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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第1章 星幽界の彼方から求めて
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第四話 妖精騎士アイギスさんの黒龍退治と騒動の後始末(4)



黒龍グランヴァンが紅い瞳を、煌々(こうこう)と光らせわたし達を()めつける。

怒りゲージが怒髪天(どはつてん)()いて、逆に冷静になっているのか……それとも嵐の前の静けさなのか。

不動の仁王立ち姿勢で動こうとしない。


「ジェラルダイン一つ頼みごと有るんだけど」

「なんだ?」

「わたしアイツに大きな借りあるから一人でやらせてもらえる?」

「………お前好みのやつを用意するとか言ったな。……良いだろう。ただ、魔法封印の結界が弱まってる。五分と保たないぞ」

「充分。次いでにアイツの拘束も外してね。万全じゃなかったなんて言い訳されたくないからさ」


ジェラルダインは武器の(つか)を持ち上げる。

黒龍の首に巻かれていた光る糸がしゅるりと解け、コード線が巻き戻るように暗黒騎士の手元の柄に戻り、カシャン、カシャンと暗黒騎士の手元の武器が元の形状の騎士剣に戻っていく。


なに、そのわたしの男の子心を刺激する武器。蛇腹剣だと知ってるけど実際に見ると格好良い……。

この暗黒騎士、わたしの厨二心に刺さり過ぎだろ。


「これで良いな。油断はするな」

「……じゃあ行ってくる」

「アイギスちゃん頑張って〜」


マスティマの声援に片手を上げて応えながら、わたしは黒龍の前に歩を進める。

黒龍グランヴァンは一人でやって来たわたしに視線を合わせていた。

そして語りだす。その黒龍の声は噴火する直前の怒りに震えながら、辛うじて言葉を紡いでいた。


「我は、我は……かつて、これ程までの屈辱を、味わったことが無い……無いのだ。……覚悟は出来て、いるのだろうな……」

「掛かって来い蜥蜴とかげ野郎。こっちも爺さん粉骨砕身されて頭来てんだ。てめぇに葬儀頼んだ覚えはねぇんだよ」

「……よかろう。……我の、黒龍の、漢として、の誇り、矜持を賭けよう……――――!」


黒龍の言葉尻は声にならなかった。

突如とつじょ、上げられる全力の咆哮。

並みの者なら魂さえ砕けちると云われる竜の咆哮(ドラゴン・ロアー)が戦場を震わせる。


「掛かって来い! 〈星幽騎槍アストラル・ランス〉――」

わたしは周囲に精神系魔法で幾つも白光びゃっこう輝く槍を浮かべる。

「文句はねぇだろうな。お前もやっていた事だ」


向こうは魔法が使えない。こちらは使える。立場が逆転した。が、これは戦場の掟だ。有利不利は問題にならない。嫌なら、最初から戦うなという話だ。


グランヴァンからの返答はない。

代わりにけたたましい咆哮をあげながらその巨体をわたし目掛けて突進させる。

わたしの〈星幽騎槍アストラル・ランス〉が突進してくるグランヴァンに次々突き刺さるが黒龍の猛進は止まらない。勢いそのまま黒龍の憤怒の拳がわたしに迫る。その拳の大きさはわたしの全身より大きい。


普段なら避ける、あるいは盾で受け流す。

しかし、わたし、アイギスは逃げぬ。引かぬ。

ここで逃げては負けを認めるような物。

格の違いを見せてやるぞグランヴァン。


迫る巨体の龍の拳。

わたしはグランヴァンの全力の拳――

わたしの完全防御結界さえ緩和しきれなかった威力の――拳を盾で構えて、全身で受ける。身体に衝撃が伝わるが踏ん張った。


わたしは再度、〈星幽騎槍アストラル・ランス〉の魔法で周囲に槍を作りだし次々に発射。至近の黒龍を串刺しにする。


「GGAAARRAAAAAAAAAA――――!」

絶叫に近い咆哮を上げながら黒龍は拳を再度わたしに叩きつける。

無論ダメージはない。ただ、黒龍も止まらない。

次の瞬間には黒龍による拳の連打ラッシュが訪れた。

一撃一撃が大気を震わせ、衝撃波が周囲に伝わり、残っていた木々を薙ぎ倒す。まるでこの場が爆心地のようになったが、わたしは完全に防御しきる。ダメージはない……


「無駄だ、グランヴァン。わたしには効かないぞ」

「GGAAARRAAAAAAAAAA――――!」

返答は雄叫び。わたしは躊躇なく〈星幽騎槍アストラル・ランス〉の魔法で黒龍を攻撃し続けた……。





3分後。……わたしと黒龍グランヴァンの戦いに決着の時が来た。


グランヴァンはただ、拳を連打ラッシュするだけでなく、黒龍の息吹(ダークドラゴンブレス)や爪による攻撃。必殺技であろう腰溜め正拳突きなどの戦闘技を繰り出して来たが……


わたしはその全てを防ぎきっていた。流石に防御技を使わなければダメージをくらいそうだったので使用したが結果は全てノーダメージだ。


そして、奴の攻撃を全て受け止めながらわたしは〈星幽騎槍アストラル・ランス〉をひたすら撃ち込み続ける。

しかし流石、ドラゴン。中でも真龍トゥルードラゴンはタフだ。300発以上は撃ち込んだ筈なのに未だにグランヴァンは倒れなかったのだ。


だが、既に戦いは終わりの時が近い。


もはやグランヴァンの繰り出す拳には力がなく、明らかに体力の限界が訪れていた。


わたしの完全防御結界によって弾かれてしまう拳。

ただ、それでも、グランヴァンは殴るのを止めようとはしない……


「グランヴァン……魔法は使わないのか? もう、魔法封印の結界は解けている」

「…………」


力なく拳を振り降ろすグランヴァン。この攻撃でも一般人なら粉砕できるのだろうが……

最後の拳を振るい終わりグランヴァンはやっと答えた。


「……我に、我にそのような恥の上塗りができようか……」

「グランヴァン……」


苦しげに答える黒龍グランヴァン。

わたしには奴の胸の内は解らない。

しかし、気持ちは判る。ここで魔法を使うなら、死んだ方がマシという気持ちは。


矜持の問題なのだ。馬鹿だと思われるかも知れないけど、死んでも守らなければならない物ってあるの。男でも女でも関係ない。

それを守らなければ本当に死んだ方がマシって奴が。殺し合いに生きてるからマジなの、冗談ではなく。

多分、一般人にはあまり解らない。殺し合いや勝負に生きる者特有の精神性……それがあるから生命賭けれるって奴。


「殺せ、とは言わん。我の生きざまを、見せてやろう。受けるか、どうかは……貴様次第だ」

「……良いだろう。やってみせろお前のざまを見届けてやる」


そして、わたしは盾を構える。剣を鞘に戻ししっかり両手で支えて。

技能(スキル)や防御技は使わない。完全吹っ飛ばし防止の技能(スキル)だけは受けきれなくなるから使うけど、それ以外の技は無しだ。

これがわたしの最後の手向けだ。


黒龍グランヴァンは自らの体内の魔力を練り上げる。それは黒龍の息吹(ダークドラゴンブレス)を放った時と同じ兆候。けれど練り上げる魔力量が桁違いに違う。


自身の存在を全てこの一撃に賭けるが如きだ。

嫌いじゃないぞ。そういうの。言行一致って奴でさ。


「UGGGAAAAAARAAAAAAA――――!」


龍が空に向かって咆哮を上げる。

来る!

己の全身全霊を賭けた漢の生き様が。

黒龍、最後のブレスが。


黒龍グランヴァンは咆哮を終えるとこちらを向き、(あぎと)をカッと開いて限界まで大口を開けた。


純粋な闇属性の黒龍の息吹(ダークドラゴンブレス)。先ほどのブレスとは比べものにならない怒涛の奔流がわたしに押し寄せる。


「ぐっ、流石にちょっと痛い……な」


わたしは痛みに耐える。

正直この世界で、わたしに肉体的なダメージを与えれる奴に殆ど出会った事がない。

お前は誇っていいぞグランヴァン。

強さこそが全てだ。でなければ奪われる、どの世界でも。


わたしは耐えきった。黒龍の生涯を賭けた一撃(ブレス)を。

息吹(ブレス)を放ち終わった黒龍はその場に崩れるように地に倒れた……。


わたしは、ゆっくり、少し後悔しながら黒龍の大きな顔の元に辿り着く。


……事切れていた。


全ての魔力……生命力を変換してあの竜の息吹(ブレス)を……。


「わたし達って、馬鹿だなぁ」


わたしは空を見上げた。青空には太陽が昇っていていつもの日常があった。

グランヴァンにはもう訪れない。日常が。


少し涙が出た。



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