第五話 妖精騎士アイギスさんと混血妖精の戦神司祭(5)
そして私とアイギスさんは子爵の居城に向かって突入します。
まずは城の城門前に居た賊2人を私とアイギスさんが走り込みながらスレ違いざまに始末。私は当然、戦鎚で、アイギスさんは盾の先端の縁で首を切り落としてました。
……盾で首落とす人はじめて見ましたよ。
城門は開いてたので私が〈魔法施錠〉の魔法で閉めて、魔法的にも封印します。城門は一つだけなのでこれで時間が稼げますね。
もちろん逃がす気ないって奴です。
そして、そのまま城の内部に突入。
早速、賊さんが一杯いました。石畳のエントランスホールの中央に掻き集めた略奪品っぽい箱が集積されてます。
ここに一旦集めて持って行こうって算段が見て取れますね。賊たちが私たちが侵入したのに驚いてますが、既に私の戦鎚が唸り始めて賊さんの頭を吹き飛ばし始めました。
すいません。身体が戦鎚振って頭かち割るのを止められないんです。もう、考える前に戦鎚振ってます。
この仕事辞められない理由がここに有りますね。もう私、だめなんです。戦鎚振るわないと生きて行けないんです。戦闘狂以外の何者でもないです。
駆け出しの頃はもっとまともに戦ってたんですよ?
ただ、段々強くなり手慣れて来てしまって、今では余計な事考えながらでも流れ作業で始末できます。
ダブルタスクって奴ですね。
相手にならない方々を始末しながら次の行動はどうしようかと考えれますから便利ですよ。
ちなみにアイギスさんはもう片付け終わったみたいですね。私が最後の一人を相手する頃には近くで待ってくれてました。焦った顔した賊の顎に戦鎚振り上げて、派手に中身吹っ飛ばしてこっちも〆(しめ)です。
「た、楽しそうだよね」
あれ? アイギスさんの凛々しくて可愛い顔立ちがぎこちないですよ。
「な、なにか私やってしまいましたか?」
「いや、特に問題は……」と、アイギスさんがなぜか顔を俯かせます「うん。わたしも人のこと言えないな……っと思って。こう思われてたのかぁ……」
「?」
何か思う所があるんでしょうかね。そう言えば私も自分が戦闘狂だと自覚した時、悩みましたね。
「あの、差し支えなければ後でお悩み聞きましょうか? 一応、私司祭ですし」
「いや、こっちの話だから気にしないで……それで二手に別れる? 一緒に来る?」
「そうですね……では不都合がなければご一緒させてもらえれば」
「分かった。じゃあ、わたしが先導するね。なんとなくだけど人の居る場所が解るんだぁ」
そして私はそのままアイギスさんに付いて行きます。まあ悩みがあってもそこはプロですから。気持ちを切り替えたのかアイギスさんは城の構造を知ってるかのように淀みなく突き進んで行きます。
てか、これは何か技能持ってますね。
もしくは魔法かも知れませんが魔法を発動した気配がないですから。
アイギスさんは敵の姿を確認してないのに手合図で、敵が居ることと人数を私に教えてくれます。
そして、私が頷くとアイギスさんが突っ込みます。
私は後方支援、若しくは遊撃役ですね。
もう、二人とも名のしれたプロの冒険者ですから、段取りしなくても阿吽の呼吸で判るって話しです。
そして私も後に続いて突っ込みますよ。
支援役? そんなのあの〈鮮血妖精〉に要る訳ないじゃないですか。
帝国から逃亡する時に国境警備の帝国騎士団に待ち伏せされて半壊させたって人ですよ? あの寄せ集めの徴募兵を千人斬りした何とかさんとは格が違いますって。
あ、早く行かないと獲物が。待って下さいよアイギスさん! あ、切り捨てるのが速い! 獲物が最後に!
†
そして私たちは順調に城を攻略して行きました。
いや、アイギスさん想像以上の強さですね。
扉開けた瞬間に盾投げて、その盾がブーメランみたいに孤を描いて飛んで行き、賊の頭が吹っ飛んでいきましたよ。そして戻って来た赤い盾をキャッチする妖精騎士アイギスさん。
「! ……盾ってそんな使い方できるんですか」
「面白いでしょ?」
「魔法とか掛かってるんですか?」
「まっさか。信じられないなら。次、そこの壁に掛かってる盾でやってみても良いよ」
と、次に部屋でたむろしていた賊の頭が同じようにブーメランされ丸盾で吹っ飛んでいきました。
「どう? どう?」
「うわぁ、本当なんですね。そんな盾の使い方してる人見たことないです」
「出来ても殆どやらないでしょ。ミスったら盾失うし。わたしもそんなにやらないってば」
「ああ、それもそうですね。リスク高いですもんね」
けど、それを腐っても元傭兵相手に軽く実演するアイギスさんを、見た目、子供だからって舐めたら痛い目見ますね。
まず冷静に考えて下さい。ブーメランで簡単には人殺せませんよ? あの盾も人殺せるスピードで投げつけられてますからね。
「やっぱり違いますね〜。帝国を敵に回した人は」
「……止めて。その思い出は永遠に仕舞って置きたいから」
さすがのアイギスさんも懲りてるようですね。良かったぁ、これで本当にキレっキレの妖精人だったらどうしようかと。
「それよりセレスティナさんは何か特技ないの?」
と、城占拠した賊討伐してる最中なのに完全に遊びに来た感じになってます。
相手が弱すぎるのと城にいる半分以上の人間始末したのにまるで賊が気づいてないので二人して舐めきりモードに移行です。(城にいる人間の数はアイギスさんが教えてくれました)
「私、戦鎚振るくらいしか特技なくて……二刀流とかくらいしか……」
「戦鎚二刀流とか見たことない! 見せて見せて!」
と、赤い瞳の色変えて輝かせて来ます。まるで男の子みたいですね。でも見た目は完全に女の子なんですよ。声なんて本当に子供の声です。しかも本当に妖精の騎士みたいな格好してて。ちょっと私の脳が混乱します。
「わ、わかりました。じゃあ次の敵は私が相手しますね」
「おっけー。よしっあいつらが丁度良いな」
と、城の廊下で木箱に座り、たむろしてる連中3人を紹介され、私は空間収納から取り出した片手持ち用の戦鎚と二刀流で近づきました。
「あん、なんだ。テメェ」
「いや、待て。こいつは!」
おっと気付かれましたね。仕方ないので突っ込みます。まず右手で片手持ちした柄の長い戦鎚を相手の賊のこめかみに叩き込みます。
片手持ちでも中身が飛びましたね。悪くない感触です。
そして勢いそのまま身体を一回転させて、もう片方の片手用戦鎚を中腰になった賊の頭に真横から浴びせます。顔が吹っ飛びました。手応えが直に伝わって堪まらないですね。
そして呆気に取られて棒立ちしてる最後の賊は……
柄の長い両手持ちの戦鎚を片手用と同じ長さくらいに持ち替えます。そして長くなった柄で賊の足を掬います。バランスを崩した賊の頭が丁度、わたしの顔の高さくらいに落ちてきます。
その賊の頭を両側から私の戦鎚が襲います。顔がぺしゃんこになりました。
得も言われぬ良い感触ですね。ダブルでお得ですよ。
そして、私は研究中の戦鎚二刀流を披露してアイギスさんの所に戻ってきました。あれ、アイギスさん引いてませんか。
すると、アイギスさんが空間収納から取り出したタオルを私に差し出してくれました。
「顔、拭きなよ……」
「……アイギスさんがやれって言ったんじゃないですか」
「女の子がやるモンじゃないよ……鏡見て」
と、また手鏡を取り出して私を映します。
すいません。顔が返り血だらけですね。中身も思いっきり浴びてましたね。金髪碧眼の妖精人の女の子の顔がちょっとしたホラー小説なってますね。
「わたしもね。気をつけようと思うんだ……戦い方」
「あ、はい」
でも仕方なくありません? 血は流れますって。頭の中身も飛び散ります。これが〈鉄血聖女〉の由来ですよ。
あ、酷い。アイギスさんさっきまで無邪気だったのに仕事の顔しだした。急に、スタスタ歩き出した。
アイギスさん、コロコロ表情変えますよね。あっ、顔拭き終わったからって置いて行かないで下さいよ。




