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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第1章 星幽界の彼方から求めて
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第五話 妖精騎士アイギスさんと混血妖精の戦神司祭(2)



わたし、アイギス。只今、ご機嫌斜め下の妖精騎士。


ジェラルダインを見送った後、部屋で鎧とか装備一式整えてたら、ムスッとした顔になる。

ただでさえ気分屋の妖精なんだから、仕事で呼びだされたら、良い気分になる訳ない。


こっちは恋人とイチャイチャして冬明けたらゴールイン目指してんのよ?

その為の貴重な準備期間を削られたらそりゃ不機嫌の一歩手前になるって。


「じゃ、シルフィちゃん出かけてきます」

「はい。行ってらっしゃいませ、アイギスさん」


ただ、このやり取りで幸せ感じちゃう。

良い。めっちゃ良い! シルフィちゃんの笑顔が素敵過ぎる。


うらやめ、世の独り身ども。家庭を持つとはこういう事だと。わたしが代わりに全力で悦に浸ってやろう。


そしてわたしが奥手だと勘違いしないようにやる事をやる。

シルフィちゃんにおもむろに近づき、「?」と頭の上に疑問符浮かべる彼女の頬に背伸びして軽くキス。行ってきますの奴。

勿論、わたしの顔真っ赤。シルフィちゃんもちょっと時間を置いて気づいて、頬が赤くなる。


「……あ、アイギスさん」

「じゃ、じゃ行って来ます!」


と、気恥ずかしさを隠す為に家を出た。やった、やったよ。わたしを全力で褒めろ。こっちも恥ずいんだ。


そして、冒険者ギルドまで浮かれ気分で到着。


ただ、わたしの幸せ気分もここまでだ。

こっから先は仕事場。


むさい男共がたむろして、昼から酒飲んで、殺しを生業なりわいにする野郎どもがくだを巻く鉄火場だ。浮ついた気分で来ちゃいけない。

ここでは舐められれれば死を意味するくらいの覚悟で来るのが常識。舐められる事はこの稼業では生命取りだ。


たむろしてる連中は腐っても"熟練"級以上の海千山千の冒険者共だ。奴らは暇なので常に目を光らせ、利き耳立てて儲け話と噂話を集めるのに余念がない。


駆け出しの冒険者なんて良いカモだ。良い人そうなフリして近づいて、どう料理してくれようかと考えてる。自分の利益になりそうな感じにな。


そうでなくても面白そうな話しを売って酒代稼ごうとするしなあいつら。年食った冒険者なんて油断も隙もない。伊達に生き抜いてる訳じゃないんだ。切った張ったのこの稼業でな。



更にわたしの機嫌はギルドの扉を開けた瞬間しゅんかん急降下した。アルコールの匂いに野郎どもの不潔な匂いが混ざる。さっきまでの花香るような甘々スイートホームからいきなり掃き溜めに来たからだ。機嫌が良くなる要素が微粒子レベルでも存在しねぇぞ。返せよわたしの幸せ気分。



そしてわたしは不機嫌オーラを全開にしてこのわたしを幸せの絶頂から底辺にまで叩き落としてくれたカウンターに立ってるギルドマスターの元へ。


「…………アイギス。また仏頂面してんな」

「……用件は? 下らない話しだったらブっ飛ばすぞ。わたしの盾でな」


わたし、アイギスさんは1週間前にギルマスに警告した。この冬は恋人と熱愛生活に入ると。愛をはぐくんで身を固めると。大人の階段登り詰めると。雪解けになるまで余程の事がなければ仕事持ってんなともな。


「悪いな。アイギスお前にしか頼める奴がいない用件ができちまってな……まぁ、取り敢えず一杯奢るぞ」

「要らない。さっさと言え」


と、盾を身構えて用意。カウンターごと叩き込んでやんぜ。お前の口から馬鹿な話しが出た瞬間によぉ。

ギルマスはわたしの機嫌が余程おかんむりと見たのか言葉を選ぶようにさっさと話し始めた。


「……そうだな。前にお前がった賊共の残党いたろ。あの闇妖精ダークエルフの姐さんがつかまえて廃人にした連中」

「オーケー。わたしはあれには関与してない。アイギス、生命いのちの大切さを知った」

「…………まぁ、何があったかは聞きたかねぇな」

「それでいギルマス。世の中には知っちゃいけねぇ事がある。あれはヤバ過ぎる暗黒騎士だ」


世の中には触れちゃいけない事がある。このアイギスさんさえ上には上が居ると知った。暗黒面は伊達じゃない。(禁断の外伝その1より)


「で、そいつらがとある傭兵団から抜けだして来た傭兵崩れだって話しでな。その元の傭兵団が丁度、南の子爵の街に居るって事で、向こうの冒険者ギルドに教えてやった訳だ。ここまでは良いか?」

「オーケー。で、その傭兵団がなんかやった訳?」

「勘が良いな。ああ、どうやら連中も暗黒神殿に繋がりがあったらしくてな。子爵にまで話しが通って、どうやら傭兵団の連中に事情聞いたらしい」

「おい。馬鹿な話し過ぎてわたしの盾が唸りそうだぞ」

「俺がやった訳じゃねぇよ!」


本当に、馬鹿な話しなのこれ。

暗黒神殿ってこの国どころか世界中で活動してるテロリスト組織よ。宗教入ってるから更にたち悪いって奴。むしろテロリストのがマシで、生贄やら儀式やら、人攫ってやる極悪組織よ。蛇蝎だかつの如く嫌われててこの大陸じゃ信徒は殺しても無罪レベルの連中よ?


その連中に関わったってだけで牢獄行き確定なくらいなんよ。組みしたら当然、死刑。関わり合い絶対避けるのが常識の連中じゃん。


「で、それを馬鹿正直に話した……頭にうじ湧いた子爵連中どうなった? 傭兵団がそんなの疑われて自主します。なんて言う訳ないだろ」


辛うじて賊落ち防いでるような奴らが、もうお前ら賊ですか? 人間やめてますか? って賊取り締まる人に聞かれてみなさいよ。


何しでかすか分かんないよね?

何されるか分からないんだし。解るのは自主しても牢獄行きは解るじゃん。死刑免れても鉱山で強制労働だよね。連中に取って最悪な未来しか思いつかないだろ。


「いや、こいつは現在進行中の話しでな」

「進行中?」

「……解ってるのは子爵の居城が傭兵団に占拠されたらしい。何がどうなって、てのは分からん」

「そうか……馬鹿な話しをありがとう。じゃ、わたしはこれで」

と、わたし妖精騎士アイギスさんは華麗に背を向けて去ろうとする。わたしの美少女粒子で少しは換気しろ。この肥溜こえだめみたいな冒険者ギルドをよ。誰がそんな仕事受けるか。死んでろ子爵。国が動けよ国が。


ギルマスが慌てて止めに入った。

「いや、ちょ待てアイギス。お前の家庭にも悪い話しじゃないって。見固めるんだろ?」


「…………」

それを言われるとこのアイギスさんも少し弱い。少しだけエルフ耳を傾けようかなという気になる。明るい未来の為に。


「3分くれてやる。わたしの未来に希望がともるような話しならそのまま聞いてやる」

「まず、大金が手に入る。金貨500はギルドから保障してやる。子爵なり家族なりが生きてるなら更に500は俺が交渉して分捕れるだろう。目標は1000目指す」

「……もう少し上乗せ」

「もう、これ以上できるかはお前の努力と運次第だよ。取り敢えず子爵が生きてるなら1500は固い」

「ギルドの取り分は?」

「今言ったのはお前の取り分。俺は別に500目指す。税金もこっちで持ってやるよ……どうだ?」


わたしはくるりと回転してカウンター越しにギルマスに握手を求める。40に届かない若造のギルマスにしては良い話しだ。わたしには恋人もいるし、養子にする3歳児と赤ちゃんも居るんだ。金はいくらあっても困る事はない。

世の中お金だよ? しかも身綺麗な奴な。


汚い金をわたしは受け取らん。わたしは妖精騎士だ。金の為ならなんでもするなら、何の為に冒険者やってるのか解らなくなる。


それはわたしの譲れない一線だ。今まで散々やってきたけど悪党に落ちた事はない。わたし基準でな。


「久しぶりに良い話しが聞けた。デレてやる」

「交渉成立だな。……ただこの話しは急ぎだ。国が出て来て解決しちまったら子爵の面目がまる潰れになるからな」

「もう、ひしゃげてるくらい潰れてる気するんだけど気の所為せい?」

「いや、お前が解決できたらギリで子爵の面目が保たれる。そう言う事にする話しだからなこれ。その辺り頭入れといてくれよ頼むから」

「オーケー……。で"賊"はどうするの?」


このわたしの発言に瞠目どうもくして本当か? って顔をするギルマス。

わたしはあの暗黒騎士から学んだ。

利益を最大化するすべを。

もう、家族持ちになるんだ。少しは大人にならないとね。いつまでもアイギスさん8歳(=前世の人格記憶なし=異世界に来た年数)とか言ってられないぞ。


「そうか……お前も成長したな。やはり守るモンできると違うな」

「おい。涙ぐむな。お前はわたしの父親か」

「……いや。済まん……」

と、ギルマスが目元を拭う。わたしギルマスにそんなに迷惑掛けてたか? こっちじゃめちゃくちゃ良い子ちゃんだったぞわたし。


「ただ、今回はお前好みで良い。というより生かしておくと不味い。国の調査が入るだろうからな……家族持ちに手よごさせて悪いが」

「オーケー。面倒なことなしで。可能な限り口塞いでやんよ」


と、わたしは背を向けてギルドを後にする。

よっしゃ、久しぶりに大金入る仕事だ。

日が落ちるの待ってから襲撃掛けてやるよ。

闇夜に紛れて殲滅だ。

わたしとシルフィちゃんの明るい未来の為に。



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