第二話 妖精騎士アイギスさんと闇妖精の暗黒騎士(8)
カザス村への出発の日――
わたし、アイギスとシルフィちゃんは連れ立って、街から出るための門前へ。
ヴェスタの街は伯爵の居城のある領都。当然、外敵からの防衛の為に城壁のある都市で、その城門のある所に二人で来ていた。
「流石に冬だから、人通りは少ないなぁ。冬以外は賑わってるんだけど」
「そうなんですか。わたし、こんな大きな街には初めて来たので」
「いや、大きくないよ。六千人くらいかなぁここの住人は。夏場は賑わって人が倍くらいに増えるけど」
そんな他愛もない会話しながら、わたし達を無理矢理な感じで冒険の旅に連れ出そうとする暗黒騎士を待つ。
「でもあいつ普通、人を待たせるなら外じゃないだろ。伯爵に呼び出しくらったらしいけど。いつまで待てば良いんだ」
冒険者ギルドに朝早くに到着したら、先に城門に行っておいてくれと、伝言だけ残して本人いないんだから。冬場でシルフィちゃん凍えるだろ。
「あの、わたしは大丈夫ですから……」
「いや、これはデリカシーの問題だから。シルフィちゃんもあの暗黒騎士に気を許しちゃ駄目だよ」
「そんなに怖い人なんですか? ギルドマスターの方はヤバい奴だけど信用はあるから安心して良いって言われましたが……」
ギルマスぅ。おめぇの説明雑だろぉ。任せたわたしもわたしだけど。あいつはその信用も状況次第でかなぐり捨てるぞ。まぁ、安心させる為にそう言うしかないんだろうけどさ。
「あの、アイギスさんも居るから、心配しなくて良いって」
「勿論、任せておいて。あの野郎、シルフィちゃんに手出したらギッタン、ギッタンにしてやる」
「――ギッタン、ギッタンなんて言語表現、聞いた事がないな」
振り返るとそこに奴が居た。黒フード目深に被って薄着の黒ローブ、腰元から下は褐色肌の太もも剥き出しの暗黒騎士。
「なんで門前からやって来るのさ」
「伯爵がしつこくてな、面倒だから転移魔法で抜け出して来た」
「それ後で追っ手とか来ない? 巻き込まれるの嫌なんだけど」
「ここの伯爵よりメルキール商会の方が権勢は上だ。相手も無茶は済まい……で、挨拶を済ませたいが良いか?」
と、言いながら装甲篭手で覆われた手の平を、わたしのシルフィちゃんに向ける暗黒騎士。
なんだ、その優雅な動作は。
「は、はい! わたしはカザス村出身のシルフィです!」
「私の名はジール・ジェラルダイン。憚りながら暗黒騎士だ。暗黒神の信徒ではないから安心して欲しい。――っと失礼」
と、目深に被ったフードを脱ぐ。現れたのは昨日も見た闇妖精の黒髪褐色肌の美人……。一瞬わたしは目を奪われかけたがグッと堪えた。
昨日の愚は犯さぬ。
が、横に居るシルフィちゃんが両手を口に当て、眼を大きく開けていた。待って! シルフィちゃん惑わされないで。
「さて、これで良いな? 事情は道すがら詳しく説明させて貰おう。……なんだ言いたい事があるのか?」
わたしが咄嗟にシルフィちゃんを庇うように立ちはだかる。
「シルフィちゃんに手を出すんじゃない! 油断も隙もないぞ」
「……?」
「つ・ま・り! わたしの女に手を出すんじゃないって言ってるの!」
わたしは頬を真っ赤にしながら、断言してやった。
暗黒騎士の鉄面皮のような顔が一瞬硬直、そして理解に及び、表情をぎこちなくさせていた。美人がやるから可愛いな、おい。
「……つまり、そ…う…いう。事か?」
「ああ、そうだ。何か文句あっか? あぁん?」
「出会って、1週間くらいでは……?」
「愛に時間は関係ない。運命を感じた。赤いやつ」
「そ、そうか……いや、まさか、そんな関係だとは……思わなくてな。村の者は早いと聞くが……そうか……」
「え? え?」
「シルフィちゃんは黙ってて」
「いや、何も問題はない。私自身も下らん偏見は持たん。そう言う事なら失礼したな」
そして、理解したのか暗黒騎士の闇妖精は黒フードを被り直す。
そうだ、それで良い。少しだけ見直したぞ暗黒騎士。ヤバい奴評価は覆らないが礼節は知ってるな。
「では、そう言う事であるなら私も配慮しよう。こちらから協力を頼んでいる身だ。余り無理強いはすまい」
「そうだぞ。全力で配慮しろよ。こっちも営みってものがあるんだから」
この発言に暗黒騎士は軽く片手を上げ、呆れたようにこちらを見る。お前ジェスチャー表現多いな。
「では、挨拶も済んだし出発したい目的地はカザス村。その近くの森だ。詳しい説明は道すがら。さっさと行くぞ」
そしてわたし達は冒険に出る。
旅程3日程だけど、街の外に出れば魔物がいるこの世界では危険が付き纏う冒険の旅。
わたしアイギス。初めて冒険に出た時のように胸の高まりを覚えるの。ほら、好きな女の子と一緒の旅って初めてだからさ。
もちろん、イチャイチャするよ。頑張るよ。
お仕事もするよ。一応、プロでお金貰ってるしね。では、妖精騎士アイギスさん、行ってきます。




