第二十五話 妖精騎士アイギスさんの悪党退治の強襲大作戦(1)
当日、夜。
わたし達は急遽、麻薬密売組織への対策とその完全撲滅への緊急会議をマッハで現地開催し参加者の満場一致で合意を得た。
つまり摘発しなきゃ、という使命感に裏打ちされた同盟がその場で締結されたの。
アスタロッテに依ると聖ロクス教国とかいう連中が麻薬密売に絡んでるらしいから、ならこっちも組まなきゃ、と妖精連盟と聖魔帝国でがっちりこの問題に取り組むんだって。
そんな同盟いきなり組めるのか、って思うでしょ?
妖精連盟の代表アイギスさんと天使王の代理人アリーシャちゃんでその場で外交合意を形成、しっかり締結よ。
これが真の独裁、専制国家のスピード感なの。議会政治なんてマトモにやってるのが馬鹿らしくなる圧倒的意思決定力よ。
非難声明の準備良し、文句あるなら外交問題化してやるぜとその日の内に段取り組んだの。
「うむ。天使王さまもお許しになられる。ルインにも連絡した、これで何も問題はない」
「民主国家がノロマな亀に思えるほど話しが早いよね。やっぱり政治の究極は絶対王政だよぉ」
後は、勝手に主権領土内で暴れられるアウレリア王国には聖ロクス教国と聖魔帝国の二大国の争いに介入する勇気は有るのかと脅しつけるだけよ。
弱小国に対する外交問題を全て力押しの恫喝で解決してくる聖魔帝国もどうかと思うよね。
だから翌日、地下遺跡第四層の麻薬生産工場に向かう道すがら、アスタロッテにその事を聞いてみたの。念の為にね。
「帰趨を鮮明にしてしまうと内政干渉待ったナシになりますわよ。大国の大国たる所以は小国の命運をどうにでもできる外交力、軍事力を含めたパワーにありますからね」
「聖魔帝国ってやること極端だよね。平和的かと思えば暴力をチラ付かせてくるし」
「外交の基本はナイフと握手。ナイフを突きつけてばかりでは反発されますし、かといって握手だけでは問題を解決するにも時間が掛かりすぎ――上手く両方使って流れる血の量が少なければオッケーくらいに思ってるのが魔女王陛下ですよ」
「魔女王のノリ軽いよ。幾らなんでも意訳でしょ、それ」
「まぁ解りやすく言うと、ですね。大筋は間違ってませんよ。ですよね?」
アスタロッテがわたしの隣で歩いていたジェラルダインに意味深な視線を送るの。当の本人は表情をまったく動かさずに答えた。
「……付け加えるなら魔女王陛下は効率最優先でな。犠牲を甘受する方が手っ取り早いと思えば、忌避する理由はないのさ。それが他人なら尚更にな」
「目的の為なら手段を選ばない感じかな。合理的な悪党って感じだよね」
「悪党には違いあるまい、悪魔の女王だ。私としてはその目的を定める天使王が何を考えてるかが解らないが……」
と今度はジェラルダインがアリーシャちゃんに冷徹な視線を向けるの。そういや、アリーシャちゃん天使王の教えを信じるお偉いさんだったよね。
「すべて天使王の導きよ……信じるのだ。きっと良い感じになる。むしろ良い感じにするのだ」
「良い感じ……?」
「フフフ……悪党どもを良い感じに」
「なるほど……良い感じになるな」
大体アリーシャちゃん感覚的に決めてるんでしょ。細かいこと言わないもの、この子。
もう何も言わなくてもアリーシャちゃんにはやることが決まってる感じがするのよ。悟ってる仙人のような面構えしてる時有るの。善行積むのが生き方みたいな子だものね。
そんな子に大権与えてる天使王……確かになに考えてるか解んないな。
「うむ、予定ポイントに到着。あの先に見えるのが食糧生産工場の区画っぽい」
天井高く都市を丸ごと抱え込むような地下第四層の
外壁近くの外れにその場所があった。
ここまでの道のりは廃虚と化した近代的な建物が連なり、ビルが横倒しに倒壊してたりと都市ダンジョンみたい様相だったけどやっと到着したよ。
「ここから近づいたらバレるかな?」
「う〜ん。あの区画に死霊や悪霊避けの結界が張ってあるっぽい。触れれば多分〈警報〉が来る」
「迂回してもダメってことね。じゃあやる事決まりかな……で、最終確認なんだけど……おっと」
視界の隅に魔物の影――人型のアンデッドが。
人間が昔住んでただけあってゾンビとか一杯なのよ、この区画。他にもそのゾンビが合体して溶けてできたような集合屍鬼だとか、触手生やしたようなゾンビやら多種多様に生息してんのよ。
そして一緒に来た仲間たちが出会いがしらに即、瞬殺というのがパターンで――と、思ってたら。
「ふむ、アリーシャちゃんにナイスな考えがある。あのアンデッド達を使おう」
「みんな、戦うのストップ! ……あ、何となく解った。アリーシャちゃん冴えてる」
「良い……褒め称えるのだ、このアリーシャちゃんは褒めて伸びる子」
「さっすがアリーシャちゃん! でぇ、あのアンデッド達を使役するんでしょ。でも、結構あの工場区画広いけど、他にはアイディアない?」
ちょっと実際に来てみると仲間たち以外に連れて来た妖精たちじゃ人手足りなさそうなの。制圧するだけなら何とかなりそうだけど。
工場で頑張って働いてる人たちを逃したくないからね。ちゃんと生かして捕らえないと。(使命感)
「……良い。丁度エキサイティングしたい者たちが居る。手伝ってもらおう」
「良いねぇ。凄く強いヤツとか見てみたい」
さ、遂にアリーシャちゃんの本領発揮だよ。召喚魔法とか得意なんでしょ。天使の軍団とかどんなの来るかなとワクテカだよ。
赤子のキューピットとか軍人姿の下級の天使とかしか、わたし天使を見たことないからね。尚、アスタロッテは天使枠としては例外。
そしてアリーシャちゃんの神聖魔法によりコンクリート舗装の道路に大きな魔法陣が描かれる。
大規模召喚魔法じゃん。
「フフフ……来るが良い。このアリーシャちゃんの元へ集うのだ。〈聖なる者たちの召喚〉」
そして光輝く魔法陣。天使王の忠実なシモベたる者たちが眩い光から続々と姿をあらわ――
「……アリーシャちゃん何かの間違いかな? この世すべての悪を詰め込んだドス黒い何かが出てきたけど」
召喚事故かな。神聖魔法だよね? ホーリネスとか言ってたよね。
でも、出てきたのは悪に悪を重ねる事で有名な悪霊――霊体系の悪霊達が神聖さ溢れる魔法陣から続々と這い出てくるの。悪霊たちで合体してるようなのが続々と、よ。
やめて、膨れあがって増殖してるようなのも居るわ。ただそこにいるだけで、悪意で精神世界面を歪ませるほどの連中よ。
てか、アイギスさんこんな悪霊見たことも聞いた事もないぞ。わたしのゲーム知識にはない。なんか機関銃みたいなの装備してるヤツも居るし。
「ちょ、これちゃんと使役出来てるの。ヤバそうなのしか居ないよね」
「問題ない。皆、このアリーシャちゃんのお友達になった者たちよ。次いでに装備なども充実させてみました」
「機関銃持ったのアリーシャちゃんの仕業かい!」
「この幼女には解る。子供悪霊に弾薬補充させればグッジョブな仕事をしてくれるに違いないと」
確信のみを抱く幼女の蒼い瞳。嘘偽りなく真面目に言ってるの。発想がヤバいわ、こんなのに文明の利器を装備させようとか。
「さて、マスティマ。ギリギリで間に合った?」
「――えぇ。もう、少しは待って下さいよ」
「相変わらずいきなり来るね……」
チラっと視線を周囲からこちらに向かってたアンデッド達に向けると動きが止まってるの。まぁ誰の仕業か見当付くけどね。
目の前にいきなり現れた紅い外套着た黒髪の女の子の仕業よ。そういや、アンデッドの使役能力あるって聞いたなマスティマ。
「お話しは聞かせて頂きました。アンデッドと言えばこのマスティマちゃんでしょう。そしてこの不屈の名作の出番ですよ!」
続いてマスティマが呼び出した召喚魔法陣から出てくる見覚えのあるやつ。
……? 一瞬眼を疑ったけど、確かに忘れられないヤツだったわ。
「この出来そこない以外の何物でない感じ……! セレスティナさんの初作品じゃん!」
「そう蠢く何かです。ちょっと改良して動けるようにはしておきました。いやぁ、生きた人間を合成して作るとかもう流石ですよね。初めてでこれは上出来ですよ。永遠に生きれるよう不死化させて置きましたよ! マスティマちゃん偉い!」
「マスティマちゃん偉い!」
「マスティマ良くやった!」
「……背徳以外の何物でもないですねぇ」
当のオリジナルの作成者はアンニュイな表情。戦神に仕える司祭だからね。立場的にちょっと微妙だよね。素材がどうしようもないクズ共でも。
「じゃあ、コイツを最初に突っ込ませる感じで行こう。足遅そうだし敵の反応みたいしね。どれくらい不死か見てやんよ」
「アンデッドではなく生きたままですからね。そりゃかなり強靭にしておきましたよ。内蔵した魂を消費して肉体を再生させ続ける仕様ですよ」
――そして外道相手に外道をぶつける作戦が始まった。もちろん、威力偵察みたいに悪霊&アンデッドをぶつけて相手の反応を先に見るのよ。
これで相手が魔物の侵入と誤認してくれればこちらのもの。混乱した隙にどさくさに紛れる形で主力を投入し一気に制圧するの。作戦に一切の抜かりがない。
……でも、強いてあげるなら死霊と悪霊避けの結界を強力な悪霊やアンデッド達で突破した瞬間にその結界が負荷に耐えきれずに吹き飛んだのが手落ちかな。
地下遺跡の野良のアンデッド達も場外乱入してきたの。ちょっと予想外の事態に様子を呑気に伺う事ができなくなったのが唯一の想定外よ。
テヘッ、やっちゃったぜ。




