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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第二十六話 妖精騎士アイギスさんと続・悪党退治の強襲大作戦(3)



次々と戦鎚せんついでぶっ倒される兵士や騎士たち。

頭やめてって言ったら顔面に容赦なくブチ込むセレスティナさん。頭蓋ずがいが割れる音が生々しいぜ。



「……人間の頭って半分吹っ飛ばしても生きてられるもんなんだ」

「脳さえ無事ならなんとかなりますよ?」


返り血浴びながら微笑ほほえむ戦神の申し子。見た目が14、5歳くらいのあどけない金髪エルフのだからちょっとした狂気を感じる。


今は城の狭い通路で戦いを繰り広げてる最中。その通路中に顔面陥没したヤツらが倒れ込んでる。

屍山血河って感じに。(まだ、死んではいない)


そして王城の守備兵たちが無惨な事に成り果てた同僚たちを見て、戦慄と恐怖で表情を色めき立たせているの。後ずさる兵たち。


「……だ、駄目だ。こんなのに勝てる訳がない」

「〈鉄血聖女〉だ。ヴェルスタム王国の戦神司祭じゃないのか。化け物が過ぎる」


「言われてるよセレスティナさん……一人で突っ込んでやるから」

「そんな、後に続いてくれると思うじゃないですか」

「続きはしたけど敵が残ってねぇ」


狭い場所で両手持ちの戦鎚せんつい振り回されたら一緒になって突っ込むの躊躇ためらうのよ。しかも、るな、って言ってるのに顔面にブチ込み始めたら尚更によ。


「一瞬、話聞いてなかったのかな、とか思うじゃない。――だよね」

わたしが同意を求めると、コクリと頷くアイリ。

「アイリも顔だけなら生きてるとは思わなくて」

「真似しなくて良いよ。人の頭を割り続けて身に付けた狂気の業だから」


怨嗟えんさと呻き声が通路中に響き渡る。

そして後続の黒甲冑の邪鬼グレムリン兵達がやって来て魔法薬ポーションを使って哀れな被害者たちに治療の手を差し伸ばし始めた。


「ほら、幾らぐに死なないって言っても放置したら死ぬ状態じゃん」

「アイギスさんがそういう段取りしたからやって良いものかとぉ……」


確かに言ったよ。わたし達が先陣切るから死にそうな負傷者の手当てを優先ってさ。でもさ、逆にそれでぶっ飛ばしても良いよね。って理解にならんでしょ。

まだ、敵兵が残ってるからつべこべ言わないけど。



「まぁ、いいや。――で、おまえらまだやるか? 〈鉄血聖女〉に〈鮮血妖精〉、とその娘が相手だ。今すぐ武器を捨てて投降するなら許してやらんでもない。戦神バーラウの教えに従ってな。駄目なら……」


台詞セリフの続きを転がってる死体もどきにわたしは剣を突きつけて指し示す。選択肢次第のおまえらの未来よ。


わたしの恫喝どうかつで仰け反るように更に後ずさる守備兵たち。

王都の城務めだから簡単には引けないかな?

まともな返答がないのでわたしは剣と盾を構えて歩みを進めようとする。

と、その時、通路の先からやたらデカい男が怒声と共に現れた。


「ええい! 何を狼狽うろたえておるか! それでもえあるアウレリアの近衛このえか!」


顔には無精髭を生やし甲冑を着け、鬼の金棒ような戦棒持った大男が後から出てきて兵を一喝するの。

そのまま兵を掻き分け通路の真ん中に立ち塞がる。

いかつい親父だよ。歴戦って感じの益荒男あらますお。とても上品な国の騎士や兵士って風体じゃない。



「まずお前がそのえあるアウレリアの騎士に見えないな。何者だ?」

わしゆえあってこの国に厄介になっている客分よ。〈戦鬼ガレアス〉と答えれば少しは耳にした事はあるか、小童こわっぱども」

「ん……? どっかで聞いたことあるな……」


「アイギスさん、ベイグラム帝国で活躍したという将軍ですよ。〈戦鬼将〉の異名を誇ったとか聞いたことが有ります」

「……思い出した。泣く子も黙るってヤツか」


一騎当千の実力者にして将軍としても優れた有名人よ。何せ冒険者たちが良くする話で一番強いヤツは誰か、って事で名前がいつも挙がってたからね。



わしの勇名も未だ衰えておらぬようだな。小童こわっぱどもにもまだ知れ渡っておるか」

「でも活躍してたの十年以上前でしょ。……確か、ベイグラム帝国のお偉いさん殺っちまって、その後は行方知れず。……で、こんな所に流れてた訳か」


「だからゆえあってと申したであろうが。なにより貴様こそ帝国で散々やらかし、北国に逃れたと聞いたぞ〈鮮血妖精ブラッディエルフ〉。そんな貴様が、よもやこの城に攻め込んで来るとはな」

ゆえあって、ってヤツだな。少しばかりここの王さまに話がある。通してもらおうか……まさかこっちに勝てる、とか思ってないでしょうね、おっさん」


「勝つか負けるかでいくさなどせぬわ! 小童こわっぱどもが! 忠義忠節も知らぬやからめ!」

「そう言うお前は仮でも雇い主の主君ブッ殺したって聞いたけど……」


〈戦鬼将ガレアス〉といえば傭兵みたいにころころ主君替えして戦場を渡り歩いたって有名なんよ。

そして最後に主君と報酬だかで揉めてっちまったってね。

さすがに雇い主殺すヤツは召し抱えられん、と帝国から出奔する羽目になったのがガレアスの武勇伝の締め括りよ。


「……その後は国外で傭兵やら何やらしてるって噂しか聞かなかったけど……それで忠節とか言われてもねぇ」

「肝心の箇所が抜けておるぞ、忌々しい。主君殺しは恥だが、金の為に殺ったのではないぞ。あ奴め。あろうことかわしを亡きものにして嵌めようとしおったからな。だから返り討ちにしてやったのだ。忠義忠節にも限度があるわ!」


「まぁ、殺られた貴族の家も面子めんつが有るから、色々噂流して真実を隠したんでしょうけどね。で、今はここの王さまに拾われて居候いそうろうか。解り易いな」

「理解したなら、尋常に勝負せい! 〈戦鬼将〉の二つ名、伊達ではない事を見せてやるわ!」


そして丸太のような戦棒を大きく振るう、大鬼オーガみたいな大男。筋肉ダルマのドワーフを人間サイズにデカくしたようなヤツだ。威圧感が半端ないな。戦場で無敗を誇ったという逸話が有るのも頷けるくらいよ。


そして、スッと一歩前に出るセレスティナさん。

わたしはその肩を押し留めるように手を置く。


「いやいや、さすがにあのおっさんの相手は手こずるでしょ。二つ名通りに強そうだよ」

「でも、尋常に、と言われると私が出るのが妥当かなって、思いまして……」

「良い勝負にはなると思うけど――」


「ええい! 何をつべこべ言っておる! 貴様らが今さら怖気づく訳あるまい。さっさと掛かって来い! この狂人どもが」

「狂人……改めて言われると腹立つな」


でも、セレスティナさんのやった事考えると反論できないの。顔面ぐちゃぐちゃにしても生きてるからOKって、やっぱり狂人の発想よ。


「凶行蛮行以外の何物でもないわ! 一国の王都、ましてや王城に吸血鬼や悪魔どもと一緒に乗り込んで来るなどとはな! この不埒者のクズどもが! それで神々に対して顔向けできると思うておるのか、貴様ら!」

「ああ、そっちだったかぁ……言われてるよセレスティナさん」


「と、申されましても戦神に誓って不義不忠は働いてませんし……」

「むしろ、わたしが神様みたいなモンだし……」

「コレは相当なイカれよ。ええぃ。言葉を交わすのも無駄であったか。光の神々に代わって一矢報いてくれようぞ。ご照覧あれ、我が祖神バーギアンよ!」


と、いきなり向かって来て戦棒を繰り出して来るのでわたしはセレスティナさんと一緒に咄嗟に避ける。

図体デカいのに動きは疾風のように速い。何よりコイツ祖神の名が。

セレスティナさんが叫ぶ。


「に、二重の意味で突っ込みどころが!」

「おまっ、バーギアンの要素一欠片もねぇだろ!」

「何を言う、我が身には有角妖精フォーモル族の血が受け継がれておるぞ。おかしな事はなに一つもないではないか!」

「それは可怪おかしくないけどバーギアンって闇の神々の一柱とか聞いたぞ。光の神々に祈って戦うのは可怪しくない!?」


「馬鹿めっ。人の信仰は自由であろうが。先祖の霊に習わねばならぬ訳も無し」

「道理だけどそれで戦いを挑まれるのが不条理感あるんだよ、こっちには」

「ええい。問答無用よ! 死ねぇい狂賊どもめ」


戦棒が更に振るわれ、空間を震わせ辺り一面に衝撃波を生む。爆発が起こったみたいな威力で風圧が凄いの。

……まぁ、わたしには効かないんだけど。

ちなみにセレスティナさんはサッと動いてわたしの背後に隠れていたよ、アイリと一緒に。

わたしはわたしで盾を振るって衝撃波を打ち消していた。


「考えやがる。この狭い通路で大技かよ――」

背後の〈黒色邪鬼兵団ブラックグレムリンズ〉と要救助者対象の顔面割れた兵たちが一緒くたにぶっ飛ばされてるの。

「――味方にも容赦ないな。治療してやってんの見てたでしょ?」


「敵の情けを当てにするなど武人の風上にも置けぬわ! 何より半死人をおもんばかって戦場いくさばになぞ立てるか! 戦場での誓いを立ててるなら潔く死ねぇい!」

「――同感。まったくその通りなんだけどこっちにも都合ってものが有るんだよね」


問答無用とか言ってたから、そのままわたしは突っ込む。相手が疾風の速さならこちらは神速よ。

ただ、相手は歴戦の勇者、タイミングを合わせて戦棒を叩き付けてくる。


「――ぬん!」

「――ちぃ! この速さを合わせれんのかよ!」


盾で反射的に真上からの一撃をわたしは防ぐ。無駄口叩く余裕は有るけど合わせられるのには驚いた。


「おのれ! わしの渾身を止めるとは」

「そっちは無駄口叩いてる暇ねぇぞ」


わたしの揶揄やゆと同時にセレスティナさんが戦鎚せんついを身体ごと回転させながら無骨と筋肉の塊ガレアスに襲い掛かる。

その必殺の戦鎚の一撃を片腕を犠牲に受け止めるガレアス。


「おのれ! 多勢で掛かるとは無粋ぶすいな!」

「おまえがまとめて攻撃して来るからだろ」


ガレアスが"次"の攻撃に備えようとした瞬間。

背後に回ったアイリが大斧をガレアスの背中に叩き付ける。甲冑を粉砕し肉を抉った一撃、血飛沫ちしぶきがひび割れた鎧の隙間から噴出した。


「がは」

片膝を床に突き、戦棒を床に立てる事で辛うじて倒れ込むのを防ぐガレアス。


「まだだ、ええい何のこれしき!」

「止めとけよ。いくら何でもその傷では戦えないでしょ」

「このガレアスが女子供に白旗揚げたなどと知られたら笑い物になるわ! 晩節をけがすという奴よ。やるならわしの首をとれい!」


って、言って立ち上がるの。この戦鬼将。背中とか足腰立たないくらい抉ってるのによ?


「残念。お望み通りにはできない相談だな。不服なら後で自害しな。――」


わたしが合図すると、ガレアスのひび割れた甲冑の背に矢が何本も撃ち込まれる。こっそり状況を伺ってたティアエルさんとレティアさんが撃ち込みまくってるの。さっきの衝撃波も曲がり角まで逃げてきっちりやり過ごしてんだよね。


「それだけ痺れ矢打たれたらもう身動き取れんだろ、さすがに」

「お、おのれ! この小童こわっぱども!」


恨みごとを吐きながら、やっとガレアスの巨体が床に崩れ落ちる。でも口だけ元気でよく喋る。


「このような恥ずかし目を受けるとは、武人の情けも知らぬ奴め。――ええい何を突っ立ておる!この兵ども。さっさと戦わぬか!」


戦鬼将ガレアスが守備兵に発破はっぱかけるんだけど、誰も動こうとしないんだよね。そりゃ一番強そうなの簡単に倒されたら二の足踏むよ。


「が、ガレアス将軍が討ち取られた……」

「討ち取られてはおらん!」

「もう駄目だ。一旦退却を――」

「引くな馬鹿たれ! ええいそれでも王宮勤めの近衛兵か!」

「わぁあああ」


と、一部の兵士が慌てて逃げ出し、他の兵たちも続いて王城の通路の奥へ逃げ出していく。

計画通り、これで崩れたな。

一度恐慌に陥った兵ってのは脆いのよ。

そもそもやる気があるなら真っ先に戦闘してる筈だしね。


「お、おのれ無念……」

「出てきた方が間違いだったな。腕に自信あったんだろうけど、兵を鼓舞こぶするのに自分がやられちゃ逆効果よ」

「くっ、万策尽きたわ……――」



そのまま意識を失うガレアス将軍。生命いのち賭けて来るとか漢気あるおっさんだよ。

後は逃げた連中が触れ回ってくれる事を願いつつゆっくり追撃よ。負傷者の手当てもしなきゃならないしね。

って、液晶タブレット見ながら治療を待ってたら増援のグレムリン兵がやって来る。


戦術データリンクの情報確認してたら集まってるのは、おあつらえ向きに玉座のある謁見の間だって情報来てたわ。


「また、これ見よがしな場所に立て籠もりましたねぇ……」

風情ふぜいが有るってもんでしょ。――良し、増援は続け。では移動始め!」



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