第三話 妖精騎士アイギスさんと神祖の妖精王の探索(6)
周囲から接近して殺到する人造人間兵は六名。
ただ、それより厄介なのは先制して撃ち込まれる無数の弾丸。他のホムンクルス兵が手に小銃持ってわたし達に一斉に射撃してくるのだ。
「てか、小銃とか有りなの!?」
ここファンタジーな異世界じゃなかったの。
銃なんてこの世界で始めて見るよ。世界観おかしくない?
しかし、わたしアイギスさんの疑問をよそに四方八方から銃弾が撃ち込まれる。
幸い弾丸の軌道が"見えている"ので対応できない事はないんだけど。身体を少し動して躱したり、盾で防御したり剣で弾いたりできるしね。見えない所から撃ち込まれても感覚研ぎ澄ましてるから、大体予測ついちゃう。
「アイギス。巻き込まれたくなければ動くなよ」
ジェラルダインのその言葉と同時に足元に魔方陣が
現れる。わたしにはその魔方陣に見覚えがあった。
召喚系暗黒魔法〈悪壊死〉の発動準備だ。発動すれば周囲に異界の悪意の概念を呼び出し暗黒属性の呪殺魔法攻撃を仕掛ける。
接近してくる敵兵が丁度、全員が効果範囲に入るという絶妙なタイミングで魔法が、発動――
――しなかった。
「なに?」
掻き消される魔法効果。
あっ! こちらの攻撃の機を完全に潰された。
「ジェラルダイン! 敵が来る!」
「――ッ」
わたしは咄嗟に飛びだし、斧槍を持ったホムンクルス兵の元へ駆け寄る。
わたしの動きとタイミングぴったりに振り降ろされるハルバート。
それでこのわたしを潰せると思ったのが大間違い。
子供みたいな体躯だからって舐めんなよ。
振り降ろされて来た斧槍目掛けてわたしは逆に盾を思いっきり叩き付ける。
音速何倍か超えの速さで。
結果、斧槍が吹き飛ぶ。
猪突したわたしが剣を突き出し相手の胸へ、心臓を貫く。
さっさと一人倒したわたしに剣持ちの女性のホムンクルス兵が駆け出して来る。
今度はわたしがタイミングを合わせ、周囲から撃ち込まれてくる弾丸を剣で弾いて軌道を変え、彼女にプレゼント。
避けれなかった彼女は頭にもろに食らって残念なことに。そこまで狙った訳じゃなかったんだけど……ご愁傷さま。
そして、背後からやって来ていたホムンクルス兵も横薙ぎしてきた大剣を剣で受け止め、懐飛び込んで盾の縁先を相手の首元ぶっ刺して倒す。わたしの盾は武器なんよ。
ホムンクルスって聞いたから、もう少しタフかと思ったけど結構、簡単に死ぬんだね。ゾンビとかスケルトンとかのアンデッドの方が厄介かも。
そして、わたしは視線を転じる。
ジェラルダインが両手持ちにした騎士剣で、盾を構えたホムンクルス兵をその盾ごと叩き切る荒技が炸裂していた所だった。
死体が6つ。これで殺到してきた連中は片付けた。しかし、銃攻撃が鬱陶しい。黒フードが開けて素顔を顕にしたジェラルダインがわたしの元に駆け寄って来た。
「アイギス。時間を稼ぎたい。取り敢えず私の盾になれ」
と、言うが早いかジェラルダインは身を屈めてわたしの背後を取る。
「ちょ、子供のわたしを盾にするとか酷くない?」
「安心しろ。お前より子供な奴を盾にしたこともある。良心は傷まん」
ちげぇよ。そういう事じゃねぇんだよ。
てか、ジェラルダイン本当に外道だな。わたしの見た目この世界基準だと12、3歳くらいだぞ。それより年下っておい。
「てか、これ魔法が完全に封じられてるんじゃないの。〈浮遊〉の魔法が消えてる。雪に足取られるよ」
と、言いつつわたしは飛んで来た弾丸に対処する。ジェラルダインを守りながらだと面倒だな。
けど、盾役職の血が騒ぐ。
「強力な魔法封印結界だな。効果は〈魔力消失〉の強化版と言った所だ」
「対処法は? 敵の銃攻撃が厄介なんだけど」
「あるにはある。が、少し考えたい。奴らが魔法を封じたこの状況が少し不自然だからな」
わたしは頭に「?」を浮かべる。ちょっと意味がわからない。
「結構良いタイミングで魔法封じて来たと思うけど。向こうの隠し球じゃ……」
「ハーヴェイは馬鹿な女じゃない。この程度で私が倒せるとは思ってないだろう。魔法を封じても向こうも使えんから、奴らが有利って訳じゃないしな。銃弾くらいでは私は倒せん」
確かにこれくらいじゃジェラルダインは倒せそうにないなぁ。というより、ホムンクルス兵が弱すぎる。"練達"級の冒険者くらいの実力だと、何人いてもわたし達に勝てないって。
竜殺しの"伝説"級を持って来いという話。
「けど、銃の攻撃、本当に鬱陶しいよ。もう突っ込んで倒しちゃわない?」
「ああ、なるほど。そう言うことか」
と、わたしの言葉を聞いたのか、聞いてないのか、ジェラルダインが懐から拳銃を取り出す。格好良いオートマチック式のやつ。
ってお前も持ってるんかい暗黒騎士!
そして、何もない雪にバンバン拳銃を撃つ。
何してんの? と疑問に思ったら、着弾した場所が、炸裂した。
「……?」
「アイギス。周囲に地雷が埋まってるようだが突っ込むか?」
「…………戦場って頭空っぽの奴から死んで行くんだね。アイギスは一つ賢くなった」
あのミシェル・ハーヴェイって言う白い女エルフの指揮官、頭良い。わたし、アイギスは例え敵でも賞賛を惜しまない。
……見破るジェラルダインも同様だけど、こいつは厄介事にわたしを巻き込んでるので褒め言葉は無しだ。
「……そうか、こちらの足止めが狙いか。理由が判らんが決着を急いだ方が良さそうだな」
「急ぐのは良いけど地雷どうすんの?」
「お前なら踏み抜けれないか? アイギス」
「できる、できないかって言われたらやれない事はなさそうだけど……正直踏みたくないなぁ」
「我が儘言うな。援護はする。お前のそのやたら高い防御力が頼りだ。盾役だろ?」
「……結局突っ込めってことじゃん……。ああ、でもそれだとあのミシェルって女の人どうすんの? 殺って良いの?」
ここは生命のやりとりする戦場。女も子供も関係がない。必要なら殺るよ当然。
わたしは魔物相手の冒険者稼業が専門だけど、殺し合いに生きてるのには変わらない。
もうわたしは覚悟決めてんだよ。
生半可な奴は狩場や戦場に来るなって話。
「…………そういう所が私好みだな」
おい、やめろ。少し笑顔を魅せるな。キュンって心臓に来る。わたしにはもう恋人ちゃんがいるんだ。誘惑すんな。
「――殺って構わん。どのみち蘇生魔法がある。生き返らなければそれまでの話だ。判断は任せる。できるだろ?」
「了解。あの女、きっちりブっ殺してくるね。じゃ、行ってくる」
そして、わたしは所々(ところどころ)に積雪から木々が飛び出す、雪原のような戦場に駆け出した。




