第二十五話 妖精騎士アイギスさんの悪党退治の強襲大作戦(4)
助けを呼びに行った悪魔と一緒に来たジェラルダイン。脱がされてあられもない姿のゴモリーと馬乗りになるアスタロッテ。
この決定的な瞬間のあの暗黒騎士の反応は……
「おまえらの楽しみを邪魔する気はないが……後でやれ。まだ仕事が終わってないぞ」
いつもの無表情で普段と変わりない口調だったの。この状況に困るとかそうでもないの。
こっちが赤面するくらいなのにね。
そしてアスタロッテが臆面もなく言い放つ。
「……つまり、後で見せつけてやるのは有りで……?」
「……子供のお遊びには付き合いきれん。遠慮しておこう。――」
そしてジェラルダインがわたしに視線を送るの。
違うよ。わたしはただ見てただけだよ。イケナイ現場見られたみたいにドキっとするわ、心臓が。
「ゴモリーか……くれてやっても惜しくはない気もするが。妖魔王と少し相談が必要だな」
「そんな気軽にわたしに差し出せるものなの!?」
驚くわ。侯爵級の悪霊ってそれなりに強くない?
当の本人も動揺してるぞ。
「ちょ。マジで!? 軽く検討される程ですか!? ジェラルダインさま」
「まぁ、アイギスが気に入ったというならそれも良かろう。問題が有るというなら話は別だがな」
「私の意思とか関係無さすぎるのが流石ですね!?」
「侍女代わりにアスタロッテに1人付けようかと思ってな御目付役に。つまり仕事だ」
「より最悪の反応で斜め上を軽く行くぅ、惚れそう……でも、やらされると身ぃ持ちませんって。貞操の危機とかブッちぎた事されるんですよ?」
オイ、何してんだ。この2人。もしかしてかなり危ないの? おまえらのレベル参考にできない程高そうだな。
「嫌なら断われ、情事の方をな。――で、アイギス。本当に欲しいなら掛けやっても構わんが……?」
「本人イヤがってるのに欲しいかと言われても………」
チラっとゴモリーを見ると顔立ち整ってるし悪くはないのよね。問題は性格、後、嫌がる子を無理矢理って言うのはダメだと――
「え、何その表情?」
脱がされた衣服で胸元覆ってわたしに流し目向けるの、おまえジェラルダインが云々言ってなかった? なぜわたしに気があるみたいな反応してる。流し目止めろ。
「フフフ。ゴモリー侯爵は押し倒してしまえば後はされるが儘。愛を求めて居らっしゃるお方なのですよ……」
「関係性を把握したわ。……まぁ本人が良いなら。うちの家族には手出すなよ」
「では、取り敢えずは決まりだな。後は妖魔王に話を通しておく、支障がないようなら手配しよう」
「私の意思確認、雑! 複雑な乙女心って有るのに!?」
「で、だ。早速仕事の話に戻るがゴモリー」
と、ジェラルダインがゴモリーを無碍に扱いそのまま任せてた仕事の話すんの。ゴモリーはゴモリーで流されながら反発しないのよね。
つまり、ゴモリーも満更でもないのよ。解り易いくらいの性格だわ。乙女心が単純明解よ。
「……ホムンクルスは調整槽ごと回収した方が無難ですよ。どのみちロクス教国の関与を示す証拠は出ませんね、コレは」
「やはり、物的証拠がでないか……まぁ良いだろう。では、ホムンクルスと合成獣については任せる」
「イエッサー。ああ、マムでした。じゃ、作業に取り掛かりまぁす。――おら、野郎ども仕事、仕事」
話が終わるとゴモリーが悪魔たちを指図して、先程の出来事がなかったように仕事しだしたの。尻尾振ってて機嫌良さそうだったけどね。
「フフフ。ジェラルダインさまも気が利きますね。丁度、ゴモリー侯爵が欲しいと思って居ましたわ」
「……余りアイギスに迷惑を掛けてやるなよ」
「わたしに対する配慮、最近珍しいから涙出そうだね。御目付役ってのがアスタロッテとわたしに対する感じでさ」
ジェラルダインが"善意"で仕事する訳ないもの。監視役も兼ねてんでしょ。人手が増えたらそれだけ戦力になるからイヤって訳でもないけどね。
「でも、ジェラルダイン。ロクス教国絡みの証拠が出ないって言ってたけど本当なの? あの吸血鬼とか吐きそうじゃない?」
「奴を吐かせても物的証拠が無ければな……精神系の魔法でどうとでもなる以上、自白だけでは証拠として採用できん」
「あの吸血鬼の方、真人類帝国でスパイ容疑が掛かってますから。無理にこじつけるならロクス教国の関与を示唆できますけどね? どうやら情報を流してヤバくなったので亡命したようで」
ただ、アスタロッテのアイディアにジェラルダインが片手を上げて返答する。問題点がわたしにもピンと来たから口に出したわ。
「それだと真人類帝国って、吸血鬼の帝国だったっけ? その連中が絡んで来そう」
「アスタロッテ。アイギスにも解るくらいだ。引っ掻き回すのは良いが、後始末する方の身にもなって貰いたいな」
「ことを複雑化させて離間策を弄するのも策のうちですよ? 条約違反を理由に上げて今回、アウレリア王国を舞台にやり合うのですから、参加者が多いに越した事はありませんよ?」
「……悪いが今回の件、先にロルムンドのグリュプス上級評議員と大枠で段取りを組んで居てな……ロクス教国とやり合うのは構わんが、こちらから余計な真似はできん」
「あら、ロルムンドも一枚噛めば面白そうでしたのに」
「2人で話進めてるの悪いけどわたしにも説明してくんない? こんがらがる」
「ああ、それは済まんな。つまりだ――」
と、ジェラルダインが改めて今回の件どうするかを教えてくれたよ。
まず、冒険者ギルドを絞める。これは確定。
しかも、聖魔帝国と妖精連盟で世界条約の魔法技術拡散防止違反で大っぴらにやる。
王国には良い迷惑。しかも勝手に自国領土内でやられるんだから、多分反発されたり抗議されるよね。
なにせアウレリア王国は世界条約の締結国でも何でもないの。条約は世界の列強間で勝手に結ばれたものだからね。
でも、"証拠"が有るから世界条約の締結国では問題になるんだよ。査察だとか事情聴取を拒否するようなら軍事力を投入する口実にもなってしまうの。
「――依って連中はこちらの行動を拒否できん。極端な話だがイヤだと言ったら戦争になる。さて、その戦争相手だが、……宇宙に戦艦浮かべた艦隊持ってる連中だとか、その艦隊と一戦できるような真龍族だとかだが……勝てると思うか?」
「中世規模の軍隊が相手できる存在じゃないじゃん。解った。そんな連中が相手じゃ何も言えなくなるんだ」
「しかも、そんな連中の国の一つ、ロクス教国が今回の件に絡んでるとなれば、列強諸国も興味深くなるだろうな」
「もう聖魔帝国に深入りされてるものね。……じゃあ今回の件。問題が大きくならないよう行動するんだ、話は付けてんでしょロルムンドと」
確か、世界条約の纏め役がその魔法都市国家ロルムンドだったような……? とわたしの怪しいこの世界での国際知識が囁くよ。一応、人類世界の守護者とかそういう感じなんでしょ。
「そのロルムンドも今回の件、わざと見逃してた気配がするから必ずしも信用できんがな。だから聖魔帝国と、華持たせに妖精連盟も絡ませる訳だ。内々でも問題を解決できれば他の条約締結国に対するアピールにもなる」
「何処ぞの馬鹿がコッソリ悪さしてたの見つけましたってか」
「内々にな。ただ、対外的にはそれで良いが王国の方が問題だな。ロクス教国との繋がりがどの程度あるか、実は聖魔帝国も正確には把握してない。馬鹿な真似はせんと思うがさっさと行動には移した方が良いだろう」
「それは確かにそうだけど……内々に始末付けるのは良いけど、悪党どもどうすんの? 無罪放免って訳じゃないよね?」
聞く限り、ジェラルダインが火種を燃えあがらせたくないのは解るんだけどぉ。
今回の件で甘い蜜を罪の無い人を踏み躙ってチューチュー吸ってた汚え連中はどうするのぉ。
わたしの不満に気づいたジェラルダインは表情は変わらないけど……嘆息するような態度で告げた。
「好きにしろ。但し、内々に。やり過ぎると後始末が困る」
「さっすがジェラルダイン。解ってるぅ」
「さすジェラ、久しぶりに聞きましたね」
仕事が増えるよ、やったねジェラルダイン。
じゃ、予定通りココでの仕事も終わったし、殴り込みだ。もちろん、場所はアレスタの街だよぉ。待ってろ悪党ども、ギッタンギッタンにしてやんよ。




