良い。他神信仰ダブルフェイスOK」

「あ、はい。しっかり読ませて貰います……それで、あのお代……喜捨の方は……」

「天使王の教えはお金では買えないプライスレス


やっぱりそうなんですか。……それが一番問題になってるんです。五大神殿ではその活動の対価として必ず金銭を要求します。ところが天使王教会では活動の対価は全て無料……奉仕らしいです。(教会組織への自発的な寄付は受け付けてるようですが)


聖職者なら見習い含めて対価を受け取れば即破門らしいですから徹底してます。その教えで慈善活動されたら他の神殿も立つ瀬がないですからね。



「あの、でしたら私の相談料も……?」

「フフフ。全ては天使王の愛の教えのために」

「まさしく愛の伝道師の方なんですね……」


よほど徳のある方なんですね。

でないと性格属性アライメントが善・秩序の天使なんて呼べませんからね。

天使は邪悪な人や中途半端な人には絶対仕えないことで有名な異界生命体アウトサイダーですから。



「フフフ……このアリーシャちゃんの真の愛へと至る秘策。必要かな?」

「ご教授お願いいたします。先ほども言いましたが決意は変わりません」


そうです、信仰は違えど愛の教えには違いません。

私を自分の弱さから目覚めさせてくれた方なんです。なによりその内容を聞いてこれは駄目だと思ったらお断りすれば良いんですよ。


さすがにそれくらいは私でも判断できます。大人ですからね。



「良い……。ではまず今のアイギスちゃんたちの恋愛関係を整理しよう」


と、アリーシャちゃんが紙を用意しペンでΛの図を描きます。アイギスさんを頂点にして私とシルフィさんで好きの関係図ですね。


「これが今の関係。お互いが好き同士だけど横の繋がりがない」

「はい」


そしてアリーシャちゃんが線を一本足して図をΔにします。


「これでどうだろうか」

「三角関係になってしまいましたね……私とシルフィちゃんが仲良くなればやっぱり問題は解決ですね」


ただ、この答えに幼女が目を閉じ首を振ります。



「え? 違うんですか?」

「残念だけどセレスティナさんとシルフィちゃんの線は好きだけでは成立しなくなる。三角関係に何か思い当たることはないだろうか」

「何か、どろどろとした関係が、想像できちゃいます……」


恋愛小説でよくあるパターンです。

好きが全員一歩通行だとか、そうでなくても親友二人が一人を愛してしまってとか。大概、ライバルの女の子二人がなにかしらの衝突をしてしまいます。


実際に複数妻を持ってる男性の殿方も妻同士の諍いとか有るらしいですからね。やっぱり人間、何かしらの軋轢あつれきがあるのが現実なんです。



「良い。実に教えがいある。まずこの関係では不完全なことを知るのだ……好きなだけでは確実に残念なことになる」

「だからこそ愛なのですね。どんな障害が合っても乗り越えられるように」

「フフフ……それだけでは天使王の愛には届かぬ」

「……では、天使王さまの愛とは」


「真の愛が試される時。ふむ……セレスティナさんはアイギスちゃんを愛する為なら本当にどんなことでもできるだろうか?」

「私の大好きなアイギスさんから死ねと言われれば喜んで死にます。どんな事でもできます。私の覚悟は死地に臨む戦士の心境です。私、戦神の司祭なんですよ」


もう既に私の決意ガン決まりですよ。心の中では戦鎚振るいまくりです。アイギスさんを悲しませること以外ならなんでもしますよ。

全てこれ戦いなり。戦神の教えに乗っとりどんな事でもしてみせます。教義に反しない限りは。


「イチャイチャしたり愛を囁いたり甘酢っぱい恋愛したり裸になったり。恥ずかしいことアイギスちゃんにできるくらい?」

「むしろしたいです。ご褒美ですね」

「良い。なら、このアリーシャちゃんが真の愛に至る秘策を授けよう……天使王からの試練として受けとるが良い」

「はっ」

と、なぜか臣下みたいなノリで返事しちゃいました。


「発想を逆転させるのだ……アイギスちゃんになんでもするその愛をラブパワーを全力で――」


ゴクリと唾を飲みます。

遂に私の求めた秘策が明かされる時がきた、と。


「――シルフィちゃんに向けるのだ」

「――!? !? !?」


わたしセレスティナ。ちょっと頭のおかしい21歳の女の子。大混乱。なんでですか、なんでシルフィちゃんにわたしの愛をオールイン(全賭け)しちゃうんですか。その判断本当に大丈夫なんですかぁ。


「混乱するのも無理からぬこと。質問を受け付けよう」

「な、なんで私が、シルフィちゃんを愛することにな、なるんですか?」

「真の三角関係を完成させるために必要なことなのだセレスティナちゃんよ……」


「し、真の三角関係……?」

「セレスティナちゃんがシルフィちゃんを愛し愛されることによって真の三角関係……すなわちラブ・トライアングルが完成する」

「ラブ・トライアングル!?」


パワーワードが私の脳をさらに揺さぶります。

ヤバいです。話しの流れがなんとなく理解できてしまいましたが、それって……


「つ、つまり私がシルフィちゃんとラブラブになって、シルフィちゃんがアイギスさんとラブラブになって、アイギスさんと私がラブラブに……」

「実にかしこい子。正解」

「そ、そんなことできませんよぉ」


私は涙目になりながらアリーシャちゃんを見つめます。どう考えても無理です。そんな都合の良い展開にできませんよぉ。


「セレスティナちゃんよ……これしか。これしか手立てはないのだ。この策でしかセレスティナちゃんを救うことはできないのだ」

「なっ、なんで、そうなるんですかぁ。ほ、他にも方法が……」

「他の方法だと最初の話しにもどります」

「……あっ!」


そうだ。中途半端にシルフィちゃんと仲良くなると結局、アイギスさんの取り合いになっちゃうんです。もし、私がアイギスさんと仲良い感じになってしまったらシルフィさんの胸中複雑でしょうから。



「だったら、だったら私が私が我慢すれば……」

「アイギスちゃんがそれを望むだろうか」

「私が、私が、……いえ。きっとアイギスさん気づいちゃいますね……」

「うむ。そうやってみんな大人になっていくのだ。大切ななにかを守るため、大切ななにかを捨てて……」


そして幼女アリーシャちゃんは酒場の天井を見あげます。

愛の伝道師……恋のキューピットは数多くの別れも見て来たに違いない。恋愛なんて全部が全部成立する訳ありませんよね。


結局、みんな現実に押し潰されて生きてるんです。色んな理由で何かを諦めてるんです。

私は幸運なのかも知れません。


「アリーシャちゃんは……アリーシャさまなら私を救えるんですか……?」

「このアリーシャちゃんは愛の形を皆に広めるのが務め。救うのは己自身なのだ」

「……格好良いです。とても」


幼女アリーシャちゃんはミルクの入ったグラスを傾けます。見た目3歳児ですがまるで聖者のように思えます。



「ふむ。答えは決まっただろうか」

「はい。やってみます。玉砕してきます。当たって砕けてみます……なぜか駄目そうな言葉しか思いつきません……」

「……フッ。このアリーシャちゃんが付いている。最強のキューピットが……」


「え……手伝ってくれるんですか……?」

「その覚悟があるなら……このアリーシャちゃんも見てみたいのだ。百合の理想郷を。真の百合ハーレムを」

「百合の理想郷……真の百合ハーレム」


百合と言う言葉に思いあたる節はありませんでしたが答えは一つですね。女の子同士を指す単語だとすぐに分かります。


なぜか今のわたしには目指す価値があるように思えます。戦神バーラウの教えにもあります。

恋もすなわち戦い、なりと。

そう、戦いなんです。生きることすべてが。


そして戦ってこそすべてを勝ち取ることができるんです。最初から戦わずに逃げたら、得られる物も得られるません。なにより、


「だれも悲しませないのが良いですね真の百合ハーレム」

くのなら、辛く厳しい長いたたかいになる」

「戦って勝ち取って見せます。…………本当に勝ち目あるんですよ……ね?」


私が恐る恐る聞くと、アリーシャちゃんが満面の笑みをその顔に花咲かせました。それまで聖者で合ったのが童女のように無邪気な顔に。


「もちろん、すべての策はこのアリーシャちゃんに任せると良い。きっと良い感じにして見せる。この幼女の全力を尽くそう」

「解りました。アリーシャさまを信じます」

「ちゃんで良い」

「アリーシャちゃん……本当に、本当にお願いします。私の人生全部賭けなんですよぉ」


そして幼女アリーシャちゃんは頷きました。

私は彼女の理想も背負って戦うことに成るんですね。


「任せると良い……では、百合ハーレム計画。いや、真の百合ハーレム計画を始動する」



そして私たちの計画。「真の百合ハーレム計画」が動きだします。最初の目標はシルフィちゃんの攻略です。まず私自身がシルフィちゃんに恋しなきゃならないらしいです。

全ては天使王の御心のままに。頑張りますよ〜。



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