第二十五話 妖精騎士アイギスさんの悪党退治の強襲大作戦(6)
セレンディーズ・ドゥ・デリアーズと名乗った吸血鬼の娘。画面越しだけど顔色も良いし吸血鬼に見えない。
皇帝の娘だから血筋が良いからか? とか考えながらわたしは適当に喋る。
『――こちらの戦艦の活動目的だったな。貴官に告げる理由はない。現状貴国との外交関係を〈妖精連盟〉は持っていない。必要とあれば聖魔帝国との外交ルートから理由の如何を聞かれたし、以上』
わたしはやってやったぜ。と執務机越しにジェラルダインに軽くドヤ顔してやったよ。上手い言い訳っしょ。
こんなのいきなり任されて上手く答えられる訳ないじゃん。余裕でブン投げるわ。
ただ、吸血鬼の娘セレンディーズが食い下がって来るんだよね。
『第三国への軍事派遣は世界条約違反だ。我が真人類帝国は看過できん。理由の如何を説明できぬとあれば即刻、当該国の領域からご退去願おう。場合に依っては交戦もやむを得ぬ』
『そもそも〈妖精連盟〉は世界条約に批准した覚えがない。当該国のアウレリア王国からの要請ならいざ知らず、貴国から警告を受ける云われなどない』
『〈妖精連盟〉は聖魔帝国の傘下とこちらは認識している。なら条約の適応内だ。警告を無視するというなら交戦理由足り得る』
『そちらの思い違いも甚だしい。聖魔帝国の傘下になった覚えなどない。〈妖精連盟〉は独立勢力だ。不当に攻撃を受けた場合は反撃する。世界条約締結国に対しても貴国と争乱状態になったと通告するぞ――』
なんだ。やる気かゴラァ! と言う言葉を呑み込みわたしはそれらしい言葉を並べたてるよ。
幸い使ってる相手の言葉がこの大陸の物と違うから逆にスラスラそれらしい単語が出てくるの。
そしてわたしはチラッと視線をジェラルダインに向ける。
こんなの引けねぇぞ。最初から因縁付けてくる気しかないじゃん、可愛い顔してこの司令官やる気か?
"なるほど、幾つか推測は付けれるな"
とジェラルダインがこっそり〈念話〉の魔法をわたしに繋げる。
"どういう事よジェラルダイン?"
"おそらくお前が絡んで来たと知って様子を見にきたな。他にもロクス教国絡みだとか理由は有るんだろうがここまで突っ掛かるとなるとそれが動機の一つだろう"
"うわ、面倒な理由。吸血鬼の帝国なんてこっちは用がないんだけど"
"向こうは森陽王対策に使えないかお前への関心が深いらしいな。さて、ここからどう向こうが出るか――"
セレンディーズと名乗った軍人装束で凛々しいお姫様が返答に時間を掛けてる。向こうも傍に居た連中と軽く相談中らしい。口を動かしてないから向こうも〈念話〉を使ってるんだろうね。
『――結構。ならば聖魔帝国に事の是非を問おう。然し、当艦隊では直接外交ルートへ通信する手段がない。〈妖精連盟〉に対して通信の仲介を依頼したい』
"さて、どうするよジェラルダイン。折れて来た相手を突っぱねにくいよ?"
"ここらが潮時だな。ここでゴネても引かんだろ。仕方ない、向こうの言う通りにしてやれ"
『良いだろう。その程度の労は惜しむまい。暫し待て――』
と、わたしはジェラルダインの指示通りに聖魔帝国外務省への通信を報復戦艦を中継して繋げるの。
まぁ、ここからがまた長い遣り取りが有ったらしいけど……
結局、アレスタの街に分艦隊ごと乗り込んで来るのよ吸血鬼のあの皇女さま。
そしてお前らよぉ、陽の光に弱いからって軍艦並べて物理的に陽射しを遮断するの止めろや。
ウチの戦艦も仲良く並ぶんじゃない。洗濯物が乾かなくなるでしょうが。
†
†
「それで、来ちゃったけどあの連中どうすんのよジェラルダイン。街の住人への迷惑度が限界超えしそうじゃない」
アレスタの街に突如現れる吸血鬼の軍隊。
兵装も軍服がきらびやかだけど、下っ端は小銃とか持ってて近代的な様相だけどね。だからって品行方正とは限らないじゃん。軍隊なんて居るだけで街に迷惑掛ける存在で、しかも連中は人間を餌にするような吸血鬼だよ?
冒険者ギルドの応接間の窓から、占領状態が悪化した街の様子を見てわたしは街の住人に心から同情するわ。不安度が限界値行ってるでしょ。
「屍食鬼を運用してないだけまだマシだな。なに、吸血鬼と行っても他国で無作法はするまい。一応は文明国だ」
「そう願いたいわ。連中が暴れると洒落にならないでしょ……で、後からおっとり刀で駆け付けてあいつらどうする気なの?」
「それを今から会談して決めるのさ。こちらも事情を話したが、なら事実かどうか検分させろと言われては応じぬ訳にもいくまい」
「難癖付けられる予感しかしないぞ。大丈夫か?」
「相手の出方が解らぬでは対処のしようもないからな。先ずは連中の手腕を拝見したい所だ」
そして応接間で待っていると例の吸血鬼の姫君にして一軍の将、セレンディーズがやって来る。
ここに来る前に聖魔帝国が掴んでる経歴見させて貰ったけど、新進気鋭の軍人って感じだったわ。
実際に会ってみると容姿はお姫様みたいなドレス姿でも違和感ないような娘なんだけどね。
……ただ、目つきだけは軍人。この面構えは戦場に生きてるヤツだ、って解るよ。何となく親近感が湧くよ。
「失礼します神祖の妖精王陛下。既に言葉を交わした身ですが改めてご挨拶を。セレンディーズ・ドゥ・デリアーズ。真人類帝国軍における階級は中将、爵位は皇帝陛下から過分ながら公爵位を賜っております」
「……結構。非公式な会談よね。席へどうぞ。爵位制度は妖精の間にはないから良く解らないのよ」
と、デリアーズ公爵を促してソファに座らせる。
ちなみに爵位は誰が偉い程度しか実際わたしは解らん。むしろ強さで現す悪霊とかの方が解り易いよね。
「っと。そういえば吸血鬼の帝国も爵位は相当の強さがなければ与えられないって聞いたな」
さっき慌ててな。会談する相手の事とか国の内情とか資料出されてジェラルダインに詰め込まれるだけ詰め込まれたわ。
「ええ。その通りです。我が帝国は実力主義。必ずしも腕力だけが物を言いませんが、能力に相応しくなければ爵位を認められません」
「解り易くて結構なこと……ウチの連中も似たような物だな。王か神くらいだけどね」
と、実力者ムーブをかましてやるのよ。わたしの服装も豪奢な赤色のマント着て、頭に王冠乗ってけるの。権威力で負けないように、って急遽用意したわ。
「……では、陛下は真に神祖の妖精王で居らっしゃる? 非礼を承知で先ずお伺いしたいのですが」
「……なにを持って真と言えるかはわたしは知らないな。"私"のかつての臣下はそう認めてるようだけどね。……もうそいつらも殆ど居なくなってしまった。今居るのはその子孫ばかり……杜妖精や聖樹神の教えを信じるものくらいしか居ないでしょうよ」
意味深ムーブをしつつ少し物悲しくなってしまった。神祖の妖精王だなんて呼ばれても遠い昔、しかも前世みたいな話だもの。記憶もないんだし。
ちょっと遠い目して雰囲気出すの。
効果は抜群なのかセレンディーズがそれ以上は質問を投げかけづらいって表情をした。
「……で、真贋を問うのが吸血鬼の帝国がこの場にやって来た理由なの? お生憎さま。神祖かどうかなんてわたしには関係ないな。称号みたいな話と思ってもらいましょう。但し……実力が劣るとは思わない事だな。神々とされた妖精どもを率いるくらいはあると自負している」
一緒にセレンディーズに付いて来た連中を空気みたいに扱って無視していたけど、無作法にわたしを眺めるものだから睨み付けてやったよ。
従者の教育がなっていないな。
わたしの視線に吸血鬼の軍人二人と文官っぽいのがたじろぐ。もちろん殺す気の殺意乗せたもの。これで涼しい顔してたら逆に認めてやったけど駄目ね。
「ハイメアーズ。ガラン。ともう一人。退出しろ。礼節を欠いて私に恥をかかせたのだからな……2度は言わぬぞ?」
軍人二人が顔を見合わせる。名前も言われなかった文官の方は表情に焦慮を浮かべてた。
結局、軍人二人は何泊かの間を無言で遣り取りした後、文官の背を押して応接間から出ていった。
「重ね重ね失礼いたしました。お詫びしようも有りません」
「吸血鬼の姫君と聞いたけど弁えている……労苦を知らぬという訳でもないようね。では、邪魔者が居なくなったという事で良しとしましょう。……そろそろ本題に入りたいのだけど? ――で、ここに来た目的は?」
「先ずはお察しの通り、陛下が神祖の妖精王その人かどうかです。――何分、聖魔帝国から唐突に通告が成されたような状況ですので事実関係が我が帝国にも解らず」
後半の台詞は明らかにジェラルダインに向けたもので、含みがある言い方だった。
「……公式声明だけで充分。それを信用するか、しないかは真人類帝国側の問題だろう。実際、〈妖精連盟〉との外交関係を結ぶ事に対しては反応が鈍いと聞いているが?」
「貴国が直接の交渉に難色を示してるのが原因と私は聞き及んでいるが? ……まぁ良い、詮無い話だ。神祖の妖精王陛下の仰りようで有るならこの際、真偽を問うのも不敬であろう。私には帝国の代表者としての外交権がない。である以上、陛下に対しては〈妖精連盟〉の代表者として接しさせて頂く。――よろしいですかアイギス殿下」
「もちろん」
と、わたしは笑顔。なに言い合ってるのかさっぱり解らん。
「では、ここからが本題なのですが……ロクス教国の関与が疑われるこの状況、如何なされるおつもりです? 私が派遣されて来たのはおそらく当のロクス教国側からの情報漏洩と思われますが?」
「――ちらっ」
と、返答に困って傍に立つ暗黒騎士を、笑顔を固定したまま視線だけ動かして見るわ。
「短刀直入だな。……〈緋炎〉のデリアーズ公爵は外交の機微に疎い将官という訳ではないようだな」
「お誉め頂き恐縮だな。各国の諜報分野で暗躍する卿には児戯のような話かも知れんがな」
「で、それをぶっちゃけると言う事はデリアーズ公には腹案がお有りで? ……先程の遣り取りが下手な芝居でないと良いが」
アイギスさん大ピンチ。完全に話に付いて行けてない。含みある会話し過ぎだよぉ。
それを何とか澄まし顔で、解った感出しておくので精一杯。
「アイギス殿下には嘘偽りなく申しあげるが、我が帝国にも様々な考えを持つ者が居て、ことの対処に硬軟それぞれの方法論を正しいと思う者が居る――皇帝陛下は今回の件に関しては臣下に任せ、関心を示しては居られないのです」
「まぁ、それはそうでしょうよ。国が大きければ臣下が細々な些事を王に代わってやる事は可怪しくはない」
「それで、真人類帝国にしても今回の件。関与はするが主導権争いの渦中で方針が明確でない、とでも?」
「言葉に出すのも憚るが然り。宮廷と軍部に跨って派閥争いもある。辛うじてこの件、私が陛下より拝命したが……それも急遽という事で結局の所は漁夫の狙いだ」
「相変わらずだな。……なるほど、それで……神祖の妖精王絡みなのでデリアーズ公爵が請け負った、と」
肝心のセレンディーズは返答せずに鋭い視線だけジェラルダインに浴びせるの。応じる鉄面皮は皮肉めいた事も言わずに少し思案した表情をする。
「そうだな。解り易く説明するなら、真人類帝国は現状、今回の件で何らかの利益が得たい。但し、その"利益"を何にするかは状況次第で方針自体は場当たり的だ。デリアーズ公爵は真人類帝国に対して不利益が出る事は避けたいと考えている……ここまではよろしいかな?」
「付け加えるなら、最大の不利益であるアイギス殿下と敵対するような真似は絶対に避けたい」
「1人。手空きの"神"が居るから吸血鬼の帝国にブチ込め無くはないな。それに精霊だったら幾らでも送り込める」
大人げ無いけど敵対したらテロるよ宣言して置く。
天候操作だとか環境テロはお手の物なの。
やろうと思ったら世界を破滅させれるレベルでな。
そりゃ救う事が出来たんだもの、その逆もできるんだよね。やらせるかは別にして、ね。
「神祖の妖精王は虚魔王と同じことはやれると思った方が良いだろうからな。吸血鬼とは言え環境破壊されては食糧問題に直結する……公式声明は信じるべきだな」
「その情報を鵜呑みにするなら虚魔王どころの騒ぎではないからな。ヤツとヤツの眷属は抑えられているが、精霊は抑えられん」
もはや、精霊は何処にでも居て自然環境を維持するには欠かせない存在になっているからね。この世界には居て当然の存在なの、普段は姿を現さないから余り意識されないんだけど。
「なら、わたし達の良いように協力してくれるってこと?」
「はい。ただ、私は一軍人であって帝国の方針を決められる立場にはないのです。可能な限り協力はしますが……」
「協力しても良いけど、こっちも協力してくれないと困る。そちらも他に邪魔しそうな奴らが居るから相談して欲しいって事かな?」
「不躾ながら、アイギス殿下にそのように仰られるなら望外の僥倖。何分、こちらも不埒ごとを企てる輩が多すぎて……失礼。つい埒もない愚痴をお聞かせしてしまいました」
「それは構わない。……」
話が早くて助かるけど信用できるかどうかは別だよね?
と、思って頼れるわたしの保護者を反応を伺うの。
「別におかしな話という訳でもないな。一番厄介なのはロクス教国にこの状況を利用され仕掛けられる事だろうからな。デリアーズ公の提案に乗った所で危険がある訳でもない。むしろ公はロクス教国側の謀略を疑っておいでだろうからな」
「じゃあ問題はない訳だね」
「むしろ、問題は今から起きるのさ。当事者の苦労も知らずに引っ掻き回そうとする輩が出てくるからな」
「…………最悪じゃない」
「……はい。最悪です。我が帝国の木っ端役人どももですが、ロクス教国も何らかの手を打って来るでしょう。小事でも大事にして騒ぎ立てる小功狙いの輩が多すぎる」
「アイギス。人の足を引っ張る事に関しては世界条約各国は右に出るものは居ないくらいの連中でな。国際政治など大体そういうものだからな」
「碌な連中が居そうにないよね……そいつらも相手しなきゃならなくなるとか幸先悪いな」
わたしとセレンディーズが同時に溜息付いたよ。
面倒ごとでしかねぇ……。どうせ陰謀企み捲るんだろう、そいつら。物理的に消去できないから余計に厄介だな。
「だが、わざわざそんな奴らを相手にする理由も必要性もないがな」
まるで天啓のようなジェラルダインの発言にわたしとセレンディーズが暗い顔を同時に暗黒騎士に向けるの。
「な、何か考えがお有りになる?」
「そもそもこちらが先に動いているのはさっさとこの問題に片を付けたいからだ。国際問題にする気はさらさらない」
「ロクス教国と争う事はしないのですか」
「この程度で争う意味があるまい。純粋に条約理念を守る行動で、警告程度の話だ。なら、当事者どもを絞めればそれで済む」
「ならジェラルダイン、今から家探しするの? 吸血鬼の軍隊も居るから出来なくは無さそうだけど」
「まさか。奴らも小物だ、放っておけ。責任を取らせるなら大物に限る。……艦隊をこの国の王都に向けろ」
今度はわたしとセレンディーズが顔を見合わせた。
やる事がより派手になってるの。
ジェラルダインのやり方にセレンディーズが想像付いたのか呻いた。
「ま、まさか」
「そのまさか。当事者の一方、王家に当然、話を付ける。"国"さえ抑えて、問題に決着をつけてしまえば後から外野がいくら喚こうが後の祭りだな」
「酷ぇ。むしろ被害者みたいなものなのに」
「何言ってる、当事者だ。冒険者ギルドにちょっかい出してたのは王家とその取り巻きどもだぞ」
「……そいつは捨てて置けないな。良し。じゃあ行こう。直ぐ行こう。善はマッハで急げ」
わたしのやる気メーターが一気に天井突いたわ。
何となく絡繰りも解ったしよぉ。この麻薬利権に目を付けて政争やら派閥争いしてたんだな、ってな。
麻薬売買で利益を得てた連中もその王都に居るって事でアリーシャちゃんやアスタロッテも今、そっちに居るし。次いでにシメれて一石二鳥よ。
そしてわたし達はセレンディーズに何の相談もせずに報復戦艦の出発準備。聖魔帝国へ増援の要請。
最速で王都へ。
分遣艦隊〈緋炎〉もなし崩しに付いて来たわ。来るなら来いって感じだったけど、結局、司令官のセレンディーズは話に乗ったの。
そして日が落ちる頃には宙を行く軍艦8隻。"艦隊"と称しても良い連合艦隊がアウレリア王国の斜陽の空に姿を現していたのだった。
王都に乗り込めー。




