第三話 妖精騎士アイギスさんと神祖の妖精王の探索(4)
わたしとシルフィちゃんは手を繋いで酒場から出たあと、一言も喋らず宿へ。そしてジェラルダインが確保したという一番良い部屋へ……
そしてわたしは顔赤いのに更に真っ赤になった。
その部屋に置かれてたのは二人で寝る用のダブルベッドだ。
わたしは慌てて室内を確認する。勿論、他にベッドなんて置かれてなかった。希望なんてなかった。
なんで部屋に入るまえに考えなかったの。そりゃ好きな子に好きだって気付かれて、テンパってたから。酒場から宿までどうやって戻って来たかも覚えてないんだよ。
「あ、あ、あの。そ、そうだ! わたし、下で、床で寝るから。ジェラルダインも気回し過ぎだよね!」
「い、いえ。それならわたしが床に寝ますから。お世話になってるのにベッドになんて……」
「いや、いや、いや。女の子床に寝かせてわたしベッドなんて無理だから。ほらわたし冒険で慣れてる。雑魚寝なんてしょっちゅうだから!」
「アイギスさんも……女の子です……」
シルフィちゃんが俯きわたしの手を強く握る。そうだった。わたしたちずっと手を握ったままだった。
「あの、アイギスさん。その……」
「な、なに……?」
「わたしのこと好きなんですか……?」
あ、あ、あ。言われた。言われちゃった。
酒場で、ついうっかり告白もまだ、とか言ったら気づくよね。気付かれちゃうよね。
でも、わたし自分が女の子好き、って自覚したの昨日の今日だよ! 次の日にいきなり告白できる?
普通、ちょっと間を開けて仲良くなってから勇気だそうと思うよね。展開がいくらなんでも早すぎるって!
「あ、あ、あ、あの」
返事しないと、返事しないと。と、思うんだけど言葉にならない。わたしはしどろもどろになりながら、それでもシルフィちゃんの手を握りかえして、
「うん」
と、一言。
何も考えられないから何喋っていいか解らないよ。
「あ、あのわたしのことどうして好きなんですか……?」
シルフィちゃんがわたしのこと見てくる。だから、わたしもどうしてだろうと頑張って理由思い出す。
「お、お母さんみたいで……」
……自分で呟いて、え、マジで? と思った。それってあの赤い人と一緒じゃん。
「お、お母さんですか?」
ほら、シルフィちゃんも戸惑ってる。絶対女の子に告白する時に理由として挙げちゃいけない奴じゃないの。
でも、実はそれが本当に理由なんだよね。だから、わたし、正直に話すことにした。
「うん。台所に立ってる所とか、赤ちゃんあやしたりアル君の面倒みたりしてる所とか見て…………わたしお母さん居ないんだ。だから、その、好きになっちゃて……」
と、わたしは言ってて言葉の最後の方で俯いた。
だって、お母さんみたいだから好きになる、って本当に有りなの? 自分で言っててなんだか悲しくなってきちゃった。
「……わたし。女の子から告白されたこと初めてなんです。男の子からもなんですけど」
「そ、そうなんだ。おかしいかな?」
「わからないです」
と、シルフィちゃんも顔を下に向けちゃった。
そう、そうだよね。いきなり女の子から告白されたらそうなるよね。男の子からでも戸惑いそうだし……
わたしが恐る恐る、シルフィちゃんの顔を見てると、意を決したのか顔を上げ、真剣な表情でわたしを見つめる。
「でも……わたし、アイギスさん嫌いじゃないです。優しいですし。友達みたいに接してくれるし……でも」
「で……でも?」
「こんなわたしで良いのかと思って……わたしなんの取り柄もないんです。本当にただの子供で……大人にならなきゃ。って思ってますよ、でもよくわからなくて」
「え? でも、シルフィちゃん家事できるし赤ちゃんの世話できるしアル君の面倒みてあげてるよね。わたし凄いことだと思うけど」
「村の娘ならみんなしてますよ? わたしももう結婚しなきゃならない歳なのになかなか相手決まらなくて……って何言ってるだろう、わたし」
け、結婚? シルフィちゃんまだ14歳だよね。ああ、でもこの世界の村の娘って早いって聞いた事ある。
「でも、それって付き合うって話しと関係あるの?」
あ、つい言っちゃった。覆水盆に返らずぅ。でも、本当にそれ付き合う理由に必要なの? とか疑問に思うの。
「え? 関係ないんですか」
「わたし、シルフィちゃんが頑張るの見て好きになっちゃったんだけど。取り柄があるとかないとか必要……なの?」
「……? 何かあった方が良くないんですか……お裁縫ができるとか手先が器用で内職ができるとか。わたしできなくて。村の男の子たちからも相手にされてなかったくらいです」
「うそ! それは男の子に見る目がなさ過ぎるんじゃ……」
いや、シルフィちゃんわたしから見ても可愛いし顔立ちも整ってるよ。何処となく容姿にこの子、わたしの前世知識の日本の娘っぽいとこある。黒髪だし。
「子供っぽいって言われてました……」
シルフィちゃんが思い出したのか明らかに落ち込む。婚期逃してるような悲哀をその歳で味わないでシルフィちゃん。
「でも、それならわたしも子供っぽいし。でも、女の子はだめ……?」
「わたしは嫌じゃないです。アイギスさんとても綺麗だし。わたしたちの事助けてくれたし……でもアイギスさんの方こそ良いんですか? わたし本当に…………自分に自信がないです。お付き合いしても幻滅されちゃうかも……」
「でもそれって付き合わないと解らないことじゃないの? わたしはそんなシルフィちゃん含めて受け入れたいの。勿論、赤ちゃんもアル君も一緒に……家族に、そう家族になりたいんだ」
「だから……お母さん……なんですか……?」
「そう。お母さんみたいなシルフィちゃん……わたし、大好きなんだ」
自分でも嘘かと思えるくらい素直に言えた。でも、それがわたしの嘘偽りない本心。いくら女の子が好きだからって、わたしも誰でも良い訳じゃない。
シルフィちゃんが良いんだ。台所に立って頑張る姿とか、赤ちゃんのお世話する時のシルフィちゃんの姿見るともう、なんとも言えない気持ちになる。
これは思春期の気の迷いなんかじゃない。
恋なのか愛なのかはまだ良くわからない。
でも……
「わたし、シルフィちゃんが本当に大好きなんだ。これだけは本当の気持ちなんだ」
シルフィちゃんの沈んだ表情が、わたしの告白にきょとんとしてから、頬を赤らめる。
「わたしもアイギスさんのこと……嫌いじゃないんじゃ……なくて、……でも好きって言われて…………嬉しいです」
シルフィちゃんが勇気を出していってくれた言葉。
わたしはその先の言葉が聞きたいけど、じっと待つ。真剣な眼差しを向けて。こんなの急かす話じゃない。ああ、でもまどろっこしくもあったり。
「あの、じゃあ、わたしと……?」
「恋人になりたい」
「…………はい」
そして、わたしは愛しい恋人の頬に手を触れ、背伸びしてキスをする。
今日わたしたちは初めて大人の階段を登った気がした。




