第五話 妖精騎士アイギスさんと混血妖精の戦神司祭(7)
「駄目だ、団長! アンセルもベックも殺られてるフローゲルの連中もだ」
「くそっ。 殺った奴は見つからねぇのか!」
おや。宴会場らしき部屋の扉を少し開けると、賊達の慌てる姿が見えますね。
あ、アイギスさんが私の前に潜り込んで来ました。まあ、私の方が背が高いので一緒に覗き見しようとしたらそうなりますね。
「団長……あれは殺しのプロの仕業に違いねぇ。さっさと逃げましょうぜ」
「……そんな奴に目をつけられて逃げきれると思ってんのかてめえら。オレ達相手にやり合おうって奴だぞ」
と、また賊の手下が走ってやってきました。
「だ、団長! 一階の広間の連中が殺られてた皆殺しだ」
「……団長。オレ達の手に負える相手じゃねぇ。見つからねぇうちにトンズラするしかねぇよ」
「団長。まだアジトにいる奴らもいる。ここは一旦城を引き払って建て直した方がいいんじゃないか。凄腕の暗殺者相手じゃ、ここは不利だ」
「クソっ仕方――」
と、団長さんが決断しようとするとまた賊が慌てて来ました。
「団長! メイドども囲ってたパックの奴ら。殺されてる。あんな殺し方、人間にできる訳がねぇ! 相手は化け物だ。全員、めちゃくちゃにバラされてるんだぜ血溜まりに沈んでらぁ……団長! あんなの酷すぎる。酷すぎるよ……うっ。うっ」
とアイギスさんが仕出かした惨状を見た賊が仲間の残骸をみて嘆いてます。まるで地獄だったんですね解ります。
そして傭兵たちがその賊の嘆きを見て全員こくりと頷き、意見一致で逃げ出そうとした、その時。
妖精騎士のアイギスさんが颯爽と扉を開け放ち、賊たちに姿を見せました。格好良い場面ですね~。私も及ばずながら続きます。
「よぉ。悪党ども。どこに逃げようってんだ。おい」
妖精騎士のイメージと違ってドス効いた声で喋りますね。少年みたいな声になりました。
「なんだてめえは?」
「テメェらが酒盛りしてる間にお仲間あの世に送った奴だよ、間抜けども」
「なんだと……」
ま、普通は子供。しかも女の子と人目みて判るアイギスさんが殺ったとは思えませんよね。私たちが返り血でかなり汚れてる点を除けば。
そして私の予測だとそろそろ……
「だ、団長! こいつは、こいつらは駄目だ」
「エルフで子供で赤い鎧に赤い盾……間違いがねぇ〈鮮血妖精〉だ!」
「な、なんだと……」
と、団長さんが後ずさります。大陸一の有名人と言っても過言ではないですからね。すぐ判りますよね。
「ま、まさか。隣に居るのは〈鉄血聖女〉じゃねぇのか……?」
「間違いねぇよ。俺ぁ見たことがある。見てみろあの戦鎚。しかも白衣の神官服が真っ赤だ……」
「ち、血で染めあげるとかマジだったのか……」
アイギスさんと比べると小物ですがそこそこ私も名を知られてます。
「しゃ、洒落にならねぇぞ! 〈鮮血妖精〉と〈鉄血聖女〉が一緒なんて!」
と、金切り声を挙げる賊。明らかに狼狽えてますね。偶に私もこう言うシーンに出くわします。気分良いですね。
「じゃ、死ぬ準備はできたな? 冥途の土産だ。わたしの可愛い姿を拝んで死ねや」
「アイギスさん。アイギスさん。皆殺しじゃないですよ」
「解ってる。わたしは学んだ。生きてりゃ良いと」
「?」
どういう意味でしょう?
「ま、待ってくれ。見逃してくれ、か、金ならある」
「そんな汚い金なんぞいるかよ。……祈れ。お前らの馬鹿な人生で迷惑かけた奴の為によ。せめて最後に謝罪しろ」
最後通牒と同時にアイギスさんの姿がかき消えます。次に姿を現したのは団長さんの眼の前。
秒という時間を掛けずに四肢両断。
そして近くに居た何人かも四肢がない生活不自由な方に成り果てました。
……ここまで秒という時間を掛けてません。
剣と盾で斬ってるくらいしか分かりません。
速い! 速すぎる! これです。怖いのコレですよ!
本気だしたアイギスさんは速すぎるんです!
そして治癒魔法で賊の切断した四肢の跡を止血して回るアイギスさん。さすがにこれは秒ではできませんね。
では、残りの方の治癒も私はお手伝いして。
「では、残りの方は……」
「そうだね……ただ、あいつは生かそうと思う」
と、アイギスさんは剣持ってる右手でまだ泣き崩れてる賊を指し示します。よっぽどショックだったのかテーブルに突っ伏してまだ泣いてますね。確かに頭かち割りにくいです。
「じゃ、後始末、始めよっか」
「はい! 頑張りますね」
治癒魔法で団長含む賊の四肢があった箇所の止血を終え、私たちは残った賊たちに向き直ります。
「まっ、待ってくれ。俺たちは団長に命じられただけなんだ」
と、生命乞いする人。
取り敢えず剣は抜いたけど明らかに動揺は隠せない人。
おっと真っ先に逃げだす人も居ますね。
「〈魔法施錠〉!」
魔法効果によりバタンと締められる扉。
後はお判りですね?
「もう一度言うぞ。祈れ。後、数秒の生命だ。馬鹿やってきて御免なさいだ。それ以上の言葉はいらねぇ…………もう充分だな」
ちょっと私の想像の妖精騎士さんと違いますけど、これはこれで有りですね。
そして赤い閃光となって賊たちに襲い掛かるアイギスさん。
残像くらいしか見えません。
"練達"級冒険者の一番速い人の3倍以上速いですって。
「ちょ。私の分も残しておいて下さいよぉ」
慌てて私も手近にいた賊に戦鎚振り降ろします。
最後の戦いです。私も張り切ります。
まだ、賊の残党は居るようですし、長い夜の戦いが始まりますね。
そうです。これで妖精騎士さんとご一緒するのは最後の戦いなんです……




