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神祖の妖精王〜妖精騎士アイギスさんの冒険の日々〜  作者: フィリクス
第3章 妖精達の冒険ストラテジスト
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第二十五話 妖精騎士アイギスさんの悪党退治の強襲大作戦(2)



ちょっとした不手際のおかげで突入作戦が不味い状況になってるぜ。


生産工場の区画に予定に無かったゲストのアンデッドが乱入して予想以上の威力偵察になっちゃうの。

最初の使役した悪霊&アンデッド達と一緒くたになって突っ込んで行く。


「てか、なんで使役してないアンデッドが群れるの。あいつら関係ないでしょうが」


目玉の智天使ザフィキエルの遠隔透視の映像で真上から俯瞰ふかんして状況を確認。地下四層のアンデッド達が次々と我も我もと続いて雪崩なだれ打ってる。


「いや、アンデッドって群れる習性有るんですよね。仲間――使役されてても同じアンデッドが向かったら取り敢えず付いて行きますよ」


と、語る死霊術師にしてアンデッドマニアの盗賊マスティマさん。えぇ、そんな習性わたし知らないぞ。でもなぜか作戦を発案した幼女は笑顔だった。


「うむ。アンデッドたちはいつも仲良し。いつも仲間を求めてる」

「で、生者を襲うんでしょ……これ工場で無理矢理働かせられてる人も居るんじゃない?」


「…………」

いきなりアリーシャちゃんが真顔になったよ。


最初は敵の抵抗を見る為の様子見だったけど、抵抗なんて殆どなくて、見張りの巡回が不意打ちで襲われた後は工場の建物から誰一人出てこないもの。

明らかにやり過ぎな状態だよね。こっちの予想以上に防衛戦力が無さそうで。


「……なんということ。このままだと可哀想なその人たちがアンデッド達の仲間に」

「えぇ。アリーシャちゃん今頃気づいたの……」


「ふむ……良い。このアリーシャちゃんなら何とかしてみせよう。マスティマ、先行ダッシュして救うべきものを救うが良い」

「解りました! 無理矢理ブラック労働を強いられている可哀想な人たちをアンデッドにして労苦から解放して見せます! ――ダッシュ!」


とんでもない事を言い放ちマスティマがアンデッド達が向かった先に突っ込む。おい、やろうとしてる事がそのアンデッドと変わらねぇぞ。


ただ、アリーシャちゃんが真面目な顔をゆるめて、とぼけてるのか本気なのか解らない顔をわたしに向けるの。


「マスティマなら必ず期待に応えてくれる。ブラック労働の被害者たちを救ってみせる。後はそのまま作戦を遂行するのみ」

「いや、違うのアリーシャちゃん。救い方が間違ってる感あるの。こう、人間のままで救って欲しいの。多分、生ける屍リビングデッドにするとかそんな感じだと思うんだけど」


リビングデッドならゾンビと違って魂は人間の時のものだから、"本人"と言えるけど人間辞める事になるじゃん。


「さすがアイギスちゃん……すべてお見通し」

「何となく考えてること解るわ。でも、ほら流石に本人の意思に関係なくアンデッドにするのは問題があると思うの……だからね?」

「ふむ……。――?」


なぜかアリーシャちゃんが困ってジェラルダインの方に顔を向けるの。あれ、こんなに話しが通じない子だっけ?

するとジェラルダインが、何かに気づいた様子だった。いつもの無表情は変わらないけど。


「……アリーシャ。これはお前の説明不足だな。もう偵察は完了済みで生かして帰す必要がある奴が居ないんだろう? 性格属性アライメントが殆ど悪に近いとかそんなパターンか?」

「なるほど、アイギスちゃんには説明してなかった。大体そんな感じ……。――後は天に運を任せるのだ。すべてはままになる」


「色々と聞いて無いけど……う〜ん。大丈夫?」

「ふむ……このままだとエンジョイし過ぎて皆がアンデッドに」

今度はわたしが困ってアスタロッテの顔を覗く番だよ、支障が出ない? 悪党とっちめるのに。


「あら、愉快な事になりそうですね。ですが訳知りの関係者が全員物言わぬアンデッドにされると困りますよ? おもにこの王国との交渉で」

「やっぱり……」


現状やり過ぎなくらいだもの。敵の抵抗らしい抵抗がない。このままだと威力偵察だけで皆殺しにして終わりだよぉ。


そしてわたし達は慌てて工場区画に突入した。

悪党を救う為に戦わなきゃならないとかいう倒錯した事態になぜか追い詰められたの。


もちろん、麻薬生産に関わったその悪党どもも用済みになればゴミ箱に投げ込むのよ。

だけどまだ必要なの。奴らが役にも立たない生ゴミになる前に急がないと。







そしてわたし達は四部隊に別れて工場区画に駆けつけた。

まず、本隊のわたしとアリーシャちゃんの複合悪霊部隊。(若干、現地採用のアンデッド有)

ジェラルダイン率いる悪魔部隊。

アスタロッテ率いる悪霊部隊。

そして、吸血妖精バーヴァンシーのフリュギアに任せた悪妖精部隊。


この4隊で悪党救出制圧作戦という矛盾した作戦を実行中よ。乱入したアンデッドを排除しつつ抵抗して来た麻薬生産工場の奴らも捕縛する面倒な仕事となっていた――



「ヒャっはー。エンジョイ&エキサイティング!」


アリーシャちゃんが機関銃持たせた巨体の悪霊に乗って工場施設の門扉をブチ破る。


霊体が濃度濃すぎて実体化してるのと変わらない悪霊よ。だから物理的な武器も持てるの。

機関銃を持ってるというより、身体に埋め込まれてるって表現の方が正しいけど。


「ひゃあ! お楽しみはこれから! ガンホー! ガンホー! ガンホー!」


アリーシャちゃんが見たことないくらいテンション上がってるの。性格豹変してる気もするけど、いつもの感じな気がしないでもない。

わたし達が突っ込ませた悪霊とアンデッド達を指揮下に置き、アリーシャちゃんが掛け声と共に工場内部に突入させて行く。


「ちょ、アリーシャちゃん。殲滅しに来たんじゃないからね」

「問題ない。良い感じに生かす事にする」

「いきなりテンション戻るし……解ってるなら良いけど……――」

"パンパンパン"


会話してる間に戦闘が始まったのか遠くで銃撃の音が。

「って、銃! 火器まで持ち込んでるのか連中」

「問題ない。こちらも持たせてある」


応射するように銃撃音が増える。他の悪霊にも持たせてるんだよ、この幼女。てか、まともな思考ができ無さそうな悪霊をどう使役すれば銃なんて使えるようにできんのよ。


「ん〜。アイギスちゃん。工場の制御室はあっちらしい。ザフィが見つけてくれた」

「じゃあ、さっさとそこを抑えよう。シャルさんとセレスティナさんは魔法防御。ティアエルさんとレティアさんは遠距離攻撃で。残りは突っ込む」


疑問はすべてなげうって、適当な指示だけ出して急ぐよ。

制御室を抑えれば対侵入用の防衛設備も抑えれて、あわよくばそこに工場を仕切る頭目が居るかも知れないからね。


急がないと逃げられかねない。相手が利口な悪党だと逃げ道用意するもの。

この妖精騎士アイギスさん、クズどもの手口は大体理解してんの。今まで食ったパンの枚数並みに、な。


善は急げよ。わたし達は工場の廊下を走り始めた。





近代的な施設だから居るとは思ってたけど、わたし達の前に立ち塞がる魔力で動く自動機械オートマトン


わたし達を発見するなり警告なしで銃撃浴びせてくんの。だから、こっちもブッ壊しに掛かる。

この世界で最初に銃撃受けた時は戸惑ったけど、慣れてしまえば豆鉄砲よ。


てか、わたしと娘のアイリなら飛んで来た銃弾を手でボールみたいにキャッチとかできたわ。

アイリが最初に平然と素手で掴んでこれ何? って顔してたからね。物知らないとオモチャ扱いなの。

地球の知識がある方が驚くわ。


「てか、銃弾ってこんなにダメージないの。セレスティナさん避けれるし」

「いえ、私は結構、気張りますよぉ。〈魔法防壁プロテクション〉の魔法で耐えれますから突っ込めるんです」

「銃弾より速くは避けれないけど、先読みして避けれるだけで達人感あるよ」

「その先読みもアリーシャちゃんにはボロ負けですが」


そのアリーシャちゃんはたった一人で廊下で仁王立ち。

待ち伏せてたガトリングガンを胴体にした自動機械オートマトン3機相手にとんでもない事してるの。


みずかまとになって、撃ち込まれまくる弾丸を素手ではじき返してるのよ。


撃ち込まれる毎秒数十発の弾丸を捌き切るアリーシャちゃん。アイギスさんさえ吃驚びっくりな達人超えた真似だよ。

雨霰あめあられに向かってくる弾丸を的確にはじいて最小限の動きで自分の身を守ってるの。


「アリーシャちゃん、凄すぎるよ。おはじきみたいに跳ね返した弾丸で撃ち込まれた弾丸の軌道変えてんのよ」

「三大聖哲最強らしいですからねぇ……おっと、そろそろ弾切れのようですねアイギスさん」

「良いタイミングだよ。迂回も成功らしいよ。シャルさんから連絡来た」


わざわざアリーシャちゃんが囮になってたのは時間稼ぎよ。制御室の前だから、相手の意図に敢えて乗って、こっちは不意打ち狙ってたのよ。


そして次の瞬間には軽い衝撃と轟音が響いてくる。

制御室に隣接する部屋からロケット弾で風穴こじ開けた結果らしい。

あの銃火器内蔵した悪霊、ロケットランチャーさえ霊体に格納してたの。もはや兵器じゃん。


そしてそのタイミングでわたしとセレスティナさんとアイリで一気に廊下を突っ切る。


弾切れして役立たずになった自動機械オートマトンをスレ違いざまにわたしが叩き切り、セレスティナさんは戦鎚で吹っ飛ばして、アイリが大斧で粉砕。

そして、制御室の扉の前に一同、到着。

扉はわたしが盾で横殴りして吹っ飛ばしたわ。防衛設備を備えてるって言っても、所詮は工場施設だから余り頑丈じゃないのよね。



到着した時には制御室は大穴が空けられ粉塵が舞ってる状態だった。生きてるかなぁ〜悪党ども。


「お、おのれ。小癪な! この小童こわっぱどもめ!」

「驚き。この状態で威勢よく悪態つけるとか。状況認識できてるのかオマエ」


段々と室内に舞った粉塵が晴れてくる。

偉そうに台詞セリフ吐いた奴の顔を拝めたよ。

まぁ、半分納得だった……人間じゃなかったの。


「吸血鬼か。……で、そこまで偉そうならオマエがここのボスなんだろうな? 」

「エルフどもめ勝ち誇れると思うなよ。既に自爆装置は起動済みだ。この区画ごと吹っ飛ばせるのに充分なヤツをな。せいぜいあの世で悔やむがよい。この間抜けどもめ」


「それだとオマエも死ぬんだけど……」

「馬鹿が、転生の秘術も知らんのか。魂のみを生き永らえさせる方法が有るのだ」

「だったらその魂を呪縛して逃がさん方法も有るよね、本当に間抜けか」

「間抜けはキサマだ! 今、ここでお前らを始末するのだからな、死ねい!」


吸血鬼が捨て台詞ぜりふを吐いて制御卓のガラスケースを叩き割ってスイッチを押した。

何処かの誰かと違って思いっきりは良いな。でも、馬鹿なのが致命的よ。


数泊の間を置いても、まるで起動しない自爆装置。

吸血鬼の男に焦りの表情が見える。



「な、馬鹿な。なぜ起動せん!」

「そりゃお前が起動するの遅すぎだからでしょ。どうしてこっちが先にアンデッドや悪霊を突っ込ませたか考えてみなさいよ」


まるで理解できないという表情を吸血鬼が浮かべるのよね。ネタバレしても察する事ができないとか脳味噌腐ってんな。


「最初から、自爆装置とか証拠隠滅の為に有るだろうなと見当付けてこっちは行動してるのよ。火薬や燃料使ってあちこち仕込んでも形跡は残るから、魔力炉使って魔法で区画ごと焼き尽くす可能性が高いでしょ。抑えるなら真っ先にそっちでわたし達は二重の意味で囮だよ」


最初の威力偵察はモンスターの襲撃に見せかけて相手の戦力を測るための欺瞞工作。


魔物相手に生産設備を吹っ飛っばす訳にはいかないものね。例え殺られても掃討すれば設備を再使用できる可能性が有るんだし。


そして相手を混乱させて置きわたし達が制御室を狙って攻めいるの。制御室が占拠されるまでが最終判断の刻限リミットと思わせるのがこの作戦の肝よ。


だから、そのあいだに本命の魔力炉をアスタロッテが可能な限りバレないように抑えてたの。

と、以上を頭の悪い吸血鬼にわざわざ説明してあげたよ。ざまぁ展開、お疲れ様。


「おのれぃ! この我を愚弄しおって、貴様らエルフの思い通りにはさせんぞ!」

「まだ、奥の手あんの? 自爆しようとしたヤツが? 冗談も休み休みに言えって気もするけど?」

「ええい! きさまら何を持たついておる! 侵入者と戦わんか!」


制御室の壁にロケット弾撃ち込まれた衝撃で、制御室に居た他の人間たちは床にほうり出されてたの。

わたしと吸血鬼が喋ってたあいだにやっと状況を理解しだしたようだけど。


「あのよぉ。タダの人間ぐらいで囮にも盾にもならねぇんだわ。しかも恐怖でビクついて立ち上がる事もできない連中でよ、役立つ訳ねぇだろ」

「こ、この役立たずどもが! このグズどもめ、拾ってやった恩も忘れおったか」

「グズはお前だよ。しかもクズだしな。おら、アリーシャちゃんがオマエに取っておきなの用意して来たぞ」


アリーシャちゃんが吸血鬼に素敵な悪霊を呼び出してたわ。幼女がロープに繋がった棺桶を引っ張って来るの。物体に取り憑いた系の悪霊デッドマンズチェストだよ。


「棺桶だと? 古典主義の奴らめ。それで我を拘束しよう、などと思っておるのか」

「なに、ちょっと安心した顔してんの? 対吸血鬼用の悪霊と言っても過言じゃない奴だぞ」


棺桶にはもう既に中身入ってんの。アリーシャちゃんが蓋を少し開けると触手的ななにかが飛び出る。

いや、わたし、そのギミックは知らないな。

棺桶は悪霊には違いないんだけど、他の何かが居る?


「さ、中に入るが良い吸血鬼よ。おもてなしの準備が出来ている」

「うわ、なんかエグいのが入ってそう。なにそれアリーシャちゃん。棺桶は解るんだけど」

「ふむ……良い感じにコンビにした者達。吸血鬼さんが相手ならコレ以上はない感じ?」


少し開けられた棺桶から、身の毛がよだつような何かが居るのが解るの。生理的に絶対ダメそうなのが。悪霊に銃火器持たせるといい聖魔帝国、最悪なの用意してくるな。


「おら、大人しく入れ。生命いのちだけは助けてやるぞ」

「ば、バカな。誰がそんな箱に入るものか。舐め腐りおって。きさまら我の身柄を拘束するのが目的なのであろうだったら――」


話しの途中でわたしは吸血鬼に棺桶を蹴っ飛ばしたの。イチイチ問答してる暇ないんだよね。説明するのに時間食っちまったし。


吸血鬼も人間辞めてるだけあって吹っ飛んで来た棺桶避けるのは造作も無かったようだけど。


が、避けた先で棺桶から飛び出した来た何本もの触手に捕まるの。ヌルッヌルで粘ついた液体滴ってるようなヤツにな。


「な、なんだ。コレは振り払えん! コレはコレは――!?」

棺桶の中身が別の次元に繋がってるように闇で覆われてるの。そこから飛び出てくる無数の触手。

ヤバい、直視すると正気度削られるヤツだった。

得体の知れない何か、人間の精神では理解と同時に狂気に呑まれる系のヤツだったわ。


「フフフ。悪魔も泣き叫ぶ地獄。天使王の教えにもある……良い感じに悔い改めるのだ」

「やめろぉ! やめてくれ! これは、これは駄目だ。こいつは精神を呑み込む。魂が、自我が保てなくな――」


"何か"は聞く耳持たずに吸血鬼を棺桶にセット。

そして蓋が棺桶本体の悪霊に依って閉められる。

直後に制御室にはくぐもった吸血鬼の悲鳴が漏れた。


「ひぎぁぁあまぁああああ! 入って来る入って来るぅぅ私の中にイィ! やめろおおあああながああ」


吸血鬼相手には効果覿面てきめん

アンデッドだから肉体的な苦痛を感じないからね。精神系にも耐性があるはずだけど、余裕でその耐性を突破してた。


「ご愁傷様、地獄に行きな。じゃ、ここは制圧っと。やっと本番だよ。他の場所の状況どうなってるかな」


ボス倒したら終わりじゃなくて、後始末が仕事の本領なんよ。この階層のアンデッド達が無尽蔵に集まって来るしさ。


……まぁやらかしたの自分達だから愚痴も言えないんだけどね。


そしてなんだかんだとまる一日掛けてやっとこの区画の麻薬生産工場の制圧が完了。

そしてまた出てきた仕事の後始末が始まるのだった……



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