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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第1章 星幽界の彼方から求めて
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第四話 妖精騎士アイギスさんの黒龍退治と騒動の後始末(5)



わたしが空を見上げてると、黒龍との戦いに決着が付いた事を見届けたジェラルダインとマスティマが近づいて来た。


わたしは涙を手で拭う。

センチメンタルな気分はもう終わり。

感傷(かんしょう)に浸ってもやってしまった事は仕方ないし、これ以上後悔する事もない。


わたしは今までそうやって生きてきたから慣れっこだ。不器用なんだろうな、わたしの生き方は。


ジェラルダインが黒龍グランヴァンとわたしを交互に見やってから声を掛けてきた。


「……決着(ケリ)は付いたな」

「そうだね……この黒龍どうしよっか」


「――ドラゴンゾンビにするとかどうです?」

と笑みを浮かべたマスティマの発言に、わたしとジェラルダインは、同時に、話しに割り込んで来たマスティマを睨む。


「あ〜お気に召さない……。け、けど格好良いとおもうんですよね。ほ、ほら、アイギスちゃんの思い出になりますし」

「ジェラルダインどゆこと? マスティマさんの発想にわたしの情緒と理解が追いつかないんだけど。今、ちょっと、殺って後悔した感じだしてたよね、わたし」

「マスティマは、アンデットを好む死体愛好家(ネクロフィリア)だ。悪気(わるぎ)はない悪気(わるぎ)はな」


わたしは赤い外套着たマスティマを睨む。その困惑した顔には、確かに悪気(わるぎ)悪戯(いたずら)()があったようには思えない。


ん〜、人の気持ち読めない子かなぁ? でもさっきは、わたしのグランヴァン煽りに乗って来たし。


「いや、わたし死霊術使えますから。アイギスちゃん喜ぶかなぁ〜っと」

「アンデットにはしないよ。この龍の漢気に免じて許してあげる。これ以上恥ずかしめるのはわたしが許さない」

「はい、すみませんでした。調子に乗りました。許して下さい」


と、一応は謝るマスティマを見て仕方ないな。って気分になる。この人からは別ベクトルでジェラルダインと同じ雰囲気を感じるから。

「ジェラルダイン……もしかしてマスティマって、人()った後はアンデットにしてない?」

「…………私の労苦を少しは察して貰うと助かるな」


やっぱり同じ人種かぁ……マスティマはちょっとシルフィちゃんに似てるからって好意持ってたけど気を許しちゃだめだ。わたしの仲良くなりたい候補からは外そう。

あと、ジェラルダインお前が言うな。(外伝その一参照)


そして、ジェラルダインが移動して黒龍の顔に持たれ掛かる。


「さて、アイギス。黒龍の件は後回しにして先に聞いておきたい事が有るんだかな」

「? どうしたの?」

「神祖の妖精王の件」

「…………」


わたしは押し黙る。やはり、お忘れにならない。

そりゃそうだよね。ジェラルダインは魔女王?とか言う人に頼まれてわたしの事探してたんだよね。


「ロマンチックな話しだよねー。樹木妖精(トレント)の爺さんの最期に迎えに来てさー。わたしは見なかったけど」

「…………」


ジェラルダインが褐色肌の美麗な顔を表情も変えずにわたしの事を見つめる。駄目だこれは、お信じになられていない。ジェラルダイン……自分が言い出した話しなのに。


「……まず、アイギス。先に言っておくが私は別にお前に危害を加える気はない。ハーヴェイの件の借りがあるしな」

「黒龍も忘れないでね。ジェラルダイン」

「ああ、そっちの件もあるな。ただ……私も仕事を果たさきゃならん。具体的に聞きたいが……神祖の妖精王は……お前か?」

「…………」


どうしよっかこれ。正直この暗黒騎士を信じて良いものか……だってマスティマさん居なくなってるし。

いざとなったらやる気なんだろうなぁ。


こういう時って相手を信じると馬鹿を見るんだよね。わたしはこの8年の異世界生活で結構痛い目見てる。実は人間不信なくらい他人って信用してないの。


常にわたしは最悪の事態を考慮してしまう。

いざ()り合うとしたらわたしがジェラルダインとマスティマに勝てるのか、と……


……多分勝てない。そんな気がする。

わたしは自分の強さを盲信したりしない。この世界に来て散々やらかしたけど、自分は無敵で、なんでもやれるって思ったことないんだ。


なぜだか思っちゃいけない気がするの。失敗しそうで。


そして逃がしてもくれなさそうだから、これ絶対ピンチだよね。下手な言い逃れもできなさそうだし。


で……わたしがずっと黙っててもジェラルダインが何も言わずにこっち見てる。……緊迫してるから胸キュンとかしないけど。喋らないと駄目なんだろうなぁ。覚悟決めるかぁ……。


「わたしが神祖の妖精王だったら……どうなるの?」

「……不味い事になるな」

「具体的には?」

「まず、世界中の連中がお前を放っては置かなくなる。聞いたと思うが妖精族にしてみれば死活問題。場合によっては神祖の妖精王の存在が明るみに出るだけで内紛になりかねん。血の流れる奴な」

「それは嫌だなぁ。わたしはただの冒険者で神祖の妖精王とは関係ありません。……って言ったら信じてくれる? ジェラルダイン」


「そう言う事にしておくのが無難ではあるな。――マスティマ。出てきていいぞ」


わたしは、え? と思った。その話し本当に通るの?


「いや〜本当にどうなるのかと――」

「黙れマスティマ。話しが終わってない」


茶々を入れそうになったマスティマを一喝するジェラルダインに、マスティマもわたしも押し黙る。マスティマが出てきた場所はわたしの背後だ。

マジか。一瞬で首盗られる位置なんだけど。まるで気づかない。冷汗出てくるんだけど。



「ではそう言う事にしておくぞアイギス。神祖の妖精王の件はそれで良いとして、黒龍の件は……」

「いや、ちょっとまって。本当にその話し終わったの。めちゃくちゃ信用できないんだけど」


さらっと流すから逆に怖いよ。この流れにわたしの不都合な点ない? 絶対何か裏があると思うじゃん。安心できないぞ、ジェラルダイン。


「そんな都合の良い話し通るの……? ジェラルダイン。魔女王とか言う人の依頼で来てるんだよね」

「ああ、そうだ。だが、魔女王からは神祖の妖精王を探しだして敵に回るか味方になるか見定めろ、味方になりそうなら交渉しろ。

と、言うのが今回の依頼の内容でな。

関係ありそうだが本人かどうかは確認は取れない。敵にも味方にもなるかは不明の状況、取り敢えずはお前の事をそう報告して判断を仰ぐ」


「それ、魔女王って人次第じゃないの……敵に回りそうだと思われたら……」

「当然お前の生命(いのち)はない。確実に抹殺を図って来るだろうな」

「味方になったら?」

「相手は悪魔の女王。世界中で一番警戒されてる聖魔帝国の権力者。悪魔という存在の頂点(トップ)

「…………最悪な気がするんだけどジェラルダイン」

「そう言うな。話せばそれなりに融通は利かせてくれるぞ。ギブアンドテイクな関係は維持できる相手だ」

「ギブもテイクも後が怖い。悪魔の使いっぱしりとか碌でもなさそう」


……考えなしに言っちゃったけどジェラルダインがその立場なんだよね。と反応を見たら、軽く両手を上げるジェスチャーをしてた。

……まぁ、ジェラルダインが悪魔相手でも手玉に取られる事なさそうだから、自分の意思で仕事選んでやってるんだろうね。面倒事でも。


「嫌なら、時間を稼ぐしかないな。本人が神祖の妖精王でないというなら魔女王にしてもそれが本当かどうか、見定める時間が必要になる。そちらの方が色々と都合が良いだろうしな」

「? ……ちょっと意味が解らないんだけどジェラルダイン。馬鹿でも解りやすく三行で」

「……お前が神祖の妖精王として名乗り出るのが嫌ならこの方法がおそらく最善。……ハーヴェイの件でなんとかしてやると言っただろ」


「…………マジで? 仕事とその借りは別の件じゃないの?」

「別件だが、仕事のついでだ。なに、大したことじゃない。それともお前が直接、魔女王と交渉するか?紹介するが」


わたしは思いっきり首を左右に振る。無理に決まってんじゃん。わたし結構口下手(くちべた)だよ。そんな正真正銘の悪魔と交渉できる訳ないじゃん。

DARK悪魔にも程があるわ。ラスボスクラスじゃん。


「なら、任せておけ。……要はお前とシルフィ嬢の生活に下らん真似はするな、させるな。と言うことで構わないな?」


なに、この頼れる暗黒騎士。本当に暗黒騎士か。(いや)でも、聖魔帝国の冒険者だっけ? なんだか信じても良い気になってきたぞ。


わたし、アイギス。他にを全く思いつかないから頼るしかないの。選択肢が一つしかないって奴。


ただ、後でそんな約束してないって言われるかも知れないから色々注文しとこう。プロなんだろジェラルダイン。わたしもプロだから抜かりはない。


「……それでお願いできる? あと、お引っ越しとかはしたくないです。国替えとかもちょっと……冒険者稼業も続けたいです。後、シルフィちゃん人質に取るとか止めて貰えますか。わたしブチ切れるから」

「…………そこまで注文を付けるなら成功報酬にこの龍を貰っておきたい所だな。借りの範囲を超える注文だ。仕事としてなら請け()う」


わたしは黒龍グランヴァンを見る。少し名残惜しいがシルフィちゃん達には……家族には代えられない。


「良いよ。けどアンデットにしたり魂取ったりはちょっと……尊厳とか人権には配慮してね。皮剥ぐとか材料にするまでなら良いけど」

「良いだろう。交渉成立だな」


そして、ジェラルダインが空に向かって合図する。

わたしが「何してんの?」と疑問に思ってたら、空にブォンと重低音が一瞬だけ鳴り響く。


大空に突如として現れる大きな物体……いや、でもこの形状は……

「く、空中戦艦……!」

「いや、星間航行もできる星幽界航行艦(アストラル・スターシップ)だな。戦艦は合ってる」


もっと凄かった!

……わたしの元になったゲームの中では空中戦艦や異世界を渡る次元航行艦はあっても星間航行船はなかったぞ。どうなってるのこの世界!


「では、マスティマ。迎えの飛空艇(ふね)を寄越すよう言ってくれ。次いでにこの龍も回収だ」


そして、瞬く間に飛行艇がやってきた。垂直離着陸できて大きなカーゴをぶら下げてるような形状の奴が。


カーゴ部分から扉が開いて悪鬼(デーモン)が出てくる。当然のように現代的な小銃(ライフル)のような物持ってんぞ。世界観どうなってる。


「ではな。アイギス。……一応言っとくが真龍を倒したなどと言い触らすなよ。わたしの仕事が面倒になる」

「解ってるよ。でも、爺さんの件はどうするの?」

有耶無耶(うやむや)にするさ。犯人は分からなかった事にしておけ。手筈は整っている」

「では、アイギスちゃん。またね。今度お喋りしようよね」


黒ローブ着た暗黒騎士ジェラルダインと赤い外套を着た盗賊マスティマが飛行艇に乗りこむ直前に、

「ジェラルダイン! 本当に約束守ってよね!裏切ったら地の果てだろうが星の彼方(かなた)でも追いこみ掛けるからな!」


と、わたしは念押しを忘れなかった。

一番重要なこと。別れの挨拶? そんなのないない。

だって、


「ああ、覚えておくさ。ではまた来る」


わたしの予想当たるんだぁ〜嫌な勘ばかり。


そして飛空艇に乗り込んだ二人が去る。


わたしの今回の冒険はこれで取り敢えずはおしまい。なんかやらかしまくった気がするけど、きっと気のせい気のせい。


なんとかなる……よね。


大丈夫。わたしの信じる暗黒騎士ジェラルダインがなんとかしてくれるって。

本当に信じてるよジェラルダイン!




次回は頼れる暗黒騎士さんが活躍予定。(アイギスさんが2回くらい出てこない)

が、急用ができたので明日の更新はプチ絶望であった。

(´・ω・`)〈 おめぇストックせずに放出するからな。

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