第一話 妖精騎士アイギスさんの村人救出作戦(2)
さて…
どうやって逃げ出した村人を見つけ出すか。わたしは少し小首を傾げて考え込む。
魔法の中には対象を追跡したり、監視したり、特定の人物を見つけ出すといった便利な魔法があったりする。けど、困った事にこの魔法はその人物に関連する触媒がないと行使できない。不特定多数を見つける事はできないのだ。
あとは…村の周辺を魔法で探索するくらい。
逃げ出した時の足跡を発見できるかも知れないが…
そう簡単に見つかる場所に居るとは思えない。
何故なら賊達が先に見つけてても可怪しくないからだ。追跡して発見したら無残な遺体だけ、と言うのは勘弁してほしい。
わたしの勤労意欲はそこまで高くないのだ。
わたし、アイギスは正義の味方でもなければ宮仕えの公務員でもない。自称騎士の住所不定、無国籍のごろつきである。
…わざわざ人助けしようとしてるのも、それが冒険者として請け負った依頼だから。ビジネス上の契約であってそれ以上の何物でもない。
アイギスさんはお人好しキャラじゃないのだ、勘違いして貰っては困るぞぉ。
「う〜ん、という事は…簡単には見つからず。しかも賊達が追跡を諦めるような場所…あるかな?」
魔法で作りだした擬似的な感覚器官である"目"を飛ばす。上空から村の周囲を探ってると丁度条件に一致する場所があった。
ただ、この世界では何の準備もなしに突っ込む事は自殺行為の場所だが…
人は、その場所を"森"と呼んでいた。
†
森というのは昔から怖い場所だと聞いていた。
村のお爺さんやお婆ちゃん達が私達が小さい頃から何度も繰り言のように森の怖さを教えてくれたのだ。
それでも男の子達の中にはわんぱくな子がいて、好奇心で森の中に踏みこんでしまった子達が居たけれど。そして…その子たちは…
皆、帰ってこれなかった。
その森に今、私達は迷い込んでいる。
私の名はシルフィ。
今年14になる何の変哲もない、村に住む女の子。自分でも特技は? と聞かれると考え込んでしまう程、平凡な村娘だ。
そんな私の人生は一夜にして一変してしまった。
村が襲われ、両親が殺され、友達で少し年上のお姉さんも賊たちに襲われたからだ。
私はお姉さんの今年産まれたばかりの赤ん坊を抱いて、必死で逃げた。
逃げる途中で泣きじゃくってた、まだ3歳の男の子のアル君も連れて。
そのアル君が私の腕を痛いくらいに引っ張る。
怖いのだ。
暗がりの森の中でも鳥肌が立ってるのが分かる。
恐怖で泣く事もできないのだろう。
ただ、私にしがみついて安心したいのだ。
けれど…私も怖い。
森の、巨木の根が露出して穴ぐらのようになってる場所に逃げこめたのは良いけど、ココから動けなくなってしまった。
私は逃げる途中で見たのだ、森に蠢く魔物達の姿を。
村の老人達から語り聞かせて貰った化け物達の知識が、逆に自分たちの境遇が絶望的だと囁いてくる。
早く、早く何とかしないと、と私の冷静な部分が焦りを引き立てるが。考えれば考えるほど何もできなくなる。
森に入るのは、子供を連れて逃げるには、この場所しかないと思った。
けれど私は今、後悔してる。
ここから出れば確実に死ぬと分かってしまっているから。とどろき蠢く魔物達は私たちを見つければすぐに群れをなして襲ってくる。
そして、抱いてる赤ちゃんがまたぐずり始めた。
私は必死になって赤ん坊をあやす。けれどそれも、もうおしまいかも知れない。
この穴ぐらのような場所の出口に大きな影が差して、爛々と目を輝かせた魔物がそこに立っていたから。
逃げ場がない…
わたしは咄嗟に赤ん坊を放り出して、その魔物の元に走り出していた。