第六話 妖精騎士アイギスさんの恋愛事情と幼女アリーシャちゃんの恋愛指南(3)
拙者、魔神将ハーケルマインは昼食をアイギス殿下の御自宅で頂いたあと戦艦グングニールに帰還。
拙者は己の明るい未来の想像図を思い描きながら、艦司令所である艦橋に向かい歩を進めている所である。
「まさか、戦艦グングニールごとこの重要任務を任せられましたからな……しかも先程、魔神王軍から魔女王陛下直属艦隊へと編入辞令が来たでござるよ。はっはっは」
自然と陽気になるのも已む無きことでござろう。
ただでさえ最新鋭戦艦たるグングニールを与えられ、更に実質出世に等しい転籍。拙者の未来はこれまでにないくらい輝いております。
苦節、天使王聖下より百貨店屋上での子供向けヒーローショーイベントに敵役で駆り出されるなど下積みのような時期もありましたが……、それも今の己があると思えば良い経験。
聖下に命を受け、ファンになった女性と複数人お付き合いして地獄を見たのも今となっては良い思い出ですな。四股がバレたときは全知全能を振り向けました。あれを乗り越えた今、このハーケルマインに怖いものなどござらん。
しかも数居る魔神将の中でも今回の任務に拙者以上に最適な者など居らぬでしょう。子供の世話ができ、赤ん坊の世話すらママ母とのお付き合いで習得いたした。
で、ある以上、このハーケルマインに今回の任務が回ってくるのは必然。
然も、先程も我ながら実に良い仕事をしました。まさにあの下積みがあってこその完璧なフォロー。これでアイギス殿下の心象も良くなるというもの。
無論、これも全て任務の一環。
神祖の妖精王陛下、籠絡計画の。
「おっともう艦橋か、さすがにニヤつく訳にはいくまいな」
いくら立身出世の展望が見えたとはいえ、さすがに部下の前で気を緩めては沽券に関わるというもの。
なにせ我が軍は悪魔の軍勢。中でも秩序と規律を重んずる悪鬼の軍隊となれば。
まぁ、女淫魔の後方支援要員なども所属しておりますが。
「然し、神祖の妖精王陛下も王者でありますな……女子二人にお手を出すとは。二人だけでも中々大変ですぞ……で、あれば、ますますこのハーケルマインが役立つ時が来るというもの」
うむ。ご家庭内の相談に乗り、徐々に心象を良くし、取り入る。魔女王陛下から可能であれば恩を売れとの命も受けておりますからな。
更に女の子が増えればこのハーケルマインが活躍する機会が増えるやも知れませぬ。腕がなりますぞ。
それにもし、行く行くアイギス陛下が魔女王陛下や天使王聖下のご盟友と成られた暁には、このハーケルマインがアイギス陛下に出向と形でお仕えするやもしれませぬ。
姫君に仕えるというのも中々に悪くはないように思えますからな。
「ふむ、実に明るい未来」
と、拙者は艦橋に到着。
艦内指揮所内の様子を伺うと、やけに静かでござった。普段の任務中だと女淫魔のオペレーターなどが任務に支障がない程度には騒いでたりしてますが……
まぁ、魔女王軍に栄転という話しも伝わっているでしょうからな。部下が気を利かせたか。
それに今回は極秘中の極秘任務。
なにせ密命で天使王聖下にすらことを知られてはならないと厳命が下っている次第。
普段の任務とは気の入りようが違っても当然。
今後は魔女王軍旗下の艦として示しも付けねばならぬで気を引き締めませんと。
と言う忖度かな。良くできた配下達だ。
ふむ、では指揮席に座ってなにか訓示でも話すか。と……、拙者が椅子に座ろうと席に視線を移すと……
金髪碧眼の3歳児の幼女が正統すぎる権利をもって既に座っておりました。
「…………」
「…………」
ここで狼狽えてはならぬハーケルマイン!
拙者は全神経を己を律することに全力を注ぐ。
「……天使王聖下。拝謁の栄誉を賜りまして恐悦至極でございます」
拙者の挨拶に天使王聖下はその御尊顔をこちらに向けお答えされもうした。
「任務ご苦労ハーケルマイン。グッジョブな仕事をしたな……」
「はっ。恐縮でありますれば……」
まだだ。まだ焦ってはならぬ。神祖の妖精王の件お気づきになられてるかどうかが運命の別れ目……
「……ハーケルマイン。この天使王たるアリーシャちゃんに見通せぬものなどない。諦めるのだ……そこのオペレーターちゃんから些細の報告受けてる」
「…………」
拙者の視線を受け女淫魔の後方任務士官が涙目で焦ったように艦内機器に顔を背けました。
もはやこれまで。拙者全てを諦めました。
「重ね重ね恐縮でございます聖下……これも魔女王陛下からの勅命であれば……」
「良い、ハーケルマイン。お前は任務を果たしている。オペレーターちゃんもな……罪は問わぬ……」
「聖下に御下問されれば少官とて口を割りましょう……ご慈悲を賜り恐縮です」
首の皮1枚で拙者と女淫魔のオペレーターが助かり申した。これで軍事法廷に掛けられても余裕で切り抜けられる。
聖下の御言葉なれば何人も覆せませぬ。
ただ、魔女王陛下は法など尊重する振りしてガン無視して来ること必定。拙者の立場は救われてませぬ。出世の展望に暗雲が立ち込めもうした。もはや左遷くらいは覚悟せねばなりますまい。
(女淫魔ちゃんはおそらく助かります。上司の方に責任が問われる)
「……ハーケルマイン。全て理解している……この天使王の為だと」
「はっ。有り難き御言葉でございます」
「……ふむ。アイギスちゃん籠絡計画か……」
と、おそらく女淫魔が用意したであろう機密文書に目を通す聖下。
「この天使王の百合ハーレム計画と似たような計画を立てるとはやるなジェラルダイン」
「百合……ハーレム計画?」
「既に計画は動き出しているのだハーケルマインよ……お前の行動すらこのアリーシャちゃんの意のままよ」
「聖下は全知全能の神にも匹敵するお方なれば……少官ごときではそのご意思を推し図れませぬ。計画の一端をお教えねがれば幸いです」
既に聖下に知られるという失点。挽回するチャンスがあらば食らいつきますとも。
「ふむ。ならハーケルマイン。このアリーシャちゃんの計画にお前も参加させてやろう」
「はっ。有り難き幸せでございます」
「うむ。では、まずはこのアリーシャちゃん自ら動いて計画の意図を示そう。ハーケルマインにも少し落ち度があった」
「し、しかし聖下。少官の不手際でなにも玉体自らお運びになるなど」
「良い良いのだ。ハーケルマインお前は良くやった。けれど、このアリーシャちゃんの思い描く百合ハーレム計画には一歩及ばぬ」
一体なんなのか。百合ハーレム計画とは……
ハーレムは理解できますが百合とは? このハーケルマインには想像の蚊帳の外側の話でありましょうか。
「聖下。籠絡計画と似た計画ということは女の子を充てがうだけではないのでございますか?」
「フっ。どうやら悪魔たちでは乙女心は解らぬようだ。それではきっと何処かで破綻するのだ……このアリーシャちゃんには解る」
「なんと……」
うむ。確かにアイギス殿下は女性でありますからな。男と置き換えて、計画を遂行しても無理がある。拙者、納得。乙女心は例えママ母といえど複雑怪奇であった。
「見ておくが良いハーケルマインよ。次なる計画の為の布石にもなる」
「はっ。聖下の御手腕を見聞し目に焼き付けまする」
「良い。では愛天使たる天使王のパワーを見せよう。このアリーシャちゃんこそが最強のキューピットだと解るように。フフフ……」
アイギス殿下、心を強くお持ちくだされよ。
おそらく拙者と似たような状況に追い込まれると危惧しまする。レストランに彼女四人呼ばれて相席して切り抜けろ、とかやらされましたからな。
「フフフ。このアリーシャちゃんこそが真の百合の心を知るものだと知るが良い。この試練を乗り越えるのだ。アイギスちゃん」
そして天使王聖下の百合ハーレム計画が始動する……




