第二十五話 妖精騎士アイギスさんの悪党退治の強襲大作戦(5)
翌日。
午前中には第三層から転移魔法で地下遺跡を脱出。そして、わたし達を地上に待ち受けて居たのは、報復戦艦であった。
ジェラダインが鉄面皮の表情を流石に問い詰めるようにわたしとアスタロッテに向けたわ。
「〈妖精連盟〉唯一の戦艦じゃん。聖魔帝国で改修中だけど無理言ってこっちに向かって来てもらったよ」
「悪くはないが。……こいつを持ち出すという事は都市ごと制圧する気か?」
「派手にやるぜ。無駄に抵抗されても困るからよ。どのみちウチの妖精主体でやるんでしょ? なら任せてみなって、ヴェスタも落とした実績あるし」
ジェラダインが今度はアリーシャちゃんに視線を向けるの。
「飛空艇部隊で降下作戦をすれば、無血占領できる。アイギスちゃんならできると信じている。良い作戦に思える」
「まぁ、おまえがそう言うなら構わんがな。――どのみち悪魔部隊でやると抵抗されかねん。好きに任せるさ、大した話じゃない」
「フフフ、ではお決まりですね。では、皆さん乗り込めー」
と、なぜかアスタロッテが普段と違う口調で戦艦に向かうの、愉しそうに。ん〜アスタロッテからそんな子供みたいな台詞はじめて聞いたな。
まぁ、わたしも後に続くんだけど。
乗り込めぇー。
危機回避能力が高い悪党だと逃げるぞ。ここは一気呵成に突っ込んで、諸悪の根源を叩くのよ。
なんかアリーシャちゃんが連れて来た悪霊やらも付いて来たけどそれは気にしない事にした……
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突如、アレスタの街の真上にワープアウトする巨大な報復戦艦。アレスタの街並みに不吉な影を落として、直後に艦載の戦闘飛空艇が兵員を満載して次々発艦する。
「目標は4つの都市城門及び各ギルド施設、市庁舎――冒険者ギルドは直接アイギスさま一向が乗り込む。くれぐれも間違って突っ込まないように」
艦橋で吸血妖精のリーダー、フリュギアが指揮を執ってるの。
手慣れた感じに発艦した部隊に司令を発してる。現代的な機器も戸惑う事なく扱えてるのよね。
「あれ、フリュギアってもしかして戦艦とか乗ったの初めてじゃないの?」
「はい。操艦したことは有りませんが指揮くらいなら。勝手は違いますがある程度は解りますね」
「……なる程。やっぱり前の"私"も戦艦くらいは持っていたのか……って感傷に浸ってる場合じゃない。状況は、っと」
早速、降下した飛空艇部隊が仕事をし始めてる。
城門制圧部隊は都市外に陣取って、出入口を封鎖と楽なお仕事。
悪霊とかはこっちに配置して都市の守備兵を威嚇するのが役目。下手に市街に入れると戦闘になりそうだもの。どう考えても魔物の類でしょ、あいつら。
そして妖精部隊を載せた飛空艇部隊が都市の重要施設を占拠して行くの。
辺境で衛兵くらいしか居ない街よ。
元々アレスタは地下遺跡の発見で潤って出来たような街だから領主とか居ないそうだし。都市の有力者どもを抑えればごく自然に落ちそうなんだよね。
「被害とかどうよ? フリュギア」
「いえ、今の所は報告が有りませんね。順調なようです」
「よろしい、じゃあ。わたし達も行くか。戦艦ごと寄せろ」
街を押し潰せるような巨大な戦艦よ。具体的に言うと八百メートル級の全長なの。
そいつを空から降下させる。
丁度、冒険者ギルドがこの街の中心にあってどでかい建物だから至近距離に寄れば、降下して乗り込めなくもないのよね。
そして戦艦からタラップが撃ち込まれるように冒険者ギルドの屋根に落ちる。
みんな、乗り込めー。
†
†
結論から言うと特に抵抗とかはなかった。
まぁ、街の半分覆うような大きさの戦艦来たら抵抗とかできないでしょ。着陸するだけで街が半壊するもの。
「でも、完璧と思えたこの作戦も手落ちが……」
冒険者ギルドのマスターがふんぞり返ってたらしい椅子に座って、わたしは残念なお知らせをジェラルダインに告げた。
「都市の制圧は完了。衛兵も白旗揚げてくれたの。冒険者連中も自分達に危害が加えられなきゃ静観でしょ。でも、肝心の副ギルド長が何処に居るか解らないのよね……」
続けてセレスティナさんが捕捉してくれる。
「多分……街の中に隠れてるとは思うんです、都市外には出てないようなので。戦艦で転移魔法は封じましたし城門城壁は抑えましたし」
「でも他にも街の有力者の姿が何人か見えないのよね。やられたな。地下の下水道からは逃げられそうにないんだけど……」
ここの下水道、水質ヤバすぎてとても逃げ道に使えないの。魔物とか繁殖してるし。毒とかも発生してるらしいからね。
「町中を家探しするしかないんですよねぇ。でも、その前に都市の状況を落ち着かせないとマズイんです」
抵抗はなかった、と言ってもこの状況だもの。
街の住人が不安に思わない訳がない。こっちは住人には何もしてないけど、侵略者には代わりないもの。
誰かに扇動されたらと言う怖さがあるの。
で、煽る奴らが潜伏する悪党ども。というコンボを食らう可能性があるのが頂けないよね。前にやられてんだし。
「どうすれば良いと思うジェラルダイン?」
「……そうだな。狙いは悪くなかったが、根回しが足りてなかったな」
「根回そうにもその根が腐りきってるじゃん」
「それはそうだが、多少はまともな奴も居るだろう? 清濁併せ呑むのが為政者という者だ。占領政策も似たような物だな」
「考えなしにやったのは認めるよぉ。でも、ほらスッキリしたでしょ」
街路に突き刺さる血塗れの十字架。
悪・即・斬の心意気の表れよ。街のギルドの有力者連中が今回の件に関わってるの尋問でお見通しなんだから。取っ捕まえた奴ら早々に処したの。
"内々にやれ"ってそう言う事じゃん。
「で……その結果がコレか……殺るのは後でもできると教えなかったか?」
「後悔先に立たずって言うでしょ。お説教はもう食らってるからセレスティナさんが。解決策が欲しいのよ。この状態で家探ししたら反発受けそうじゃん」
わたしもジェラルダインに言われる前にどうにかしようと考えはあったのよ。
そこで戦神司祭のセレスティナさんを神殿に派遣してね。良い感じに話し付けて貰おうと思ったら逆に怒られるもの。
「悪魔と組んで街を支配するのは何事かと言われました……それとあの十字架の件も相当お冠で」
「神殿の奴らは何処に行っても頭の固い連中ばかりだな。……そうなるだろうと思って魔術師ギルドとは先に話を付けて来た。ギルド長はロルムンドから派遣されてるこの街の監視役だ。多少は役に立つだろう」
「さっすがジェラルダイン。もう動いてくれてんじゃん」
「後は状況が落ち着くのを待ってから掃除だが……ふむ」
既に手は打ってくれてたジェラルダイン。
けど、何か引っ掛かるのか顎に指を乗せて思案げなの。もう、こんな状況になるんじゃないかとお見通しで行動してた人が懸念を抱いてる素振りって不安になる。
「……やはり対応が早すぎる気がするな」
「悪党どもが逃げ出すのが? でも、連中、結構逃げ足早いよ? だからこっちも急いだんだし」
「アイギス。おまえが言ってるのはスラムだとかで慣らした生粋の連中だろ。あるいは貴族社会でも熾烈な競争を生き抜いて来たような連中の事だな。だが、こんな辺境で既得権益を貪ってた連中にしては動きが早くないか?」
「……」
ふむ、確かにそう考えるとおかしい。確かに温室育ち系のヌクヌク貴族というのは居る。そしてジェラルダインの言うようにそういった奴らは総じて危機回避能力が低い。
特に物理的にブッ殺される危機に関しては。
「……何か手を打たれてる?」
「だと、考えるのが自然な気がするな。だが、こちらに対抗する策となると限られてる気がするが……」
すると執務机にわたしが置いていた通信機が反応するの。
報復戦艦からの緊急連絡。おっとタイミングが良すぎる。
「イヤな予感がするね、っと」
『アイギスさま。戦艦の転移妨害距離外に軍艦3隻が空間跳躍。国籍応答に反応が有りましたが――』
「まさかロクス教国?」
『いえ……真人類帝国です。……いかがしましょう? あちらから返信を求められていますが』
まさに不測の事態ってヤツ。ロクス教国ならまだしも吸血鬼の帝国がいきなりお出ましだよ。
「ジェラルダイン……これは、アスタロッテが言ってたヤツじゃない?」
「アイツは示唆に富むことを良く言うからな。然し、やられたな。……吸血鬼どもが動くとはな」
「どうすんの? ややこしい事になりそうよ。返事しなきゃならないようだけど」
「……要件を聞き出しておいてくれ。今から対処法を考える」
え? わたしが相手すんの? って表情に出したけどジェラルダインが机の通信機に装甲に包まれた手で指さして早くしろって指図するのよ。
仕方ないから出たよ。
戦艦を中継して通信機から宙空に映像が投影される。
『私は真人類帝国軍、第三艦隊所属の分遣艦隊〈緋炎〉司令官、セレンディーズ・ドゥ・デリアーズだ。貴艦の活動目的を問う』
映像に出てきたのが軍人って感じの厳つい大人じゃなくて、まだ十代後半くらいの金髪の娘だからわたしも眼を瞠る。しかも顔立ちは軍人みたいにキリッとしてるけど、めちゃくちゃ美人なの。
「ジェラルダイン。何この子? 本当に向こうのお偉いさん?」
「おまえが言えた事じゃない。それに向こうは有名どころだな。皇帝の娘だ。爵位も公爵。相当な強さと云われているが」
色々と聞きたい事有るけど早く返事しないとマズイよ。通信受け取ってるんだし。こっちの音声をまだ入れてないけど画面は向こうにも表示されてるの。
「しょうが無い……『ご挨拶どうも。こちらは報復戦艦ネメシス所属の〈妖精連盟〉代表、神祖の妖精王にして妖精騎士アイギス・フェアリーテイル――』」
眼の前の画面の娘が、なに!? って驚いた顔してくれるの。掴みは上々。さて、上手くお話しできるかな?




