第二十四話 妖精騎士アイギスさんと恋の悩みと地下遺跡への冒険(3)
わたし、妖精騎士のアイギスさん。悩みがあるの。
レティアさんって恋人(候補)が急に出来て愛し合わなきゃいけない事になったの。
いや、実はそのこと事態は悩みじゃなくて……
荒野を歩きながらわたし達はレティアさんの身の上を聞いてたんだけど。
「母がアヴァロニア大陸の産まれで……私を身籠った時に父と別れてしまったみたいで。ベルベディア氏族なのは間違いないそうですが……」
「ボクの妹なの驚きなんだけど……」
そうなの。レティアさんって父親、"森陽王"らしいのよ。カミングアウトされて驚愕だよ。
ティアエルさんのお母さん違いの妹さんなんだよ。
街から遺跡に行く道すがら、打ち明けてくれたのは良いけど……もう、ぶっちゃける形で暴露されたの。
「どうやらお忍びで街に来た時に見初められてしまったみたいで……母も最初は森陽王さまとは知らなかったみたいなんです。ただ、こっそり逢瀬を重ねる内に子供ができてしまって……」
「で、お母さん混血だから認知できないって酷くない?」
「いや、そうでもないよアイギスさん。ボクのお母さん後宮のメイドだったらしいけど逃げ出したらしいからね。もう色々大変らしいよ」
なんか後宮のドロドロしたヤツ有りそうだよね。
そういった意味では良かったのかな。
「でも、それ本当の話しなの? お母さん疑うって訳じゃないんだけど……」
「ベルベディア氏族の長老さまは知ってますが……」
と、口淀むレティアさん。自分の事だけど生まれる前だから解らないよね。でも、シャルさんが歩みを速めてわたし達に追いついて来た。
「いえ、アイギスさま。ベルベディア氏族の長老にレティアさんのお母さんを仲介したのは私ですから」
「……シャルさんはレティアさんのこと知ってたの?」
「彼女が産まれる少し前のことなので直接は余り……子供の頃に何度か会ったことは有るはずですが……?」
「えぇ。シャル様にお会いしたこと有りますよ。私が6歳と十を幾つか超えたくらいに。もっと小さかった時も会ったような……おぼろげですが」
「良かった。覚えていてくれたのですね……余り出自の事は話さない方が良いと思って黙っていたんです。申し訳ありません、アイギスさま」
「いや、それは構わないよ。……」
確かに話せる内容じゃないよね。
アンチ森陽王の筆頭みたいな氏族にその森陽王の子供が居るんだもの。
シャルさんもレティアさんのお母さんの伝手を頼られて仲介したらしいの。アーパ・アーバの爺さん経由でさ。
……こんな偶然あるの? って思うでしょ。
でも、わたしの背後から聞こえてくんのよ。
「アリーシャさま。逸材を見つけて来ましたね」
「うむ。全てこのアリーシャちゃんの掌の上。やはりレティアちゃんとアイギスちゃんは結ばれる運命であったか」
「すべて計画通りですわ」
「ひゃあ」
……背後を振り向くと幼女の満面の笑みのドヤ顔と、したり顔の女の子の笑みが垣間見えた。
この遺跡を調査するってアリーシャちゃんの計画よね。例の百合ハーレム計画もアリーシャちゃんの計画よ。答えが出ちゃってるのよ。
――謀られた!
わたしと出会わせる気だったのよ。
何処までが計画か解んないけど、レティアさんとは仕組まれててもおかしくないわよね。
……でも、アイギス、それはもう良いの。新たな恋の悩みが発生してるから。
横に居るティアエルさんが……わたしを意識して見てるのよ。もう、これって。
「あの、アイギスさん……ボク」
「…………」
わたしも見つめ返すの、歩きながらね。
前にね……それっぽいこと言われたので覚えては居るの。でも、ほらティアエルさんとは友達みたいな関係だったのよ。
恋とか愛とか……それっぽいフラグをわたし立てた覚えなくて……
「ボク……姉妹になるけどレティアさんとも……なの?」
「ティアエルさん……段階飛ばしてんじゃん」
「え? あ、そうか先にアイギスさんと恋人……なってなかった?」
「いや、なって無い。なって無い。無いよな……?」
思い出せ。そんな塩らしいイベントあったか?
手繋いで仲良く帰ったり、デートみたいに2人で街中巡ったり――やっべえしてたわ。
ティアエルさんボクっ娘で性格が男の子みたいだからわたしの認識の方が飛んでたわ。
「いや、それっぽい事したことはある。認める」
「良かったぁ。覚えててくれて」
「でも、それ恋愛に繋がってる……?」
「え、無かったの! あんなに遊んだのに!」
わたしの乙女心には響いて無い。って言えたら楽なのよね。でも突き離すのも可哀想でしょう?
いや、解るの。
男の子心にも対応する、わたしなら。
ティアエルさんってわたしと似たような男の子みたいな事やりたいって娘だから解るんだよね。
「いや、もう恋人でも良いよ。この際、そのフラグ回収してやんよ」
「え? ホントなのアイギスさん」
「わたし惚れられるのに弱いからね。でも、解ってるの? わたしの家族ルールを」
「う〜ん。解ってるけど……愛し合えるかなぁ……皆と。実はちょっと自信無くて」
「へい、セレスティナさんはどう?」
「なんでティアエルさんまで落としてるんです……初耳ですって」
「向こうから堕ちてるの、わたしが聞きたいわよ」
「……えぇ。……そうですね。皆さん大丈夫だとは思うんです。ただ――」
レティアさんに視線が集まる。
良く見ればティアエルさんとレティアさんって顔立ちは確かに似てるのよね。活発そうな印象とか雰囲気とかは同じだし。
そして照れ方も似てるの。なにを聞かれてるか理解してレティアさんが薄っすら肌を紅潮させる。
エルフの娘って色白だから余計に目立つんだよね。
「……いや、あの。姉妹というのも今日が初耳で……愛せる愛せないって……言われましても……」
「忌避感情とかは無いんですか? 一般的には姉妹兄弟だと有るものだと思うのですが……」
「それだとティアエルさんもでしょ? どうなの?」
「ボクは無いかな。一人っ子みたいなものだったし」
「……それを言うならわたしもですね。お姉さんが居るって当たり前ではなかったですから」
「アリーシャさま。姉妹百合確定来ましたわ!」
「フフフ。このアリーシャちゃんに抜かりは無いのだ、アスタロッテよ……」
話の後半、背後が騒がしい。
アリーシャちゃんとアスタロッテには世間体って関係無いんだね。実はわたしもだから言えない。
異性だと子供できちゃうから問題で、そうでなければ良くない? と未来を行くのが、このわたしアイギスさんの考えよ。
「まぁ、女の子同士だからセーフでしょ。姉妹仲良くしなさいよね」
「ええ。そうですね……でもお姉さんって言うのちょっと恥ずかしいですね」
「う〜ん。ボクもいきなり妹って言われても……」
と、言いつつ意識して二人してチラチラお互い気にし始めてるの。はっきり言って心配無いでしょこの2人に関しては。
アイギス解るの。この姉妹、絶対相性良いって。なんだかんだで仲良くなるわ。
……むしろわたしの身が保つか心配よ。
だって、わたしは、"私"は……人との繋がり求めてるから勝手にされてると嫉妬感じちゃって我慢できないタイプなのよ。
ぶっちゃけわたしだけを見て! って性格なの。
でも、じゃあ全員一度に相手したげるよ?
ってのもできないのよね。そこまで横柄に振る舞えないの、"わたし"が。
自分の性格に難が有り過ぎるのよ。
最近、過去の自分の性格と現在の自分の性格の差異みたいなのが解ってきたのよね。
過去の記憶はなくても根底の魂は同じだから欲求が衝突しちゃうのよ。
コレはストレス溜まるぞぉ。
何かの拍子で家族が不仲になるの一番怖いし。もう考えただけで嫌になるわ。
依ってわたしは考えるのを辞めた。
丁度、遺跡の入口が見えて来たし。
「そろそろ恋愛脳から仕事モードに移りましょ。イチャ付くのは後でやってね。仕事が終わったらわたしが幾らでも甘やかしてあげるわ」
もう、蕩っ蕩にしてやんよ。ってくらいにね。ご褒美だよね、わたしの恋人には。
「あ、アレを……ご褒美に」
セレスティナさん昨日の事思い出して涎垂れてるのはマズイって! 女の子として。
効き過ぎだったわ。




