第一話 妖精騎士アイギスさんの村人救出作戦(4)
私の意識が火が灯ったように急に目覚める。
目覚めて最初に目にしたのは鎧を身に着けた少女だった。
ただ、彼女の見た目は子供としか思えない。
魔物達に立ち向かうには余りにも華奢に見えた。そう、まだ子供だというのに森の魔物達と戦ってるのだ。
木の上から飛びついて来た飛大蛇を躱し、彼女の体躯では大振りの大剣を――擦れ違いざまに振るって一刀両断。
次にやってきた吸血蝙蝠を盾で殴打し地面に叩きつける。
その次の瞬間には襲いかかろうと待ち受けていた毒蛙を装甲靴で蹴り飛ばす。
その蹴り飛ばした勢いで、竜のような姿に虫のような羽根を持つ魔物、虫羽竜が襲い掛かろうとした所を回転斬りで両断。
まるで申し合わせたかのように魔物達が次々と屠られていく。彼女が動けば魔物が死ぬのだ。
私はその光景から目を離せなかった。
余りに、余りに綺麗だったから。
まるで舞踏を踊ってるようだと思った。現実感が喪失する感覚を味わう。
彼女は森の中を縦横無尽に動いたと思ったら次の瞬間には最小限の動きで攻撃を躱し、同時に魔物に一撃を与える。素人目でもそれが武芸の達人の技だと理解できた。
ただ、彼女を襲う魔物達に止まる気配がない。
まるで彼女に魅入られたかのように魔物たちは彼女を襲い続け無残な骸となって森の地面に積み重なり続けていった。
†
まさか村人が想定より森の奥深くに入り込んでるとか思わないよ。危険だから森の外縁あたりで隠れてる思うじゃない、普通は。
けど今いる場所は"主"と呼ばれるような連中が縄張りにする、かなり深入りした場所なのだ。
おかげで発動した精神波動の範囲ギリギリだ。
範囲外で即死効果を免れた魔物にまた絡まれた。
奴らは外縁部の戦いを知らぬ。また襲ってくる。
哀れ、可哀想なアイギス。求めもしない第二ラウンドの始まりである。
しかも今回は助けた女の子を守りながら戦う羽目になった。そして、もう一人の心の中の自分、ビッグボス的な人に怒られる。
"お前はやり過ぎた、やり過ぎたのだ! 見てみろあのジェノサイド攻撃で魔物達が危機感を抱いて一斉に集まって来ているぞ。せめて、なぜ、魔物共を始末してからあの娘を因果逆転魔法で復活させなかったのか!"
仕方ない、仕方ないじゃない。
魔法で生き返るか分からなかったんだもん。
しかも、狂熊の横で倒れてたしさ。あの子血塗れだったんだよ。そりゃ焦って復活させるよ。
わたしは血も涙もない魔王じゃない。
精神波動を撃ち込んだあの時は鬱陶しい森の魔物共に絡まれて、もうどうにでもなれとヤケになってたんだ。
わたし、アイギス、普通の女の子。
ちょっと戦闘能力が高いだけの、傷つきやすい繊細な心を持ったエルフの美少女だよ。
こんな可愛い女の子が平常心であんな酷いことする訳ないじゃない。
"今更、女の子ムーブするな!"
と心の声が聞こえてきた。耳の痛い話になったので心の声の音声をシャットダウンした。
正直、わたしの性自認は微妙な所がある。
というのも実はわたしにはこの世界に来るまでの記憶がない。転生だとすると前世の個人としての記憶が全く抜け落ちているのだ。
つまり前世という物があったとしても男か女かサッパリわからないのだ。そもそもゲームキャラクターだったから記憶そのものがないかも。
そして多様性とかが尊ばれる時代の知識に依って、性自認が男でも女でもどちらでもいいやという考えに至る。
男の子的な物に憧れたりするし、女の子のように優しくされたい。それがわたし、アイギスさんだよ。
じゃあ、今日は女の子を助ける騎士の役割をやるぜ。追加の報酬これでゲットだ!
(ただ単に物欲に塗れたエルフではないか)
(五月蝿い心の声。男の子とか女の子だとか以前に稼がねばならんのだ。甘っちょろい夢では食っていけん。わたしは男女平等社会からやってきた哀しき戦士だ)