第六話 妖精騎士アイギスさんの恋愛事情と幼女アリーシャちゃんの恋愛指南(1)
わたし、妖精騎士のアイギス。
今とても困ってるの。
セレスティナさんが最後に泣き出すから、この人もう限界だと思って、死ぬかも知れないと思って引き留めること言っちゃたんだけど……
「私……お世話になっても良い……ですか」
「一生でも付き合う。離れんな……」
「私一つだけ解ることがあります」
「なに?」
「人を好きになるってことは」
「充分。それさえあれば生きて行ける」
この会話の流れって実は告白してない……?
……ち、違うよね! もうセレスティナさん見てられないから言っちゃったけど。
面倒みるって言ったから見るよ。この妖精騎士に二言はないよ。
けど……わたし、シルフィちゃんって言う女の子の恋人が居るんだけど……
そしてわたしは今、自分の家の庭にそのセレスティナさんを連れて転移魔法で戻って来ていた。
とてもヤバい気がするの。
「わぁ、雪が一杯ですねえ」
「そ、そうだね。もうこっちは冬場だし」
セレスティナさんは積もった雪を眺めて珍しそうにしてる。14、5歳くらいの見た目の金髪碧眼の混血妖精の娘なんだけどもっと幼く見えちゃう。はしゃいでる姿とか本当に子供じゃん。
まぁ、見た目的にはわたしは更に年下っぽい容姿してるんだけど。
でも、実年齢いくつなんだろ……?
ってそう言う事じゃない。考えろ、わたし。なんでいつも土壇場になって気付くの。
「わぁ、雪だるま作ってますねぇ」
「うん。まだ、小さい男の子いるから一緒に作って遊んだんだぁ〜」
と、わたしは内心とは違う言葉を吐いて時間を稼ぐ。
よしっ、帰宅するまで時間は稼げそう。
まず、どうしてこうなった?
引き留めたのはOK。何も問題はない。あの状況でわたしがああでも言わないとこの子どうなってたかわからない自信がある。
そして、あの後、二人して一緒に泣いて……
ああ、そうだ。わたし昔死んだあいつの事思い出したんだ。所謂、超能力者でさ。ってあの馬鹿はもういい。
セレスティナさんが泣き止むまで1時間くらいかかっちゃったんだっけ?
わたしも精神感知の技能であの子の背負った感情解っちゃったから一緒に泣いちゃった。……今、考えるとずっと抱き合いっぱなしじゃん。
しかも張本人のセレスティナさんがわたしを逆に慰めてたよ泣きながら。本当に自分の感情が解らない人なんだね。
「あ、雪で鎌倉も作ってるんですね」
「ごっこ遊びの秘密基地みたいでしょ」
「わっ。おもちゃが置いてますね。これは男の子が喜びそうですね」
良しっ。更に時間を稼げそう。
……そうだ。で、この街ヴェスタに帰るって話しになって、わたし借家あるから家来る? って聞いて。
「じゃ、じゃあ。お呼ばれしますね」
って、セレスティナさんが頬を赤らめながら言うから……何も考えずに戻ってきてしまいました。
……女の子呼んでんじゃん! わたしが!
過去の自分、シルフィちゃん(恋人)のこと考えろよ!
しかも、家呼んだ時のセレスティナさんの顔……
完全に恋する女の子じゃん!
……え、でもわたし女の子だよ? 憧れとか言ってたからそっちかなぁ?
でも、本当にわたしを好きだったら……?
な、なんか不味い気がする!
そして、開け放たれる我が家の玄関の扉。
出てきたのはわたしの恋人シルフィちゃん。
「あっ、やっぱり帰って来てたんですか。庭の方が騒がしいと思って。お帰りなさいアイギスさん」
なんて顔すれば良いの……。
ええい全力を上げて取り繕え。
わたしならできる。
てか、男の子部分で思考するからグダるんだ。女の子部分だと饒舌になるからきっと行ける! 思考法をバトンタッチ! 来いわたしの女の子分。男の子分はあっち行け。女子力を全開に!
「ただいま! シルフィちゃん。……で、今日はお客さん連れて来ちゃたんだ……」
と、わたしは元気よくセレスティナさんを紹介する。後ろめたい感情は微塵も出さない。全て男の子部分が悪いと責任転嫁して感情の揺らぎを抑えるの。女々(めめ)な発想だと男の子分が騒ぐけど、わたしは女の子だ。
「あ、あのセレスティナですよろしくお願いします」
と、ペコリと頭を下げ挨拶するセレスティナさん。可愛いなぁ。ってあれ?
「あ、はい。……」
と、わたしにシルフィちゃんが目を向ける。ちょっと不安顔。解る。いきなり女の子連れてきたからでしょう。女の子が好きな女の子が女の子連れてきたら疑うよねー。
「あ、仕事で一緒になった人なのよ。今日は家に泊まってもらおうかと思って。徹夜明けだから疲れてたし」
「あ、そうなんですか」
「ささっ。遠慮せずに入って入って」
と、わたしはセレスティナさんを案内する。
見慣れた我が家。良しっまずはお風呂を炊こう。衣服に着いた返り血とかは魔法で綺麗にしたけど、やっぱり綺麗になってから休みたいよね。
と、わたしはセレスティナさんにお風呂勧めて。ダッシュで風呂場で魔法で水作って。炎の精霊召喚して水風呂に叩き込み。良い湯加減にして精霊を帰還させ速攻で準備。
「はい、お風呂できたよ〜」
目を丸くするシルフィちゃんとセレスティナさん。
40秒だ。40秒で支度したよ。
「さっ、セレスティナさん入って入って。着替えはそこに置いといて。シルフィちゃんの服が合いそうだから借りて来るね」
「……え。あ、着替えは持ってるから大丈夫です」
「そ、なら遠慮せずにごゆっくりどうぞ。あ、タオルはそこのかごの奴使ってね。石鹸は風呂場にあるから」
と、わたしはセレスティナさんをまずお風呂に入れて時間を稼ぐ。まずはシルフィちゃんへのフォローが先。
わたしはシルフィちゃんの手を掴み。彼女が戸惑う時間を与えない。
「ごめんね。いきなり女の子連れて来ちゃて」
「え、いえそんな……」
「それで……わたしが言えた事じゃないけど。あの子事情があって当分家に泊めたいんだ」
「そ、そうなんですか。でも、アイギスさんのお家なんですから。わたしに構わなくても」
「なに言ってるのわたし達のお家だよ……もう」
わたしが雰囲気出して、シルフィちゃんにそう言うと彼女は少し俯いて目を潤ませる。良しっ効いてる。今まで育んだ愛の成果ってもんよ。
「はい……わかりました。アイギスさんの言うことなら……」
「うん。ありがとう。ご飯の手間とか増えるけど本当によろしくね。愛してる」
そして幸せって顔をするシルフィちゃん。わたしも幸せだよ。そう言えばシルフィちゃん引っ込み事案なとこある。セレスティナさんとちょっと似てるな。
「……わかりました。じゃ、じゃあご飯用意しますね。アイギスさんとセレスティナさんの分はどうしましょう」
「あ……もうお昼かぁ。わたしはもちろん頂くよ。セレスティナさんの分も作って置いて……いらなかったらわたしが二度愛妻のご飯を楽しみます」
「……もう、アイギスさんったら。わかりました。今日はアイギスさんの好きって聞いたクリームシチュー作ってます」
「やった。何杯でもいけるやつ」
と、わたしは背を向けたシルフィちゃんに抱きついてスキンシップ。
もう、やめてくださいよ。い〜や、今日のシルフィちゃん分を補給する。とかイチャついて攻略を完了。
よしこれでシルフィちゃんはなんとかなったよ。
あとはセレスティナさんにどう話すか考え――
「ふぅ、お風呂頂きました。ありがとうございます」
想定より早過ぎ! 十五分くらいしかまだ経ってない。女の子なら三十分くらい掛けるでしょう普通。
「? どうかしましたかアイギスさん」
きょとんと首をかしげるセレスティナさん。
そして、湯上がりで火照ったセレスティナさんを見て、わたしの胸が鼓動を速くする。
待って。惚れたりしてる場合じゃないから。わたしの男の子部分消え去れ。役立たずなんだから。あれでも動悸が速くなるの直んない。
「う、うん。じゃあ部屋に案内するね」
わたしは使ってない部屋をセレスティナさんに案内する。あ、洗濯もの干してた。取り込まなきゃ。と、取り敢えず空間収納送り。逆にベッド一式出して準備完了。
「ちょっと殺風景だけどこの部屋使ってね」
「アイギスさんベッドなんて空間収納してるんですね……」
「うん。寝れるときにぐっすり寝たいからね。じゃ、疲れたでしょ。もう寝る? それとも、もうお昼だからご飯食べる? シチューだからセレスティナさんの分も用意できるって」
「あ……それじゃ頂いても……?」
「遠慮はなしで。ただその前に聞きたいけど……この家、あと赤ちゃんと3歳の男の子居るんだぁ。セレスティナさん一緒に暮らせる?」
「え〜っとそこまでお世話になっても良いんでしょうか?」
「言ったでしょ一生面倒みてあげるって」
そしてお風呂上がりで火照った顔をさらに紅潮させるセレスティナさん……。
「……解りました。不束者ですがよろしくお願いします」
「それでね……セレスティナさん」
と、わたしは彼女に抱きつく。「え」と困惑するセレスティナさん。あ、良い匂い。じゃ、なかった。ここは駄目押しして押しきるの。良い考え浮かばないから全部アドリブだよぉ。(心の中は涙目)
「わたしの前から勝手に居なくならないでね。逃げたら許さないから」
「……はい。解りました……本当にありがとうございます」
セレスティナさんから嬉しいって感情が伝わってくる。本当にわたしのこと好きなんだ……
けど……もし、もし、考えてよ。好きな人がもう既に恋人いました。告白されたのにわたしの勘違いでした。って状況なったらこの子どうなる……?
シルフィちゃんとの事言えないよぉ……。
でも、わたしの勘違いだったら? 必ずしも女の子が女の子好きじゃないはずでしょう?
憧れとか言ってたし……よしっ一縷の望みを掛けて確かめよう。
「でね……セレスティナさん。そのあの、わたしのこと好き?」
「……はい。大好きです」
はにかむような笑顔で!?
「あのね。その好きって……女の子として……?」
「はい。わたしアイギスさんのこと好きですよ。わたしの王子さまですかね」
王子さま!?
「愛してる的な……?」
「? ……そうですね……運命感じちゃうくらいには……ですかね。正直なところ恋はしてるかもしれません」
そう、そうなんだ。確定だった!
わたしはセレスティナさんから離れようとした時。扉が開けぱっなしな事に気づいて、振り返ると。
黒髪の女の子シルフィちゃんがそこに立っていたのだった。
「あ、あの……」
わたし、アイギス。これから針の筵に立たされるの。それだけはわかった……。




