幕間その3 妖精騎士アイギスさんと天使王より与えられる試練
我は智天使の長ザフィキエル。
天使王の傍に仕え見守り続ける者。
常に主の傍近くに控え、宙に浮いている。人の頭部ほどの大きな眼球を皮膜に包み、その皮膜に天使の翼を生やしているのが我の姿だ。
そして我が主の御姿は人間の3歳児の女児そのもの。今、我が主はとある街の建物の角から女の子二人の様子を伺っている。
「ふむ、ザフィキエルよ……実に良い場面に出会えたようだ」
女子二人の別れの瞬間であろう。我は女子二人の会話からそのように推察する。
「実に良い雰囲気を感じる。あの者らこそ、このアリーシャちゃんに大きな運命のうなりを感知させた者たちに違いない。……やはり百合であったか」
我が主はこの世全てを律する者。汎ゆる因果を紐解き、人が運命と呼称する瞬間を垣間見ることなど造作もない。
「む、ザフィキエルよ。そのまま別れそうになっている。なんということ」
我が主は垣間見ている女子二人の未来がお気に召さぬようだ。
「ふむ、やはりこのアリーシャちゃんの力が必要か……良い。見ておくが良いこの天使王の力を」
我は天使王の命でその御力を拝察した。
天使王は権能たる技能〈律命権限〉によって、女子二人の内の一人セレスティナなる者に天命を発する。
〘そこで涙を流すのだ。きっと良い感じになる〙
〈律命権限〉の命令を拒否することは、因果律の干渉に対する耐性を持たなければ絶対に不可能。
セレスティナなる者は天の意志に従い涙を流した。
もう一人の女児アイギスなる者がセレスティナを抱擁する。
「フフフ、全てこのアリーシャちゃんの手の内よ」
赤子が時折浮かべる不敵な笑みをその顔に浮かべる我らが天使王。その権能を用いれば運命を操るなど造作もないのだ……然し。
「う〜ん。でももう一人の子。アイギスちゃんのように思える。どう思うかザフィキエルよ」
「――――」
我は答える。我が言葉は圧縮言語である為、人の言葉としては発声できない。然し、答えを要約すれば、可能性は高い、であろう。
「やはり……そうかザフィもそう思うか。……アイギスちゃんもこの世界に来てしまったか……あのツンデレ神と云われたアイギスちゃんが」
"ツンデレ"……即ち女子が気になる男子に自らの存在を誇示する際の方途の一つ。主に本人がその手段を気づかずに行っている場合の事を指す。
然し、あの者は神の領域に至る者……
その呼称たる"ツンデレ神"とは?
「……ふむ。ツンデレとは本来、その存在が現実世界では確認できない架空の概念だったのだ、ザフィキエルよ。……アイギスちゃんはその概念を実際に降臨させたリアルツンデレ。ツンデレだけで神の領域に至ったと思えばだいたい合ってる」
「――――」
我は主たる天使王に進言する。より調査が必要ではないかと。我は主に害成す者か見定めねばならぬ。
我は情報戦に特化した能力を天使王より与えられている。静的情報ではあの者がアイギスなる者か確定できない。されど動的情報の収集手段はこちらの存在が露呈する可能性が大きい。
が、そのリスクを加味しても"ツンデレ"なる概念によって神の領域に至りし存在の危険性は大きいのではないかと危惧する。我には余りにその存在は未知すぎた。
「良い。ザフィキエルよ……今、あの雰囲気を壊すことは許されぬ」
「――」
全ては天使王の御意のままに。
「ふむ。けど、まさかあのアイギスちゃんが女の子好きだったなんて……かつて感じたあの運命的なものもアイギスちゃんに違いない」
情報戦に特化した我にすら感知できなかった。因果律である。我が主たる天使王はその権能によって、アイギスなる者の存在が発した未知の波動を察知したのだ。
「まぁ、良い。ならば……あの計画を発動させるときが来た……異世界系主人公あるあるの一つ。アイギスちゃん女の子が好きなようだから――」
我が主は常に形式美を愛する。既に定まった一定の事象、概念を。
「百合ハーレム計画を」
それは我が主、天使王が計画してる内の一つであった。この世界に転生転移してくる者でその素養がある者に天使王が与えようとしていた試練の一つ。
「フフフ……あのアイギスちゃんなら乗り越えてくれよう。ザフィキエルよ……この天使王が繋げれる因果を探すのだ」
「――」
我は計画の概要を既に知らされている。
計画対象に対し次々と仲良くなりそう女の子と縁を繋ぎ、にっちもさっちも行かなくさせたり、仲良くなっているのを我が天使王様が御満悦する計画だ。
全ては全世界の律法を司る絶対の支配者。絶対正義の天使王の意思のままに。
「ふむ、ザフィキエルよ。まだあせらなくても良い。まずは、今の百合を成立させることにパワーを注ぐのだ。全てはそれから……面白いことになる」
我が主はフフフと不敵な笑みを浮かべた。
全ての事象はこの幼女の、天使王の為に有る。
「おそらく次は修羅場に違いない。アイギスちゃんそのまま連れて行ってしまった……行く先にもう一人女の子が見える」




